コミックナタリー

第1回コミナタ漫研レポート(ゲスト:森薫)【1/5】

80

去る10月26日、コミックナタリーが主催する「コミナタ漫研~マンガ家に聞く、同業者の気になる仕事」の第1回が、有楽町のドコモスマートフォンラウンジにて開催された。このイベントでは現役のマンガ家が、いまもっとも注目している連載マンガをプロ目線で紹介・分析していく。聞き手はコミックナタリー編集長の唐木元。

記念すべき初回のゲストは、「乙嫁語り」「エマ」で知られる森薫。その森が「いまもっとも注目しているマンガ」として挙げたのは、月刊flowers(小学館)で連載中の、水城せとな「失恋ショコラティエ」だった。またサブテキストとして都戸利津「群青シネマ」を選出。この2冊をどう読んだのかを語ってくれた。


唐木元 第1回ということで、まず「コミナタ漫研」の目的を簡単に説明します。コミックナタリーを立ち上げて以来、何十人ものマンガ家さんに取材してきたんですけど、プロの目線を聞いて覚えていくうちにどうなったか。マンガを読むのがさらに面白くなっていったんです。玄人目線になってスレたりシラけたりするのかな、と思ったら、全く逆で。

森薫 マンガにはマンガの色々な読み方っていうがあって、知れば知るほど、どんどん面白くなるんですよね。それにいろんな種類のマンガが読めるようにもなっていくんです。好きだったマンガはより面白く読めるようになるし、今まで読まなかったマンガも面白く読めるようになる。人生楽しくなります。

唐木 なので、その楽しみをこれからはみなさんにお裾分けしていきたいな、と思って、こんなイベントを主催するに至りました。ご紹介が遅れましたが今日のゲスト、森薫さんです(会場拍手)。

コミナタ漫研会場

唐木 早速ですが、今日森さんが紹介してくれる、気になる同業者は?

 水城せとな先生の「失恋ショコラティエ」です。

失恋ショコラティエ

行動原理がはっきりシンプル。だから迷いがない

唐木 ではさっそく、森さんが「失恋ショコラティエ(以下失ショコ)」を魅力的だなと思った理由を教えてもらいましょう。

 まずなにより、構成が上手いですね。物語がシンプルで整理されていて、分かりやすい。メインの登場人物は爽太くんとサエコさんの2人で、あとはお店のスタッフと、たまに脇役が出てくるくらい。

唐木 これ象徴的なのは、2巻の目次に登場人物紹介があるんですけど、この2人しか描かれてないんですよ。普通は見開き使って何人も紹介しますよね。でも「失ショコ」は2人で説明できちゃう。実にシンプル。

失恋ショコラティエ

 そして主人公の行動原理がはっきりしているんです。この爽太くんはサエコさんにフラれたあと、チョコレートが好きな彼女をもう1度振り向かせるために、ひたすらチョコレートを作っていく。「好きな人を射止めるためにチョコを作る」というお話なんです。

唐木 行動原理がはっきりしてると、何がいいんでしょう?

 終わりが見えるというか、ラストが決まってくるんで、読者はいつか必ず来る終点を期待しつつ、2人の経過を見守ってればいいわけです。途中で「このマンガ、結局何の話だったっけ?」という迷いが生じないんですね。いわゆるキャラマンガみたく目的がなくて展開を楽しむというものもありますが、長く続くと、どうしても散漫になったり飽きられがちなので。

唐木 シンプルで迷いがないのが魅力、と。話の展開も速いですよね。

ぐいぐい読ませるスピード感は、時間の圧縮から

 速いです。1話読み逃すと、もうどうなっているかわかりません。

唐木 凜花(小学館)で連載してた頃は、1話60ページもありましたしね。ここで、展開の速さが印象的な見開きを見てみましょう。

失恋ショコラティエ


 右ページでは自宅にいるんですが、左ページではもうパリに行っちゃってますね。マンガは、文章もそうですけど時間を引き伸ばしたり圧縮したりできるので、1カ月や2カ月経っているであろうことでも、飛ばして次のコマで描くことができるんです。逆に言葉にすれば1行2行の些細なことでも、見開きを使って細かく見せていくこともできる。

唐木 時間の伸縮を操作するテクニックですね。

 そういう技法が使われてるとリズムが単調にならず飽きないし、引き込まれる。また1話ごとに人間関係がすごく変わっていきます。爽太くんが行動を起こすたびに、どんどん話が展開していく。

唐木 いつも同じようなことをやっているドラマじゃなくて、ダイナミックに変わっていくわけですか。

 そうなんです。それがちゃんと、最初に言ったシンプルな目的に向かってどんどん前に進んでいくんです。ブレがない。

唐木 そういった展開の速さには、どういった効果があるんでしょう。先ほど「引き込まれる」とおっしゃいましたが。

 自分がマンガを読んでいてもそうなんですが、やはり読者は先がどうなるか、2人の関係がどうなるかを期待して読むので、あまり主題を引き伸ばされるとじれてくるんですね。なので、次から次へとお話が先へ進むと、集中が切れずに読み進められるんです。

唐木 確かに僕も「失ショコ」は、最新号の掲載分までひと晩で一気読みしちゃいました。

 もちろん緩急付けられていて、ゆっくりしたシーンもあるんですけど、ちょっと置いといてまた途中から読み直して、という感じではなくて、読み始めたらもう一気に最後まで全部! という掴みの強さがあると思います。(つづく)

「コミナタ漫研」レポート記事インデックスへはこちらから!

コミックナタリーをフォロー