2005年のデビュー以来、静謐なヒューマンドラマから、生命力にあふれるコメディまで、多彩な作品で読者を魅了し続けるマンガ家・ヤマシタトモコ。作品の中でさまざまに悩み、ときにぶつかり合いながらも生きている登場人物たちの姿、そんな彼らが発するハッとするような言葉の数々に、勇気づけられてきた人も少なくないだろう。
そんなヤマシタの代表作「違国日記」がついにTVアニメ化。1月4日に放送・配信がスタートした。同作は人づきあいが苦手で孤独を好む少女小説家の槙生と、両親を亡くした姪の朝の同居譚。さらに同じく1月4日には、OUR FEELで新連載「竜巻」が開幕。4コマを中心にしたミニマムなコマ割りで描かれるサスペンス群像劇で、ヤマシタ作品としてもまた新たな表現を見せている。
これを記念し、コミックナタリーでは作家・臨床心理士の浅井音楽、フリーアナウンサー・俳優の宇垣美里、アーティスト・俳優の和田彩花に、両作品の魅力や、ヤマシタ作品への思いを綴ってもらった。また2ページ目では「竜巻」の第1・2話を一挙掲載している。それぞれに違和感を抱えながらこの社会を生きるあなたにとって、ヤマシタトモコの作品は、きっと灯台になるはずだ。
浅井音楽
TVアニメ「違国日記」に寄せて
物書きとして生きることを決めた。その道をいきながら北極星のように輝く作品がある。
『違国日記』。
孤独であることと、不幸であることは違う。そのことを、言葉と心とを砕いて語り続けた稀有な作品。漫画表現におけるひとつの到達点だと、ひそかに思っている。
そんな作品がアニメになると聞いたとき、喜びよりも恐れがまさった。
読者によって異なるリズムで開かれるページと、同じ速度で進む画面との違い。
紙そのままの質感が佇む余白と、光る画面の空白の違い。なによりも、音の違い。
形式が違えば、表現が違う。言葉ひとつ、使う人によって意味も響きも違うように。
おそるおそる再生したアニメ『違国日記』は素晴らしかった。
原作の雰囲気を、違う形で表現している。忠実というより、誠実なアニメ化だと思った。
なによりも、アニメと一緒に原作にも手を伸ばしてもらいたいという、祈りのようなものを感じました。TVアニメ化、ありがとうございます。
新連載「竜巻」に寄せて
ヤマシタトモコさんの作品の魅力は、なんといっても『視線』に宿っている。時間や空間もバラバラな視線が、交わらないまま重なって、その瞬間の空気が止まったままで動いている。漫画という表現における、白眉と思う。
はじめて出会ったヤマシタ作品は『HER』。春一番のような漫画だった。
未来みたいに真っ白な髪をきらめかせたひとの言葉が、記憶にとどまっている。
…だから安心しなさい
…あと何万年生きたって悩まない日はないし
誰が隣にても孤独じゃなくなる日は来ないから
『竜巻』もまた、悩まない日のないひとたちの話だ。
創ること、壊すこと、編み出すこと、ほどくこと、書くこと、書かないこと。
それぞれの糸が絡み合った先には、どんな景色が見えるだろうか。楽しみでしかたない。
プロフィール
浅井音楽(アサイオンガク)
作家・臨床心理士。2024年12月19日に初のエッセイ集「しゅうまつのやわらかな、」を上梓。同書には随筆、小説、詩、日記を行き来する24の作品が収められ、装画はつくみず、装丁は名久井直子が手がけた。好きなものはお散歩、マンガ、ぬいぐるみ。歌がうまい。
宇垣美里
TVアニメ「違国日記」に寄せて
大好きな槙生と朝が動いてる!ストーリーの構成などはアニメ用に変更されているのに、原作の温度とリズム、心地よい空気と適切な距離感がしっかり再現されていて嬉しい。なにより葬式で槙生が朝にかけるあの力強い言葉が、沢城みゆきさんの凛とした声で語られると、まるで自分に言ってもらったみたいに響いて涙が出た。
他にも醍醐のひゃっひゃという特徴的な笑い方や深みのある笠町くんの声までもうあまりにも想像を裏切らない出来栄えで、思わずにまにま。朝から見てまるで“違国”のような大人たちのやり取りや、日記の罫線が砂漠へと変化していく様など、アニメならではの表現が楽しく美しく、ずっとずっとこの世界に浸っていたいと思えた。
新連載「竜巻」に寄せて
私にとってヤマシタトモコ作品はいつだって誠実で、真摯で、理不尽だらけのこの世界でそれでも自分とはまるで違う他者と生きていくことの真髄を、譲れやしない人の尊厳を、汚泥から掬い上げて見せてくれる、お守りみたいな存在だ。怒りをなかったことになどせず、抗い弁えずに生きていくための勇気を与えてくれる。特に好きなのがモノローグやセリフに現れる言葉の強さ。私のあの気持ちは、こう言語化すればよかったのか、と毎度胸を撃ち抜かれるような思いだ。
新連載の「竜巻」は、登場人物が増えていくにつれ、明らかになっていく奇妙な繋がりから目が離せない。この群像劇はどこにいきつくのだろう……。そしてさすがの会話とコマ割り! やっぱりあまりにもマンガが上手すぎる……!
プロフィール
宇垣美里(ウガキミサト)
1991年4月16日生まれ、兵庫県出身。2019年3月にTBSを退社後、現在はドラマ出演やラジオパーソナリティーのほか執筆業も行うなど幅広く活躍している。昨年末放送のドラマ「できても、できなくても」(テレビ東京系)では地上波連ドラ単独初主演を果たし、現在放送中のドラマ「AKIBA LOST」(日本テレビ)にも出演中。TBSラジオ「アフター6ジャンクション2」水曜パートナー、ニッポン放送Podcast番組「宇垣美里のスタートアップニッポン powered byオールナイトニッポン」パーソナリティを担当している。
宇垣美里マネージャー (@ugakimisato.mg) | Instagram
和田彩花
TVアニメ「違国日記」に寄せて
昨今、私の求める愛や家族の在り方を描く物語が多いけれど、「違国日記」は求めるものとは違ってしまった日常のなかで愛を見つけていく物語りだからこそ、深く響いてくる言葉や描写に魅了されました。
突然の事故で両親を失い、親戚たちに盥回しにされかけた朝に放った槙生さんの言葉が頭から離れません。物語冒頭にあるこのシーンに魅了された勢いで原作を購入し、一気読みしてしまいました。
世間では家族がいるかいないかをわざわざ話題に出される場面もまだまだありますが、そんな野暮な話を手放して、槙生さんが考えるような人間愛について語り合える優しい世界が一つでも二つでも増えるといいなと思いました。
新連載「竜巻」に寄せて
スランプに陥った小説家が、カフェでのらりくらりと編集者と打ち合わせをする場面が描かれる隙間に、いろんな人物が登場してきました。
上司と取引先の無茶振りが当たり前になってしまっている環境で働くテストニッター、誰彼構わず人を好きになってしまうマッチングアプリ男。
それぞれの平凡な日常が繰り広げられている物語りですが、死体を抱えているから人に会えないのだという衝撃の展開をつくった女が登場します。
ここまでの平凡な日常は、ゆっくりと動き始める予感がしています。これまでの登場人物がどう絡み合いながら、サスペンスが繰り広げられていくのか楽しみです。
あ、あとところどころ出てくる竜が可愛くて、見逃せません。
プロフィール
和田彩花(ワダアヤカ)
1994年8月1日生まれ、群馬県出身。2019年にハロー!プロジェクトのアイドルグループ・アンジュルムを卒業。グループでの活動経験をもとに、フェミニズムやジェンダーの視点からアイドル文化やアイドルの労働問題について発信する。音楽活動では、オルタナポップバンド・和田彩花とオムニバス、ダブ・アンビエントを基調としたアブストラクトバンド・LOLETにて、作詞・歌・朗読などを担当している。実践女子大学大学院博士前期課程(美術史学)修了。美術館や展覧会についての執筆やメディア出演を行っている。
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