中島愛×河森正治|ポップで軽やかな新作完成 ランカ・リー生みの親が語る彼女の変化

中島愛がニューアルバム「green diary」を2月3日にリリースする。

「green diary」は中島にとってゆかりの深い色・緑をテーマに掲げた作品で、尾崎雄貴(BBHF)、清竜人、tofubeats、三浦康嗣(□□□)、宮川弾、RAM RIDER、吉澤嘉代子といった多彩な顔ぶれが楽曲制作に参加している。

また中島のデビューのきっかけとなったアニメ作品「マクロスF」の約10年ぶりとなる単独ライブイベント「SANKYO presents マクロスF ギャラクシーライブ 2021 ~まだまだふたりはこれから!私たちの歌を聴け!!~」の開催が決定。アルバムの発売とライブの開催を受けて、音楽ナタリーでは中島愛と「マクロス」シリーズを手がけるアニメーション監督・河森正治の対談をセッティング。14年前にさかのぼる2人の出会いのきっかけや、河森から見たアーティスト・中島愛の印象などについて語り合ってもらった。

さらに特集の後半では中島愛にソロインタビューを実施。ニューアルバム「green diary」の制作背景や中島が込めた思いに迫る。

※2月5、6日に開催を予定していた「SANKYO presents マクロスF ギャラクシーライブ 2021 ~まだまだふたりはこれから!私たちの歌を聴け!!~」は取材後、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け延期が決定しました。

取材 / 臼杵成晃 文 / 石井佑来 撮影 / 堀内彩香

中島愛×河森正治 対談

14年前の出会い

──お二人は最初に出会ってから何年になりますか?

左から中島愛、河森正治。

中島愛 オーディションの最終選考が2007年だったので、14年ぐらいですね。それ以来、ランカ・リー(中島が声と歌唱を担当した「マクロスF」の主要キャラクター)として「マクロス」関連のお仕事だったりイベントだったりでご一緒する機会はありつつも、こうして2人きりでしっかりお話しするのはほぼ初めてですね。

──「マクロスF」の歌姫オーディション(「Victor Vocal & Voice Audition」)は受験者が5000人以上いたということですが、河森さんは中島さんのどういうところに惹かれたんですか?

河森正治 「マクロス」の場合、歌うこととしゃべることの両方をできるというのがとても重要で、そういう人自体があの頃はとても貴重だったんですよ。そんな中、中島さんはどちらもできるうえに、ランカ・リーが持つ前向きで明るい部分と影を秘めている部分の両方を持ち合わせていたんですね。歌っているときに明るさ華やかさだけじゃなく、気になる影があった。今考えると緊張もしていたのかな?(笑)

中島 緊張どころじゃなかったです(笑)。

河森 なるほど(笑)。でも、その少し危うい雰囲気がランカの魅力を深いところから引き出してくれるんじゃないかと思ったんですよ。

中島 当時私は17歳だったんですけど、BONNIE PINKさんの曲を歌ったんですよ。今思うとなかなか大人な曲でした(笑)。

河森 そうそう、そのギャップも含めて、表現力の幅がありそうな予感がしたんですよ。あと、やっぱりいきなりヒロインでデビューするわけですから、重荷を背負わせないかなというところもあって。その重圧に耐えられるかどうかというのもけっこう気にしていたところではありました。

──そもそも中島さんはなぜオーディションを受けたんですか?

中島 高校2年生の、ちょうど進路を決めないといけないタイミングでオーディション開催の知らせを受けたんです。それまで4、5年ぐらい事務所でレッスンは受けていたんですけど、芽が出ていないどころじゃなくて種すら撒いてない感じで(笑)。もう辞めようかというときに、当時のマネージャーから「最後にこれだけ受けてほしい」と。それでいざオーディションに行ったら、周りは大きい事務所に所属していたり、明るくてキラキラした人たちばかりで。いたたまれなくなって2回ぐらいトイレに逃げました(笑)。

河森 なんと!(笑)

中島 「場違いなところに来てしまった……」と思って、自分で自分が恥ずかしくなっちゃって。ただ不思議なもので、いざ審査が始まると「これで最後だしな」という開き直ったような気持ちで伸び伸びやれたんですよ。だからオーディション中はすごく楽しかったんですけど、絶対受かるはずはないと思っていたので、「ありがとうございました! これで心置きなく辞めます!」みたいな(笑)。私はもともと芸能人になりたいと思って芸能事務所に入ったわけじゃなかったんです。歌が好きという気持ちだけで事務所に応募したので、自分の歌を人に聴いてもらえたのがただただうれしかった。

河森 なるほどね。そう考えると「マクロスF」でランカが最初に歌うときのシチュエーションと被っているね(笑)。その話を聞いても思うけど、やっぱり本番に強いタイプだよね。本番前はすごく緊張しているけど、始まるとそれを全然感じさせない。ランカはトラウマを抱えているんだけど前向きというバランスがすごく重要だったので、ただ明るいだけではなくて陰りも必要で。だからそういう意味で中島さんはぴったりだったと思いますよ。

中島 すごい。オーディションのときの話をここまで深く聞いたのは初めてです(笑)。

「マクロスF」は第2の青春

──中島さんに加えて、シェリル・ノームの歌唱パートを担当するMay'nさんや、楽曲を手がけた菅野よう子さんの存在もあって「マクロスF」という作品は大ヒットしました。音楽的な注目度も高く、アニメの枠を超えた広がり方を見せましたが、それは監督としては思惑通りだったんですか?

河森正治

河森 自分は映画とOVA系の監督はしてきたのですが、テレビアニメで監督するのは初めてで。年末に放送のスペシャル版を作っていたときに「これはいけるな!」という手応えを感じたんですよ。ただ、まさかテレビ放送の最中からライブができるとは思っていなかったので、一緒に駆け上がっていくときの疾走感はたまらないものがありましたね。自分としてはまるで第2の青春という感じがあった(笑)。ライブのリハに何度もお邪魔して、そのリハの雰囲気を作品に反映したりね。

中島 レコーディングやライブのリハーサルにも来ていただいて。私たちは「来てくださってうれしいなー」とは思っていたんですけど、まさか、実際そこで見たり聞いたりしたものが作品に反映されているなんて。

──「マクロスF」という作品は、ランカ・リーとシェリル・ノームという2人のキャラクターのコントラストや歌声の面白み、さらにその基盤を作る菅野よう子さんの楽曲という、全体のグルーヴがすごかったですよね。

河森 そこが一番、狙っても簡単にはできないところですよね。人の組み合わせばかりはどれだけプランを考えても巡り合わせなので。本当にオーディションに来てくれてありがとうございます(笑)。

中島 こちらこそありがとうございます……!

河森 ランカとシェリル、2人のコントラストで言うと、声質の違いは意識していて。20代の頃にニューヨークのブロードウェイと、ロサンゼルスで「キャッツ」を観比べたんですけど、ブロードウェイはすごく感動したのに、ロス版は全然よくなかったんですよ(笑)。みんな歌はうまいのになんでよくないんだろう?と不思議だったんですけど、みんな声質や芝居の感じが似てるからだということに気が付いて。「キャッツ」は各キャラクターのバックボーンの違いから来る個性が売りのはずなのに、声質が被ってたんです。なので声質や歌い方は絶対に被らないようにしようというのは思っていました。

中島 声質もそうなんですけど、なんというか、May'nちゃんとは波長が違う感じが当時からありました。気が合わないというわけではなくて。

河森 そうだよね。そのぐらい存在感が違ったほうが、調和よりも1つ上の化学反応を起こすんじゃないかという思いがあって、そういう意味でもすごく奇跡的な組み合わせだったと思う。それにしても、1人の作曲家が2人のキャラクターに対してちゃんと振り分けながら楽曲を提供できるという体制はすごいよね。もともと菅野さんには「オープニングテーマを頼めたらいいね」というところから発注したんですけど(笑)。

中島 そうなんですか!? オープニングどころかたくさん曲がありますけど(笑)。最初はそうだったんですね。

河森 そうそう。「マクロスプラス」ではすごくとんがった曲をお願いした菅野さんに、エンタメ系のアイドル曲を頼んでいいんだろうかみたいな(笑)。

──その中でも中島さんが歌ったランカの曲「星間飛行」のポップスとしての吸引力、キャッチーさはリスナーとして衝撃的でした。

中島 私もリスナーとして「星間飛行」を聴いてみたかった(笑)。別に自分だけでその曲を形作っているわけじゃないですけど、当事者ではあるので客観的に聴いてみたいものですね。

ランカ・リーとは違う色

──一方で、中島さんは2009年よりソロアーティストとしての活動も始めます。河森さんは中島さんのソロ活動をどのように見ていたんですか?

中島愛

河森 ランカと違う色をどうやって見せてくれるのかすごく気になっていたんですけど、ランカと違う色や響きがうまく出ているのをすごく感じて。ライブに行かせていただいたりCDを送っていただいたりするたびに、いろんな像が見えてくるんですよ。あと、声優やお芝居をやっているという強みが音楽活動にもすごく出ているように思います。情感の入り方が普通とちょっと違うんですよね。聴いていてなんかあとを引くんですよ。

中島 うれしい!

河森 特に言葉の語尾がすごく魅力的で、フッと心を持っていかれる。

中島 語尾は最初のレコーディングのときに菅野さんにも厳しく言われました。「入りがよくても語尾が抜けてたらもう台無し!」って。それが無意識のうちに染み付いていますね。

河森 せっかく中島愛としてやるときはランカ色じゃないものを聴かせたいという思いがあると思うけど、やっぱり共通点は当然あるわけで。そのバランスがすごく楽しいですよね。

中島 照れちゃう(笑)。照れちゃうし、通信簿を開くみたいですごくドキドキする(笑)。