「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」

「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」はなぜ今でも愛されるのか?40年前は明文化できていなかった制作メソッドを監督・河森正治が振り返る

1984年に公開された劇場アニメ「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」の公開40周年を記念し、1月29日に「マクロス」シリーズ初のULTRA HD Blu-ray・4Kリマスターセットが発売。またそれに先駆け、1月25日には「4K ULTRA HD ver.」が全国40の劇場で上映される。現在も続く大ヒットシリーズ「マクロス」の原点を、当時劇場で観た人も、近年の「マクロス」しか観たことのない若いファンも味わうことができる絶好の機会だ。

映画ナタリーでは本作で石黒昇とともに監督を務めた河森正治にインタビュー。テレビシリーズには参加していたものの、当時はまだ20代前半で、専門学校で学んだ経験もなかったという河森が、なぜ40年後も愛される「愛・おぼえていますか」を作ることができたのか。当時は明文化できていなかったという、独自の制作メソッドを明かしてもらった。

取材・文 / 一角二朗撮影 / 笹井タカマサ

「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」とは?

「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」場面カット

「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」場面カット

SFアニメ「マクロス」シリーズ。その第1作であるテレビアニメ「超時空要塞マクロス」(1982年10月3日から1983年6月26日放送 / MBS・TBS系列)は、可変戦闘機・バルキリー部隊のパイロットである一条輝を主人公に、地球統合軍の宇宙戦艦マクロスと巨大異星人ゼントラーディとの戦争を描いた作品。ヒロインであるリン・ミンメイが歌う歌が単なる劇中歌ではなく物語にとって重要な意味を持ち、その要素はのちのマクロスシリーズにも引き継がれている。「宇宙戦艦ヤマト」や「機動戦士ガンダム」と並ぶ、1980年代を代表するアニメの1つだ。

「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」は、その劇場版として1984年7月21日に公開。当時、テレビアニメの劇場版はテレビシリーズの総集編が多かったが、本作は全編新作として製作された。群を抜いたハイクオリティの作画、スピード感あふれるアクションは評判を呼び、ミンメイ役の飯島真理が歌う「愛・おぼえていますか」とともに大ヒット。これまでに何度もソフト化され、2019年にNHK BSプレミアムで放送された「発表!全マクロス大投票」では作品部門で2位、歌部門では「愛・おぼえていますか」が1位に選ばれるなど、今もなお根強いファンを持つ。

ストーリー

大宇宙で50万年にわたって戦争を繰り広げる、男性ばかりのゼントラーディ軍と女性ばかりのメルトランディ軍。戦いは地球にも飛び火し、ゼントラーディの奇襲によって、バルキリー隊パイロット・一条輝、主任航空管制官・早瀬未沙たちが所属する地球統合軍の巨大宇宙戦艦「SDF-1 マクロス」は、マクロス艦内のアイドル歌手リン・ミンメイを含めた避難民とともに、地球を脱出する。輝・未沙・ミンメイの微妙な三角関係の中、統合軍はミンメイの「歌」を武器に、ゼントラーディ軍との最大の戦いに挑もうとしていた──。

40年の時を経て、4Kリマスター化!

その「愛おぼ」の公開40周年を記念し、35mmネガフィルムから最新のフィルムスキャン技術により4Kリマスター化した「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか 4Kリマスターセット」が1月29日に発売され、発売に先駆けた1月25日には全国40の映画館で劇場公開される。

 「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか 4Kリマスターセット」展開図

「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか 4Kリマスターセット」展開図

「4Kリマスターセット」商品には4K ULTRA HD Blu-rayとBlu-rayディスクがセットになっており、それぞれ「1984年劇場公開時フォーマット」と「2016年完全版フォーマット」の2種を収録。

また特典映像としては「『天使の絵の具』 from『Flash Back 2012』アップコンバートver.」が収められる。「天使の絵の具」は「愛・おぼえていますか」のエンディングテーマ。もともと「愛・おぼえていますか」はミンメイがこの曲を歌うシーンで終わる予定だったが上映時間の都合などでカットされ、1987年に発売されたOVA「Flash Back 2012」で映像化された。

特装限定版にはキャラクターデザイン・美樹本晴彦描き下ろしの特製収納ボックスや24ページのブックレットが付属。劇場でも先行販売される初回限定版は、さらなる特典として「リン・ミンメイ サイン入りアフレコ台本」「『MACROSS'84-SUMMER』キャンペーンマーク76mm缶バッジ」「美樹本晴彦イラスト特製アクリルボード」も加えたセットとなっている。

左から「リン・ミンメイ サイン入りアフレコ台本」「『MACROSS'84-SUMMER』キャンペーンマーク76mm缶バッジ」「美樹本晴彦イラスト特製アクリルボード」

左から「リン・ミンメイ サイン入りアフレコ台本」「『MACROSS'84-SUMMER』キャンペーンマーク76mm缶バッジ」「美樹本晴彦イラスト特製アクリルボード」

河森正治インタビュー

「4K ULTRA HD ver.」で公開当時の感覚がよみがえった!

──世界的に見ても、これだけメディアが進化するたびにリマスターされる作品というのも希有な例だと思うのですが、「4K ULTRA HD ver.」の劇場公開を迎えて、一言いただけますか。

40年前にこの映画を作ったときには、また新しい技術でリマスターされること自体予想していませんでした。観てくださる方々がいらっしゃるということが本当にありがたく、うれしいことです。スタッフを代表して感謝を申し上げます。

河森正治

河森正治

──できあがった4K版をご覧になっての感想をお聞かせください。

大きく言えば、2つでしょうか。1つはピントの問題。この作品は時間がなくて、撮影の段階で急いでいたので、すごくきれいに撮れている箇所と、ピントが甘くなってしまったところ、どうしてもバラツキが出てしまったんです。そういった部分が、今回の4K版でだいぶ改善できたと思います。

──もう1つはどういったところでしょう。

明度の部分ですね。暗いシーンの中でも、深みを持った明るさが出て、細部の描き込みまで見えるようになりました。公開当時の映画館では見えていたはずなんですが、それ以降の記録媒体はどうしても暗部に弱い側面があったんですよね。技術の進化とともに、リマスターするたびに改善されてはきたのですが、今回でやっとフィルムの際のレベルにやってきたな、と感じました。背景の描き込みもはっきり見えますし、なんと言ったらいいか、遺跡発掘の感覚ですね。出土品をきれいに磨いていったら、「こんな色だったのか」という感慨を得る、という世界に近い気がします(笑)。

──例えば、輝がフォッカーに呼び出されたバーのネオンなども、これまで以上にまばゆかったですね。

光りものに関しても、色合いとかニュアンスも出たうえで、階調の幅が広がって表情がうまく出たという感覚があります。光という意味では、宇宙空間に輝く星の数ですね。マクロス艦の光の数も多く見えますし、クライマックスのミサイル一斉放射のシーンも含めて、スケール感がわかっていただけると思いますよ。

──ところで、作り手としてはリマスターのたびに「もっときれいにしよう」という気持ちになるのでしょうか。

作った側の気持ちとしては、難しいところでして……どこかをいじったら、ほかの場面をいじりたくなる(笑)。気になっていたところが直ったら、別の箇所が気になり出す、というイタチごっこになるんです。これはリマスターするごとに頭を悩ませる部分ですが、統一感という意味でも、あきらめるところもあります。

──どんな部分ですか?

撮影時のがたつきですね。今の技術だと、全体のがたつきを統一して止めることはできるんですが、手前のものだけを止めるのはコスパ的に難しい。これは今の技術をもってしても、あきらめざるを得なかった。いずれAIなどが発達したら、解消できる時代が来るんでしょうけど……でも、これはフィルム時代に作った作品だということを証明するものとして残しておくことにしました。そこまでクリアにして、手描きじゃないと思われたら、それはそれでおかしなことになってしまいますからね(笑)。

「演出をデザインする」つもりの初監督

──そもそも、この「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」はテレビ版の「超時空要塞マクロス」があって、その劇場版として作られた作品です。テレビ版チーフディレクターの石黒昇さんとの共同監督として指名されたときのお気持ちをお聞かせください。

この頃のテレビアニメの劇場版と言うと、総集編+αというのが定番でしたよね。ところが「愛おぼ」は「完全新作で」というオファーだったので、狂喜乱舞しました。「本当にやっていいの?」と、うれしくてうれしくて(笑)。

──とはいえ、実制作期間は約半年と、とても短いですし、大変さが先に立たなかったんですか?

いや、「うれしい」が先でしたね。大変さはあとから痛感しましたけど(笑)。先日「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか展」(2024年10月25日~11月10日まで神奈川・マルイシティ横浜で開催)を観に行ったときに、宮武(一貴=プロダクションデザイン)さんが描かれた、メルトランディの船の設定画稿が展示されていたんです。そこに書かれた日付を見たら、3月で……。

──え? 公開が1984年7月21日なので、その4カ月くらい前ですよ?

ですよね。僕も「どういうことだ」と思いましたもん(笑)。そもそも劇場版を作ろうという話があったのは、テレビ版の第27話「愛は流れる」があって……。

──ミンメイの歌で文化に触れて動揺するゼントラーディ軍にマクロスが攻撃を仕掛ける「ミンメイ・アタック」の回ですね。河森さんが絵コンテを描かれ(黒河影次名義)、作画監督の板野一郎さんによる戦闘シーンと相まって、伝説の1話と言われています。

その前後に発売された、可変 VF-1バルキリーのおもちゃの売上がよかったのもあって、僕の記憶では83年の春頃に製作が正式に決まったはずなんですよ。その頃からストーリー構成を考えて、絵コンテができてから5~6カ月くらいで作っているんじゃないかなあ。

──それまでテレビ放映のために作っていたものを、劇場のスクリーンにかけるというところで、意識された点があったらお聞かせください。

特にあの時代、テレビはあまり大きくなくて、ブラウン管の解像度も低かったこともあって、映画は特別なものという感覚があったんです。映画自体も好きでしたし、やりたいという思いが強かったんですが、なにせ自分は初めての監督、しかも映像・アニメ関係の専門学校は一切行っていないわけですよ。だから勘で作るしかない(笑)。

──勘!?

勘というと言いすぎかもしれませんが(笑)、デザインをする感覚で演出をしようと思ったんです。もともと僕はデザイナーなので、ストーリーデザインをやり、演出デザインをしよう、と。なので、「プロポーション」というアプローチを使ったんです。デザインをするとき、特にスタイリングに近いデザインをする際には、プロポーション的に「ここを目立たせよう」「逆にこの部分をすぼめてみよう」といったプロセスを踏むわけですね。そのプロセスと演出の原理は一緒なんじゃないかと考えたんです。つまり、ストーリーの中で、ここを目立たせようとする部分のパラメーターをどういじるか、ということを考えれば演出ができるだろう、と。