ロックバンド・
本作は「Cu-Bop」の
高橋は「10年越しの撮影で、メンバー4人の死に向き合うことになった。バンドは伊藤耕の獄中死により活動を停止するという悲劇的な結末を迎えるが、それでもなお、彼らが残した音楽、それを記録した映像の熱量が消えることはない」とコメントした。
「THE FOOLS 愚か者たちの歌」は、東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で順次ロードショー。
高橋慎一 コメント
10代の頃、パンクロックと出会ったことで僕の人生は大きく変わった。複雑な家庭環境に生まれ、勉強も駄目、スポーツも駄目、何をやっても人並み以下で半ば人生を投げていた無気力少年の胸に、パンクロックは天空からの雷鳴のごとく突き刺さった。鬱屈した実人生への怒りからだろう、当初僕はパンクの持つ暴力性、反社会性に激しく共鳴し、過激なステージングを標榜するバンドのライブに足繁く通った。1980年代半ば、インディーズシーンが隆盛を迎え、都内のライブハウスでは数多くのロッカーたちが競うように、激烈な個性むき出しのステージを展開していた。ライブハウスに足繁く通ううちに、インディーズシーンには「パンク」の一言ではくくれない、多様な音楽性を持つバンドが数多く存在することを知った。諧謔精神を演劇的なステージに昇華させた「有頂天」率いいるナゴムレコードの面々、パンクを暴力性ではなく共感によって拡散した「ザ・ブルーハーツ」、インディーズの精神でワールドミュージックを表現した「JAGATARA」。彼らのステージに触れ、その音楽世界の豊かさに魅了されたが、中でも僕を強烈に引きつけたのが「THE FOOLS」だった。
「THE FOOLS」が奏でる音楽は、奇を衒わないロックだ。それもとびきり極上の。奇抜な衣装も、過剰な演出も、豚の臓物を投げつけるような過激なステージングもない。普段着のまま舞台にたったメンバーは、圧倒的な技術と集中で、奇跡のような素晴らしいステージを何度も繰り広げた。かと思うと、どんな事情からかグダグダの演奏を聴かせる夜もあった。それどころか、ボーカリストの伊藤耕が遅刻して、ボーカル抜きでステージが始まる時もあった。
「THE FOOLS」のステージは、いつでも同じ演奏を提供するような、パッケージされた商品ではない。メンバーの生き方そのものを表現する、人生と地続きの舞台なのだ。彼らの圧倒的な演奏、その対極にある奔放さに魅了されライブハウスに日参する日々が続いたが、耕のドラッグ使用による逮捕と懲役により、活動が停止、フェードアウトしていった。
2007年、10数年ぶりに「THE FOOLS」が活動を再開したとき、僕はフォトグラファーとして彼らのステージを撮影し始めた。そして2012年からはカメラをビデオに持ち替え、ドキュメンタリー映画の製作に乗り出した。彼らの身に降りかかる騒動の数々を記録するには、写真ではなく映画でなければ表現しきれない、と感じたからだ。本作をご覧いただいた方には、納得いただけると思う。
10年越しの撮影で、メンバー4人の死に向き合うことになった。バンドは伊藤耕の獄中死により活動を停止するという悲劇的な結末を迎えるが、それでもなお、彼らが残した音楽、それを記録した映像の熱量が消えることはない。命がけのロックンロールから何かを感じてもらえたら、監督としてそれ以上望むものはない。
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あり @arikun1999
ロックバンドTHE FOOLSに10年密着、ドキュメンタリー映画が公開 https://t.co/qx1bPNs7hu