コクーン アクターズ スタジオ第1期生の発表公演 新作ミュージカル「アンサンブルデイズ」ゲネプロレポート

Bunkamura シアターコクーン芸術監督の松尾スズキが主任を務める“若手を対象とする演劇人の養成所”コクーン アクターズ スタジオ(CAS)が2024年4月に始動。その第1期生の活動が2025年3月末で修了し、3月20日から23日までの4日間にわたって、発表公演「アンサンブルデイズ-彼らにも名前はある-」がシアターコクーンにて上演された。24名の第1期生は、配役の異なる朱雀ver.と玄武ver.にフル出演。舞台への熱い思いに乗せて、身につけたスキル、若さ、個性をいかんなく発揮した。

本特集では、初日に先がけ、3月19日に行われたゲネプロの様子を、舞台写真をたっぷりと交えてレポート。さらにCAS生たちが思いを寄せたメッセージボードを掲載しているほか、松尾ら講師陣にとっても手探りだったCAS第1期について、CAS常任講師でもある杉原邦生、「アンサンブルデイズ」を共に作り上げた演出助手の島田香澄、舞台監督の足立充章、そしてチーフ・プロデューサーの森田智子のメッセージを届ける。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 細野晋司

「アンサンブルデイズ-彼らにも名前はある-」ゲネプロレポート

初日前日、2バージョンのゲネプロを続けて実施

コクーン アクターズ スタジオ(CAS)第1期生による発表公演「アンサンブルデイズ-彼らにも名前はある-」が、3月20日から23日まで、休館中のBunkamura シアターコクーンにて上演された。CAS主任講師の松尾スズキが本作の作・音楽を手掛け、演出・美術を杉原邦生、音楽を杉田未央、振付を振付稼業 air:manが担当。出演者には生田有我、石川なつ美、石田とねり、伊島青、羽衣、大嵜逸生、岡田絆奈、川﨑志馬、小林宏樹、佐織祥伍、雜喉侑大、嶋村連太郎、芹なずな、高橋卓臣、田尻祥子、等々力静香、富田康聖、中野亜美、新関峻、原マリコ、宮城優都、村井友映、森本彩日、吉田ヤギと24名のコクーン アクターズ スタジオ 第1期生が名を連ねた。ここでは初日前日の19日に行われたゲネプロの様子をレポート。なおゲネプロは、朱雀ver.、玄武ver.の順で実施された。

「アンサンブルデイズ-彼らにも名前はある-」は、“発表公演”と言いつつ、途中休憩を含み約2時間40分という、中身の詰まった“本気の”ミュージカル作品だ。“本気”の度合いは、CAS第1期生24名が、配役の異なる朱雀ver.と玄武ver.にそれぞれフル出演していること、先述の通り松尾、杉原、杉田、振付稼業 air:manと第一線で活躍するクリエイターが多数関わっていることからも明らかで、この布陣をもってして、“ただの発表公演”で終わるはずはなかった。

1月に稽古場を訪れた際(参照:コクーン アクターズ スタジオ第1期生が挑む「アンサンブルデイズ」稽古場レポ&松尾スズキ×杉原邦生が語るCAS生との1年)は、プレッシャーや不安、自己顕示欲もあってか、全員肩に力が入った状態だったCAS生たち。あれから2カ月、果たして彼らはどんな変化を見せているのだろうか。ゲネプロ開始の30分前にバックヤードを訪れると、CAS生とスタッフたちが慌ただしく廊下を行き来しながら、緊張の面持ちで最後の準備に当たっていた。

客席にはCAS講師陣の顔もちらほら。そして開演10分前を切るとシアターコクーン舞台奥の搬入口が開いて、そぼ降る春雨の中を行き交う渋谷の人たちの姿が見えるようになった。……と、リュックを背負い、傘をさした若者がそのまま搬入口までやってきて、舞台上へ。その後もばらばらと搬入口から人が入ってきて、舞台中央に重ねられたビブスを1枚ずつ取って着ると、ストレッチや発声の準備を始めた。そこへ、

「オーディションのみなさん。それでは会場の方にご案内します」

というアナウンスが入り、芝居はいつの間にか始まっていた。

CAS生の本気とスタッフ陣の本気が舞台で一体化

物語の舞台は、ミュージカル版「リア王」のオーディション会場。気鋭の演出家・大岩(富田康聖 / 生田有我)の記憶に残るような“アンサンブルぶり”を見せようと、身振りで必死にアピールする青山景(伊島青 / 森本彩日)、「君の心はいらない」と言われてしまう虎井翔太(小林宏樹 / 吉田ヤギ)、人間以外の役を上手く演じられず、俳優はもう潮時かと思っている式夏子(等々力静香)の3人は、オーディションの帰り道で意気投合し、そのまま虎井の彼女でかつての人気女優・内間スミレ(中野亜美)が働く、ピアニスト・鴨志田春樹(高橋卓臣)がいるバーへ飲みに行くことに。途中、デリヘルの運転手もしているアンサンブル俳優仲間の焼海苔(佐織祥伍 / 大嵜逸生) に出会い、デリヘル嬢のミナミ(村井友映)も共にバーへ向かうと、店には2.5次元ミュージカルの俳優・半井アツシ(宮城優都)や2軍のアイドル・堀田ニコ(岡田絆奈 / 芹なずな)、親が有名歌手のタレント・御堂聖子(石田とねり / 原マリコ)といった先客がいた。そこへ、ミュージカル版「リア王」のプロデューサー・斉木皐月(田尻祥子)、その弟で劇場支配人の斉木畳太郎(川﨑志馬 / 新関峻)、演出家の大岩、そして振付師兼アンサンブルリーダーの小松ミドリ(石川なつ美 / 羽衣)たちもやってきて、オーディションの合否をその場でザクザクと決めていく。目の前で捨てられる自分の履歴書を、物陰からたまらない気持ちで見ている青山たち。しかし現実を目の当たりにして一念発起した彼らは、その店にいた面々で劇団を結成し、スミレ主演の新作ミュージカルを作ることになり……。

物語の前半では、アンサンブル俳優たちの日常が、シニカルな笑いを交えながら描かれる。ともすると“小さな話題”にも見えかねない若者たちの葛藤は、松尾と杉田の音楽、振付稼業 air:manの振付により鮮やかにショーアップされ、大きな物語に展開。また短時間にこれだけ多くの登場人物が現れるにも関わらず、それぞれのキャラクターやストーリーがしっかり頭に入ってくるのは、松尾脚本と杉原演出の巧みさがあってこそ。登場人物がさらりと言ったセリフや何気ない動きに、人柄やバックボーン、舞台への思いや社会の捉え方などが滲み出し、すべての登場人物が生き生きと立ち上がっていった。

そんなスタッフ陣の強力なバックアップを得て、CAS生たちは稽古のときよりもずっと大胆に、堂々とした演技を見せた。例えば劇団の軸となるアンサンブル俳優3人の関係性は、朱雀ver.では繊細さ、危なっかしさが残る3人、玄武ver.では朴訥とした、どこかおっとりした3人というように、それぞれ異なる印象を打ち出した。また、稽古では朱雀ver.と玄武ver.で異なるアプローチに挑戦していた演出家・大岩像は、タイプの違いはあれど“ちょっとイケスカない感じのキレッキレの演出家”という方向で統一。さらに振付師兼アンサンブルリーダーの小松像は、“流されやすい”人物 / “あえて流されることにしている”人物という風に両バージョンで異なる印象を残した。また全体を通して、朱雀ver.は歌とダンスに目を引くシーンが多く、玄武ver.は演技の見せ場が多かった。

登場人物の葛藤がCAS生たちに重なる

後半は、旗揚げ公演に向けて走り出した劇団トライアンドエラーの面々が、それぞれの現実に直面していく様が描かれる。

斉木に稽古場を貸してもらえることになり、旗揚げ公演が現実味を増す一方で、台本を担当する予定の虎井の父が亡くなり、台本がなかなか上がってこない。ゴッホを題材にしたミュージカルにする、という虎井のアイデアだけを頼りに劇団の面々で話し合いを続けていると、いつしか稽古場管理人で引きこもりの大くん(嶋村連太郎 / 雜喉侑大)も加わって、作品の構想がどんどん膨らんでいくのだった。

その影で、親の死、金、過去の因縁、妊娠、自尊心をくすぐるような誘惑……と、彼らを取り巻くさまざまな問題が、“夢”を現実に引き戻そうとする。夢と現実は表裏一体で、どちらかだけでは成り立たない。例えばそれは、敏腕プロデューサーでありながら若者の夢に理解を示す皐月と、アートやアーティストを基本的には解しない従姉妹・カエデを、田尻祥子(シングルキャスト)が2役で演じているところや、中野亜美演じるスミレ(シングルキャスト)が歌とダンスで華やかさを見せれば見せるほど、彼女が抱える現実の重さと闇が深まっていくところなどから感じることができる。

さまざまな選択を迫られる登場人物たちだが、最後はそれぞれの必然に従って、次の“better”な道を選んでいく。いわゆる大団円とはいかないが、それぞれにとっての“夢”に向けて新たな一歩を踏み出そうとする登場人物の姿にCAS生たちの姿が重なり、グッと心をつかまれるラストだった。

1年間のレッスンと発表公演を通じてCAS生が得たものは、具体的なスキルだけでなく、それ以上の何かであるはずだ。そして2025年4月、CASは第2期生を迎えて、新たな1年をスタートさせる。