鈴木雅之インタビュー|還暦ソウルから古稀ソウルへ、とびきり「Snazzy」なステップを

2026年に70歳、古希を迎えるマーチンこと鈴木雅之。彼は柔軟なマインド、豪快なチャレンジ精神をもって、“古稀ソウル”を届ける準備を進めている。

最新アルバム「Snazzy」は、粋なサウンドが凝縮された全9曲入り。近年、さまざまな若手アーティストとのコラボで話題になるマーチンだが、今作には松本孝弘(B'z)、GReeeeN(現:GRe4N BOYZ)、水野良樹(いきものがかり、HIROBA)、Billyrrom、つのだ☆ひろ、石崎ひゅーいという、幅広い世代のアーティストを迎えた。

音楽ナタリーでは新作をリリースしたばかりのマーチンにインタビュー。「大御所とは思われたくはない」と言い切る彼の、ボーカリストとしての矜持とは。後半では、コンプライアンス違反となりそうな“禁断の恋の歌”について、「ラヴソングの王様」としての考えを聞いた。

取材・文 / 秦野邦彦

「ステップ1・2・3」シーズン2

──先日の「ENDRECHERI MIX AND YOU FES FUNK & FUNK」(2024年2月23日 神奈川・ぴあアリーナMM)でパフォーマンスを拝見しました(参照:.ENDRECHERI.初の音楽フェスに9千人が熱狂!会場に充満したファンクミュージックと“命の匂い”)。「今日初めて鈴木雅之のステージを観る方も多いと思うので、プロフィールを紹介させてください。1980年、シャネルズでデビュー……」というMCに続いて「ランナウェイ」「め組のひと」などヒット曲をアカペラで歌い、コール&レスポンスを繰り広げる最高の盛り上げ方で、素晴らしかったです。

ライブでのコール&レスポンスって、とても大事な要素だからね。ここ何年もコロナ禍で声出し禁止を経験してきたからライブで楽しみたいというのもあるし。特にああいうフェスは僕にとってアウェーだから、MCで和ますのはとても大切だよね。

──ちなみに昨年、堂本剛さんに取材させていただいた際、「僕はファンクが大好きでずっとやってきたけど、まず山下達郎さんにギターでレコーディングに参加したいと言われてハンコを1つ押してもらった気がした。そして鈴木雅之さんにアルバムに参加してほしいと言われてまたハンコを押してもらった。これからこのハンコがあといくつ溜まるかが楽しみ」とおっしゃっていました(※堂本剛は鈴木雅之が2023年に発表したアルバム「SOUL NAVIGATION」に参加)。

剛がいきなりファンクを始めたときは驚いたけど、かなり好きなことは共通のミュージシャンから聞いてたから、ものすごく興味があって、去年ファンクテイストのアルバムを作るときに声をかけたんです。彼は常々僕の名前を出してくれて縁も感じてたし、レコーディングもとても有意義な時間だったね。

鈴木雅之(撮影:岸田哲平)

鈴木雅之(撮影:岸田哲平)

──「.ENDRECHERI.フェス」ではお二人が堂本さんの提供曲「flavor」でステージ初共演しました。あのステージは特別なものになったと思います。

剛もギター弾いてくれてね。すごく成長したと思う。僕はKinKi Kidsの番組に出させてもらったりして、吉田拓郎さんに彼らがギターを習い始めた頃を知ってるから、そこから今はセルフプロデュースしながら音を作ってるのはすごいなと。

──その「flavor」を収録した前作「SOUL NAVIGATION」から1年。ニューアルバム「Snazzy」が届けられましたが、これは鈴木さんが古稀(70歳)を迎えるにあたっての「ステップ1・2・3」の一環だそうですね。

そうそう。しかも「ステップ1・2・3」の“シーズン2”なんだよね。還暦(60歳)に向かうまでの3年間を「ステップ1・2・3」と呼んだように、現在67歳の鈴木雅之が古稀を迎えるまでの3年間、さらに濃い時間をファンのみんなと楽しみながら過ごして、古希を迎えたときに“古稀ソウル”をお届けしますっていう。この「ステップ1・2・3」は自分にとって勇気の源みたいなところがあるんだよね。僕はよく言うんですけど、人間は歳をとっていくことが怖いんじゃない、目標を失うことが怖いんだと。要するに何か目標を掲げて、それに向かって突き進んでいくことで見えないものが見えてきたり、勇気につながるじゃない? それって音楽に限らず日常の中で大事なことじゃないかなと思っていて。還暦にしても、我々が子供の頃はおじいちゃんのお祝いごとで人生のゴールみたいなところもあったけど、いざ自分がなってみると、まだまだ歌わなきゃいけない歌はいっぱいあるし、これはリスタートなんだという思いになれた。そこから10年、早いもので“シーズン2”が来ているのは感慨深いものがあります。

大御所とは思われたくはない

──入場規制になる盛り上がりを見せた2022年の「FUJI ROCK FESTIVAL」、2020年以来4年連続での「NHK紅白歌合戦」出場など、近年も充実した音楽活動を展開されていますね。

ありがたいことにね。僕はボーカリストという立ち位置をとても大事にしているんです。自分で詞も曲も書くけど、シンガーソングライター的な意味合いよりは1人のボーカリストに徹することによって、いろんな人とコラボレーションができる。そのキャッチボールをしながら、相手の色に染まるんじゃなく、その楽曲をいかに自分色に染め上げることができるか──それがソロになって最初に掲げたテーマなんです。それを今もブレずにやり続けることができてるし、ゴスペラーズ、Skoop On Somebodyと「SOUL POWER SUMMIT」というブラックミュージックが大好きなミュージシャンが一堂に会するイベントを2006年に立ち上げて、2022年まで続けることもできた。僕より1世代も2世代も若い人たちと同じ目線で仕事ができると、気持ちも若くいられるんです。変に大御所とは思われたくはないし、だからこそ自分から発信して、彼らに自信を持って背中を見せたい。そういう50代を過ごせたから、今すごく充実しているんだと思うね。

──“アニソン界の永遠の大型新人”として登場されたことにも驚きました。

アニソンに自分の気持ちを持っていけたのも還暦が1つのきっかけだったからね。もっといろんなものをリスナーに届けたいと思っていたときに、レーベルのスタッフが「アニソンを手がけてみるのはどうですか?」と提案してくれて。そんなこと思ってもみなかったけど、「かぐや様は告らせたい」という作品を通して若いアーティストとデュエットする鈴木雅之をアピールすることができたし、グローバルに発信するうえでアニメはとても大きな存在だから、その世界に行けたのもまた1つステージが上がったように感じたよね。

──「かぐや様は告らせたい」はお互いに駆け引きする恋愛頭脳戦がテーマのアニメでした。「ラヴソングの王様」として改めて振り返って、いかがでしたか?

そういう目線って昭和生まれの自分たちにはあんまりないんだ。好きになったら頭で考えずにひたすらまっすぐ突き進む、みたいな「不適切にもほどがある!」世代だから(笑)。だけど今の子たちはいろいろ悩んで、考えてその結果、行動に移さなかったりするんでしょ? そういう、アニメを通して教えられることもあったね。50代、60代になると、若者からいぶかしがられる部分もあるんじゃないかなと思う。若かりし頃に自分もそう感じていたこともあった。今回のアルバムでBillyrromという20代の若いバンドに参加してもらったけど、40ぐらい年齢差があるわけ。それって自分に当てはめてみると、20代の僕が朝ドラの題材にもなった「東京ブギウギ」でもおなじみの作曲家・服部良一先生とご一緒するようなもんだから、とてもじゃないけど「一緒にできるわけない」と思うよ。だから、自分から歩み寄らない限り、若者との距離はなかなか縮まらない。そこは年齢を重ねて、自分自身でも心がけるようになったね。

──The Rolling Stonesの最新アルバムでも、42歳差のミック・ジャガーとレディー・ガガが互いに一歩も引かずやりあってましたね。

音楽ってそういうところがある。だからさっきの話だけど、ファンクミュージックというものがなかったら、剛とそんなに接点を持たなかったかもしれない。だけどそこに音楽の共通項があることで、ものすごく濃い交流ができる。年齢は関係ないんだよね。

──伊原六花さん、鈴木愛理さん、すぅさん、高城れにさんとのデュエットもそうですよね。

彼女たちは自分のよさを出そうと精一杯やる子たちだから、見ていて気持ちいいもんね。女性とのデュエットに関しては、マーヴィン・ゲイがいろんな女性ボーカリストとデュエットしてたのが自分の中でものすごく大きくて。子供の頃からうちのお姉ちゃん、鈴木聖美とデュエットして、平気でお互い見つめ合えたのは、マーヴィン・ゲイとダイアナ・ロスと同じことをしたい思いが成せる技だったんです。六花なんて当時19歳だから自分にとっては孫ぐらいの年齢差があるけど、ちゃんと1人の女性として歌い上げたり見つめ合ったりできる瞬間がある。歌はそれができるのがすごいと思うよ。

「masayuki suzuki taste of martini tour 2023 ~SOUL NAVIGATION~」2023年7月21日 大宮ソニックシティ公演の様子。左から高城れに、すぅ、鈴木愛理、鈴木雅之。(撮影:岸田哲平)

「masayuki suzuki taste of martini tour 2023 ~SOUL NAVIGATION~」2023年7月21日 大宮ソニックシティ公演の様子。左から高城れに、すぅ、鈴木愛理、鈴木雅之。(撮影:岸田哲平)

B'z松本孝弘を迎えるなら「ウルトラ」は絶対

──アルバムタイトルになった「Snazzy」はあまり聴き馴染みのない言葉です。

「Snazzy」には「粋な」「おしゃれな」みたいな意味もあるけど、もともとは1930年代に流行った言葉なんだよね。当時のハリウッドスターが見せるエレガントだけどすごく派手なスタイルを表したスラングで、前々からタイトル案として温めていて、いつか使ってみたいと思っていたんだ。鈴木雅之がこれまでずっと重ねてきた思いを、「Snazzy」という言葉を使うことでみんなに心と体で感じてほしい。そんな意味合いもタイトルに込めたつもりだよ。

──100年近い歴史がある言葉なんですね。

そういう言葉をよみがえらせることで、今の言葉にすることができるじゃない? これって音楽もそうなんだよね。グループでデビューして44年、ソロになって38年。相当な時間が経ってるけど、ありがたいことに今もこうして第一線で歌わせていただいている中で、昔の楽曲を歌うことで風化せずに今の楽曲にできる。若い子の新しいツールとしてTikTokが生まれ、そこで「め組のひと」がもてはやされることで“古くて新しい音楽の誕生”みたいな。シャネルズでデビューしたときも一部のコアな人以外、誰ひとりドゥーワップという言葉を知らなかったし。時代は回っていて、繰り返してるんだなということは、ちゃんと提示していかなければと思うね。

──その「Snazzy」を冠した「Ultra Snazzy Blues」はB'zの松本孝弘さんの作曲ということで、リリース前から話題になりました。

僕は昔からギタリストが大好きなんです。布袋寅泰もだし(「ガラス越しに消えた夏」「愛のFunky Flag」に参加)、Charさんもそう(「Body TALK」に参加)。ギタリストとのコラボレーションはものすごく大事にしてることの1つだね。そんな中で松本孝弘がソロプロジェクトでブルースアルバムを作ってるのが気になっていたから、絶対一緒にやりたいと思って僕のほうから声をかけたんです。LAにいる彼とLINEでいろんなやりとりをしながら曲を構築していって。とてもワクワクする時間でしたよ。

──GReeeeN(現GRe4N BOYZ)が作詞というのも意表を突かれました。どういう流れで参加されたんですか?

松本が「GReeeeNのHIDEが面白い詞を書くから、どうです?」と提案してくれて、ウェルカムだなと。最初は自分で歌詞を書こうかなと思ったけど、松本と鈴木雅之だけの世界より誰か作詞で入ってトライアングルの形になるのが一番美しいなと思っていたところだったので。自分の中でもアイデアがあったから、彼の詞の世界に鈴木雅之の世界を入れて連名にさせてもらって。タイトルは僕の提案だね。HIDEの中では「未完」という言葉がキーワードだったんだ。歌詞の「人は未完成」「愛は未完成」ってところが。ただ、彼が用意したタイトルは「蜜柑」だった。そこから連想してほしいって。それも面白いんだけど、鈴木雅之的に「蜜柑」じゃなく「Ultra Snazzy Blues」を提案させてもらったんだよね。B'zを意識して「ウルトラ」はもう絶対使わなきゃダメだなと。そのほうがクスッと笑えるし、「ウルトラ」が付くことによってパワーを感じるじゃない?

──ブルージーでありつつ、HIDEさんの提示された人間の未完成な部分の混ざり具合がすごく面白いです。

そこはちゃんと出てると思う。あとは松本の、ギタリストここにあり、みたいなところ。間奏で彼のソロを聴けた瞬間「来た来た!」という気持ちにさせてもらえたから、ミュージシャン冥利に尽きます。スタジオで音が飛び込んできた瞬間、「また新たな作品ができたな」という思いと、「大事に歌わなきゃな」という思いが湧いたね。

──ギタリストもボーカリストと同じく、誰一人同じ音を出す人はいないですよね。

そうだね。ソロ2枚目のアルバム「Radio Days」に収録されている山下達郎さんが作曲した「Guilty」で大村憲司さんが「こんな音を弾かせてくれるならギャラなんていらない」って言ったのを聞いて、「すごいな、ギタリストは形の違うボーカリストなんだな」と感動したから、余計にギタリストに対するこだわりが自分の中で出てきたのかもしれないね。