コクーン アクターズ スタジオ第2期生が挑む「アンサンブルデイズ」演出のバトンは杉原邦生からノゾエ征爾へ (2/2)

第2期生たちの顔が変わってきた

──4月の入所から10カ月経ち、第2期生に対してお二人はどんな印象を持っていますか?

杉原 僕は9月から12月半ばまでレッスンがなかったのですが、その間にみんなの顔が変わったなと感じました。第1期生のときは比較的コンスタントにレッスンをしていたので「アンサンブルデイズ」の稽古中にだんだんと顔が変わっていった印象があったのですが、第2期生は僕のレッスンがなかった3カ月の間に急にモチベーションが上がってピリッとしてきたなって。自分たちが置かれている今の状況に自覚が出てきたというか、そんな感じがしました。

ノゾエ 第2期生が第1期生と一つ違うところがあるとしたら、彼らは「アンサンブルデイズ」のハードルの高さを知っているということなんですよね。「すごいところにいかないといけないんだ」という危機感は持っているかもしれません。

ノゾエ征爾

ノゾエ征爾

杉原 なるほど。第1期生のときは何のことかもわからないうちに(「アンサンブルデイズ」の)稽古が始まって、「これはヤバい!」という感じになって稽古中に顔が変わっていったけれど、第2期生は現時点で、ある程度それが見えているわけですからね。

──初演時、CASの成果発表公演ということに留まらず、舞台人を含む多くの観客が作品に刺激され、共感し、SNSなどで熱っぽく感想を語っていました。演出家のお二人が感じる作品の面白さはどんなところにありますか?

杉原 松尾さんは、CASという俳優養成所の発表公演であることを枠組みから計算し、優しさと厳しさをもって、あの物語、あのセリフを彼らに語らせることで生まれるもの、伝えたいものを作品に込められたのだなと。かつ、現実から目を逸らさず、今俳優たちが置かれている状況、現代の社会、演劇界の環境に対してもきちんと“突き刺して”いる。それらがすごく良いバランスで、笑いの中にあるんです。台本を読んだだけでは気づけていなかったこともあり、実際に稽古を進めていく中で改めて「すごいホンだな」と思いました。

ノゾエ うん、すごいホンだと思います。

杉原 ですよね、CAS生にとって、すごいギフトです。

ノゾエ こんなこと書けないし、書いてくれないですよ。そこに松尾さんの覚悟というか、気概が全部詰まっている。これをCAS生たちに背負わせるのは彼らにとって何よりのいいことだと思うし、でも乱暴じゃないというか愛情を感じる。ト書きも丁寧で、「この条件でやればいいよ、やってみよう」という風に書かれています。演出家としても原点に立ち返らせてもらえる作品なので、CAS生たちと1回手ぶらになって、“ザ・アナログ”でやってみようと思います。

──ちなみに「アンサンブルデイズ」を経たCAS第1期生が、松尾さんが作・演出を手がける「クワイエットルームにようこそ The Musical」に出演し、奮闘していました。

ノゾエ 観ました! すごかったですよね。

杉原 よくやってましたよね! レッスンで学べることとああいう大きな舞台で、実際にある役割を担って学んでいけることは全然違うから、(CAS第1期生たちは)実践の段階に入ってるんだなと思いました。その松尾さんの思いを受け止めて、全部はうまくいってないかもしれないけど必死で食らいつきながら表現者として舞台に立っている彼らはすごくよかったなと思います。輝いていたし、でもまだここからとも思うし……って、これは彼らにも直接伝えてしまったけれど(笑)、これからもっと日々学んで、吸収して、進化できるように自己批評し続けていかないと。ぜひがんばってほしいなと思いました。

杉原邦生

杉原邦生

ノゾエ 僕は舞台のCAS生たちを観て「負けた!」って感じました。もう超えられたなと。

杉原 え!? ご自身をですか?

ノゾエ うん。僕も松尾さんの生徒だったから(編集注:ノゾエは1998年に俳優・劇作家・演出家の養成所で松尾が講師を務めるゼミを受講していた)。

杉原 そうか! ノゾエさんは(CAS生たちと)同目線な感じもあるんですね。

ノゾエ 松尾ゼミから巣立った者としてはね(笑)。ここまで(後進のために)やってくれる人はいないと思う。でも松尾さんは昔からそうだったとも言えて。僕らもゼミを受講して半年しか経ってなかった時期に、大人計画の本公演に何人か出してもらっていたし、松尾さんは面白いと思ったらキャリアに関係なく起用していく、その延長線上に今があるなと。

「クワイエットルームにようこそ」では、コクーン アクターズ スタジオで培ったものが間違ってなかったとCAS生たちが感じられたのは良かったと思います。THEATER MILANO-Zaのような大きな劇場を大きいと感じさせない上演だったし、そのうえで彼らがあれだけの厚みを持って作品に入れたので、「いいっすね、コクーン アクターズ スタジオ!」と思いましたね。

一同 あははは!

──第2期生にとっても、次の目標点が見えるような公演でしたね。

杉原 そうそう、具体的な目標が描けるかどうかって、すごく大事だと思います。ここに行きたい、こういうところに出たいという気持ちは大事。

ノゾエ 闇雲じゃなく、具体的に夢が描けるからね。

左から杉原邦生、ノゾエ征爾。

左から杉原邦生、ノゾエ征爾。

松尾さんの思いを受け止めつつ、自分たちも考え続ける

──コクーン アクターズ スタジオも2年目の終わりが見えてきて、4月には第3期生が入講します。まっさらだったコクーン アクターズ スタジオにも少しずつ色や方向性が見えてきたのではないかと思いますが、お二人はどんなふうに感じていますか?

杉原 カラーかどうかわからないのですが、入講者を選抜するオーディションでは講師陣の合議制で合格者を決めるので、自分だけなら選ばなかったかもしれないような子もいるんですね。そういう子たちと1年間、深く関われるのは僕自身、すごく大きいなと。普段、自分の作品のオーディションだと好みやその作品に必要な人を選んでしまいがちですが、自分とは価値観や考え方が違う人たちに出会えることがとても面白くて。演出家としてどうコミュニケーションをとっていけばいいのか、新しい発見を感じます。その一方で、大学などもそうですが、年数を経ることでシステマティックになっていったり、マンネリに陥る可能性はあり、そこは自分でも退屈にならないようにするにはどうしたらいいか、一講師としてどういうことができるのかを考えています。

ノゾエ 色は、一色じゃないほうがいいですよね。多色である必要があるとは思うけど、1年だけでは自分がやれることが限られているなとも感じます。僕の頃は、1年学んだらあとはもうそれぞれ、培ったものをもとに自分でやっていくしかなかったけれど、今はそれとはちょっと違って、だから松尾さんもCAS生たちに具体的な道筋を用意されていると思うんです。なので、巣立っていくCAS生たちの姿を見ながら、「自分はちゃんと役割を果たせているんだろうか」ということを感じて、思いがぐるぐるしちゃうところがあります。

左から杉原邦生、ノゾエ征爾。

左から杉原邦生、ノゾエ征爾。

──お二人にとってもコクーン アクターズ スタジオは刺激になっているのですね。最後に、第2期生の「アンサンブルデイズ」に向けて、お二人の思いを伺えますか? 杉原さんにはノゾエさんへのエールをお願いしたいです。

杉原 先輩にエールというのもおこがましいですが……ノゾエさんは俳優ではない一般の方たちと創作された経験もたくさんお持ちなのでおわかりだと思うのですが、プロの俳優だと、稽古のこの段階になるとこうなるだろう、ということがある程度予想できても、CAS生たちはそのギアがどこで入るのか読めないところがあって。でもそういう瞬間が絶対に来る人たちだと思うし、その瞬間がやっぱり喜びだったりするから、根気強く待っていただけたら。でも、そもそもノゾエさんなら絶対大丈夫だと思っていて。CAS生のオーディションではこれまで3回ともノゾエさんが演技審査の演出をされたのですが、10分くらいの作品を約20人相手に1時間足らずで演出していく様子を見て、本当にすごいなと思っていました。だから絶対に大丈夫! 期待しかないです。客席で観られるのをすごく楽しみにしてます!

ノゾエ ありがとうございます。はい、絶対大丈夫です(笑)。CAS生たちにはそれぞれパーソナルがすごくあるので、僕としては本当に彼らを生かし切りたい、それだけですね。かつ僕自身も演出家としての思いがもちろんあるので、たくさん遠回りしながら、作品としても跳ねさせつつ、バランスを失わないように作りたいです。

杉原 初演時、休憩中に知り合いの俳優たちが「(刺さりすぎて)ダメだよ、これは……」って声を詰まらせながら感想を伝えてきたんです(笑)。俳優だからこそ刺さるものがあるんだなと感動したし、もちろん俳優ではないお客様も大いに楽しんでくださっていたので、やっぱり松尾さんはすごいなとシンプルに思いました。「アンサンブルデイズ」を作品として観たいと思ってくれている方もたくさんいると思うので、今回はぜひ、劇場で観ていただきたいですね。

プロフィール

ノゾエ征爾(ノゾエセイジ)

1975年生まれ。脚本家、演出家、俳優。劇団はえぎわ主宰。1995年、大学在学中に演劇活動を始め、松尾スズキのゼミを経て1999年にはえぎわを始動。以降、全作品の作・演出を手がける。2012年に「◯◯トアル風景」にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2025年上演のはえぎわ25周年公演「幸子というんだほんとはね」が読売演劇賞演出家賞の上半期ベスト5に選出。故・蜷川幸雄の意を継ぎ、約1600人の高齢者が出演した大群集劇「1万人のゴールド・シアター2016」のさいたまスーパーアリーナでの上演や、松尾スズキ原作の絵本を舞台化した「気づかいルーシー」など劇団外でも活躍。近年の主な舞台に音楽劇「死んだかいぞく」(脚本・演出)、「ボクの穴、彼の穴。W」(翻案・脚本・演出)、「ロボット」(潤色・演出)、サンリオピューロランド35周年を記念した新作パレード「The Quest of Wonders Parade」(脚本)、「シッダールタ」(出演)など。6月に新国立劇場シリーズ企画いまここに──[3]「りんごが落ちる」(作)、フライングシアター自由劇場 バーレスク音楽劇「豪華客船タイクツニック号沈没」(串田和美と共同での作・演出・出演)が控える。

杉原邦生(スギハラクニオ)

1982年東京都生まれ、神奈川県茅ヶ崎市育ち。演出家、舞台美術家。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映像・舞台芸術学科卒、同大学院 芸術研究科 修士課程修了。2004年プロデュース公演カンパニー・KUNIOを立ち上げ。これまでに「エンジェルス・イン・アメリカ」「グリークス」、太田省吾「更地」などを上演。木ノ下歌舞伎には2006年から2017年まで参加し、「黒塚」「東海道四谷怪談―通し上演―」「勧進帳」などを演出。そのほか、近年の主な作品にCOCOON PRODUCTION 2022 / NINAGAWA MEMORIAL「パンドラの鐘」、ホリプロ「血の婚礼」、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「SHELL」、PARCO PRODUCE 2024「東京輪舞」、東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」、「モンスター」、コクーン アクターズ スタジオ第1期生発表公演「アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―」、2025年度全国共同制作オペラ「愛の妙薬」、サンリオピューロランド35周年を記念した新作パレード「The Quest of Wonders Parade」、「黒百合」など。2018年度第36回京都府文化賞奨励賞受賞。