蛙亭。左から中野周平、イワクラ。

私と音楽 第24回 [バックナンバー]

蛙亭が語る神聖かまってちゃん

いつかご本人にお会いする機会があったら、確かめたいことがあるんです

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各界の著名人に愛してやまないアーティストについて話を聞くこの連載。第24回は蛙亭の2人にインタビューを実施した。

単独ライブで神聖かまってちゃんの「砲の上のあの娘」を出囃子に使い、吉本興業の公式プロフィールで趣味の欄を「神聖かまってちゃん」としている蛙亭。今回は2人に神聖かまってちゃんへの思いを存分に語ってもらった。

取材・/ 橋本尚平 撮影 / 沼田学

ロックとか全然知らなかったけど「ロックだな!」って思いました

中野周平 かまってちゃんを知ったのは、まだ芸人になる前の19歳のときに「友だちを殺してまで。」というミニアルバムが発売されて、それを西宮のHMVの試聴機で聴いたのがきっかけです。僕は新しい音楽をチェックする習慣がなかったんですけど、たまたまあれを試聴機で聴いた瞬間「めちゃくちゃカッコいい」と思って。それを地元で一番仲がいい音楽好きの奴に話したら、そいつもすでにハマってて、一緒にライブに行くようになってどんどんのめり込んでいきました。本格的にハマったのは、の子(Vo, G)さんが自作した「知恵ちゃんの聖書」のミュージックビデオを観てからですね。怒涛の勢いで切り替わる幻想的な映像を観て、人生で一番くらいの衝撃を受けて。

僕はお父さんっ子で、子供の頃はロック好きの父親が車の中で聴いていたARBとかが大好きだったので、同級生たちの間で流行っている音楽は全然知らなかったし、むしろ避けながら生きてきたんです(笑)。かまってちゃんはそんな僕が初めて、父親の影響とかでなく自分で出会って好きになったバンドで。そんなことは後にも先にもなかったし、きっとこれからも一生聴くんだろうなと思ってます。

左から中野周平、イワクラ。

左から中野周平、イワクラ。

イワクラ 私は「電波女と青春男」というアニメのオープニングテーマとして「Os-宇宙人」を聴いたのが最初です。「歌詞がめっちゃカッコいいな」と思いました。そのオープニングを歌っていたのはアニメのキャラクターの藤和エリオだったので、その時点ではかまってちゃんのことは知らなかったんですけど、中野さんにそのことを話したら「僕もそのバンドめっちゃ好きだから!」って言って、CDとかいろいろ貸してくれて。

そのとき貸してもらったものを見て「あっ、宮崎にいたときにテレビで一瞬だけ見かけた、あの人だったのか!」って気付いたんです。その番組にかまってちゃんは、確か女性アーティストと一緒に出てたんですけど、の子さんがヤバい発言しまくって放送事故みたいな空気になってて。当時まだ芸人になる前だったし「うわ……何この人。怖……」と思ってすぐテレビを消したので、CDを聴いて「えっ? あの人、こんなカッコいい歌を作ってたんだ」って、めっちゃビックリしました。

中野 イワクラがその話をしたときは「君も気付いたか……」って思いましたね。

イワクラ はい、しっかりマウントを取ってました。

中野 やっぱり、好きなものを共感してもらえるのはうれしいですよね。プレゼンにも熱が入りました。「素晴らしさを説明する」みたいなのは僕はあんまり上手じゃないので、「とりあれずこれを聴いてくれ」と言ってiPhoneに曲を入れた覚えがあります。

イワクラ 中野さんと2人でライブに行ったこともあるんですよ。

中野 確かアルバム「楽しいね」発売後にやったツアーの、心斎橋BIGCAT公演(2013年2月8日)だったと思います。

神聖かまってちゃん×ハジメファンタジーのコラボTシャツを着る蛙亭の2人。2015年撮影。(写真提供:中野周平)

神聖かまってちゃん×ハジメファンタジーのコラボTシャツを着る蛙亭の2人。2015年撮影。(写真提供:中野周平)

イワクラ 素のままの自分を全部出しているところがカッコよくて、ロックとか全然知らなかったけど「ロックだな!」って思いました。それまで音楽にはあんまり興味がなくて本当に全然聴いてなかったんですが、かまってちゃんをきっかけにいろんな音楽を聴き始めました。

2人が選ぶ曲は全然違うんですよ

イワクラ 単独ライブをするときには、そこで流すための自分たちで選曲したセットリストを考えるんですけど、1つの公演の中でかまってちゃんの曲だけを使って自分たちのテンションを上げたこともありましたね(笑)。そのときは「砲の上のあの娘」を、普段の漫才とかで出囃子にしてるもののほかに別バージョンも使ったりして。

中野 1本目のネタはCD音源、最後のネタはYouTubeのデモ音源、って同じ曲を2種類用意して。

イワクラのスマホ。画面に写っているのは、イワクラが単独ライブ用に作ったプレイリスト。

イワクラのスマホ。画面に写っているのは、イワクラが単独ライブ用に作ったプレイリスト。

イワクラ 芸人からも言われるんですよ。「出囃子めっちゃいいな! 誰? 神聖かまってちゃん? 全然知らん、聴いたことない!」みたいに(笑)。

中野 だからファンの皆さんは僕らがかまってちゃんを好きだと知っている人も多くて。ライブに行くと発見されて「僕もこないだあのライブに行ってました」ってあとで言われます(笑)。でも僕としては「蛙亭の中野」じゃなくて「神聖かまってちゃんファンの中野」として会場にいるので、切り替えが難しくて。声をかけられたら“かまってちゃんファン同士”みたいな感覚で普通にしゃべってもらってますね。

中野の私物の「神聖かまってちゃん の子詩集 るーるるらーら」。

中野の私物の「神聖かまってちゃん の子詩集 るーるるらーら」。

イワクラ 単独ライブに向けて2人でかまってちゃんの曲を選曲していると、私が選ぶ曲と中野さんが選ぶ曲は全然違うんですよ。私が好きなのは、例えば「砲の上のあの娘」のような、本人がどう思って作ったかはわかりませんが「見返してやるぞ」みたいな反抗心や熱い気持ちが感じられる曲。歌詞を聴いて「私と一緒だな」って思うことがよくあって。独特な言葉だけど、自分の中にあるのと同じ感情を歌っているのがすごく伝わってくるんですよね。

中野 僕はどちらかというと“ホーリー”な曲が好きで。爆音で聴くとすごく没頭できる、別世界に連れて行かれるような感覚になれる曲がいいですね。それこそ「知恵ちゃんの聖書」もそうですが、最初のイントロからすごいトリップ感があるんですよ。ほかにも「いくつになったら」のような、曲を作ったときの気持ちをわかりやすくストレートに歌ったものも大好きです。「いつか僕も絶対……」みたいな初心を思い起こさせてくれて。あとは、ピンポイントですけど「リッケンバンカー」のCメロとか、「ぺんてる」のCメロとかも好きです。この部分は絶対に意識を集中して聴きたい。

イワクラ 私は歌詞をめっちゃ聴くタイプで、中野さんは歌詞についてあまり深く考えずトータルのカッコよさを好むタイプなんですよね。私、「いつか、かまってちゃんのお話をさせてもらうお仕事をいただく機会があったら、これを言おう」とずっと思っていたことがあって。昔、私が病んでいた時期に中野さんに相談したら、2人で一緒にカラオケに行くことになったんです。そこで中野さんが「美ちなる方へ」を入れて、暗くなってる私に向かって「なるべく楽しいフリをするんよー」なんて言ってきて。それ聞いて「キモっ!!」って思ったんです。

言い方もキモかったんですけど、「えっ、コイツ歌詞の意味なんもわかってない……!」ってビックリして。私はこの曲を「誰だってなるべく楽しいフリをしてるんだよ。でも君には見せたい素顔があるんだよ」という歌だと解釈していたし、だからこそお前に病んでることを話したのに、「なるべく楽しいフリをするんよー」なんてニヤニヤしながら言いやがって。そんなことも理解できてなくて本当にかまってちゃんのこと好きなのか? こいつエグっ!ってなっちゃったんです。だからそれ以来「こいつバカだからもう相談するのはやめよう」って、ちょっと距離を置いたんです(笑)。

イワクラ

イワクラ

いつかの子さんにお会いする機会があったら、この歌詞のことはぜひご本人に確かめたいですね。どっちの解釈が合っているのか。でも答えてくれるかな。確かチャンカワイさんだったと思うんですけど、前にテレビの音楽番組でかまってちゃんにインタビューしたら、の子さんめっちゃキレてたんですよ(笑)。「お前なんもわかってねえだろ!」って感じで。たぶんカワイさんは台本で指示されたことを聞いてるだけなんですけど、の子さんはその台本感を感じ取ってたんでしょうね。すごい空気になってて、めっちゃオモロかったです(笑)。

これは初めて表のアカウントでコメントするべきなのか……

中野 僕はオタク気質なんで、たぶんご本人に会ったらしゃべりが止まらなくなりそうですね。いつ出会って、いかに好きかとか、「そんなこと言われても」って話をいつまでもしちゃいそうで気を付けたいです(笑)。でも、どんだけ好きかってことが伝わればファン冥利に尽きますけどね。

イワクラ 中野さんはの子さんとやり取りしたことあるんですよね。ツイキャスで。

中野 そうなんです。僕は昔からの子さんのツイキャスを裏アカで観てて、メンバーシップ(月額課金で配信者を応援する機能)にも裏アカで入会してたんですけど、の子さんにある日、表のアカウントをフォローされて。「うわうわ!」ってなって「ずっと前からファンです」っていうDMを送ったんです。長文になりすぎないように気を付けつつ、すごく長時間かけて文章を書いて。そしたらの子さん、ちょうど蛙亭の「キングオブコント2021」決勝進出が発表されたタイミングだったので、「めっちゃ応援してます!」ってツイートしてくださったんです。それを見て「これは初めて表のアカウントでコメントするべきなのか……」って悩みに悩んで。

中野周平

中野周平

そのツイートをしてくださったとき、の子さんはツイキャスの配信の真っ最中で、ベロベロに酔っ払って「明日ライブだけど全然寝れない」とか言いながら自分のツバを顔に塗りたくってたんです。「この感じに水差すのもなあ」と思いつつ、配信が終わるタイミングで「ありがとうございました」ってコメントしたら、の子さんはもう酔いが覚めてて「あ、蛙亭中野さん。来てくださってありがとうございます」って冷静に挨拶されて(笑)。そのときはファンの皆さんも温かく迎えてくださったんですけど、それ以来、ツイキャスは観てるんですがコメントしづらくなってしまいました(笑)。

でも、蛙亭中野と認識されたうえで「ちゃんと配信も観てます」と伝えたいファンのエゴもあるんですよ。だからこの間のスタジオ配信でも、全部終わって喫煙所でたばこを吸ってるときに「最高でした」ってコメントしたり。そういう微妙な距離感になってしまったので、もし次にライブに行ったときに、果たしていつものように最前列で観ていていいんだろうかと悩んでます(笑)。

イワクラ 私は曲からかまってちゃんのことを好きになったんですけど、中野さんが「めっちゃよかったよなー、昨日の配信。あれ、配信とか観てないの?」みたいにマウントを取るから、面倒くさいので私は音楽活動だけを追う人になりました。

中野 はははは。「俺のほうが好きだぞ」っていうマウントは取りますね。

イワクラ そう、こいつ同担拒否なところあるので(笑)。

左から中野周平、イワクラ。

左から中野周平、イワクラ。

それ、俺が言いたかったわ(笑)

中野 大変なこともいろいろあるとは思うんですけど、わがままを言えばずっとかまってちゃんのライブを観ていたいです。解散の危機みたいなことは何度もあったと思うし、去年もちばぎん(B)さんが抜けたりもしたけど、全部乗り越えてきてるので。

イワクラ ずっとバンドをやっていてほしいですね。

中野 かまってちゃんの活動って誰にでもできることじゃなくて、の子さんが天才だからできることなので。の子さんみたいに、最初に感じた初期衝動をいつまでも形にし続けるって、普通できることじゃないですよね。

イワクラ かまってちゃんの曲って、聴いてると「1人じゃないんだな」と思えるんですよ。かと言って「君は1人じゃない! 一緒にがんばろう!」って感じの歌では全然ない。そういう歌詞を書いてるわけでもないのに「1人じゃない」と思えるって、むっちゃすごいことだと思うんですよね。だから、かまってちゃんの曲のそういう魅力をもっと多くの人に知ってほしいなと思ってます。

中野 うわ、いいなそれ。俺が言いたかったわ(笑)。

左から中野周平、イワクラ。

左から中野周平、イワクラ。

蛙亭

岡山出身の中野周平と宮崎出身のイワクラという、NSC大阪校34期生の2人により2012年に結成されたお笑いコンビ。2018年と2021年に「ABCお笑いグランプリ」でともに第3位を獲得。2021年の「キングオブコント」で初めて決勝に駒を進め、トップバッターながら高得点を叩き出した。

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