RYUSENKEIインタビュー|新体制初アルバムで鳴らす“この時代”のシティポップ

流線形改めRYUSENKEIのアルバム「イリュージョン」がリリースされた。

流線形は2006年からクニモンド瀧口のソロプロジェクトとして活動し、アルバムごとにゲストボーカルを招いていたが、今作よりシンガーソングライターのSincereが正式メンバーとして加入。それに合わせて、名義もアルファベット表記のRYUSENKEIへと改名した。「イリュージョン」は、荒井由実やYMOなど数々のミュージシャンを輩出してきたアルファミュージックよりリリースされたアルバムで、同レーベルの創立55周年プロジェクトの第1弾作品だ。

音楽ナタリーは、全5回からなるアルファミュージック創立55周年記念特集の第1弾として、RYUSENKEIにインタビュー。クニモンド瀧口とSincereの出会いから「イリュージョン」の制作背景までを2人に語ってもらった。

取材・文 / 村尾泰郎撮影 / 入江達也

楽曲の方向性が変化させた、Sincereとの出会い

──Sincereさんを正式メンバーに迎え、サウンドや歌詞も変化した本作を聴いて、RYUSENKEIが新たな一歩を踏み出したことが伝わってきました。クニモンドさんとSincereさんは、どのようにして出会われたのでしょうか。

クニモンド瀧口 僕がSNSで彼女のことを見つけたんです。それで歌声を聴いてみたらすごくよくて。まず声質にグッときたのと、ネイティブな英語を話すことができた。それはボーカルを選ぶ際の条件の1つでした。それで思い切ってSincereにDMをしてみたんです。「よろしければ一緒に何かやりたいと思うのですが、興味があればご検討ください」って。

Sincere 3日くらい、いただいたDMに気付かなくて。「わっ! まずい」と思って、すぐにRYUSENKEIを聴いてみました。失礼ながら聴いたことがなかったんです。すごく素敵だと思って、ぜひ一緒にやらせていただきたいと思いました。

RYUSENKEI

RYUSENKEI

──今回、クニモンドさんはSincereさんを正式なボーカルとして迎え入れました。これまでは作品ごとにいろんなボーカリストをフィーチャーしていましたが、何か心境の変化があったのでしょうか。

クニモンド 去年、ビルボードで“フィーチャリング堀込泰行”という形でライブをやったんですけど、堀込さんが全曲歌っているわけではないので、比屋定(篤子)さんやナツ・サマーさん、リサ・ハリムさんも呼んだんです。そのときに、ゲストを呼ばないとライブがやれないのは大変だなと思って。もっとフットワーク軽くやるためには、ボーカルを入れたほうがいい。そうすれば、海外でのライブもサッとできる。今回、アルファさんからアルバムを出すことが決まって、これはボーカルを入れるいい機会だと思ったんです。

──ボーカルを入れるにあたって、クニモンドさんがイメージしていた声はありました?

クニモンド 実は最初に想定していた声とSincereの声とは方向性が違ったんです。でも、Sincereの声を気に入ってしまったことで曲の方向性も変化しました。最初に考えていたアルバムの音は、ドナルド・バードとかボビー・ハンフリーとか、ミゼル・ブラザーズが手がけたアルバムのようにコーラスが乗ったフュージョンライクなものを考えていたんです。ところがSincereの声に出会ってしまったので、ミニー・リパートンとかリンダ・ルイスみたいなヤングソウル系というか、歌でリスナーに訴えかけるような音楽に路線変更することになって。それで「こんな感じでいきたい」というプレイリストをアルファさんとSincereに送って共有したんです。

──確かに「イリュージョン」はSincereさんの歌声が曲の中心にあって、フュージョンというよりボーカルアルバムという感じがします。SincereさんはRYUSENKEIのボーカルとして歌われてみていかがでした? 自分の作品のときとは違いました?

Sincere 違いましたね。自分の曲を作るときは1人で判断するしかないけど、RYUSENKEIだとクニモンドさんにディレクションしてもらえるので全然違う歌い方になる。あとから聴いて「私ってこんなふうにも歌えるんだ!」と思ったりして、めちゃくちゃ発見が多かったです。

宇多田ヒカル「Automatic」を聴いて「ヤバい!」と思ったあの感じ

──そんなSincereさんの歌声を支えるバンドサウンドがまた素晴らしいですね。ギタリストが4人(山之内俊夫、松江潤、梅原新、高木大輔)、ベーシストが2人(千ヶ崎学、まきやまはる菜)、ドラマーが2人(菅野知明、海老原諒)、さらに鍵盤やストリングスも入って20名近いミュージシャンが参加しています。

クニモンド アルファさんがしっかりと予算を組んでくださったおかげです(笑)。これまで10年くらい流線形のサポートをやってくれているメンバーがいて、みんないいプレイをしてくれるんですけど、僕の甘えもあってよくも悪くも手慣れ感が出てしまっていて。いい機会だったので、初心に帰って、ほぼ初めましてのミュージシャンで自分の技量も試してみたかったんです。人選は、スタジオハピネスの平野さんにも助けてもらいました。上モノのギターに関しては、それぞれのプレイヤーのサウンドをイメージしながら、この曲にはこのギタリスト、というふうに人選しました。

RYUSENKEI

RYUSENKEI

──バンドの演奏に勢いがあってフレッシュに感じました。皆さん巧いけど、みずみずしいというか。

クニモンド ドラムの菅野さんと僕はそんなに年齢が変わらないのですが、20代から30代前半の人もいるので、それが音に出ているのかもしれない。今回、バンドのメンツを考えたときに、真っ先に頭に浮かんだのはシンリズムくんでした。

──彼もまだ20代ですね。

クニモンド 管弦が入った彼の新曲を聴いたタイミングで「Talio」(2020年リリースのサウンドトラック)というアルバムを制作していて、思い切って管弦アレンジを依頼したんです。これがとてもよくて、その後の「インコンプリート」(2022年リリースのミニアルバム)にも参加してもらいました。彼はいい意味で音楽オタクなので器用にアレンジしてくれるんです。そういう人を入れたら、このアルバムも面白くなるんじゃないかと思いました。

──どのパートの演奏もしっかり聴かせるアレンジで、入念にサウンドプロダクションが作り込まれていることが伝わってきました。

クニモンド 前作の「インコンプリート」まではコードと曲の雰囲気だけをサポートメンバーに伝えて、いわゆるヘッドアレンジでレコーディングしていたんです。今回は全体を俯瞰した状態でアルバムを作りたいと思って、全曲のシーケンスを事前に用意した。ベースはこんなパターン、ドラムはこんな感じでって。それをスタジオで生楽器に置き換えていきました。

──事前に曲の青写真を作っておいて、それに即してサウンドを組み立てていったわけですね。Sincereさんは歌ってみていかがでした?

Sincere 自分の作品だと打ち込みがメインなんですけど、生楽器に乗せて歌うのはすごくドラマチックでした。「あなたはトリコ」という曲は女の子目線の曲なんですけど、最初はツンとしていて途中から心境が変化する。そんなふうに自分とは違うツンデレな女の子のキャラクターを演じるのも新鮮でした。あと、声を張って歌う曲が多いんです。自分の曲ではあまり声は張らないんですけど、声を張ることでエモーショナルに聞こえるということがわかりました。

RYUSENKEI

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クニモンド 彼女がそういう歌い方に慣れてないのはわかっていたけど、逆にそれがいいと思ったんです。歌声の最後のほうに細かいビブラートが入ってくるんですけど、それが儚さを感じさせたりする。宇多田ヒカルさんが出てきたとき、「Automatic」を聴いて「ヤバい!」と思ったんですよ。あの歌声に感じた少女の儚さみたいなものをSincereも持っている。

Sincere そういう声の張り方とか、苦手なメロディとかもがんばりました。慣れていないので声が不安定だな、と思うところもあるけど、そのよさをクニモンドさんが引き出してくれた。私が個人的に好きな曲は「帰郷」。お花がいっぱい咲いているような感じの曲で、ジェントルな気持ちで歌いました。

──途中から曲の表情が変わる、かわいい曲ですね。

クニモンド この曲はローラ・ニーロみたいな曲を作りたいと思ったんです。Sincereの張った声を生かすために。もっとうまく歌えているテイクもあったけど、Sincereの少女っぽい声が一番よく出ているテイクを選びました。