今回お話したかったのは……(毛利)
細川 社中の作品で最近観たのは、(鈴木)拡樹が出てた「三人どころじゃない吉三」(16年)かな。俺、実はあの芝居に感謝してるんだよ。元々、拡樹には「『髑髏城の七人』Season月」(17年)で蘭兵衛をやってくれないかってオファーしてたんだけど、「三人どころじゃない吉三」を観たときに、このテンションだったら天魔王もできるんじゃないかと思って、最終的に天魔王でオファーしたんだよね。
毛利 えっ、そうだったんですか! 拡樹は本当に化ける俳優だから、拡樹のいろいろなところを引き出そう、全部詰め込んで全部見せようと思ったのが「三人どころじゃない吉三」だったので、そう言っていただけてすごくうれしいです。
細川 毛利のその試みが俺にとっては功を奏したわけだよね。
毛利 今回まさにお話したかったのが、ゲストと劇団のバランスについてなんです。
細川 「ここはゲストにとっておいしいシーンにしないとな」とか、「でも、そうすると劇団員が貧乏くじを引くことになるな」とか、いろいろせめぎ合いがあるよなあ。新感線がなぜこの問題をクリアできたかっていうと、古田(新太)がいたからなんだよ。劇団側の出演者として頭にいてもいいし、トメにいてもいい。客演が主演の場合は2番目に来てもいいみたいな、劇団員にそういうポジションを担える俳優が1人いたっていうのが大きかったんだと思う。加えてそこに、劇団の空気を作ってくれる(橋本)じゅんや(高田)聖子、粟根(まこと)がいて、劇団側の受け皿になるようなキャストの体制ができていた。なおかつそれ以外の俳優さんも、「出番は少なくても、自分らしいことができて楽しく過ごせたらOK!」みたいな人たちだったからやってこられたんだと思う。社中の場合はみんな主役思考あるでしょ?
毛利 そうですね。そういう意味で劇団員をずっとフラットに扱ってきたところがあると思います。
細川 第三舞台と一緒だな。第三舞台はそこの塩梅が難しかったんだよ。俳優が10人いたら10人を平等に……みたいな。
毛利 それはもう完全に早稲田の劇研の血ですよね(笑)。
細川 劇団員だけの公演とゲストを呼ぶプロデュース公演をやってバランスを取っていくっていうのも1つの手だと思う。
毛利 まさに今そういう試みをしてまして、1月に開幕する「トゥーランドット~廃墟に眠る少年の夢~」が劇団の本公演として過去最大規模の作品なんですが、今年の9月に中野のザ・ポケットで劇団員だけが出演する「機械城奇譚」っていう作品をやったんです。そこで、劇団としての力をもっと付けていかないとって改めて思ったんですよね。
細川 いいじゃん、いいじゃん。今後も劇団員と客演のバランスをうまく取りつつ、劇団の興行では5000から6000人くらいを動員して、ゲストに来てもらったときは1万5000人くらいを目指したらいいと思うよ。
毛利 そうですね。もっと大きいスケールで考えないといかんなというのを、細川さんの「演劇プロデューサーという仕事『第三舞台』『劇団☆新感線』はなぜヒットしたのか」を拝読して思いました。エンタメ演劇をやってる劇団にお客さんが入らない時代を経て、ようやく動員1万人っていう数字を目指せる状況になったからこそ、これからはもっと夢が見たいなと 。
細川 そうだよ、動員10万人目指してがんばりましょうよ。
少年社中 20周年 来し方行く末
細川 毛利はさ、この20年の間に心折れそうになったことある?
毛利 ありますね。でも僕は結局幸せを求めちゃうので、不幸な状況から抜け出せないと終われないというか、勝つまで終われないというか。そもそも演劇において勝ちも負けもないから、幸せを追い求める旅がずっと続いていくだけなんですけど……。
細川 要するに毛利は“幸せなコミュニティ”が好きなんだよ。それを上手に回していくためには、どうしてもお金っていう潤滑油が必要になってくるわけだけども。
毛利 そうかもしれませんね。それと最近は、劇団員や関わってくれる人たちだけじゃなく、少年社中を好きでいてくださる皆さんも含めて、1つの大きなコミュニティになりつつあるなと感じてるんです。今回細川さんとお話させていただいて腑に落ちたのは、“幸せなコミュニティ”を作り続けるっていうことが自分にとっての元々のモチベーションだったこと、そのためにしっかりお金を回していかなきゃいけないっていうこと。ああ……なんだか憑きものが落ちた気がします。
細川 それならよかったよ。改めて、俺たち、なんで続けてこられたんだろうなあ。やっぱり“ニッポンの正しい変態”だからかなあ(笑)。
- 「少年社中20周年記念ファイナル 第36回公演『トゥーランドット~廃墟に眠る少年の夢~』」
- 2019年1月10日(木)~20日(日)東京都 サンシャイン劇場
- 2019年1月24日(木)~27日(日)大阪府 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
- 2019年1月30日(水)・31日(木)福岡県 ももちパレス 大ホール
脚本・演出:毛利亘宏
- キャスト
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- トゥーランドット / ケツァール:生駒里奈
- カラス:松田凌
- インコ:赤澤燈
- モズ:井俣太良
- ガン:馬場良馬
- ハゲタカ:山川ありそ
- トンビ:廿浦裕介
- アジサシ:加藤良子
- キュウカンチョウ:ザンヨウコ
- ダチョウ:内山智絵
- サイチョウ:大竹えり
- ペンギン:堀池直毅
- 謎の男:鈴木勝吾
- ティムール:岩田有民
- 高貴な女:杉山未央
- アルトゥム:藤木孝
- 大将軍ローラン:有澤樟太郎
- ピン:川本裕之
- ポン:竹内尚文
- パン:長谷川太郎
- 毛利亘宏(モウリノブヒロ)
- 1975年生まれ、愛知県出身。第三舞台、遊◎機械/全自動シアターなどを輩出した早稲田大学演劇研究会のアンサンブル劇団として、98年に少年社中を旗揚げ。ストレートプレイ、ミュージカルと幅広いエンタテインメント作品を得意とする。「ミュージカル『黒執事』」「ミュージカル『薄桜鬼』」など、2.5次元ミュージカルの人気シリーズの脚本・演出を多く手がける傍ら、2011年より「仮面ライダーシリーズ」「スーパー戦隊シリーズ」に脚本家として参加。近年の担当作品には「宇宙戦隊キュウレンジャー」(17年)、「仮面ライダージオウ」(18年)などがある。
- 細川展裕(ホソカワノブヒロ)
- 1958年生まれ、愛媛県出身。84年、幼なじみの鴻上尚史から誘いを受け、第三舞台制作部に入団。株式会社サードステージとして法人化後、85年から98年までのすべての第三舞台の公演、およびサードステージのプロデュース公演を手がける。99年に株式会社ヴィレッヂの代表取締役社長、2013年に代表取締役会長に就任。以後、すべての劇団☆新感線公演の企画・制作に、エグゼクティブプロデューサーとして携わる。平成29年度芸術選奨文部科学大臣賞・芸術振興部門賞を受賞し、18年に自叙伝「演劇プロデューサーという仕事『第三舞台』『劇団☆新感線』はなぜヒットしたのか」を上梓した。毛利亘宏にとっては人生の師の1人。
- 少年社中(ショウネンシャチュウ)
- 1997年、劇団東京オレンジを脱退した毛利亘宏、井俣太良を中心に結成。早稲田大学演劇研究会(早大劇研)出身の劇団。98年2月に早大劇研内のアンサンブル劇団として旗上げ。その後、パルテノン多摩小劇場フェスティバルに参加するなどキャリアを重ね、2002年に早大劇研から独立する。独立後すぐに、当時若手劇団の登竜門とも言われた青山円形劇場に進出。年に2本から3本の作品を発表し続ける。13年には結成15周年を迎え、記念公演として紀伊國屋ホールにて「贋作・好色一代男」を上演。4000人以上の動員を記録すると共に、翌年発売したDVDでは紀伊國屋書店でのセールスランキングの上位をキープし続ける。16年の「三人どころじゃない吉三」では近鉄アート館にて劇団初の大阪公演を実施。また18年の「ピカレスク◆セブン」では1万2000人以上の動員を記録した。
架空世界、冒険、夢などをキーワードにファンタジー色の強い作品を、スピーディーかつスタイリッシュな演出で表現する一方、一貫して、そこに内在するリアルな人間ドラマを描き、観る者の五感を刺激するエンタテインメント作品を目指す。
現在は主宰・脚本・演出の毛利亘宏を中心に、俳優の井俣太良、大竹えり、岩田有民、堀池直毅、加藤良子、廿浦裕介、長谷川太郎、杉山未央、山川ありそ、内山智絵、竹内尚文、川本裕之の13名で活動している。