松山ケンイチ「川っぺりムコリッタ」は小さな幸せに気付くための“いいヒント”

「川っぺりムコリッタ」の公開記念舞台挨拶が本日9月17日に東京・新宿ピカデリーで行われ、キャストの松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、吉岡秀隆、監督の荻上直子が登壇した。

荻上が自身の小説を映画化した本作は、誰にも関わらずに生きようと決めた孤独な男・山田が、川べりの古いアパート“ハイツムコリッタ”に引っ越したことから始まる物語。友達でも家族でもない、さまざまな事情を抱えたアパートの隣人たちと暮らす中でささやかな幸せに気付いていくさまがつづられる。松山が北陸の塩辛工場で働き始める山田を演じたほか、距離感が近い隣人・島田にムロ、夫に先立たれた大家・南に満島、墓石販売員の溝口に吉岡が扮した。

およそ10カ月の公開延期を経て、昨日封切られた本作。2017年に脚本を書き上げていた荻上は「こんなに時間が経って、やっと、やっと公開になって。こうして皆さんの顔を見れて本当にうれしいです」と喜びつつ、「おとなしくしなきゃいけないと思いながら、うーー！って我慢して我慢して」とこの1年の思いを吐露した。

松山は「ムロさんはとっても好きな俳優。大切な仕事仲間」と述べながら、山田と島田の距離感について言及する。「いきなり部屋に入ってきて『風呂貸してくれ』と言ってくる。同じ立場なら絶対に断るんですけど、どんな気持ちで言ってきたんですか？」と質問すると、ムロは「自分の中にも少しだけあるような、寂しさをごまかしたい、孤独の恐怖を見て見ぬ振りするために、どんな人かわからないけど関係を持とうみたいな……とにかく、お風呂に入りたかったんだよね」と、島田の気持ちを代弁。松山も「なんとなく島田の背負ってるものが、シーンを追っていくごとににじみ出てくるものがある」と続けて話した。

映画では孤独死や葬儀など、人間の死にまつわることも大きなモチーフになっている。松山は「山田が腹が減って、この世界からいなくなっちゃうんじゃないかというときに、島田が『これ食べてー』って野菜を持ってきてくれるじゃないですか。あれが、本当に山田の命をつなげてくれた。それを狙ってトマトを栽培してたんですか？」と再びムロに質問。ムロは「あれは狙ってないと思う。そこには損得はない。ただ風呂に入りたいし、炊きたてのごはんを食べたい。それを狙ってた」と笑って返答する。松山は「人間のしたたかなところと、ぜんぜん意識してない部分があって、それに山田も巻き込まれる。結果的に2人は、それで救われている。それが面白いなと思ってました」と魅力を話した。

映画にはロケ地となった富山に実際に暮らす小学生が出演。満島は「役者をやってる子供じゃなくて、富山の本当の小学生。だからみんなすごく自由にしていて、撮影現場は無法地帯（笑）。私たちは富山に暮らしている人を演じているけど、彼女たちはその地で生きてきた子たち。彼女たちの姿には助けられていたなと思います」と称賛の言葉とともに振り返る。吉岡からは4人と子供たちがそろってすき焼きを食べるシーンのエピソードが明かされた。MCから「すき焼きはいかがでしたか？」と聞かれると、吉岡は「僕、お肉を食べてないです。映ってないですけど、食べようとしても満島さんが器を出すので。滞納している家賃の代わりにお肉を（提供して）。だから僕はネギとしらたきしか食べてないです。至近距離で松山さんがお肉を食べて震えて白目をむく姿は本当にうらやましかった」と、現場での未練を明かし、笑いを誘った。

登壇陣が物語にちなみ、自分の“ささやかな幸せ”を語る場面も。松山は撮影現場を回想し、俳優の待機場所に来ていたという野良猫との思い出を語り始める。「僕らが近くにいるのに、トコトコやってきて昼寝する。その瞬間がすごく幸せだなと。猫も自然な振る舞いをしてくれて、僕らも撮影に来たお客さんじゃなくて風景の一部になれていると思えたんですよ」と述懐。荻上は「そいつ出演してますよ。ムロさんがすき焼きに行く前のところ」と明かすと、松山は「え、僕も気付いてなかった。皆さん、もう1回確認したほうがいいですね」と、観客に再鑑賞を促した。

最後に松山は「自分自身の周りの小さな幸せを、どれだけ実感できるか、気付いていけるかということが必要になる時代になると勝手に思っていて。そのいいヒントになる作品。言語化できないもやっとした、あいまいなものを届けて、いつまでも皆さんの中に残るのが映画の理想だなと思います。気に入っていただけたら、たくさんの人に紹介してください」と呼びかけ、イベントを締めくくった。