鴻上尚史が率いた第三舞台や劇団☆新感線を成功に導いた立役者である演劇プロデューサー・細川展裕と毛利が出会ったのは、毛利が少年社中を旗揚げするより前、早稲田大学演劇研究会時代に遡る。第三舞台のサークルの後輩にあたる少年社中を学生時代から見守ってきた細川は、少年社中の過去・現在・未来をどのように見ているのか。演劇界において、酸いも甘いも噛み分けた2人の軽やかなトークを通じて「演劇を職業にすること」の真髄に迫る。
もう書くことないだろ?(細川)
細川展裕 毛利はいくつになったの?
毛利亘宏 43になりました。最初にお会いしたのは早大劇研にいた二十歳の頃だったと思います。
細川 社中を旗揚げしたのは?
毛利 22のときなので、2018年でちょうど20年になりました。
細川 1998年旗揚げか。ちょうど俺が第三舞台を辞めた頃だな。劇研の最後の公演で、毛利がどうしても雪を降らせたいって言うからスノーマシンを手配したんだったね(笑)。
毛利 そうです! 懐かしいですね。その節はありがとうございました(笑)。
細川 (少年社中の公演リストを見ながら)すごいね。こんなに公演打ってるんだ。
毛利 休まず、年2・3本のペースでやってます。
細川 脚本は今まで何本くらい書いたの?
毛利 劇団以外の作品を含めたらけっこうな数書いてます。「仮面ライダーシリーズ」や「スーパー戦隊シリーズ」に至っては、合わせてもうすぐ100本になります。
細川 じゃあもう書くことないだろ?
毛利 ははは(笑)。でも、“書けなくなる”って感覚は全然なくて。たぶん作家には自分の内なる衝動をもとに書く人と、題材さえあれば書き進められるタイプの2種類がいて、僕はおそらく後者ですね。これに関しては、特撮の脚本をやらせてもらったことによってすごく鍛えられたんです。特に僕は話の途中から脚本を引き継ぐことが多かったので、「投げろ」と言われたときすぐに投げられる救援投手のような感じで、結構なスピードで書き進めることを求められました。
細川 作家として食べていくためには「今は書けません」なんて言っていられないもんな。そう言えば昔からよく言ってるんだけどさ、唐(十郎)さんたちのアングラ世代は「俺はお前が大嫌いだ、だから話をしよう」っていう文法だったじゃない。つか(こうへい)さんの時代で「俺はお前が大嫌いだ、だから大好きだ」ってパッションで乗り切ろうとしていたのを、野田(秀樹)さんの世代が「俺はお前が大嫌いだ。……だったりして」みたいにちょっとずつずらし始めて、三谷(幸喜)さんあたりが「俺はお前が大嫌いだ……なんて失礼なことは言いません」って普通の文法に戻したけど、それで言うと毛利は「……だったりして」の影響を一番受けてるんじゃないかって。
毛利 そうですね。高校生のときに観た第三舞台や夢の遊眠社からはかなり刺激を受けました。三谷さんみたいなウェルメイドな脚本を書きたいっていう願望が若いときからあって、ああいう文法を子供にもわかる言葉にして伝えていきたいと思っていた時期に、ちょうど東映特撮をやらせてもらえることになって。そのときに自分が使える言葉の幅がすごく広がった気がするんですよね。子供に伝えるには難しいことであっても、“子供の言葉”にすれば伝わるっていう絶妙なラインを見付けて、「僕にはこれがある!」って思ったんです。
細川 “子供の言葉”ね、わかりやすくていいじゃない。そもそも“少年”社中って言うくらいだもんな。
毛利 ははは(笑)。そう言えば、初めて年間を通してメインライターを任せてもらった「宇宙戦隊キュウレンジャー」っていう作品は、完全に演劇の文法で書いたんです。キャラクターが派手過ぎて暑苦しいと言われることもありましたけど、ハマる人はすごくハマってくれて。演劇で培ったものをテレビでアウトプットできるんだなってあのときに思いました。
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今回お話したかったのは……(毛利)
- 「少年社中20周年記念ファイナル 第36回公演『トゥーランドット~廃墟に眠る少年の夢~』」
- 2019年1月10日(木)~20日(日)東京都 サンシャイン劇場
- 2019年1月24日(木)~27日(日)大阪府 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
- 2019年1月30日(水)・31日(木)福岡県 ももちパレス 大ホール
脚本・演出:毛利亘宏
- キャスト
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- トゥーランドット / ケツァール:生駒里奈
- カラス:松田凌
- インコ:赤澤燈
- モズ:井俣太良
- ガン:馬場良馬
- ハゲタカ:山川ありそ
- トンビ:廿浦裕介
- アジサシ:加藤良子
- キュウカンチョウ:ザンヨウコ
- ダチョウ:内山智絵
- サイチョウ:大竹えり
- ペンギン:堀池直毅
- 謎の男:鈴木勝吾
- ティムール:岩田有民
- 高貴な女:杉山未央
- アルトゥム:藤木孝
- 大将軍ローラン:有澤樟太郎
- ピン:川本裕之
- ポン:竹内尚文
- パン:長谷川太郎