映画「楓」製作の舞台裏とそれを支えた“Sandisk”製品の魅力とは | 福士蒼汰、行定勲、井手陽子、中川正子インタビュー (2/2)

プロデューサー・井手陽子 インタビュー

“美しい変化”は、生きることそのものを表す言葉

──まずはスピッツの楽曲「楓」を映画化しようと思ったきっかけを教えてください。

「楓」は、人生を通して聴き続けてきた楽曲の1つです。決して色褪せることなく、多くの人に長く愛され続けている名曲だと思います。歳を重ね、別れを経験するたびに幾度となく聴いてきましたが、常に自分を未来へと導いてくれました。そのときの自分の状況、状態によって印象は変化しますが、美しいメロディと深い歌詞が織りなす世界からは、いつもさまざまなことを考えさせられる。いつしか、この曲からインスパイアされた物語を映画化することで、この楽曲のように、誰かの心に寄り添うことができる映画を作れればと思っていました。

井手陽子

井手陽子

──井手さんは、以前コメントにて「楓」の花言葉について話されていますが、物語のモチーフとして意識されたのでしょうか?

花言葉よりも先に、物語の構想は生まれました。脚本を作っていく過程で、“楓”の花言葉を調べたら、さまざまな意味を持っていることを知ったんです。「大切な思い出」「調和」「遠慮」「美しい変化」、偶然にも私たちの物語を象徴する言葉だと思いました。花言葉をモチーフとして物語を作ったということではありませんが、オリジナルの曲から、私たちがインスパイアされて生まれた1つの物語が、自然とこれらの言葉とシンクロしたという感覚です。その中でも、「美しい変化」は、生きることそのものを表す言葉でもあると感じました。人は生きる間に、多くの別れを経験すると思います。別れは、深い悲しみや、苦しみ、痛みを伴うこともある。前に進んでいくということは、そんなさまざまな感情を受け入れ、自分自身が変化していくことではないでしょうか。私たちの時間は前にしか進まない。そのときは永遠だと信じていた思いも、いずれは変化し、まったく同じではないはずです。しかし、たとえどんな変化を遂げたとしても、生きるうえで変化していくことは美しさを併せ持つのではないかと思っています。

劇中にも登場したSandiskのポータブルSSD(SANDISK Creator PRO ポータブルSSD / 卓上中央)

劇中にも登場したSandiskのポータブルSSD(SANDISK Creator PRO ポータブルSSD / 卓上中央)

大量のデータを安全に保存できるSandisk製品

──今回の製作現場ではSANDISK Extreme PRO® ポータブルSSDといった多様なメディアを導入されています。どのような場面で活用されたのでしょうか?

映画の製作現場では、本編の映像や音声だけでなく、メイキング映像、スチール写真など、さまざまな素材があります。今回、SandiskさんにSSDをご提供いただき、多くの場面で使用しました。メイキングの動画、スチールの画像においても、日々相当なデータ量を扱います。連日の撮影の中で、バックアップ作業も必要です。SSDはコンパクトで、データを安心して保存・持ち運びができますし、バックアップもスピーディに進められました。実際に、以前より現場で使っている方もおり、利便性や安全性への信頼から使用されているのではないでしょうか。

──映画製作におけるデジタル技術の進化は、現場にどのような影響を与えていると感じますか?

映画製作に関わるようになって、もう15年ほどになります。この期間のデジタル技術の進化は、本当に大きかったですね。まず、記録媒体が小さく軽くなったことは、製作現場にいる人間として大きなインパクトを受けました。私たちは海や山など、さまざまな場所で撮影することがありますが、必ずしも車ですべての機材を運べるわけではありません。コンパクトなSSDで大量のデータを扱えるようになったことは、体力的にも利便性の面でも非常に助かります。それから速度の面でも大きな進歩がありました。昔はデータのバックアップやチェックに膨大な時間が掛かり、朝から晩まで作業して、夜中にホテルでさらに2、3時間データを確認してから寝て、翌日また出発……という日々が続くこともありました。今ではこうした作業も効率化され、製作現場は大きく変わったと感じます。

映画「楓」メイキング映像用カメラにSANDISK Extreme PRO® ポータブルSSDが接続されている様子

映画「楓」メイキング映像用カメラにSANDISK Extreme PRO® ポータブルSSDが接続されている様子

──では、改めて映画「楓」の魅力についてお聞かせください。

私はこの映画を、何かしらの“別れ”を描きながらも、その先にある「それでも生きていく」という未来を感じさせる作品だと捉えています。だからこそ、この映画を通して“生きる”ということそのものを追いかけられたらいいなと思いました。観終わったあと、少しでも前に進みたくなるような気持ちになってもらえたら、一番うれしいです。でも、それと同時に「楓」は、あくまで1つの解釈としての映画です。多くの俳優や、さまざまな国のスタッフとともに作り上げたことで、実に多彩なシーンが生まれました。だからこそ、観客の皆さんには自由に、自分の感じるままに受け取ってもらえたらと思います。スピッツの「楓」という楽曲が、これまで多くの人の心に寄り添ってきたように、この映画もまた、どこかの誰かの人生にそっと寄り添う。そんな存在になってくれたら、こんなにうれしいことはありません。

映画「楓」ニュージーランドでのロケの様子

映画「楓」ニュージーランドでのロケの様子

写真家・中川正子 インタビュー

撮りながら私も泣いていました

──映画の製作現場に帯同するのは今回が初めてとのことですが、実際に体験されてみていかがでしたか?

映画の世界観を“現場で感じ取る”という感じでした。映画の撮影が進む中で私なりに感じ取った世界観を写し撮ったつもりです。私が撮ったものは2種類ありまして、ポスターになった特写は自ら画作りをする必要がありました。もう1つの、いわゆる場面写真は、その場で撮れるものをできるだけ“空気ごと撮る”という仕事でした。映画と楽曲のギャップは全然なく、むしろ主演のお二人が演技するのを幸運にも至近距離で見続けられたので、自分が大枠で描いていたイメージに肉付けされていくような感覚がありました。ニュージーランドで撮った特写は「シーンの合間の5分で撮らなきゃいけない!」という状況下でしたが、普段の広告撮影などでやってきた筋肉が生きた。「この一瞬で決まる」というところや、「ここにこう座れば絶対うまくいく」というのが経験からすぐにわかったので、無事に撮れてよかったなと思いました。自画自賛みたいですみません(笑)。

映画「楓」場面写真。福士蒼汰演じる涼

映画「楓」場面写真。福士蒼汰演じる涼

──撮影で印象に残っているエピソードをお聞かせください。

福士蒼汰さん演じる涼が、宮沢氷魚さん演じる幼なじみ・梶野に悩みを打ち明けるシーンがありました。福士さんの演技を間近で見て「涼の気持ちを学ばせてもらう時間にしよう」と思っていたんです。そのシーンには、福士さんが作り上げた涼というキャラクターの苦悩がものすごくリアルに出ていて……。一緒に涙しちゃうぐらい、「そりゃつらいだろうな」と思う場面でした。福原遥さん演じる亜子が涙を流すシーンは、集中が途切れないように望遠レンズで撮っていたんですけど、望遠レンズで撮るからこそ、表情がくっきり見えて……。撮りながら私も泣いていました。脚本を読んで展開を知っていても、役者さんたちが実際に演じるとこんなふうに立体的になるんだなと。映画作りの現場での臨場感といいますか、「こうやって物語になっていくんだな」っていうのを肌で感じましたね。

映画「楓」場面写真。宮沢氷魚演じる梶野

映画「楓」場面写真。宮沢氷魚演じる梶野

CFexpress™ カードの性能、書き込みの速さに驚きました

──撮影したデータはどのように管理されましたか?

普段、仕事ではSDカードを使用しているのですが、今回初めてCFexpress™ カード(SANDISK PRO-CINEMA CFexpress™ Type B カード)をお借りして、その性能に驚きました。何より書き込みの速さ。連写やキスシーンといった「ここは絶対に外せない!」というときに力を発揮してくれました。

──データ量も膨大になったのでは?

はい。ニュージーランドだけで350GBくらい、日本だとさらに多くて500GBくらい撮っていました。大きいプロジェクトですのでバックアップには細心の注意を払っていましたね。データがなくなることが一番怖かったので、撮影が終わるたびに、準備していただいた2台のSSDにバックアップを取っていました。1台は自分用、もう1台はプロデューサーに渡す用。CFexpress™ カードにも残していました。実は、これまではずっと使い慣れたハードディスクを持参してバックアップを取っていたのですが、初めて使ったSSDへの信頼度が高まり、SSD派に転向しました。コンパクトなので、最初は「こんなに小さいもので大丈夫かな?」と感じたのですが、データ転送が本当に速いんです! この“速さ”と“軽さ”は移動が多いロケの中では大きなメリットです。

SANDISK PRO-CINEMA CFexpress™ Type B カード(手元)

SANDISK PRO-CINEMA CFexpress™ Type B カード(手元)

──中川さんにとってカメラや写真の魅力ってなんでしょうか?

その写真を撮ることで、より“世界を詳細に見ることができる”ということです。撮ることでよりよく見えるし、逆に初めて見えるものもある。平たく言うと、ぼーっとしていると見えないものが、写真を撮ると見えてくる。何気なく撮った写真に、自分自身が気付かされることもある。カメラに助けられているなと思います。

──写真家として映画「楓」と向き合った中川さんがお薦めする見どころを教えてください。

1つは、現場にいた方が皆さん本当にプロフェッショナルだったので、プロの本気の集大成を私自身も観るのを楽しみにしていますし、皆さんもぜひ、と思います。もう1つは、ニュージーランドの風景が本当に雄大で。主演の2人の物語を包み込むのには最適だったと思い返します。その雄大さも楽しみにしていただきたいです。

映画「楓」ビジュアル

映画「楓」ビジュアル

プロフィール

福士蒼汰(フクシソウタ)

1993年5月30日生まれ、東京都出身。2011年から2012年に放送された特撮ドラマ「仮面ライダーフォーゼ」の主役に抜擢され、注目を集める。主な出演作に映画「ストロボ・エッジ」「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」「仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー」「曇天に笑う」「ラプラスの魔女」「BLEACH」「旅猫リポート」「ザ・ファブル」「カイジ ファイナルゲーム」「湖の女たち」などがある。2023年にはHuluオリジナル「THE HEAD」Season2で海外作品デビューを飾った。ハン・ニン(韓寧)とダブル主演を務める台湾映画「花臉猫: 修羅道」は、2026年秋以降に公開。

行定勲(ユキサダイサオ)

1968年8月3日生まれ、熊本県出身。助監督として岩井俊二やハル・ハートリーの作品に参加後、1997年に「OPEN HOUSE」で長編映画デビュー。2000年に発表した長編第2作「ひまわり」で第5回釜山国際映画祭国際批評家連盟賞、2001年公開の「GO」で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した。2004年には映画「世界の中心で、愛をさけぶ」が大ヒットを記録し、その後は「クローズド・ノート」「パレード」「ピンクとグレー」「ナラタージュ」「リバーズ・エッジ」「劇場」「窮鼠はチーズの夢を見る」「リボルバー・リリー」などを手がけた。

井手陽子(イデヨウコ)

プロデューサー。主な担当作品は映画「のぼうの城」「海月姫」「マエストロ!」「羊の木」「サヨナラまでの30分」「さがす」「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」「アナログ」など。2025年は「ショウタイムセブン」「楓」が公開。

中川正子(ナカガワマサコ)

写真家。主に雑誌、書籍、Web、広告などのスチール写真を手がける。2025年公開の映画「楓」ではポスター、場面写真のスチール写真を撮影した。