作品やアーティストの可能性を膨らませる、採択団体が語るアーツカウンシル東京「東京芸術文化創造発信助成」 (2/2)

そのほかの採択団体の声

ここではスケジュールの都合で座談会には参加できなかったけれど、メールインタビューに協力してくれた有限会社名取事務所、くちびるの会、合同会社UPNら3団体の声を紹介する。

名取敏行(有限会社名取事務所)

──「東京芸術文化創造発信助成」に応募したきっかけは?

ワークショップやワークインプログレスを含む事業に該当する助成金がほかに見当たらなかったので応募いたしました。パレスチナでのワークインプログレスを終了して帰国いたしましたが、現地に行かなければ体験できないことが多く非常に有意義な事業でした。

──申請書を書く際に意識されたことはどんなことですか? また、企画を他者に伝える際に意識していることはなんですか?

まず、基本的に私の考えでは、制作者は演出家以上に本を読み込む必要があると思っております。従って、自分自身がその作品をどのように企画するかを具体的に考えなければならないと思っております。それをもって演出家と企画意図を話すことが名取事務所としては最初の仕事です。従って申請書を書くときには、互いの合意点をただ書くことを意識しております。また企画を他者に伝える際は、短く簡潔にと絶えずそう思っております。

──通常どのくらい先までを視野に入れて作品を選んでいますか? またスタッフとはどのようにコミュニケーションを取っていますか?

通常3年先までは作品を決めています。コミュニケーションを取るのは社員の制作者1名のみです。2人が密に確認を取って進めています。

名取事務所 パレスチナ演劇上演シリーズ「占領の囚人たち」チラシ

名取事務所 パレスチナ演劇上演シリーズ「占領の囚人たち」チラシ

プロフィール

名取敏行(ナトリトシユキ)

演劇プロデューサー。有限会社名取事務所代表。

坂田ゆかり(合同会社UPN)

合同会社UPNのロゴ。

合同会社UPNのロゴ。

──「東京芸術文化創造発信助成」に応募したきっかけは?

アジアのアーティストたちと長期的なアートプロジェクトを推進するうえで、単発の発表の場だけではなく、創作や鑑賞のプロセスも含め包括的に助成していただけるスキームを探していました。長期助成の募集要項を最初に目にしたのはインターネット検索だと思います。もし採択していただけなかったら、資金調達の目処が立たずプロジェクトは早期終了していたかもしれないので、アーツカウンシル東京さんには感謝しかありません。

──申請書にはさまざまな項目がありますが、書くのが難しいと感じたところ、簡単だと感じたところはどんなところですか?

難しいと感じたところ:
個別活動の内容を詳細に記述するところ。コロナ禍の影響に伴い、私たちのプロジェクトが拠点とするアジア各地(タイ、ミャンマー、インドネシア、ベトナム、日本)の情勢は刻々と変化していて、特に2・3年先のことについては不確定要素が多かったため。

簡単だと感じたところ:
社会的意義については日頃から考えていることなので特に悩みませんでした。

──普段あなたの団体では、団体の未来をどのように考え、話し合っていますか?

UPNは役員2名のみの小さな会社です。申請書の作成は、まず私がざっくりとした考えを書き、もう1名の役員がそれを確認・更新する形で具体化しています。一方、活動の主体は総勢20名を超えるアジアのコレクティブ「テラジア」です。2022年9月に一部のメンバーがジャカルタに滞在し、未来について約1週間話し合う機会を持つことができました。現在は、オンラインでつながりながら各地それぞれの未来と向き合っています。

「テラジア オンラインウィーク2022」ビジュアル

「テラジア オンラインウィーク2022」ビジュアル

プロフィール

坂田ゆかり(サカタユカリ)

「テラジア|隔離の時代を旅する演劇」演出家。合同会社UPN代表。

山本タカ(くちびるの会)

山本タカ

──「東京芸術文化創造発信助成」に応募したきっかけは?

助成自体は、応募前より採択団体の公演チラシで知っていました。応募したきっかけは、助成を採択された方に、公演予算のファンドレイジングについて相談した際に薦められたことが大きいです。東京芸術文化創造発信助成の良い点は、募集時期が年度内で2期に分かれていることです。応募のタイミングに選択肢があります。また事業終了後、アーツカウンシル東京の担当の方と面談で団体の課題を話せるのはありがたいです。

──申請書にはさまざまな項目がありますが、書くのが難しいと感じたところ、簡単だと感じたところはどんなところですか?

初めて申請した頃は、事業の「社会的意義」や「応募分野(演劇)以外への波及効果」を書くのは非常に苦労しました。しかし、応募を重ねる中で、それらに対して意識的になり、言語化できるようになったのは、代表・脚本・演出を兼任する身としては、良いことだと考えています。プロフィールや次回公演の内容などは、応募段階で決まっていることなので、書くのは簡単だと思います。

──普段あなたの団体では、団体の未来をどのように考え、話し合っていますか?

申請書に記入する文章に関しては、僕が書いておりますので、僕のイメージする団体の未来を言語化して記入しています。活動を行う中で、未来のイメージも変わってきますので、正直に書くようにしています。当団体では、メンバーが代表の僕を含め3名と極めて少人数です。そのため、劇団や公演に関わる業務を行う中で、重要な意思決定を行う際に、都度、団体の中長期的なビジョンを共有するようにしています。

くちびるの会「老獣のおたけび」チラシ

くちびるの会「老獣のおたけび」チラシ

プロフィール

山本タカ(ヤマモトタカ)

劇作家、演出家、脚本家。くちびるの会代表。