ウエストランド井口と作家飯塚の「今月のお笑い」。

今月のお笑い 14本目 [バックナンバー]

ウエストランド井口と作家飯塚とかもめんたる・う大が語る「2023年6月のお笑い」

若手のオリジナリティ、審査員う大の葛藤、コント師の漫才、まーごめ問題、スーパーMC麒麟川島

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ウエストランド井口と構成作家・飯塚大悟が、毎月のお笑い界の出来事を勝手に振り返る連載「今月のお笑い」。今回は「UNDER5 AWARD 2023」決勝の審査員を務めたかもめんたる・う大を迎え、同大会の感想や“審査するキャラ”になっていった経緯を聞いた。お笑いを語ることに対して、芸人も作家も葛藤があるようで……。このほか飯塚が懸念している「まーごめ問題」や、松本人志の欠点をアドリブで言い放った佐久間宣行プロデューサーのすごさ、ボケにすら回る麒麟・川島の「M-1」会見MC技などについて語っている。

構成 / 狩野有理 ヘッダーイラスト / 清野とおる

※取材は6月30日に実施。

井口とう大の意外に長い付き合い

飯塚 「亀教」、めちゃくちゃ面白かったです。

編集部注:「キングオブコントの会2023」(TBS)で披露されたう大作のコント。ある家族がかつてのように仲のいい関係に戻るため、う大扮する教祖のもとを訪れる。池に身を投じた教祖は自分に亀の甲羅を着させろと指示。1人苦戦する父に母と息子が手を貸し、家族の絆が芽生える、というシュールな内容だった。

う大 ありがとうございます。今までやってきた仕事の中でも反響はかなり大きいほうでしたね。「キングオブコントの会」は1回目に呼ばれなくて、2回目の全員チャンピオンの回で初めて出られたんですよ。ここでうまくハマれば次もきっと呼んでもらえるだろうという思いで「墓参り」というコントをやって、今年また出られたのでよかったです。一緒になったディレクターさんが「前回よかったです、今年もまた面白いコントやりましょうね」と言ってくれたんですけど、台本の段階で「ちょっとよくわかんないっす」って困ってました(笑)。

──お二人とう大さんの関係を少し聞いてもいいですか?

飯塚 大学時代、落研の先輩のライブを観に行くといつもWAGEが出ていたので、一方的にはずっと知っている方でした。2012年に1回だけ、自分の主催の企画ライブにかもめんたるさんに出ていただいて。

う大 かもめんたるを早くから評価してくれていましたよね。

飯塚 そんなそんな。

う大 井口はいろんな段階の俺らを見てるよね。

井口 そうですね。「THE MANZAI」の認定漫才師になったことで早めに上の世代の人たちと同じライブに出させてもらっていたので、よくご一緒していました。かもめんたるさんが「キングオブコント」優勝する直前も直後も見ていますし、こんなヒゲの人になるまでの過程を見てきましたから(笑)。

左からウエストランド井口、かもめんたる・う大、飯塚大悟。

左からウエストランド井口、かもめんたる・う大、飯塚大悟。

う大 井口との思い出で言うと、「キングオブコント」で優勝する年(2013年)に「オンバト+」(NHK総合)の地方収録で一緒になったんだよ。俺らはオフエアだったんだけど、「オンバト」に落ちたことは逆にいい流れだ、みたいな話をした気がする。

井口 それ北海道じゃないですか? 確かパーマ大佐がオンエアになってめっちゃ文句言ってましたもん、僕が。なんでかもめんたるが落ちてパーマ大佐が通るんだ!って。僕らがオンエアだったから、かもめんたるさんに対して気まずくてめちゃくちゃ言ってた部分もありますけど(笑)。

飯塚 そんなに前から関係性があるってあんまり知られていないんじゃない? 悪口漫才師と演技派コント師、真逆の世界にいる2人って思われていそう。

井口 もっと遡れば、僕らがフリーのときに出ていた阿佐ヶ谷の商工会議所みたいなところでやっていたライブのゲストが劇団イワサキマキオ(2010年にかもめんたるに改名)でしたよ。僕らは当時ラブレターズしか芸人の知り合いがいなくて、そのときも一緒に出ていたラブレターズとだけ話していたんですけど、そこにかもめんたるさんが入ってきて。別のライブですでに知り合っていたみたいで、2組で仲良く話していたのがすごい疎外感というか、嫌でした。

──井口さん、嫌だったことをよく覚えていますね。

井口 怖かったんですよ。まだ僕らは始めたてで、かもめんたるさんなんて芸歴的にもすごい上だし。だって、WAGEですよ?

う大 WAGEをイジるなよ(笑)。

編集部注:早稲田大学のお笑いサークルから派生したお笑いユニットWAGEには、現相方の槙尾のほか小島よしおらが所属していた。2000年代前半のことだが、井口は「ウエストランドのぶちラジ!」で“いにしえのお笑いユニット”扱いしている。

井口 かもめんたるさんが去年「M-1」に出ていたじゃないですか。めちゃくちゃ異質でしたよ。唯一のおじさんというか、準決勝で僕より歳上がかもめんたるさんしかいなかったので。僕は昔から知り合いですけど、若手のみんなはあんまり人となりとかも知らないから、ビビっているわけですよ。急にこんな鬼才みたいな人が出てきて。準決勝の結果発表までの時間ってみんな仲いい同士でごはんを食べに行ったりするんですけど、う大さんは誰とも過ごさないであの辺を2、3時間散歩していたっていう。

──う大さん、お一人でタリーズにいらっしゃいませんでした?

う大 えっ? いました、いました。

──準決勝の取材のあとタリーズで作業していたら、1人で静かに過ごしている姿をお見かけしました。

う大 でも俺からしたら井口なんかは、受かったのが確定した人間がウキウキして、抑えられずにトークシャドーしてるって感じだったんですよ。誘われた人はそのいいターゲットにされてるだけで。

井口 そんなことないですよ(笑)。とにかく空気感の違いがすごかったです。「M-1」ツアーでも浮いていましたし。

う大 俺らの芸歴で出られるのは不思議なパターンだもんね。コンビとして組み直しだったから出られたけど。

井口 「M-1」ツアーで「THE SECOND」のネタやってましたよね。

う大 そうそう。あそこでしかかけられなかったから。

飯塚 「M-1」出て、そのあとすぐ「THE SECOND」出て、その年に審査員をやるっていう。

編集部注:う大は6月18日に行われた「UNDER5 AWARD 2023」で審査員を務めた。

井口 異質ですよね。現役で賞レースに出ているのに、審査員をやっても違和感がない。もともとすごかったですけど、ここ数年でとんでもないところに行っている感じがします。

「UNDER5」の感想

──「UNDER5 AWARD 2023」はどうでしたか?

飯塚 準決勝の審査に参加させてもらって、大阪と東京で全組のネタを見たんですけど、技術があることはもちろん、みんなオリジナリティがあって驚きました。自分たちの芸風をすでにちゃんと築いていて。それでも「M-1」とか「キングオブコント」には上がれていないっていうのはやっぱり層が厚いのか……。若いと不利な部分があるんですかね。

井口 漫才は言葉の重みとか、ツッコミの説得力とかが出ないのかもしれませんけど、コントはどうなんですか?

う大 演技力かなあ。それさえクリアできれば役に説得力は持たせられるはずだから、大きい賞レースでも行ける可能性はある気がするけど。

井口 コントって年齢によってやれる役が限られるから特に難しくないですか? だから5GAPさんくらいしか学生コントやってませんし。

飯塚 そういう芸風だもんね。「まだやってる」も含めて面白いから(笑)。

井口 若い人がやる部長役とか、ちょっと軽く見えちゃうところもあるじゃないですか。

う大 昔はそれも一般的だったけど、今は部長役をストレートにやる年代のコント師が現役でいっぱいいるからね。自分たちの身体が一番近いキャラクターを探すのが独自性につながるし、そこからズレてると古臭く見えるのかもしれない。

飯塚 「THE SECOND」は自分の人生をぶつける大会、人間の厚みみたいなものを武器にした戦いだったけど、「UNDER5」は先入観なしのネタの力だけで比べられる賞レースだなと思いました。

う大 ベテランとの違いで言うと、自分たちの方向性をまだ信じられているというか、諦めていない組が多かった気がします。それが、さっき飯塚さんが言っていたオリジナリティがあるということにつながってくるんでしょうけど。

──優勝は金魚番長でした。

井口 やっぱり金魚番長がよかったんですか?

う大 よかった。でも俺はキャプテンバイソンに入れたんだよね。

飯塚 一瞬でお客さんの心をつかむ空気感を持っていて圧倒されました。お笑いファンの人に聞いても「どこにいたの?」っていうような、本当にダークホースだったと思います。

う大 人力舎のコント師っていう感じだったなあ。面白かったし、たぶんつまんないネタは作らないんだろうなっていう安定感があった。

飯塚 金魚番長は完成度の高い漫才で優勝も納得ですが、ファイナルラウンドに残ったあくびぼうやは、この若い才能を見てみたくなるっていう未来への期待も評価に繋がった気がしました。そういう視点はほかの賞レースにはなかったんじゃないかなと思います。

──う大さんは7月9日(日)の「ABCお笑いグランプリ」の審査員にも決まっています。

飯塚 「ABC」の前日には「ツギクル芸人グランプリ」もあるし、その後は「M-1」や「キングオブコント」も控えているし、芸人さんたちは一番いいネタをどこで初出しするかすごく迷いますよね。

う大 でも、量産できる力も大事なのかなって思います。クオリティもそうだけど、量でも勝負できるっていうのは俺はいい気がする。まあ大変は大変ですよね。

飯塚 「ネタ数が多いほうが強い」って今までなかった戦いですよね。これだけ賞レースがあって、その動画もバンバン上がる時代ならではの戦いというか。

審査員芸人の葛藤とコント師がやる漫才

飯塚 漫才とコントが入り乱れている大会って単純に比べるのが難しいし、漫才師は漫才師に、コント師はコント師に厳しくなってしまうと思うんですけど、どうでしたか?

う大 確かにそれはありますよね。漫才のほうがたぶんわかってないことがあるんだろうなと思いながら見ていますけど、俺は完成度と単純な面白さで判断していると思います。漫才でもコントでも、テーマをぶち上げてからネタが進行していって、その最終的な到達地点と、そこにたどり着くまでの構成の美しさを「完成度」として見つつ、要所要所に関係なく面白がれるポイントがあれば加点していく。「完成度」というのは言い換えれば「理想形」ですね。彼らがそのネタでやりたいことにどれだけ及んでいるか、というところをわりと見ています。フラットに審査するということで言うと、自分も審査されてきた経験があるから気持ちがわかっちゃうし、できていないところも見えちゃうので、なるべく気をつけてはいますけど、もしかしたらほかの人にとっては欠点じゃない部分が俺の中でのけっこう大きなマイナスポイントになってしまうことはどうしてもありますね。

井口 でも、それはあっていいですよね。そのためにいろんな審査員がいるわけですから。

う大 だから、結局「好み」かもしれないですね。俺が重視するのは。面白さも好みだけけど、やっちゃいけないことも好みだから。

井口 審査員の話が来たときってすんなり引き受けたんですか?

う大 自分の芸人人生に見切りをつけてるっていうわけじゃないけど、いろんなジャンルでもあるじゃない。プロフェッショナルを目指していた人が講師になったり、広報をやったりっていうことが。俺はお笑いをがんばってやってきたし、ある程度才能もあるんだろうけど、世間の声とかお金とかで言えば、これくらいの評価しか受けてないんだって思うわけよ。ちょっと前の話だけどね。自分の望んでいた形になっていないなあと思ったときに、それでもお笑いには携わっていたいから、別の方法としてnoteにお笑いの寸評を書き始めたんだよ。寸評を書くっていうのは俺の中ではまったくやりたいことではなかったけど、それが意外と求められて。これが「求められる」ってことなのか!と思って、そういう感覚になるのが初めての体験だったんだよね。

──趣味というわけでもなかったんですね。

う大 ちょっと実験的な感覚もあるんですよ。この道がどこに通じているんだろう?みたいな。今までこんな芸人いなかったじゃないですか。初めてのことをやるのは性分的にも好きなので。

飯塚 僕も放送作家としてテレビでコントを書いたり、「めちゃイケ」みたいな芸人座組バラエティに参加するようなことはほとんどなかったんですけど、この連載みたいにお笑いを語る仕事とか、審査員とかの仕事が増えてきて。「裏方がお笑い語るなよ」って言われることもあるんですけど、そっちにニーズがあるなら、今後どうなるかわからないけどやってみようと思って引き受けてみている部分があるんです。う大さんとは世界が違いますけど、少し共感するお話でした。

──う大さんの寸評キャラが定着したのは「キングオブう大」(ABEMA「しくじり先生 俺みたいになるな!!」の企画)がきっかけですか?

う大 そうですね、審査員の仕事が来るようになったのは。でも芸人がお笑いのことを評価して語るっていうことに対して、やっぱりちょっと抵抗もあるんですよ。だから「M-1」とかに挑戦することでバランスを取ってるところはありますね。

井口 逆によく出るなあと思いましたけど。「キングオブコント」王者で、審査員もやっているのに、賞レースに挑戦するのはリスクしかないというか。

──成績によっては審査員としての地位が崩れる可能性もありそうです。

う大 大会に出て、決勝に出られずに終わったことによって呼ばれなくなる審査員の仕事はあると思いますけど、それはそれで構わないというか。お笑いに携わっていたいから審査員という形でやりながらも、それに対して「本当は?」みたいな自問自答はあるわけですよ。「だったらお前、賞レース出ろよ」って。まあ、自分に対する言い訳ですよね。あと単純に、面白いんです。漫才もコントも似ているから。羽生(善治)さんがチェスをやったりするじゃないですか。

井口 それも強いんですよね。

う大 そりゃやるだろうなって思うし、やってほしいし。漫才に挑戦するのはそんな感覚に近くて。世の中に自分が得意なものって、誰しもそんなにないと思うんですよ。せっかくコントが得意なんだから、漫才もやってみようっていう。

飯塚 コント師の人が漫才をやると、“漫才師を演じている”ことに違和感があったんですけど、かもめんたるの漫才はコントと地続きなんですよね。コント師の人が違和感なく「M-1」の舞台で受け入れられたレアなパターンだなと思って。コント師の漫才で一番しっくりきました。

う大 漫才では自然な会話劇を目指しているんですよ。限りなくお芝居として捉えているんですけど、それを自然にやるっていうのを大きなテーマにしていて。

井口 見た目もあって、変に説得力があるからでかいホールでかもめんたるさんが漫才するとセミナーみたいになってますよ(笑)。「水筒の目が開いてるんだよ」(※)って、最初は何言ってんだよって感じでお客さんも聞いているんですけど、だんだん「そうなんだ……」みたいになってきて。

※編集部注:かもめんたるが「THE SECOND」の「ノックアウトステージ16→8」で披露したネタ。

う大 漫才は、お客さんに求められていることをコントよりも気にしてるかなあ。こういうことを俺が言ったら面白いんだろうなとか、喜ばれるんだろうなとか。コントの場合は感覚としてぶっちぎっていきたいっていうのがあって、予想からずらしたくなる。漫才はまだ初心者だから、かもめんたるのネタにおける教科書の正解を探している感じですね。

井口 確かに、「M-1」では意外なことをやったら勝てないなって思いますね。キャラが知られていて、「何を言うんだろう」の予想を上回ったときにウケるというか。僕らで言うと、それの究極が去年だったと思うんですよ。逆に、ずらしたことを言ったときのガッカリ感ったらないです。

「THE SECOND」舞台裏のマシンガンズの変なテンション

──「THE SECOND」は次回があったら出ますか?

う大 出たいですけどね。出るならいいネタを作りたいけど、なかなかそんなに時間が割けないかなっていう気がしつつも、やっぱり挑戦することは好きなので。さすがに「キングオブコント」はもう違うかなって自分でも思い始めているんですよ。予選での求められてない感が本当にすごくて。劇団かもめんたるで出るとかならまだあるかなとは思うんですけど。

左からウエストランド井口、かもめんたる・う大、飯塚大悟。

左からウエストランド井口、かもめんたる・う大、飯塚大悟。

──芸歴制限はないにせよ、お客さんの「新しい人が見たい」という雰囲気を感じる?

井口 それはどうしてもそうなってきますよね。

う大 アスリートじゃないから選手としての寿命は無限かなと思っていたけど、意外と受け手側が定めてくるんですよね。

──出場するベテラン芸人さんが減っているから余計に目立つ感じはあります。

井口 そういう意味では「THE SECOND」はいいですよね。コンセプト的にもおじさんの大会なわけですから。

う大 そういえば、マシンガンズさんが「16→8」のときにすごいテンション高かったんですよ。ネタを終えてはけたら、滝沢さんがマイクを持ったていの手で「どうだった!?」って感じでインタビューしてきて、普通に(対戦相手の)囲碁将棋のネタを見たかったし、「どうだった」って聞かれても結果が出ていないから答えようがないし、この時点でちょっとイラッとして。で、「俺らもう負けるからさ、全然緊張してねえんだよ」みたいなことをずっと言ってたんですけど、こっちからしたら「知らねえよ!」って話じゃないですか。

井口 あはははは(笑)。

う大 「もう負けるからよ」とか言ってきて、「たぶん負けるでしょうよ」とも思ったし。「ちょっとは緊張したほうがいいだろ」とかも思いつつ、黙っていたわけですよ。で、帰りのタクシーで結果見たらマシンガンズさんが勝ってたから、俺だけ嫌な気持ちになりました。自分が嫌な人間にも思えてきたし。でもとにかくあの謎のテンションは理解できなかったんですよね。

井口 勝ったあとでもないですもんね。試合前なのにテンション高い。

──お祭り気分だったんでしょうか。

う大 そうかもしれません。「交通費払って来てるんだからガッツリぶつかって散れや!」とか思ってたら、勝ってたっていう(笑)。

佐久間さんやっぱすごい

飯塚 「まつもtoなかい」(フジテレビ)に佐久間宣行さんが出て、松本人志さんに「僕の弱点は?」と質問されていたのを見て、もし仮に自分に言われたらなんて答えるんだろう……ってゾッとしました。事前に打ち合わせもなく急にその場で聞かれるって、めっちゃ難しくないですか?

井口 まだ芸人だったらどうにか逃げ道ありそうですけど、制作者側の人だと本当のことを言わなきゃいけない感じもありますよね。

う大 なんて答えていたんですか?

飯塚 松本さんは「ドキュメンタル」(Prime Video)とか「すべらない話」(フジテレビ)とか耐用年数の長い企画のフォーマットをたくさん作ってきて素晴らしいけど、「VISUALBUM」のような世界観を世の中に出すブレーンが今いない、と。それを聞いた松本さんが「売れる! この人すごい!」って言っていて。欠点を言っているようで褒めてもいるし、「ブレーンがいない」ってテレビプロデューサーである佐久間さん自身の仕事にも関係しそうなことにまで言及していたのがすごいなと思いましたね。

井口 その一方で、爆笑問題のYouTubeではただ単に口ゲンカしてるだけでしたけど(笑)。

飯塚 よく考えたら爆笑問題の欠点も言ってたね。「お前と仕事したい若手のディレクターなんかいねえよ!」みたいな(笑)。

井口 こっちではキツめに言ってましたね。松本さんとの違いが出てました。

飯塚 オリエンタルラジオの中田さんにアドバイスを求められて、「相方を大切にできない人と仕事しようと思う人はいない」って返したのがすごい本人に響いた、みたいなことも「あちこちオードリー」(テレビ東京)で語られていたし、今後芸人の弱点を言わなきゃいけない仕事が増えて大変そう(笑)。

逆ニッチェ問題の類似事案・まーごめ問題

飯塚 本当に他愛もない話題なんですけど、「ぽかぽか」(フジテレビ)にマルシアさんがゲスト出演したときに「まーごめ」の話題が出て、ファンの間で「ついにバレた!」とちょっとした騒ぎになっていたんですよ。

う大 ママタルトはその場にはいなかったんですか?

飯塚 急いで生放送に行こうとしたけど間に合わなかったらしく、自分のYouTubeで弁明動画を上げていました。これ、逆ニッチェ問題(※)にも通ずるんですけど、マルシアさんの立場からしたらすごく対応が難しいんじゃないかと思っていて。もともとはママタルトが今ほど世間に知られていないときに勝手にやっていたことで、その状態が本人もファンも一番楽しかったはずなんですけど、今やママタルトが売れて、変な話、マルシアさんより影響力がある存在になっている。そんな中で言い続けるのはちょっと意味合いが変わってくるというか。マルシアさんはマルシアさんで、きっと今までも「まーごめって知ってる?」と聞かれていると思うし、街でも「まーごめ」って声をかけられたこともあると思うんです。でも本人に知られてない状態が楽しいから、自分から話題に出すのも野暮じゃないですか。

※編集部注:ニッチェが真空ジェシカのボケ「逆ニッチェ」に触れたほうがいいのか、ずっとスルーしたままがいいのか悩んだ末、「自分たちがもっと売れなきゃダメだ」という結論になった、というのが“逆ニッチェ問題”。「今月のお笑い」1本目を要参照。

──「ぽかぽか」では結局、「まーごめ」の説明を受けた上で「ママタルト出てこい」と冗談ぽく話していました。

飯塚 「マルシアがママタルトにキレてて空気読めてない」って言ってるファンも見かけちゃって、そういうのは違うだろうと。

井口 それはよくないなあ。

飯塚 一部のファンが「マルシアさんにまーごめ言いに行かなきゃですね」「まーごめチャンスだ」みたいなノリになっているのも、なんだか複雑な気持ちになりました。

井口 だから、いつも僕が言ってるやつですよ。お前らが考えてる100倍こっちは考えてるんだから、口を出してくるな! 本当みんな皆目見当違いなんだから。

う大 そもそもマルシアさんは言われたほうだから、それはなんにも言えないよって感じだろうね。「まーごめ」って音が愉快なギャグで、コマネチみたいなものでしょ?

井口 確かに。コマネチさん(ルーマニアの女子体操選手)がいるわけですもんね。でもある種、うらやましいですよ。あんなのあったほうがいいんだから。

飯塚 井口くんの「皆目見当違い」はあんまり流行ってないもんね。

井口 あ、でもそういえば、誰かが何かの予選で言ってたって聞きましたよ。

飯塚 とある賞レースの予選でネタ時間2分まるごと佐久間さんについて話すネタの人もいたよ。佐久間宣行はタレントか、裏方かみたいな。ウエストランドの影響なのかな。

井口 そのパターンはさすがに予想できませんでしたね(笑)。

う大 それってウエストランドの真似なのかな? 誰かの名前を叫ぶとか、毒舌とか、そっちを真似しない? すごいハードコアなスタイル。真似する人の精神とは思えない力強さを感じるけど(笑)。

Twitterで語られるのは「いい人かどうか」だけ

飯塚 作家として携わらせてもらったみなみかわさんの単独ライブ「ドクン」が終わりました。シブゲキで、約240席昼夜それぞれ埋まってましたけど、7~8割くらいは男の人でしたね。みなみかわさんって久しく単独ライブをやっていないし、今みたいな売れ方をしてから自分のファンを初めて見る機会だったみたいで。

う大 初顔合わせだ。

飯塚 僕も客席で見せてもらったんですけど、お笑いファンだったらウケそうなワードがあんまり刺さってない代わりに、芸能ゴシップ系のネタではすごくウケてたり、普段のお笑いライブとはちょっと違う特殊な空間でした。

う大 そうなんだ。俺てっきり、お笑いファンの男の人が来るのかなって思ってた。

飯塚 感想とかも全然つぶやかれていないんですよ。いわゆるお笑いライブのお客さんとはまた別の人たちでした。ちなみにみなみかわさん、単独ライブの前日まで「水曜日のダウンタウン」(TBS)のすっごい過酷なロケをやってから本番を迎えているので、今のうちに配信を見ておくとあとで答え合わせできると思います(笑)。

井口 みなみかわさんとか、お見送り芸人しんいちさんとかと収録で一緒になると、「そこまで言えるんだ」っていうところまで言うから本当にすごいですよ。普通はどこかでやっぱりブレーキかけちゃうから、そこを担える人って限られていますよね。僕最近気づいたんですけど、Twitterってよーく見たら、もういい人かどうかしかつぶやかれてないんですよ。どれだけウケても「井口面白かった」なんて1つもない! 「井口嫌な奴だ」か「井口意外と優しかった」、それしかないから。

う大 それはあるね。で、全然別にいい人じゃないんだよね。

井口 そうなんですよ! ともしげがいい人なわけないんだから!

飯塚 昨日の「水曜日のダウンタウン」でともしげさん、好感度爆上がりしてる。今めちゃくちゃエゴサーチしているだろうね。

編集部注:「相方が倒れて予断を許さない状況でも時間が経てば腹は減るし眠くもなる説」で、検証された4人中唯一、腹も減らないし眠くもならなず、芝との思い出の写真を眺めながら涙を流していた。

井口 今一番ともしげさんがウキウキしてると思うと腹立ちますね(笑)。みんな、あんなにテレビがオワコンとか言うくせにテレビで見たことを簡単に信じるんだよなあ。ともしげさんといえば、スタンダップコーギーが解散しますって奥村くんから連絡が来て、その日の昼過ぎくらいにともしげさんが「今日飲む?」って言ってきたんですよ。解散が好きなんです、ともしげさんって。で、奥村くんとともしげさんと僕で飲んでる写真を撮ってアップしようとしていたんですけど、もうこれ解散しそうだろ! ライブめっちゃキャンセルになってこの写真上げてたら。

──ともしげさん、マセキのライブで楽しげにスタンダップコーギーの話をしていましたよ。

井口 そんな奴がいい人なわけないだろ!

飯塚 ともしげさんの好感度が上がっては井口くんが下げるっていう(笑)。

井口 奥村くんは、またコンビ組みたいとは言ってましたけどね。今いろいろ解散している人がいるから、まあまあ名の知れた人同士が組むってこともありそうですけど。

飯塚 元コウテイのシモタさんと元なにわスワンキーズの前田さんがシモリュウってコンビを組んでいて、「最強のコンビだ」みたいになってた。ハードルが上がっていて大変でしょうけど、今後の活躍が楽しみなコンビ。

「M-1」会見、麒麟・川島のスーパーMC

──「M-1グランプリ2023」の開催記者会見にウエストランドが出席しました。

飯塚 配信で見ていました。今までの「M-1」の会見って、川島さんがどれだけ若手にツッコんでくれるかっていう“川島ツッコミショー”だったけど、今回、井口くんがいるから川島さんもちょっとボケに回っていたよね。

井口 ななまがりさんにノリノリでパラレルワールドのボケを振ってました(笑)。

飯塚 それは井口くんが川島さんに信頼されているからだよね。チームワークができてるなと思った。

井口 マイク通さずに横でブツブツ言ってたらちゃんと川島さんが「何?」って聞いてくれて、じゃあいろいろ言ってもいいんだなと思ってツッコんでました。

飯塚 チャンピオンを立てたのかもしれないね。自分が全部回しちゃうと井口くんの活躍の場が少なくなっちゃうから、ツッコミしろを作ってくれた。スーパーMCだと思う。

井口 けっこう心配なメンバーでしたけど、川島さんがいる安心感はとんでもなかったです。

──会見には「漫才工房」メンバーのママタルトもいました。

井口 無理やり僕らへの感謝を言ってましたけど(笑)。「ABCお笑いグランプリ」にはストレッチーズ、「ツギクル芸人」にはひつじねいり、さすらいラビー、ママタルトが残っているんですよ。ストレッチーズは前回の「ツギクル」優勝者でもありますから、「漫才工房」連覇もありえるかもしれない。「ツギクル」には三日月マンハッタンも残っているので、何が「ツギクル」なんだよと思いますけど(笑)。

う大 「THE SECOND」にも出て、「ツギクル」にも出ているんだ。

飯塚 本人が言っていましたけど、「THE SECOND」がファーストチャンスで、「ツギクル」がセカンドチャンスらしいです(笑)。

ヘッドライト町田の新タイプの芸人ドキュメント

飯塚 全然ニュースとかではないんですけど、「あれみた?」(MBS)でヘッドライト町田さんのドキュメントをやっていて。芸歴25年の売れない芸人の苦労みたいな話なのかなと思っていたんですけど、町田さんがバラエティ番組を全部録画して全部見るっていう生活をしているという内容で。なんか……見たことないタイプの芸人ドキュメントでした。

井口 楽しく過ごしているっていうドキュメント?

飯塚 でも、「ネタでがんばりたいですけどね」とかも言っていて。

う大 研究しているってことですか?

飯塚 そういうことだと思います。そっち方面で何か仕事になるんじゃないかなと思いました。

──あ、「今月のお笑い」のゲストに呼びますか?

井口 いきなり気まずいでしょ!

飯塚 初対面すぎて(笑)。1回ナタリーさんで取材してください。

──このドキュメントを観て、飯塚さんはどういう気持ちになったんですか?

飯塚 ただ「すごいな」っていう(笑)。YouTubeに上がっているので、ぜひ見てみてほしいです。

作品のみで評価されるのは稀

──劇団かもめんたるのオムニバス公演「S.ストーリーズVol.2」が8月に上演されますね。

井口 どういう公演なんですか?

う大 演劇とコントの間みたいな感じ。お笑いファンの人で、ちょっとまだ得体が知れなくて劇団かもめんたるの公演に行けてないよっていう人は、かもめんたるのユニットコントだと思って来てもらえたらうれしいです。7、8ネタくらいやると思います。

井口 (フライヤーを手に取る)

う大 まさにお前がイジってる“フライヤー”だよ。チケット5000円だし。

──あ、でも裏面のキャスト紹介はイラストですよ。

井口 顔写真じゃないじゃないですか! だいたい知らねー奴の顔が並んでますからね。これはいいですね。

劇団かもめんたる「S.ストーリーズ公演『S.ストーリーズVol.2』」チラシ(裏面)

劇団かもめんたる「S.ストーリーズ公演『S.ストーリーズVol.2』」チラシ(裏面)

飯塚 井口くんが「フライヤー」って本当に言ってないかTwitterで調べたんですけど、1回言ってました。

井口 いいんですよ、そんなの調べなくて(笑)。

──この公演には出演されませんが、「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ)の“加藤の粉雪”で話題になった宮下雄也さんが劇団かもめんたるに加入したんですよね。どんな経緯だったんですか?

う大 宮下さんは、僕が2018年に「マイデリケートゾーン」というマンガ単行本を出した直後にTwitterでつぶやいてくれて、劇団かもめんたる公演を観に来てくれたんです。「ぜひ出してください」と言ってくれて、その後の公演に何度か参加してもらっていました。よしもとの役者さんで、コントも上手なんですよ。フットボールアワー岩尾さんともユニットコントをやっていたりして。今期ドラマだと「だが、情熱がある」(日本テレビ)にもちょこっと出ていました。

飯塚 「だが、情熱はある」観ました?

う大 最後までは観てないんです。

飯塚 ドラマ自体ももちろん面白いんですが、完コピした漫才のフルバージョンの動画がYouTubeにアップされたり、山里さん若林さんがそれぞれラジオやSNSで感想を語ったり、最終話はドラマ化決定したあとの話まで描かれたりしていて、そういう現象も全部含めて1つの作品になっている感じで、斬新なドラマでした。

井口 劇団つながりで、う大さん的にはダウ90000はどう見ているんですか?

う大 ダウ90000は、若いよね。もちろんいい意味で。見ていると、俺がおじさんになったんだなって思い知らされる。若くして評価される人が本当の天才なんだろうね。

飯塚 今って、作品だけで話題になることって難しいですよね。 東京03さんですら、井口くんじゃないけど「3人仲がいい」とかも含めて好きな人が多いと思うし、ダウ90000もそれぞれのキャラクターを出して愛されているじゃないですか。

井口 う大さんだけですよ、本当に作品だけで評価されているのは。全然仲もよくなさそうだし(笑)。

う大 あはははは(笑)。それはそうかもね。

井口 僕らですらそればっかりですもん。「同級生芸人」とかで呼ばれますし。

あのちゃんに行列できてる

──そろそろ終わりの時間ですが、何か言い残したことはありますか?

井口 あ、あのちゃんが前回の記事を読んでたっていう。

──え!?

井口 知りませんでした? インスタのストーリーに載せてくれてましたよ。

飯塚 それはちゃんと言っておこう。「あのちゃんも読んでるらしい」って。

井口 毎回あのちゃんの話題を出して、「あのちゃんが読んでるでおなじみの連載」ってことにしていきましょう。

飯塚 「あののオールナイトニッポン0(ZERO)」(ニッポン放送)に山里さんがゲストで来た回が面白かった。あえて雑に扱ってくるあのちゃんに対して、山里さんが見事に全部返していくっていう。今、あのちゃんに芸人の行列ができてる気がする。井口くんは何番目に並べているのかな。

井口 そうなんですよ。だからあんまり歯並び悪い人をあのちゃんに教えないでほしいです。歯並び悪い枠では1番目に並びたいので。

左からウエストランド井口、かもめんたる・う大、飯塚大悟。

左からウエストランド井口、かもめんたる・う大、飯塚大悟。

岩崎う大(イワサキウダイ)

1978年9月18日生まれ、東京都出身。早稲田大学のお笑いサークルで出会ったメンバーで5人組コントグループWAGEを結成。解散後、槙尾ユウスケ(マキオユウスケ)と共に劇団イワサキマキオ(現・かもめんたる)として活動を開始し、2013年に「キングオブコント」で優勝した。2015年に劇団かもめんたるを旗揚げ。同劇団の作品で岸田國士戯曲賞に2度ノミネートされている。8月12日(土)から20日(日)まで東京・座・高円寺1でオムニバス公演「S.ストーリーズ公演『S.ストーリーズVol.2』」を上演する。サンミュージックプロダクション所属。

井口浩之(イグチヒロユキ)

1983年5月6日生まれ、岡山県出身。2008年、河本太(コウモトフトシ)とウエストランドを結成。2013年4月に「笑っていいとも!」(フジテレビ)のレギュラーに抜擢され、最終回まで不定期で出演した。2012年、2013年に「THE MANZAI」認定漫才師、2020年に「M-1グランプリ」ファイナリストとなる。2022年、「M-1グランプリ」優勝! チャンピオンとして大忙しの日々を送っている。ラジオ形式の番組「ウエストランドのぶちラジ!」をYouTubeなどで配信中。タイタン所属。

飯塚大悟(イイヅカダイゴ)

1982年4月13日生まれ、新潟県出身。テレビ、ラジオの構成作家。現在の担当番組は「ヒルナンデス!」(日本テレビ)、「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」(テレビ朝日)、「水曜日のダウンタウン」(TBS)、「ヤギと大悟」(テレビ東京)、「トークィーンズ」(フジテレビ)、「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)など。書籍「深解釈 オールナイトニッポン~10人の放送作家から読み解くラジオの今~」(扶桑社)。

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