「劇場版 誰ガ為のアルケミスト」河森正治×水沢柚乃 対談|大切なのは闇をさらけ出すこと プロデビュー40周年記念作に込めた思い

「マクロス」「アクエリオン」シリーズの河森正治が総監督を務めた「劇場版 誰ガ為のアルケミスト」が6月14日に公開された。原作は、全世界でのダウンロード数が900万を突破しているスマートフォン向けゲーム「誰ガ為のアルケミスト」。プロデビュー40周年を迎えた河森は今作で初の原作ものとなるゲームのアニメ化に挑んだ。

映画ナタリーではミスiD 2019に選ばれたゲーム好きの水沢柚乃を迎え、河森との対談企画を実施。東京・東京ドームシティ Gallery AaMoで開催されている「河森正治EXPO」に水沢を招待し、河森と展示物を観覧してもらうとともに、映画について話を聞いた。現代の若者たちに通ずる“心の闇”に関するエピソードにも注目してほしい。

取材・文 / 小澤康平 撮影 / 入江達也

キャラクターの感情をそのままアクションにできた(河森)

──「劇場版 誰ガ為のアルケミスト」はプロデビュー40周年を迎えた河森さんが初めてゲームのアニメ化に挑んだ作品ということで、ゲーマーとして知られる水沢さんとの対談を組ませていただきました。

左から河森正治、水沢柚乃。

河森正治 ゲームが好きなんだね。どれくらいやるの?

水沢柚乃 今でも1日10時間くらいやっていて……。

河森 10時間!? 本気のゲーマーだね。

水沢 毎日出前を頼んでやってます。やればやるだけうまくなるゲームが好きで、倒せなかった敵が倒せるようになるのが楽しくて何時間もやっちゃうんです。

河森 スキルアップして敵を倒していく快感に夢中になれるタイプだね(笑)。

──水沢さんは河森さんの作品をご覧になったことはあったんでしょうか?

水沢 テレビアニメの「マクロスF(フロンティア)」を観てました。小学校高学年のときだったと思います。お父さんがすごく好きで、今日連れて来たかったくらいなんですよ(笑)。

河森 はははは(笑)。

水沢 「マクロス」の一番くじを「全種類集めるぞ!」とよくお父さんと言ってました。お年玉でたくさん買ったのを覚えてます。

──そんな水沢さんから観て、本作はいかがでした?

水沢 原作ゲームの世界観に沿っているということだと思うんですけど、「マクロス」や「アクエリオン」シリーズよりもファンタジー色が強いと思いました。ファンタジーに寄ったものを作りたかったんですか?

「河森正治EXPO」を楽しむ水沢柚乃(左)、河森正治(右)。

河森 すごくやりたかったんですよね。なぜかと言えば、ロボットアニメを作るのはとても大変な時代に来ているんです。「マクロス」のように確立されたタイトルは大丈夫なんだけれど、無人のドローンが飛んでいるこの時代、「ロボットに乗って操縦なんかしない」ということを子供たちもわかっているんです。それとメインのメカを映して主人公の顔を映すと2カット使わないといけない。メインキャラクターが少ないのがよしとされていた時代だったらいいんですけど、今はキャラが多くなっているので、カット数を追いきれない。なのでロボットが出ない作品を成立させたくて、ようやく今回出さずに済みました(笑)。

水沢 確かに今回ロボットが出てきてないですね! 敵の闇の魔人もメカっぽいデザインではありますけどロボットではない。

河森 そうそう。実用性を意識した設計にする必要がない、というのもファンタジーをやりたかった理由の1つです。作品によっては「この速度で飛んだら息ができない」「人型巨大ロボットは戦争にもっとも向いていない」とか考える必要があるんだけど、「劇場版 誰ガ為のアルケミスト」はファンタジーだから現実に即してない部分があっても許してもらえる。キャラクターの感情をそのままアクションにできるというのが制作していて楽しかった部分です。

観たあとにすぐゲームをダウンロードしました(水沢)

──水沢さんは原作ゲームの「誰ガ為のアルケミスト」はプレイしたことがありましたか?

水沢 実はゲームはやったことがなかったんです。でも原作の世界観を知らないのに映画は楽しめて。ゲームが原作だと複雑な設定があったり、ある程度の知識を持っていないと厳しいこともあると思うんですけど、わかりやすく「タガタメ」の世界に入り込めました。

河森 それが一番ありがたいです。

──ゲームを未プレイでも違和感なく世界に入り込めるというのは、普通の女子高生であるカスミが主人公になっていることが大きい気がします。

「劇場版 誰ガ為のアルケミスト」

河森 そうですね。映画のオリジナルキャラクターであるカスミの目線は、「タガタメ」の世界を知らない視聴者と重なると思います。例えば歴史物を観ているときに登場人物1人ひとりの背景を知らなくても楽しめるじゃないですか。それと同じように作ったつもりです。

水沢 でもゲームをやっていればキャラクターが集結するところで熱くなれるんだろうなあと思って、観たあとにすぐダウンロードしました。

河森 ありがとう。作ったかいがあります。

──ゲームの映画化に関して、水沢さんは賛成派ですか?

水沢 すっごくうれしいです! 映画になるとゲームでは見えなかったキャラクターの性格がわかったりするので。動いてしゃべってるのを聞いてわかることがあると言うか。戦闘時の技も大画面で観れるのは興奮します。

河森 そういう意味では原作がスマホゲームだったのは映画化しやすい理由だったかもしれない。大きなテレビ画面でできるゲームだと、予算がふんだんにあってすでに映像のクオリティが高いですからね。スマホという小さな画面でプレイしているものだからこそ、アレンジのしがいがありました。

──ゲームを2時間に凝縮して表現することに苦労はなかったんですか?

河森 めちゃめちゃありました。最近のゲームはストーリーが長くて、「タガタメ」の場合1章だけで長めのテレビシリーズ分あるんです。最初は1つの章を映画にしてほしいというオーダーだったんですが、数十時間かけてプレイするものを2時間の映画にしたらただのダイジェストになってしまう。

水沢 映画はゲームの数年後という設定ですよね? あとからゲームをやって知ったことですけど、人気キャラのエドガーもゲームとは少し違う性格になっていて。

河森 自由度が低いのは苦手なんです。自分が作った作品でもテレビシリーズから劇場版になるときに平気で設定を変えちゃう(笑)。そのメディアで一番得なことをやりたいと思ってしまうんですよね。ゲームってキャラクターを自分で動かすことができるから、感情移入の仕方が人によって大きく異なると思うんです。もちろん小説でも映画でもそれぞれの主人公像を描くんですけど、ゲームは特に思い入れが強くなる傾向にある。みんなに合うようなキャラクター像を描くのは苦手なので、最初から数年後という設定にすれば違和感が減ると考えました。

水沢 でもエドガーだったら「熱い男」という骨格は受け継がれてますよね。

「河森正治EXPO」を楽しむ河森正治(左)、水沢柚乃(右)。

河森 うん、そこでエドガーを女たらしにはしてはいけない。チャラく見えるけれど根は熱い男というエッセンスは残してます。ほかにもリズベットであれば暗い雰囲気の中でもムードメーカーになれるだろうとか。エドガーとリズベットという、いきいき動いているのが想像しやすいキャラクターをメインに据えました。

水沢 ゲームの延長線上みたいで、キャラクターの変化を観れるのはうれしいです。

河森 今泉(潤)プロデューサーをはじめとするゲーム側の方が太っ腹だったことに感謝ですね。これだけオリジナルの要素を加えたら降ろされるかなと思ったけどそんなことはなかった(笑)。シナリオの打ち合わせにもずっと来ていただいて、どこまでやっていいかを密接に決めていけたのも面白かったです。

「劇場版 誰ガ為のアルケミスト」
2019年6月14日(金)全国公開
ストーリー

女子高生のカスミはある日不思議な声に導かれ、暗黒竜デストルークが支配する異世界バベル大陸へ召喚される。リズは「闇を封じる幻影兵」を召喚したつもりだったが、カスミはそのような力を持っていなかった。カスミはリズ、ガンナーのエドガーと一緒にレジスタンスの村へ向かうも、そこで熱を出し倒れてしまう。そんな折、闇に堕ちた幻影兵であるザイン、セツナ、メラとニクスの姉弟が“闇の魔人”とともに村を襲撃。絶望を目にしたカスミの脳裏に、あるビジョンが浮かび上がったとき、彼女の中に眠る力が目覚める。

スタッフ / キャスト

総監督 / ストーリー構成:河森正治

原作:今泉潤、FgG「誰ガ為のアルケミスト」

監督:高橋正典

脚本:根元歳三

主題歌:石崎ひゅーい「Namida」

エンディングソング:石崎ひゅーい「あの夏の日の魔法」

声の出演:水瀬いのり、逢坂良太、降幡愛、花江夏樹、石川界人、堀江由衣、生天目仁美、内田雄馬、今井麻美、早見沙織、江口拓也、Lynn、福山潤ほか

イベント情報

「河森正治EXPO」
  • 2019年5月31日(金)~6月23日(日)東京都 東京ドームシティ Gallery AaMo
    10:00~20:00(最終入場19:30)
    ※6月17日(月)は19:00まで(最終入場18:30)
河森正治(カワモリショウジ)
1960年生まれ、富山県出身。大学在学中からメカデザイナーとして活動し、24歳のとき「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」で監督デビューした。押井守の監督作「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」や、「エウレカセブン」シリーズでもメカデザインを担当。ゲーム「アーマード・コア」シリーズのメカデザイン、ソニーによるペットロボット・AIBO(ERS-220)のデザインを手がけるなど幅広い分野で活躍してきた。現在、プロデビュー40周年を記念した展示会「河森正治EXPO」が東京・東京ドームシティ Gallery AaMoで開催されている。
水沢柚乃(ミズサワユノ)
1998年2月20日生まれ、静岡県出身。講談社が主催するオーディション・ミスiDでミスiD 2019に選ばれ、グラビアやゲームの仕事を中心に活躍中。TwitterやInstagramでは“10秒グラビア”と題した動画を投稿して注目を集めている。2018年に公開された「ほっぷすてっぷじゃんぷッ!」2作や「初恋スケッチ~まいっちんぐマチコ先生~」に出演した。