「エストニアの聖なるカンフーマスター」監督が来日、“正教会カンフー”の秘話語る

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映画「エストニアの聖なるカンフーマスター」の初日舞台挨拶が10月4日に東京・新宿武蔵野館で行われ、来日した監督のライナル・サルネットらが登壇。主人公のモデルになった実在の修道士や現場で作り上げた“正教会カンフー”の秘話を明かした。

映画「エストニアの聖なるカンフーマスター」の初日舞台挨拶で東京・新宿武蔵野館を訪れた監督のライナル・サルネット

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「エストニアの聖なるカンフーマスター」ポスタービジュアル

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本作は1970年代のソ連占領下、エストニアにあった正教会の修道院を舞台にした青春カンフーコメディ。国境警備の任務に就いていた青年ラファエルが、ブラック・サバスの音楽やカンフーに熱狂し、やがて山奥の修道院でカンフーを扱う僧侶に弟子入りするさまが描かれる。ラファエル役でウルセル・ティルクが主演を務めた。

映画「エストニアの聖なるカンフーマスター」の初日舞台挨拶が行われた東京・新宿武蔵野館。左から撮影監督のマート・タニエル、監督のライナル・サルネット、プロデューサーのカトリン・キッサ

映画「エストニアの聖なるカンフーマスター」の初日舞台挨拶が行われた東京・新宿武蔵野館。左から撮影監督のマート・タニエル、監督のライナル・サルネット、プロデューサーのカトリン・キッサ[拡大]

カンフーとメタルに魅入られた青年が修道士になる奇抜な設定の本作。サルネットは、その発想のきっかけを聞かれ「この物語の主人公は実在する人物で、名前もそのままラファエルという人なんです。ちょっとクレイジーな映画で信じられないかもしれないですが、80%は実際にあったエピソードを盛り込んでいます。ラファエルという人物は旧エストニアで今はロシアの一部になっているとある町の修道院にいた人なんです」と明かす。実在の人物をもとに映画のキャラクターを作り上げたが、ファンタジーに思えるようなストーリーも実際に起こったことにインスパイアされているという。

物語のベースになったのは、サルネットが入院中の友人にプレゼントした「Not of This World」という本。若くして亡くなった2人の正教会の修道士の実話を書いた同書をブラックユーモアのつもりで渡したが、友人から「修道士を題材にした映画を作るのはどうか」と逆に提案され、物語を着想した。サルネットは「そのちょっと変わった物語にとても心惹かれました。映画の冒頭、謎の武装集団からラファエルが生き残るシーンは、実際にソ連軍の兵士としてラファエルがシベリアに行ったときに、中国の盗賊に襲われて、部隊の中で1人だけ生き残ったという都市伝説的な逸話がもとになっています」と話す。

ライナル・サルネット

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実際にラファエルが過ごしたロシアのとある町の修道院に行き、長老たちから話を聞いたこともあるそう。そのときのエピソードは「彼はフーリガンだと言われました。ラファエル本人は映画の中で出てくるようなチープな車を乗り回すスピード狂だったようで、赤い車を黒色に塗ってモンクカー(僧侶カー)と呼んでいたそうです。ただ30歳のときに車の事故で亡くなってしまったんですけど、それでもラファエルはとてもカリスマ性のあった人で、神についての説法など何もせず車を修理していただけだったのに、若者にはすごく影響力のあった人だったようで、彼をきっかけに入信する人物も現れたほどだったと聞きました」と語った。

映画「エストニアの聖なるカンフーマスター」初日舞台挨拶の様子

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舞台挨拶では観客の質問に答えるティーチインも実施。まず「修道士、ブラック・サバス、カンフーはどう結びついたのか?」と質問があると、サルネットはラファエルが過ごした修道院を見学した際のことを振り返る。

「エストニアの聖なるカンフーマスター」より、ウルセル・ティルク演じる主人公ラファエル(中央)

「エストニアの聖なるカンフーマスター」より、ウルセル・ティルク演じる主人公ラファエル(中央)[拡大]

「修道院の近くにあるカタコンベを訪れたら、劇中に出てくるような髑髏、蝋燭などがありました。また僧侶たちが長髪で、黒衣に身を包んでいて、それを見たときにロックンロールじゃないかと思ったんです。この作品の英題が『The Invisible Fight』なんですが、これは数世紀前に書かれた修道士たちの規則を記した本のタイトルと一緒。その内容というのが内なる葛藤、自分のエゴとの戦いで、その内なる戦いをどう映画で表現しようかと考えたときにカンフーだ!と閃いたんです。少林寺なども宗教と非常に近い場所にあるのでスピリチュアルなつながりを感じました。またブラック・サバスについては、地獄、魂、死など人間であることのダークサイドを歌っていますが、よく考えると宗教をテーマの1つとして歌っている。ただ実際に彼らの音楽を使用する前に、自分の師父にブラック・サバスの音楽を映画で使っても大丈夫だろうか?と確認したんです。そしたら『もちろん大丈夫だよ、だってオジー・オズボーンは敬虔な信者だったからね』と言われました」と、この奇抜な組み合わせに至った経緯を明かした。

「エストニアの聖なるカンフーマスター」場面写真

「エストニアの聖なるカンフーマスター」場面写真[拡大]

「アクションシーンを撮るうえで気を付けたことは?」という質問に対しては、「実は私はカンフーのファンではないんです。映画のアイデアとして使っただけで」と恐縮しながら回答。これまでに作られた“カンフーコメディ”の映画から多大な影響を受けており、リサーチのため20本ほど鑑賞。中でも「ドランクモンキー 酔拳」で知られるユエン・ウーピンが1979年に発表した香港映画「南北酔拳」を参考にしているという。本作では“正教会カンフー”と呼ばれるオリジナルのカンフーを作り上げたが、サルネットは現場での試行錯誤を語った。

「エストニアの聖なるカンフーマスター」メイキング写真より、監督を務めたライナル・サルネット(右)

「エストニアの聖なるカンフーマスター」メイキング写真より、監督を務めたライナル・サルネット(右)[拡大]

「酔拳は通常のカマキリスタイルと酔っ払ったカマキリスタイルがあって、酔っ払ったときは体が波打つような動きなんです。このカンフーの動きの指導のために台湾からエディー・ツァイさんが来てくれました。しかし1週間ほどしか時間がなく、それでもエディに『南北酔拳』のようなカンフーをやりたいと相談したんです。でもそれは非常に難しいし、その希望を叶えるには1年間の練習が必要と言われました。流石にそれはあきらめて、自分たちで正教会で祈りの際に使われている手のジェスチャーをカンフーに取り入れたオリジナルのカンフーを作り出し、それを“正教会カンフー”と呼んでいました。また主人公ラファエルの動きに関しては狼が出てくるロシアのアニメーションを参考にしたり、イリネイにはまたちょっと違ったカンフーの動きをつけたりと、この作品全体の動きを1つのダンスのような形にしたかったんです。そのため編集担当は映像を観て“カンフーゴスペル”だねと言っていました」

パンフレット購入者を対象に即席のサイン会を行ったライナル・サルネット

パンフレット購入者を対象に即席のサイン会を行ったライナル・サルネット[拡大]

真摯にファンの質問に答えたサルネットは、最後に「暖かくして、健康に過ごしてね!」と観客の体調を気遣い、舞台挨拶は終了。その後、パンフレット購入者を対象に即席のサイン会を行い、約100名の観客と交流していた。なお舞台挨拶にはプロデューサーのカトリン・キッサ、撮影監督のマート・タニエルも出席した。「エストニアの聖なるカンフーマスター」は新宿武蔵野館ほか全国で公開中だ。

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(c)Homeless Bob Production / White Picture / Neda Film / Helsinki Filmi

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