ACIDMAN、世界平和を願い愛を歌った7年ぶり日本武道館

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今年結成28周年を迎えるACIDMANが、全国ツアー「This is ACIDMAN 2025」のファイナル公演を10月26日に東京・日本武道館で開催した。

ACIDMANとは?

1997年に結成された、大木伸夫(Vo, G)、佐藤雅俊(B)、浦山一悟(Dr)の3人からなるロックバンド。2002年に限定シングル3作(「造花が笑う」「アレグロ」「赤橙」)を連続リリースし、2002年10月にアルバム「創」でメジャーデビュー。2007年7月に初の日本武道館公演を開催し、2009年のアルバム「A beautiful greed」発表後には、2度目の日本武道館単独公演を実施する。生命や宇宙をテーマにした独特の詞世界、静と動の両面を表現する幅広いサウンド、映像とリンクした演出を盛り込んだライブなどが高い評価を得ている。2013年6月、自らのマネジメントオフィス「FREESTAR」を設立。2016年10月には結成20周年を記念したベストアルバム「ACIDMAN 20th Anniversary Fan's Best Selection Album "Your Song"」を発売、同年11月より初のツーマンツアーを行った。2017年11月には地元・埼玉県のさいたまスーパーアリーナにて、初の主催フェス「SAITAMA ROCK FESTIVAL "SAI"」を開催。2021年10月に最新アルバム「INNOCENCE」を発表し、同年10月には結成25年とメジャーデビュー20年を記念したアニバーサリーライブ「This is ACIDMAN」を行った。翌11月には結成25周年イヤーの締めくくりとして、埼玉・さいたまスーパーアリーナにて主催フェス「SAITAMA ROCK FESTIVAL "SAI" 2022」を5年ぶりに開催した。

大木伸夫(Vo, G)(Photo by Taka"nekoze photo”)

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“7が3つそろった”武道館ワンマン

「This is ACIDMAN」は、彼らが2021年から行っているワンマンライブの名称。シングル曲や、ミュージックビデオを発表している曲を中心に構成したセットリストを事前に公開するという、ユニークなスタイルを貫いてきた。しかも今回は、各公演のセットリストをがらりと変え、そのうちの1曲は会場ごとに募集した「ライブで聴きたい曲」の投票結果を反映させるという、これまでにない試みを盛り込んでいる。バンドにとって日本武道館での単独公演は7年ぶり7回目。そして「令和7年に行う」ライブでもあり、「7が3つそろった」メモリアルな1日となった。

「This is ACIDMAN 2025」の様子。(Photo by Taka"nekoze photo”)

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冒頭からクライマックスムード

ドラムセットとギター、ベース、そしてアンプ類だけが設置されたシンプルなステージ。客電が落ち、大木伸夫(Vo, G)、佐藤雅俊(B)、浦山一悟(Dr)が姿を現すと、超満員の会場から拍手と歓声が鳴り響く。するといきなり浦山が激しくドラムを叩き出し、ステージ背後の巨大なLEDスクリーンに映し出される幾何学的な映像と、飛び交う無数のレーザー、そして舞い散る紙吹雪によって冒頭から会場の空気が一気にクライマックスへと上り詰める。演奏されたのは、4枚目のアルバム「and world」の収録曲「world symphony」。シンコペーションの効いた疾走感あふれるリズムの上で、テンションノートをたっぷりと含んだコードを大木が赤いリッケンバッカーギターでかき鳴らし、聴く者の心をざわざわとかき立てる。

佐藤雅俊(B)(撮影:ニシムラカツキ)

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浦山一悟(Dr)(撮影:ニシムラカツキ)

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「こんばんは、ACIDMANです。日本武道館へようこそ。最高の1日にしよう」。そう大木が叫び、間髪いれずにバンドは「夜のために」をプレイ。鋭利なギターのアルペジオに導かれ、力強い四つ打ちキックが繰り出されると、客席からはハンドクラップが自然と発生する。静と動を行き来するダイナミックなアンサンブルから、なだれ込むように「FREE STAR」へ。宙を切り裂くようなギターのカッティングに、佐藤のメロディックなベースラインが絡み付く。ステージに置かれた8つのミラーボールが反射する幾筋もの光と、バックスクリーンの幻想的な映像によって、まるで深海か宇宙へと放り出されたような感覚に陥った。

大木伸夫(Vo, G)(Photo by Victor Nomoto - Metacraft )

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「7年ぶり、7度目の日本武道館へようこそ!」と、ここで改めて大木が挨拶。「7年も月日が経って、またこの最高の場所でやれるなんて思ってもいなかったからすごくうれしいし、やっぱり壮観ですね。めちゃくちゃ気持ちいいです。ありがとう。ライブはみんなで作るもの。最高の1日にしましょう。最後までよろしくお願いします」と大木が呼びかけると会場は温かい歓声で埋め尽くされた。

8人編成のストリングスセクションが登場

浦山が「ワン、ツー、スリー、フォー!」と叫び、6枚目のアルバム「LIFE」から「式日」へ。抑揚のあるメロディを大木が伸びやかに歌い上げる。続く「スロウレイン」は、ディレイの効いた鋭利なギターのアルペジオが楽曲を支配。音の隙間を生かしたシンプルかつミニマルなアレンジが、三位一体のグルーヴをより際立たせる。「白と黒」では一転、赤を基調とした照明の下で、ラテンジャズのフレイバーをちりばめたスリリングかつ妖艶なアンサンブルを展開。楽曲ごとに表情を変えながらも、一貫しているのは“生きることそのもの”を音に変える姿勢だ。「リピート」では美しい木々を投影した映像をバックに、怒涛のウォールオブサウンドが押し寄せオーディエンスを別世界へと誘っていく。

「ライブへ行くと、よくミュージシャンの人が『後ろの席まで見えてるぜ』とか言うじゃないですか。あれ嘘なんですよね」と、MCでいきなりぶちまける大木。「でも今日は見える。本当にね、後ろのほうまで見えてるから」とオチを付け、会場は笑いの渦に包まれた。森羅万象に思いを馳せる歌詞世界や、ストイックで強靭なバンドサウンドからは想像もつかないほどユーモラスな彼の語りが聞けるのも、ACIDMANのライブを見る「楽しみ」の1つといえよう。

「This is ACIDMAN 2025」の様子。(Photo by Taka"nekoze photo”)

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「あ、先に言っておくよ。今日はたっぷりやるから。7年ぶりだと思いがあふれて、しゃべることもやりたい曲もたくさんある」。大木がそう言ってオーディエンスを沸かせたあと、3人が演奏したのは「sonet」。「あの日君が流したその涙は 遠い国に降り注ぐ雨になるだろう そして綺麗な花を咲かせるだろう 僕はそれを奇跡と呼ぶんだ」と歌うこの曲は、バタフライエフェクト現象をテーマにした壮大な楽曲だ。間奏で突然スクリーンが上がり、背後から8人編成のストリングスセクションが登場。サプライズにオーディエンスが目を見張る中、鳴り響くストリングスがアンサンブルの荘厳さをさらに引き立てる。

そして、ここからはその“四家卯大ストリングス”を加えてのバラードパート。大木がアコギを抱えて「季節の灯」を優しく歌い上げ、大木のみを捉え続けたモノクロの映像をバックに「愛を両手に」を演奏。さらに、満点の星空をバックに「世界が終わる夜」へ突入していく。「世界が終わる事なんて些細な事さ 小さな僕ら生まれて消えるだけ」と歌うこの曲では、大木の死生観を壮大なサウンドスケープとともに描き出す。エンディングではバンドサウンドとストリングセクションが、巨大なうねりとなって武道館を包み込んだ。

大木伸夫(Vo, G)(Photo by Taka"nekoze photo”)

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「This is ACIDMAN 2025」の様子。(Photo by Taka"nekoze photo”)

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「もっと深くいってもいいですか?」と大木が語りかけ、今は亡き坂本龍一がピアノで参加したインストゥルメンタル曲「風追い人(前編)」へ。会場ごとにセットリストを大きく変えた今ツアーで、この曲は必ず演奏されてきた。コンテンポラリーダンサーの森山開次、バレエダンサーの松根花子、そして俳優の田村泰二郎が出演するMVの映像世界と、3人だけで紡ぎ出されるアンサンブルがシンクロし、死と再生を繰り返す輪廻の只中にいるような感覚に。続く「廻る、巡る、その核へ」も輪廻転生をテーマにした楽曲で、絵本のようなファンタジックな映像と静謐なアンサンブルが溶け合い、すべてを焼き尽くすような怒涛のエンディングを迎えると、会場からは割れんばかりの拍手が沸き起こった。

ファイナル公演のリクエスト曲は

ライブ後半の幕開けは、ファンによるリクエスト曲。ファイナル公演で選ばれたのは「ファンファーレ」で、ハチロクのリズムとホーンサウンドが幸福感をもたらす。「ここからもう1歩、上に行きたいと思います。武道館、もう1歩上に行けますか?」と大木が呼びかけ、「輝けるもの」を繰り出すとオーディエンスは拳を突き上げながら「オイオイ」というコールで応戦。ベースの歪んだリフが放たれた瞬間、どっと歓声が上がった「造花が笑う」でラストスパートをかけ、「武道館、思いっきり叫ぶぞ!」と大木が合図し全員でシャウトした「ある証明」を経て披露されたのは、スペイン語で「心」や「魂」「愛」を意味するタイトルを冠した「ALMA」。宇宙と音楽をつなぐような、大木にとってもっとも大切な曲の1つで本編を締めくくった。

大木伸夫(Vo, G)(Photo by Taka"nekoze photo”)

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これからも一緒に生きていきましょう

鳴り止まぬアンコールに応え、再び登場した3人。四家卯大ストリングスに加え、ゴスペルシンガーのオリヴィア・バレルと植松陽介、そしてTokyo Embassy Choirをステージに迎えて大編成で新曲「feel every love」を披露する。「愛を告げにゆこう」「ひとつになろう」と繰り返し歌うこの曲は、愛を通じて世界平和を願うゴスペルナンバーだ。

「This is ACIDMAN 2025」の様子。(Photo by Victor Nomoto - Metacraft )

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「宇宙のことを歌ったり、バラードをやったり激しい曲をやったり、忙しいバンドだけど……こんなバンド、ほかにいないでしょ?」と、メンバーやスタッフ、ファンに感謝の言葉を述べたあと、大木はそう話し出す。「1バンドくらいいてもいいじゃない、こういう思想強めのバンドがさ。俺たちはまだまだ音楽をやっていくし、もっともっと上に行きたいと思ってます。もっともっとたくさんの人にこの思いを伝えたいと思っているし、平和を願っています。これからもついてきてください。1分、1秒を大事に、抱き締めるように、これからも一緒に生きていきましょう!」と叫び、2002年発売のメジャーデビューアルバム「創」から「Your Song」を演奏し、この日のライブは幕を下ろした。

思想と音楽を貫きながら、希望を掲げ続ける──ACIDMANが28年を経てもなお、信じるものをまっすぐに歌い続けている理由を、この夜の武道館が証明していた。

セットリスト

「This is ACIDMAN 2025」2025年10月26日 日本武道館

00. 最後の国
01. world symphony
02. 夜のために
03. FREE STAR
04. 式日
05. スロウレイン
06. 白と黒
07. リピート
08. sonet
09. 季節の灯
10. 愛を両手に
11. 世界が終わる夜
12. 風追い人(前編)
13. 廻る、巡る、その核へ
14. ファンファーレ
15. 輝けるもの
16. 造花が笑う
17. ある証明
18. ALMA
<アンコール>
19. feel every love
20. Your Song

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読者の反応

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tonia @tonia_ysmgo

> 今は亡き坂本龍一がピアノで参加したインストゥルメンタル曲「風追い人(前編)」へ。会場ごとにセットリストを大きく変えた今ツアーで、この曲は必ず演奏されてきた。

【ライブレポート】ACIDMAN、世界平和を願い愛を歌った7年ぶり日本武道館https://t.co/2nDSGmU60k

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