7年の歳月をかけてフィリピンでカメラを回し続けた粂田。本作は、同国の困窮邦人に密着した「なれのはて」に収録できなった人物たちにフォーカスを当て、再構成したドキュメンタリーだ。
裏稼業で幅を利かせた生活をしていたものの、だまされて一文無しになった赤塚崇は、日中は露店のタバコ売りの手伝い、夜はマニラ・ベイウォークで路上生活をしている。一方で、楽しい老後を夢見て高層アパートメントに入居した関谷正美は、異文化交流に悩み部屋に閉じこもってしまう。メインビジュアルには、対照的な暮らしをしている赤塚と関谷の姿が捉えられた。
「ベイウォーク」公開にあたり、粂田は「自分がなぜ、日本を捨て海外に暮らす人間たちに惹かれたのか。それまでの暮らしをリセットして新しい人生を生きる彼らが羨ましかった? そう思ったこともあった。どん底で生きる彼らの暮らしの中に、むき出しの『生』を感じた? そんな瞬間もあったが、それだけではない気がした。7年間取材して2本の映画を作り、彼らのことを知るための長い旅はいったん終わったが、答えは、未だに分からない」とコメントしている。
粂田剛 コメント
日本から海外に飛び出した人たちの“その後”に興味があった。
彼らがそこでどんな暮らしをして、何を食べ、周りにはどんな人たちがいるのか…その生活は幸せか? それとも不幸か? 今の自分の境遇を嘆いているのか、満足しているのか、または諦めているのか? そして故国日本に対してどんな感情を抱いているのか? 彼らのことを知りたかった。それを何らかの作品にして残したかった。
2012年から2019年の間、カメラを持って20回ほどフィリピンを訪れ、多くの日本人に会った。ほとんどが男性だった。犯罪を犯して逃げてきた人、フィリピン人女性と結婚し移住した人、女性を追ってやって来てどん底に落ちた人、貧困の中家族を作り暮らしている人…当たり前だが1人ひとりにそれぞれの人生があり、それぞれの思いがあった。撮影させてくれた人も、撮影はダメだという人もいた。次に行った時は行方不明になっていた人もいた。継続的に撮影させてくれた人は7人だった。その中の4人を主人公に「なれのはて」という映画を作った。映画は第3回東京ドキュメンタリー映画祭でグランプリ&観客賞を受賞し、一般劇場公開されることになった。素直に嬉しかったが、そのあと、多少の割り切れなさが残った。映画に入らなかった人たちのことだった。長年にわたって撮影させてくれたのに、作品に結実しなかった人たち…彼らに申し訳なかった。彼らのためにもう1本、映画を作るべきだと思った。誰にも評価されなかったとしても。
そんな思いで完成させたのが今回の「ベイウォーク」だ。
この映画には、マニラで無一文になりホームレスにまで落ちぶれた男性と、老後をフィリピンで過ごそうと移住してきた男性が登場する。彼らの生活圏はほぼ重なっているが、互いの存在を知ることはない。片やストリートを這うように生き、もう片方は高層マンションにひとり暮らす。彼らの行く末がどうなるのかは…ぜひ映画をご覧になってほしい。
自分がなぜ、日本を捨て海外に暮らす人間たちに惹かれたのか。それまでの暮らしをリセットして新しい人生を生きる彼らが羨ましかった? そう思ったこともあった。どん底で生きる彼らの暮らしの中に、むき出しの「生」を感じた? そんな瞬間もあったが、それだけではない気がした。
7年間取材して2本の映画を作り、彼らのことを知るための長い旅はいったん終わったが、答えは、未だに分からない。
粂田剛の映画作品
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フィリピンで対照的な生活を送る2人の日本人、粂田剛監督作「ベイウォーク」公開(コメントあり) https://t.co/TTqujPhNnH