アニメ「勇者刑に処す」阿座上洋平×SPYAIR(YOSUKE、MOMIKEN)対談|声優とアーティスト、異なる立場の2組は重厚な世界観をどう表現したのか

1月3日より順次放送されているTVアニメ「勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録」。大罪を犯した者が“勇者”となり、魔王と戦う刑罰を科される世界が舞台のダークファンタジーだ。死ぬことすら許されない“勇者刑”に処された元聖騎士団長のザイロ・フォルバーツは、性格破綻者たちで構成された懲罰勇者部隊を率い、戦いの最前線を駆け抜けていた。そんな中、ザイロは最強の生体兵器の1人・つるぎの《女神》テオリッタに出会う。《女神》と契約を交わしたザイロは、自らを陥れた者への復讐を果たすため、熾烈な闘争と陰謀の渦中に身を投じていく。

コミックナタリーでは、アニメの放送を記念し、ザイロ・フォルバーツ役の阿座上洋平と、主題歌「Kill the Noise」を担当するSPYAIRのYOSUKE(Vo)、MOMIKEN(B)の対談をセッティング。声優とアーティストという異なる立場の2組は、作品とどう向き合い、その重厚な世界観やテーマをどう表現したのか。この刺激的な対談を、ぜひ最後まで見届けてほしい。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 小川遼

失礼があったら帰っちゃうんじゃないかと

阿座上洋平 以前にもSPYAIRの皆さんには、「勇者刑」とは別の出演作で主題歌を担当していただいたことがあって。

MOMIKEN(B / SPYAIR) そうなんです。でも、今日が初めましてで。

阿座上 SPYAIRさんはアニメの主題歌も数多く手がけていらっしゃいますし、僕自身ロックが大好きなので、今作でまたご一緒できてすごく光栄だなと。ロックのアーティストの方というと、例えば僕が何か失礼を働いたら怒って帰っちゃうんじゃないかというイメージもあったんですが……。

YOSUKE(Vo / SPYAIR) (笑)。

MOMIKEN だいぶ乱暴なロッカーのイメージですね(笑)。

阿座上 実際にお会いしたら、めちゃくちゃ気さくにお話ししてくださって。すぐに会話も弾んで、この「勇者刑」という作品を通じて共感できるポイントもたくさんあったので、すごくうれしかったですね。

MOMIKEN(B / SPYAIR)

MOMIKEN(B / SPYAIR)

YOSUKE(Vo / SPYAIR)

YOSUKE(Vo / SPYAIR)

MOMIKEN 僕らからしても、実際の阿座上さんがどんな方かわからない状態で、キャラを通して想像するしかなかったわけじゃないですか。以前ご一緒した作品もそうなんですけど、今回のザイロにしてもずっと眉間にしわを寄せてムッとしているイケメンの役だったんで、「強めな人なんじゃないか」というイメージがありました。

YOSUKE とんでもない大男かと思ってました。

MOMIKEN それこそ失礼があったら帰っちゃうんじゃないかと。

阿座上 みんな帰っちゃう(笑)。それはヤバい現場ですね……。

YOSUKE でも実際に会ったらめちゃくちゃクールでスタイリッシュで……でも、どこかザイロっぽい感じもしました。それがすごいなって。

阿座上洋平

阿座上洋平

阿座上 光栄です……! 僕の声質が割と低めで強めなので、そういうイメージを持たれがちではあるんですけど、実際は真逆なんですよ。すぐイジられるタイプだし、ポンコツだし。

MOMIKEN ポンコツ(笑)。

阿座上 役者って、自分の性格とはまったく異なるキャラのほうが意外と演じやすかったりするんですね。だから、役とのギャップに驚かれることは多いです。それは役者としてうれしいことでもありますね。

MOMIKEN なるほどねえ。僕らも昔は「こんなに接しやすい人たちとは思わなかった」みたいなことをよく言われましたけど、20年以上やってるバンドなんで、さすがに最近はほとんどなくなりましたね。YOSUKEはまだバンドに入って2年ぐらいだから、今でもあるかもしれないけど。どう?

YOSUKE 自分から話しかけられない人間なんで、第一印象は怖そうなイメージを勝手に持たれちゃうことはあるかな。それこそ「怒らせたら帰っちゃうんじゃないか」みたいな。

阿座上 それは僕が冗談で言っただけで(笑)、第一印象は全然悪くなかったですけどね。ただ、やっぱり歌声とのギャップはいい意味で感じました。「あの爆発力はどこから湧きあがってくるものなんだろう?」と、こうしてお話しているときの穏やかな感じからは想像がつかなくて。役者としても気になっちゃうところですね。

YOSUKE あんまり意識して変えてはいないですね。現場によっても違うし、ライブとレコーディングでも違ったりするんですけど、あんま考えずにやってます。自然にですかね。

阿座上 へええー……!

ロックがなかったら勇者刑に処されていた

阿座上 この「勇者刑に処す」という作品では、“勇者”というものがネガティブな概念として扱われているじゃないですか。それこそギャップですよね。普通は勇者というと正義感があってカッコよくて、みんなに頼られる存在をイメージすると思うんですけど、この作品では刑罰の対象として描かれている。「僕らが信じていた常識というものは、こんなにも簡単に覆されちゃうんだ」と考えさせられましたね。

MOMIKEN うんうん、確かに。

阿座上 ザイロ自身、自分の信じてきたものにどんどん裏切られて、ハシゴを外されてきた男で……だから演じるにあたっては、自分が過去に経験した小さなトラウマや嫌な思い出などを増幅して感情を作る必要がありました。僕自身はけっこう周りの人に恵まれてきたほうなので。

TVアニメ「勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録」第1話より、ザイロ。

TVアニメ「勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録」第1話より、ザイロ。

MOMIKEN まあ、普通はあんまりないですよね。音楽の世界でも、昔のロックバンドはもっと“世の中に抗うもの”だったと思うんですけど、今は世代も変わって、どちらかというと「逆らうべきものがないがゆえに、言葉にできない怒りや不満をどこにぶつけたらいいのかわからない」というモヤモヤをステージにぶつける感じになっている……のかな?

阿座上 なんとなく伝わります。僕ももちろん、華やかな夢を持って入ってきた声優業界が、“楽しい”ばかりではなかなかやっていけない世界だというギャップはありましたけど、それも含めて今は楽しめているので。自分を過信せず、見失わないようにすることが大事かなとは思っていますね。

YOSUKE 僕はしょっちゅう怒ってますけどね。

阿座上MOMIKEN (笑)。

YOSUKE たぶん、バンドをやるような人間ってみんなわがままなんですよ。

MOMIKEN それはホントにそう。

YOSUKE 普通の人が何も思わないようなことでも、ちょっと気に食わないだけでイラッとしちゃうとか全然あるんで。だからロックがあってよかったなと思うのは、そのイライラをぶつける先があることなんですよ。これがロックのない世界だったら、たぶん俺は今ごろ捕まっているかもしれないし(笑)。

MOMIKEN 勇者刑に処されてるところだった(笑)。

阿座上 「帰っちゃう」どころじゃない(笑)。危ない危ない。

YOSUKE そういう有り余っているエネルギーを発散する場所が、僕たちにとってはバンドでありステージであり。そのおかげで処されずに済んでるっていう。

YOSUKE(Vo / SPYAIR)

YOSUKE(Vo / SPYAIR)

阿座上 そういう意味でも、この作品の主題歌アーティストにぴったりってことですよね。SPYAIRさんに担当してもらえて本当によかったです。

MOMIKEN 確かに。処されてないだけで、実はザイロたちと同じ立場なのかもしれない(笑)。

ザイロを“ただカッコいいキャラ”にはしたくなかった

MOMIKEN 僕は今回、主題歌の歌詞を書くにあたって先にコミカライズ版を読んだんですけど、それがアニメになったときの画の感じにすごくびっくりしました。マンガがアニメ化されるときに「ちょっとイメージと違ったな」と感じる作品もたまにあるんですけど、これは想像以上の映像になっていて。濃淡がすごくて映画みたいなタッチというか、とにかくクオリティの高さに驚きました。

YOSUKE 僕もアニメを観て、本当にびっくりしました。すごくキレイな映像だし、血とかの表現もすごく生々しくて。アニメなんだけど、本当に起こっていることのような説得力がありましたね。自分が知らなかっただけで、勇者が悪者とされていた時代が本当にあったんじゃないかと思わせられるぐらいリアルだった。阿座上さんの演じられたザイロにしても、「本当にこういう人がいたんだろうな」って感じがしたし。

TVアニメ「勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録」第1話より、ザイロと剣の《女神》テオリッタ。

TVアニメ「勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録」第1話より、ザイロと剣の《女神》テオリッタ。

MOMIKEN ザイロは多くを語らないじゃないですか。だけど自分の進みたい方向とか信念みたいなものは力強く感じる。その温度感が声からもすごく伝わってきたし、それが自然すぎて“作られた”感じがあんまりないんですよね。

YOSUKE アニメなんだけど、人間ドラマを見ているような感じですよね。

阿座上 ありがとうございます……! ザイロを“ただカッコいいキャラ”にはしたくなかった、というのはあって。根は善人であったはずの人間がここまで暴力的で誰も信じられなくなったのには、それだけの理由がちゃんとあるわけです。彼の中にはどこかで人間に対して諦めきれていない部分があって、それこそが彼の魅力だと僕は感じました。ただ、そういう人間くささみたいなものってお芝居の中でパッと出せるものではなくて、にじみ出るものなので、そこが難しかったですね。

TVアニメ「勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録」第1話より、ザイロ。

TVアニメ「勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録」第1話より、ザイロ。

MOMIKEN 僕はザイロのあのセリフが特に好きです。「思いっきり暴力を振るいたい気分だ」。

阿座上 キャッチーですよね! 「主人公がこんなこと言っていいのか?」っていう(笑)。

MOMIKEN あと、舌打ちうまいなーと思ってました。

阿座上 うれしいですけど、普段からやり慣れてるわけではないですよ(笑)。

MOMIKEN 完成映像を観させてもらって、舌打ちの入ってくるタイミングがいいなとずっと思ってたんですよ。

阿座上 アニメーション的な舌打ちの表現としては、「チッ」と言葉で言っちゃうパターンもあるんですよ。作風によってはそのほうが効果的だし、リアルな舌打ちはノイズっぽく聞こえやすいという問題もあるので。ただ今回は、監督と話す中で「記号的な舌打ちではなく、リアルなほうがこの作品には合っている」と言ってもらったので、本当に舌を鳴らすやり方でいくことにしたんです。これまであまりやってこなかった表現ではあるんですけど、“ちゃんと人を嫌な気持ちにさせる舌打ち”を心がけました(笑)。

阿座上洋平

阿座上洋平

MOMIKEN 確かに、アニメであまり聞いたことない音かも。そういう細かいところも、この作品の自然なリアルさにつながっているんでしょうね。

YOSUKE 僕はあのシーンがすごくよかったです。何話でしたっけ? 炭鉱みたいなところに潜る……。

阿座上 第2話から第3話あたりですね。

YOSUKE 「お父さんが帰ってこないの」と言った少女に向けるザイロの目がすごく印象的で。あの描写だけで「根はいい心なんだな」というのが感じられた。

阿座上 あのシーンは特にセリフもなくて、ただ息だけがスッと入るんですよね。その息遣いはやっぱり考えました。彼の中では怒りや悲しみが入り乱れているんだけど、悲しみの息になってしまうのは優しすぎるし、かといって怒りをその子供に向けるのも違うし……っていう、どうにもならない感情が渦巻いていたシーンで。複雑な息遣いだなあと思いながら収録に臨みましたね。

YOSUKE ザイロの人間くささがにじみ出ている瞬間だなと思って、グッと来ました。

阿座上 そう言っていただけるとありがたいです……!

「Kill the Noise」のサビは当初もっと明るかった

阿座上 改めて、SPYAIRの皆さんが書き下ろしてくださった主題歌の「Kill the Noise」を聴いてみて、個人的な感想としてはまずシャウトがとにかくカッコいいなと。何か鬱屈した思いを発散させるようなエネルギーがそのシャウトに乗っていて、ちょっと痛々しさも感じられる。おこがましいですけど、この楽曲でよかったなあと純粋に思いました。

MOMIKEN そう言っていただけるとうれしいです。

阿座上 歌詞ももちろんですし。

MOMIKEN 制作の流れとしてはUZ(G)がまず曲の土台を作って、僕がそこに歌詞を乗っけて、YOSUKEが歌い方とかを考えていくっていう、SPYAIRのいつものやり方で進めました。そのUZのデモが上がってきたときは、完全に「思いっきり暴力を振るいたい気分だ」が音に詰まってるなあと。

阿座上 わはははは(笑)。

YOSUKE 久々に重たい感じだなあと。メタルとかラウドっぽい音なんで、なんて言うんですかね……いわゆるアニメ主題歌としては珍しい曲調というか。

阿座上 確かに(笑)。この作品だからこそかもしれない。

YOSUKE この作品で、自分たちが主題歌を担当できて本当によかったなって。もともとこういうテイストは僕らのルーツにあるものだし、それをタイアップという形で出させてもらえるのはすごくありがたい。

MOMIKEN そう、びっくりしたことがあって。最初はサビのコードがもっと明るい響きだったんですけど、「もう少しダークな感じで」というリクエストが来て。最初のリフとかけっこう重いから十分ダークかなと思ってたら……「もっとポップに」とかって言われるんじゃなくて、「逆なんだ?」とは思いましたね。

MOMIKEN(B / SPYAIR)

MOMIKEN(B / SPYAIR)

阿座上 確かに僕の印象としては、SPYAIRさんが手がけるアニメの主題歌というと爽やかな曲のイメージでした。

MOMIKEN ですよね。これまでの印象もあるだろうし、その路線を求められているものとばかり思っていたんです。それでサビ部分を、メロディは生かしつつ暗いコードに変えて、そのままだと重すぎるからストリングスを追加することにして。制作サイドとのディスカッションを経たことでこの形に行き着いて、結果すごく壮大で華やかな曲になったんでよかったです。

YOSUKE デモの段階からがっつり変わったときは「おお、いいじゃん」とテンション上がった記憶がありますね。

MOMIKEN これまでに手がけたアニメ主題歌とかで僕らを知ってくれた人は、爽やかな路線をイメージすると思うんですけど。「勇者刑」のスタッフさんたちは僕らをラウドバンドとして認識してくださっていたってことですよね。それは本当にびっくりしたし、うれしかった。