歌舞伎座で会いましょう 尾上菊之助が語る、2月は「鼠小僧次郎吉」で会いましょう (2/2)

「鼠小僧次郎吉」スチール撮影レポート

お正月ムードが冷めやらない1月上旬。国立劇場の一室で「鼠小僧次郎吉」のスチール撮影が行われた。まず尾上丑之助が、雪が降り積もった笠をかぶり、薄い半纏に股引をはいた、見るからに寒そうな蜆売り三吉姿で登場。そのちょこんとした愛らしさで、一室は和やかな空気に。続いて「通し狂言 南総里見八犬伝」の出演を終えたばかりの尾上菊之助が、卜者(占師)に扮し現れる。菊之助の浮世絵から抜け出てきたような、端麗さが際立つ佇まいに、現場は撮影に向けた緊張感が一気に高まった。

「鼠小僧次郎吉」ビジュアル撮影の様子。

「鼠小僧次郎吉」ビジュアル撮影の様子。

「鼠小僧次郎吉」ビジュアル撮影の様子。

「鼠小僧次郎吉」ビジュアル撮影の様子。

現場では、1925年撮影の、六代目尾上菊五郎扮する幸蔵と七代目尾上梅幸扮する三吉が並ぶスチール写真と、実際に撮影したカットを頻繁に見比べながら、約100年前の“型”に迫っていく。菊之助は丑之助に、三吉のポージングを言葉だけではなく、自身が実演して見せながら、丁寧に教えていく。丑之助は真剣な表情で菊之助の言葉に耳を傾け、より良く見える形を探る。そしてある時点で、菊之助に「そう!」と肯定の言葉をかけられると、丑之助はぴたりと身体を静止してみせた。

「鼠小紋東君新形」(大正14年2月市村座)ブロマイドより。六代目尾上菊五郎扮する稲葉幸蔵(右)と、四代目尾上丑之助(七代目尾上梅幸)扮する蜆売り三吉。(所蔵:国立劇場)

「鼠小紋東君新形」(大正14年2月市村座)ブロマイドより。六代目尾上菊五郎扮する稲葉幸蔵(右)と、四代目尾上丑之助(七代目尾上梅幸)扮する蜆売り三吉。(所蔵:国立劇場)

菊之助は、六代目菊五郎の佇まいを再現すべく、顔や身体の角度、表情、傘の持ち方など、微細な部分までこだわり抜く。全身鏡で全体のバランスを確認し、モニターに映るカットも厳しい目で見つめ、妥協のない“完璧な型”を追求。そんな菊之助と丑之助がポーズを決めて並ぶと、そこには雪景色の中で相対する幸蔵と三吉の姿がはっきりと浮かび上がった。モニターに表示された1枚に、菊之助が「すごく良いんじゃない?」とほほ笑むと、丑之助も達成感に満ちた表情でうなずいた。

最後は、鼠小僧に着替えた菊之助の、単独撮影が行われた。ほっかむりをした菊之助は、少しひょうきんさをにじませた表情とポージングで、“どろぼう”らしさを表現。撮影は滞りなく進み、スピーディに終了した。……と、そこに私物の手ぬぐいで、菊之助とまったく同じようにほっかむりをした丑之助が、満面の笑みで登場! 息子のその姿に、菊之助も思わず破顔し、カメラマンも「撮影しましょう!」とノリノリでカメラを構える。丑之助は菊之助の鼠小僧の立ち姿をまね、菊之助と背中合わせでうれしそうに撮影に応じる。撮影後、菊之助はモニターに映る2人の“鼠小僧”を目を細めながら指差し、丑之助と笑い合った。

「鼠小僧次郎吉」ビジュアル撮影の様子。

「鼠小僧次郎吉」ビジュアル撮影の様子。

「鼠小僧次郎吉」ビジュアル撮影の様子。

「鼠小僧次郎吉」ビジュアル撮影の様子。

「鼠小僧次郎吉」ビジュアル撮影の様子。

「鼠小僧次郎吉」ビジュアル撮影の様子。

後日、丑之助は撮影を振り返り「わらじが痛かったです」と実感を述べつつ、役について「(三吉は)かわいそうなお役なのかなと思います。かわいそうだということがお客さまに伝わるといいなと思います。この前、雪が降ったので、雪の冷たさが少しわかりました」と、1月上旬に東京に降った雪が、三吉の役作りの手助けになったことを明かした。

「鼠小僧次郎吉」ビジュアル撮影の様子。

「鼠小僧次郎吉」ビジュアル撮影の様子。

プロフィール

尾上菊之助(オノエキクノスケ)

1977年、東京都生まれ。1984年に「絵本牛若丸」の牛若丸で六代目尾上丑之助を名乗り初舞台。1996年に「弁天娘女男白浪」の弁天小僧ほかで五代目尾上菊之助を襲名。古典で幅広い役に挑むほか、2005年「NINAGAWA十二夜」、2017年「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」、2019年に新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」など新作歌舞伎にも積極的に取り組んでいる。

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