作品やアーティストの可能性を膨らませる、採択団体が語るアーツカウンシル東京「東京芸術文化創造発信助成」

東京を拠点とするアーティストや芸術団体などに対して、活動経費の一部を助成している、アーツカウンシル東京の「東京芸術文化創造発信助成」。芸術表現活動全般を対象とした本事業で、演劇ももちろん助成対象となっている。活動が多様化し、クリエーションにかかる諸経費も上がっている昨今、芸術と経済の問題は切っても切り離せない問題だ。

ここでは令和4年度 第1期 東京芸術文化創造発信助成に採択された、一般社団法人トランスレーション・マターズ、冨士山アネット、conSept合同会社、特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)、終のすみか、一般社団法人贅沢貧乏、一般社団法人チェルフィッチュ、ヌトミック、譜面絵画と、9団体が座談会に参加。どんな思いから申請したのか、実際に申請書を書くときに意識したこと、さらに各団体が考える今後の展望について語ってもらった。また特集後半では座談会に参加できなかった団体のうち3団体が、メールインタビューに回答してくれた。

取材・文 / 熊井玲撮影 / おにまるさきほ

東京芸術文化創造発信助成とは?

アーツカウンシル東京 東京芸術文化創造発信助成

東京の都市魅力の向上に寄与する多様な創造活動とその担い手を支援するため、東京を拠点とする芸術家や芸術団体等に対して活動経費の一部を助成する、アーツカウンシル東京の事業。対象分野は演劇、音楽、舞踊、伝統芸能といったパフォーミング・アーツ、美術・映像といったビジュアル・アーツ、さらには既存の枠にとらわれない新しい創造活動など、芸術表現活動全般。

「カテゴリーⅠ 単年助成」では、都内において実施される公演・展示・アートプロジェクト等の創造活動や、都内又は海外で実施される国際的な芸術交流活動がサポートされる。

「カテゴリーⅡ 長期助成」では、発表活動だけでなく、リサーチや試演など作品制作のプロセスを含めて支援することで創造活動を促進すると共に、芸術団体のステップアップの後押しを目的に、2年間または3年間の支援が行われる。

「カテゴリーⅢ 芸術創造環境の向上に資する事業」では、芸術創造環境の課題に取り組む、分野全体を広く見渡した活動に対して、最長3年間の支援が行われる。

なお令和5年(2023年)度の募集は2023年1月27日にスタート。申請の受付はカテゴリーⅠが3月7日、カテゴリーⅡ・Ⅲが2月28日まで。2月には公募説明会も行われる。

採択9団体が語る「東京芸術文化創造発信助成」

上段左より三橋亮太、水野恵美、堀朝美、宋元燮、長谷川寧、下段左より、古元道広、額田大志、坂本奈央、木内宏昌。

上段左より三橋亮太、水野恵美、堀朝美、宋元燮、長谷川寧、下段左より、古元道広、額田大志、坂本奈央、木内宏昌。

申請のきっかけは?

──今回お集まりいただきましたのは、令和4年度 第1期 東京芸術文化創造発信助成で採択された団体の方々です。スケジュールの都合でご参加いただけなかった方もいらっしゃいますが、9団体の方々が参加してくださいました。まずは皆さんの自己紹介も兼ねて、なぜ東京芸術文化創造発信助成に応募しようと思われたのか、教えてください。終のすみかさんは、今回初めて採択されたそうですね。

坂本奈央(終のすみか) はい。助成金については何回も何回も応募してやっと通るものと聞いていたので、まずは1回応募してみようと。初めてだったので私ともう1人のメンバーの2人で、けっこう時間をかけて申請書を作成したのですが、採択が決まったときは飛び上がって喜びました。がんばって1歩踏み出してみて良かったなって。

三橋亮太(譜面絵画) うちは今回が2度目の採択で、最初はTwitterで東京芸術文化創造発信助成について知り、制作チームに「やってみたい」と伝えました。譜面絵画は制作者が3人いて、メンバー6人中3人が制作なんですけど……。

一同 おおー!(「うらやましい」「すごい」などの反応)

三橋 そのメンバーががんばって申請書を書いてくれました(笑)。各書類の難易度はそんなに高くないし、申請後のやり取りも負担が少なく、若手団体にとって何がしんどいかを、アーツカウンシル東京の方たちがよくわかってくださっているのがすごくありがたかったです。作る側の人たちのことを第一に考えてくれる姿勢を感じました。

座談会の様子。

座談会の様子。

額田大志(ヌトミック) うちはこの9団体の中でもかなり“野良演劇”というか、自分たちが面白いと思うことをインディペンデントにやってきた団体だと思います(笑)。最初に申請書を出したのは結成2年目の2018年で、最初の頃は「領収書は絶対に全部集めたほうが良い」とか、アーツカウンシル東京の方にずいぶん注意されましたが(笑)、そんなサポートもあり今、ようやく演劇を仕事としてやっていけるところまで来られました。

長谷川寧(冨士山アネット) 今回助成対象となったのは1月中旬に東京で凱旋公演をした「UNITED ME」(参照:“そこに集った国民の意見を問う”、長谷川寧「UNITED ME」が開幕)という作品ですが、もともとは2020年にロンドンのフェスティバルで上演する予定で、そのときに初めて申請書を出させていただきました。海外って招聘元の予算がウソみたいに少なかったりもするので、その現実と、「それでも行きたいか」という思いを天秤にかけないといけないんですよね。で、「それでも行きたい!」と思って急遽申請したんですけど、東京芸術文化創造発信助成は年に2回、申請タイミングがあるので、それはすごくありがたかったです。また渡航費しか出ない助成もありますが、東京芸術文化創造発信助成の場合はほかの部分にも助成金が出るというのが大きいです。うちは公演ごとにスタッフやキャストを集めていて、参加してもらったときにクリエーションにかかる時間分だけ金銭を支払えれば、みんな幸せになれるんじゃないかなと思っていて。(東京芸術文化創造発信助成に)採択されれば、そういうこともしやすいなと思いました。

堀朝美(贅沢貧乏) 贅沢貧乏がこれまで申請した案件は海外公演が多くて……というのも、「TPAM(国際舞台芸術ミーティング in 横浜)」のフリンジで上演して良い反応があった作品が翌年海外ツアーすることが多く、でも「TPAM」が終わった2月に応募できるのって東京芸術文化創造発信助成だけなんです。初めて申請書を提出したのは、2017年の「みんなよるがこわい」中国3都市ツアーのときだったのですが、初めての海外公演だし、劇団にお金はないし、ネットで調べても招聘元の中国の劇場が出てこないから本当に存在するのかどうかもわからないしで、公演できるんだろうかと制作同期だったプリコグの水野(恵美)さんとしゃべっているときに、東京芸術文化創造発信助成のことを教えてもらって。助成金が取れたら劇場が本当に存在するかどうか確かめるために中国に下見に行くこともできるなと考えて(笑)、タイミングはギリギリだったのですが応募し、採択いただけました。その後も2事業、採択いただいたのですが、中国の新しい劇場のこけら落とし公演をやるはずが劇場が建たず公演中止になってしまったり、コロナ禍で公演が中止になってしまったりで、「もう採択してもらえないかもしれない……」と思いながら今回申請したところ、再び採択していただけて背中を押してもらったようでうれしかったです。

多くの助成金申請は、10・11月頃に申請書を出して翌3月頃に決定するというスケジュール、1年に1回しか申請タイミングがありませんが、長谷川さんもおっしゃったように、アーツカウンシル東京は年に2回、申請のタイミングがあります。今はコロナの状況もあるのであまり前もって決められないところがあるし、「(申請書を)出したい!」と思ったときにすぐ出せるのは、すごくありがたいです。

贅沢貧乏「わかろうとはおもっているけど」パリ公演(2022年)より。©︎Pierre Grosbois

贅沢貧乏「わかろうとはおもっているけど」パリ公演(2022年)より。©︎Pierre Grosbois

水野恵美(チェルフィッチュ) チェルフィッチュは単年助成と長期助成の両方を採択していただいていて、単年のほうは今年5月にウィーンで初演を迎える新作音楽劇、長期は3ヵ年計画で動かしているノン・ネイティブ日本語話者との演劇プロジェクトが対象となっています。新作音楽劇のほうは春季のフェスティバルへの参加というところが難しくて、5月って年度明けすぐなので、年度末に採択結果が出る文化庁や芸術文化振興基金の助成金だけではリスクが高すぎるんですよね。でも東京芸術文化創造発信助成は国の年度予算とは異なるスケジュールで組まれているので、それよりも早い段階で申請できたのは本当に助かりました。また東京芸術文化創造発信助成のように、公演そのものだけではなく、事業全体に対して支援してくれる助成金というのが本当に少ないんですよね。ノン・ネイティブ日本語話者との演劇プロジェクトのほうは、ノン・ネイティブ日本語話者の演劇への参加の機会を増やしたいと考えて始めた事業ですが、この長期助成がなかったら動けてすらいなかったかもしれません。まだ見ぬものに向かって模索していくような手探りのプロジェクトで、相当時間がかかるので、1団体が何の支援もなしに始められるものではなかったと思います。

一般社団法人チェルフィッチュ「ノン・ネイティブ日本語話者との協働プロジェクト」ワークショップの様子。

一般社団法人チェルフィッチュ「ノン・ネイティブ日本語話者との協働プロジェクト」ワークショップの様子。

──一般社団法人トランスレーション・マターズは戯曲翻訳者による団体で(参照:木内宏昌ら戯曲翻訳者によるトランスレーション・マターズ、上演第1弾にオニール劇)、第1回公演「月は夜をゆく子のために」が助成対象となりました。

木内宏昌(トランスレーション・マターズ) 公演をやる以上、やっぱりお金は必要だし、かといって10も20も助成団体があるわけではないじゃないですか。で、応募できる条件を考えていったときに、東京芸術文化創造発信助成は当然候補に入っていたので申請しました。採択が決まったあとに、どのくらいの倍率だったんだろうと思って調べてみたら、応募総数の3分の1が採択されていて、ありがたさを感じつつ、「でもそんなに応募数が少ないんだ……」と意外に思いました。

トランスレーション・マターズ 上演プロジェクト2022「月は夜をゆく子のために」より。

トランスレーション・マターズ 上演プロジェクト2022「月は夜をゆく子のために」より。

宋元燮(conSept) 今回参加されている方の顔ぶれを見ると、一般社団法人か任意団体の方たちですよね。うちは商業ベースの法人なので、特殊な例だと思うんですけれど……実は毎回応募しているわけではないです。商業ベースでやっている以上、そもそも採算を考えた予算書しか出せないので、助成団体に申請しても採択された試しがないんです。それでも今回僕が東京芸術文化創造発信助成に応募したのは、もちろん助成金をもらえて損することはない、というのが率直な意見ですが(笑)、今回採択されたDialogue in Theater #2「ハイゼンベルク」(参照:濃密で芳醇な空気を味わって、小島聖・平田満の二人芝居「ハイゼンベルク」開幕)が、舞台作品として新しい局面を拓くような企画になる可能性があるのではないかと思ったからです。

申請して感じたのは、あらゆる助成金・補助金案件の中で、東京芸術文化創造発信助成の申請ほど手順が楽なものはないなってくらい簡単だということ。申請者が何に困るか、何が団体にとってマイナスになるかということをアーツカウンシル東京さんがよくわかっていらっしゃるからだと思うんですけど、申請のタイミングも実績報告書の提出の仕方もやりやすかったです。

古元道広(舞台芸術制作者オープンネットワーク) ON-PAMは今回、「芸術創造環境の向上に資する事業」枠で「舞台芸術の『関係性』をめぐる連続講座2022~持続可能な創造環境に向けて」が助成対象となりました。その前年には「舞台芸術の『契約』にまつわる連続講座2021~(同上)」も採択されました。このような、公演事業以外のことが助成の対象になるということは稀有なことだと思います。そういった点でも、アーツカウンシル東京さんは、アーティストのサポートになるようなボトムアップを意識されていて、僕たちに伴走してくださっているんだなと感じます……という点でもう、申請にやる気が湧いてきますよね(笑)。もちろんお金をもらって良かったということはものすごく大きいけれど、自分たちの事業がアーツカウンシル東京さんに支えていただけているんだ、と思っています。

「舞台芸術の『関係性』をめぐる連続講座2022~持続可能な創造環境に向けて」チラシ

「舞台芸術の『関係性』をめぐる連続講座2022~持続可能な創造環境に向けて」チラシ

申請書を書くことで、作品や団体の輪郭が見えてきた

──ここからは具体的なお話を伺います。アーツカウンシル東京の公式サイトに載っている申請書類のフォーマットを拝見すると、作品や団体について主観的にも客観的にも言語化する必要があるのだなと感じました。皆さんが申請書を実際に書いて、難しいなと思ったところや工夫したところがあれば教えてください。

木内 初めて申請するときは、申請書の内容が簡単かどうかに関わらず、とにかく怖かったです。制作者だったらまた感じ方が違うのかもしれませんが、僕が普段使う言語とは別の言語が申請書には使われているし、作品を作っているときってみんな自分は特別だと思いながら作っているので(笑)、それを横並びになる言葉で書かないといけないというのは、1人で作業しているとドツボにハマってしまい、孤独を感じる作業でした。でも「これをみんな書いてるんだよなあ」と思ったりして……(笑)。

坂本 終のすみかでは、予算的なところはもう1人のメンバーが書き、私は作品の内容とか「社会的意義」の項目を書いたんですけど、初めてだったし私も相談できる人がいなかったので本当に国語の時間みたいに(笑)、「これはどういうことを聞かれている質問なのかな」と格闘しながら書いていきました。たぶん、自分がやっていることを話し慣れている人なら楽しく書けるんじゃないかと思うんですけど、私の場合は自分の活動を初めてきちんと言語化したので……。でもそうやって自分の活動を見つめ直すことができたのは大きいと思います。もちろん採択していただいたことはすごく大きいんですけど、申請書を書くことができた、ということが良かったと思います。

終のすみか「idk.」より。(撮影:坂本菜美)

終のすみか「idk.」より。(撮影:坂本菜美)

──自分たちの活動を言語化する、という点で、公演のリリースを書くことも似た作業なのではないかと思いますが、リリースを書くのと申請書を作成するのは違う感覚なのでしょうか?

 リリースは一般のお客さんに何を観てほしいかを書くものなので、まず最初にキャッチコピーがきますよね。でも申請書の場合は、税金を使う以上、一番に社会性が問われると思うし、そのうえで革新性がどのくらいあるのかなどを書くのがポイントになってくるのではないかと思います。それを言語化するのは難しいところだと思いますね。

──となると、既存の表現ではない、新たな表現形式を模索しているアーティストご自身にとって、思いやイメージを文章に落とし込んでいくのは、確かに難しそうですね。

額田 (うなずきながら)「社会的な意義」の項目がやっぱり難しいです。実際、自分たちの作品には本当に社会的な意義があるのかなって自問するところもあって。ただ、25歳頃に最初の申請書を書いたときは、自分の作品が社会に対してどんな意義があるかなんて考えたこともなかったので、ただただ「こうなれば良いな」という非現実的なこと、というか理想を書いていたんですけど(笑)、続けていくと、それが本当になるというか。自分がやりたいことを言語化し、それを人に伝え、仕事が生まれることで、どこかその理想を信じられるようになってきたんです。

ヌトミック「SUPERHUMAN 2022」より。(撮影:コムラマイ)

ヌトミック「SUPERHUMAN 2022」より。(撮影:コムラマイ)

長谷川 確かに、申請書を書く前ってやりたいことがもっと漠然としてるんですよね。でも書くことで考えがまとまることは絶対にあって、それはありがたいことだと思っています。ただある意味“公的なお金”をいただく仕事が増えてからずっと考えていることなんですけど、自分の作品に社会性はあるかと問われると、もちろんあるとは思うけれど、でも作品って本来はやりたくてやっているものなんだよな……ということ。そう考えると、芸術文化が持つ意味とは何か、ということまで考えてしまいます。

三橋 書いている中で考えがまとまっていくことは僕もあって。例えば僕が作品に関する文章をガッと書いて制作さんに確認してもらうと、「ここはよくわからない」って指摘をもらうところが毎回大体同じなんです。自分のくせなんでしょうけど、僕はよく“召喚”って言葉を使ってるみたいなんですね……たぶん「遊戯王」をよくやってるせいだと思うんですけど。

一同 あははは!

三橋 そう指摘してもらえるのは良いなと思うし、「多面性とか社会的意義を考えてもっと書き込んだほうがいいんじゃない?」などアドバイスをもらいながら書き足していくことで、最初はふんわりしていたアイデアが徐々に定まっていく作業はすごく楽しくもあります。

譜面絵画ビジュアル

譜面絵画ビジュアル

──贅沢貧乏やチェルフィッチュの場合は、例えば作品の概要部分を書く際に、山田由梨さんや岡田利規さんに堀さん、水野さんがヒアリングするのですか?

水野 そうです。

木内 それは大変な責任ですね。団体の責任者やプロデューサーだったら、自分でハンコを押して申請書を提出するんだから、申請して採択されなければ仕方ないということになるけれど……。

水野 でも事業規模や予算を決めるところもすべて任せてもらっていますし、アーティストは逆にその部分にまったく関知しないので、そここそ我々の腕の見せどころというか(笑)。

──アーティストへのヒアリングには、かなり時間をかけるのですか?

水野 申請する作品にもよります。既存の作品の場合はまったくヒアリングしないこともあるし、新作の場合はヒアリングをしても引き出せることに限界があるので、肝になるようなコンセプトと本当に決めないといけないことだけ聞いて、あとは自分なりに解釈して……。テクニック的なことを言うと、申請書の中で、提出後に多少の内容変更ができるところと、公演の趣旨目的のように変更できないところがあるので、そのバランスを自分なりに考えて書いていくということはしています。

 私も、新作のときはアーティストがやりたいことやその手前の創作の種になるような部分を聞き出したり、短い文章を書いてもらったりして、そこから“翻訳”していくということをしています。申請書を目にするのは財団の職員さんなど自分たちとは異なるアプローチで文化芸術に携わっている方たちなので、アーティストの言葉をそのまま載せた方が伝わる部分と、噛み砕いたり俯瞰的な視点で書き替えたり編集したほうが伝わる部分を見極めながら文章をまとめています。あとは、文化庁のWebサイトを覗いてよく使われているキーワードを書き出して、作品と共鳴する部分があれば申請書に盛り込んだり……。でも先程の皆さんのお話ではないですが、申請書を書きながら自分たちがこの公演で成し遂げたいこととか、「それならここにお金をかけよう」といった公演のイメージが明確になっていく感覚はよくわかります。

一同 (大きくうなずいて)ほうー!

──ON-PAMさんは制作さんのコレクティブなので、申請書には慣れていらっしゃいますよね?

古元 そうですね……でも申請書作りはだいたい孤独な仕事なので、責任を感じながらやっています。それに制作者がたくさんいる団体で、申請に落ちたとなると恥ずかしいという気持ちは若干……。

一同 あははは!

古元 僕自身はフリーで活動していますが、団体での制作の経験などもあって、先ほどの水野さんや堀さんがされた“アーティストの言葉の変換の話”はすごくよくわかります。アーティストの書いたもののどこにフォーカスするのか、あるいはアーティストの言葉が一面的に見える場合に、制作者がそれをどう多面的にしていくかというところは腕の見せどころでもあるし、でもそれって演劇公演以外の場合でも大事なんじゃないかなと思いながら申請書を作成しています。

座談会の様子。

座談会の様子。

9団体それぞれの、未来の描き方

──申請書には、団体の未来を展望する項もあります。今回お集まりいただいた皆さんはスタイルはさまざまですが、それぞれ新たな団体性を目指して活動されている方たちだと思います。皆さんは普段の活動の中で、メンバーとどのように団体の今後について考えを共有していますか?

三橋 まず団体として、年間でやる公演については全員で共有しています。スタッフ会議は週1回やっていて、団体全体の会議を1・2カ月に1度やっています。先ほどの話につながりますが、どういう公演にしようかと話しながら助成金の申請書を書いていると、何年先にどうしようという話も出てきて、同時に自分たちの団体のプロフィールも検討する作業になったりして。先のことを考えることで、自分たちの団体の演劇はどういうものなのか、どうしていくのが良いのか、ということが定まっていく感覚があります。

額田 未来のことはよく話します。メンバーが5人いて、同じメンバーで活動しつつモチベーションを維持していきたい思いもあります。僕たちがやっていることがわかりにくいものだったりするので、自分たちがやっていることにどういう意義があって、芸術の中ではどういう価値があるかということを言葉にして話すこともあります。また今後、例えば助成金が取れないとか、活動が思うようにいかないことがあったとしても、常に作品を作る場所を確保して、インディペンデントにやっていくのが大事なんだ、という思いを共有したりもします。

坂本 団体としてはまだまだオフロード走行している状態で、うまくいっているときもあればそうでないときもあって何とも言えないのですが、一貫しているのは、豊かさみたいなものを削って疲弊しながら作ることはあまり良くないだろうな、ということ。身体的にも精神的にも豊かさを確保していくには、経済的な豊かさも大きいと思っています。それもあって今回、東京芸術文化創造発信助成に応募しました。団体のビジョンを問われると、いまだに「なんだろう?」と思ってしまうところはあるんですが、活動を続けていくうえで見えてきた指針はみんなで共有し、それぞれの当たり前の権利を当たり前に守りながらやっていきたいと思っています。

長谷川 もともとは団体をやっていましたが、ちょっと関係性が固まってきちゃったのが良くないなと思ってユニット形式になったという流れがあって。集団ってやっぱり難しいなって思うんです。また坂本さんがおっしゃった経済的・精神的な豊かさももちろん大事だし、でもやっぱり「この作品に関わって良かった」と思ってもらえるのが一番だなと思って。じゃあそれはどうすればできるんだろう?ということに、正直なところまだ全然答えは出てないです。ただ自分の団体で活動するときには「本当にやりたいからやっているんだ」と、ちゃんと言い続けられるようにしていかないといけないと思っています。コロナ以降って、やっぱり公演を打つのが本当にしんどいなと思いますし、それでもやり続けられるような状況を作っていかないと自分がしんどくなってしまう。その両立をうまくしたいなと思っています。

「UNITED ME」より。(Photo by Hideki Namai)

「UNITED ME」より。(Photo by Hideki Namai)

木内 僕たちは、“コロナ禍で人が集まることはダメ、海外を行き来するのはダメ”と言われたら演劇はできない、という状況の中で立ち上げた翻訳者たちの団体です。さまざまな団体が生まれ、多様なクリエーションが行われていく中で、自分たちは何を残していけば良いのかを考えたとき、残すべき必要なものは全部戯曲の中にあるんだと、ただそれだけの思いでつながっています。だから儲ける / 儲けないの問題ではなく、次の世代に翻訳戯曲の面白さを伝えたいという思いで1つの戯曲に対峙していますし、戯曲に合わせて作り方から変えていこう、その自由さをもって臨んでいきたいと思っています。

 一般社団法人や任意団体の方が混在しているので、僕が発言する場ではない気がしますが……今回僕が「ハイゼンベルク」で申請したのは、企画として可能性があると思ったのはもちろんですが、そもそもコロナ禍で本当に会社が大変な状況にあったからでした。ただ僕の中では本来、公共的なお金を投じるべきは、ある作品やアーティストに対してではなく、システムに対してだろうと思っていて、1団体では動かすことができない山を動かすためのシステムを、公共のお金を使ってやるべきだと思っているんです。例えばアーツカウンシル東京でも助成金とは別の形で、アーティストが社会とつながるためのさまざまなセミナーが開催されていますが、それをさらに広げていくことが大事じゃないかなと。つまり助成制度があってそのあとにセミナーがあるんじゃなくて、セミナーがあってそれを受講した人たちが助成金を取れるということになったほうが良いのではないかなと思います。良い循環を生むための仕組みは個人でできるものではないので、その仕組みを公の力で作ってほしいというのが僕の大きな希望です。

conSept Dialogue in Theater#2「Heisenberg(ハイゼンベルク)」より。(撮影:岩田えり)

conSept Dialogue in Theater#2「Heisenberg(ハイゼンベルク)」より。(撮影:岩田えり)

古元 そうですね……仕組みも確かに大事だし、でもアーティストや作品の支援も大事だし、両方がうまくいくと良いなという気はしますね。仕組みそのものを考えることは1つのスタート地点だと思っていますが、アーティストだけでなくお客さんのことも一緒に考えていきませんかという提案もあります。作る人と観る人、運営や支援をする人が全部バラバラになってしまうような在り方ではなく、フラットに同じテーブルについて考えよう、みたいなことかなと思います。

水野 今の宋さんと古元さんのお話を伺いながら、仕組み作りも大事だと思いつつ、私としてはやっぱり作品やアーティストが大事だと思っていて。国や自治体全体で、とか舞台芸術団体がまとまって仕組み作りするのはとても大事だけれど、舞台芸術の“シーン”というものも同様に大事なのではないかなと。その点で、シーンを作っていくのにはアーティストは不可欠ですし、その活動への支援というのも大事な原動力だと感じています。私個人が大きな仕組み作りをすぐ実施することは難しいので、舞台芸術シーンを少しでも豊かにするためにも、まずは1団体として面白いものを作っていこう、と思いますし、そのための試行錯誤を続けていくためにも、カンパニーのコミュニケーションは密に大事にしていきたいと思っています。

 贅沢貧乏では定例をするという方法ではなく、日々LINEなどでやり取りをしながら、時々お茶会をしたり、みんなでスーパー銭湯に行ったりという形でコミュニケーションを取っています。そうやって雑談の中から、自分たちの活動のことやこれから何をしていこうかということを話し、それをもとに未来のことを考えるという感じですね。メンバーの中には子育てしている人もいるので、会社のようにカッチリしたやり方ではなく日常のコミュニケーションを大事にしています。ただコロナ禍ではどうしても未来を考えると暗くなってしまうし、私たちは2011年の東日本大震災を大学生の頃に経験していて、あのときのすべてが一瞬で壊れる感覚も記憶にあるので、ポジティブに未来を考えていかなきゃと思う反面、続けていくことや未来を大きく描くことの難しさも感じます。でも助成金の申請書を書きながら、作品と社会とのつながりを言葉にして、作品や団体の未来を具体的に描いてみると、できそうな気がしてくるというか。日本の若者は自己肯定感が低いと言われているけれど、自分たちの作品・活動を振り返って言語化し、次はこういうことをやります!とポジティブにアピールすることって助成金の申請書以外ではあまりない気がするので、これまでの自分たちを肯定し未来のことを考える機会として、助成金申請にチャレンジするのはありだと思います。

──まだまだお話は尽きませんが、団体の現在の状況を踏まえた、さまざまなお話が伺えて充実した座談会となりました。ありがとうございました!

左から古元道広、額田大志、水野恵美、三橋亮太、堀朝美、宋元燮、長谷川寧、坂本奈央、木内宏昌。

左から古元道広、額田大志、水野恵美、三橋亮太、堀朝美、宋元燮、長谷川寧、坂本奈央、木内宏昌。

プロフィール

木内宏昌(キウチヒロマサ)

劇作家、翻訳家、演出家。一般社団法人トランスレーション・マターズ代表。

長谷川寧(ハセガワネイ)

作家、演出家、振付家、パフォーマー。冨士山アネット主宰。

宋元燮(ソンウォンセプ)

プロデューサー。conSept合同会社代表。

古元道広(フルモトミチヒロ)

制作者。特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワークメンバー。

坂本奈央(サカモトナオ)

劇作家、演出家。終のすみか主宰。

堀朝美(ホリアサミ)

贅沢貧乏プロデューサー。

水野恵美(ミズノメグミ)

株式会社precogチーフプロデューサー。チェルフィッチュ担当。

額田大志(ヌカタマサシ)

作曲家、演出家。ヌトミック主宰。

三橋亮太(ミツハシリョウタ)

演劇作家。譜面絵画主宰。青年団演出部所属。