小説家の高代槙生が、交通事故で亡くなった姉夫婦の娘・田汲朝を勢いで引き取ったことから始まる「違国日記」。ティーパーティーにはヤマシタに加え、本作が連載されているフィール・ヤング(祥伝社)の担当編集・梶川恵氏が出席した。当日のメインイベントは、ファンから寄せられた質問にヤマシタが答えていくQ&Aコーナー。ヤマシタの回答はスライドショーに映し出され、それを口頭で説明していく形で進められる。
最初の質問は「『違国日記』が生まれたきっかけは?」というもの。ヤマシタは「最近思い出したけど、数年前に祖父と母の日記をくすねたのもきっかけのひとつだったかも」と回答し、「つい先週ぐらいに部屋の掃除をしていたらその日記が出てきて。親の日記というアイテムって面白いなと感じたことを思い出しました。でも、母に盗んだことがバレたから没収されるかも(笑)」と朗らかに話す。「槙生ちゃんの性格面、外見面でのモデルは?」という質問には「『エージェント・オブ・シールド』というアベンジャーズの番外編のドラマがあるんですけど、それに登場するメイを見て三白眼の女めっちゃいいな!と思って考えました」と回答。「私は先生と同年代なのですが、今の中高校生のリアルな気持ちが想像つかなくなっています。朝ちゃんに関して参考にしている人物や要素はあるのでしょうか?」という質問には、「時代の変遷で、子供がそんなに異邦人になることはないと思います。中高生のときに嫌だったことって永遠に覚えてません? 私は覚えてる。思春期が終わらないんです(笑)」と答えた。
また2巻で、槙生が高校卒業時に友人のダイゴから受け取った手紙が好きだというファンからの質問も。「先生は、自分の心の大切なことを相手に伝えた経験はありますか? また伝えるならどんな言葉を贈りたいですか?」と聞かれると、ヤマシタは「言葉で伝えるのはたぶんすごく苦手で、その人に誠実であることで伝えられたらと思います」と真摯に述べる。さらに4巻で槙生が自分にとって物語は“かくまってくれる友人”だと表現していることにちなみ、「先生自身、“かくまってくれる友人”の中でも印象深い物語はなんですか?」という質問が。それに対し、ヤマシタは「『ナルニア国物語』『鏡の中の鏡』『銀河鉄道の夜』『かいじゅうたちのいるところ』」と明かした。
槙生の元恋人・笠町くんが好きだというファンからの「家庭環境や仕事、価値観など、笠町くんをどんな役割や立ち位置のキャラクターとして作ったのか教えてほしいです。個人的に、笠町くんの女性遍歴を聞けるとうれしいです」というコメントには、「全然決めてないです。女性遍歴があったらあったで笠町くんが好きな人はショックなんじゃないの?」と軽やかに返す。そして担当編集も笠町くんファンであると言い、笠町くんと槙生の重要なシーンを描いた第20話のネームを渡した際に「ありがとうございます!」とハイテンションな電話があったことを明かした。また「『違国日記』のキャラクターが100m走をするとしたら、一番足が速い人と遅い人は?」という質問については、「男女混合だと難しいけど朝は速そう。笠町くんは持久力タイプ。塔野は変な走り方で遅い」とスクリーンで回答。担当編集から「槙生は?」と聞かれると、「槙生は体育とか参加しないタイプの人じゃないですか。笠町くんはマラソンとかやれるタイプですよ。シティマラソンとか出ちゃうかもしれない(笑)」と想像を膨らませた。
質問は「違国日記」についてだけでなく、ヤマシタの過去作品や仕事環境などに踏み込む。「これまでの作品で一番好きなキャラクターと嫌いなキャラクターは誰ですか?」という質問には、「好きも嫌いも特にないです。よく知る他人です」とバッサリ。参加者たちから笑いがこぼれる中、ヤマシタは「特殊な感情でかわいいとは思ってるけど、あくまでキャラクターだなって感じです」と続ける。さらに「集中できるのはどのような環境ですか?」と聞かれると、「集中は別にしたくない。疲れるから」と回答。「絵を描き始めたときに影響を受けたものは?」と尋ねられた際には、「子供の頃、手塚治虫の模写ばっかりしてました。家に全集があったんです。親が通販で注文して、300冊も来るとは思ってなかったらしいんですけど、私は大喜びでした。今もロック(・ホーム)とかブラック・ジャックとかは何も見ないで書けます」と自身のルーツを披露し、「私の初恋、間黒男だから(笑)」と告白した。
ファンからの質問は、ヤマシタのプライベートについても及んだ。「朝昼晩で一番テンションが上がるご飯は?」という質問には「ご飯が好き」、「好きなお菓子、ケーキは?」という質問には「なんでも好き」、「登場人物がいつもオシャレですが、よく先生が読まれてるファッション関係の雑誌は?」という質問には「SPURを献本でいただいてるので楽しみに見てます。たまに何着ていいかわからないときは、自分でMarisolとか買って。“こなれ感”とか“女っぷり”ってなんぞ?って思いながら」、「世界が終わる前日に観たい映画、マンガはありますか?」という質問には「世界が終わるのが嫌すぎる。やめよう」などというやりとりが展開される。また「お休みの日はどのように過ごされてますか?」という質問には「休みがない」と一言で返すも、「リフレッシュでゲームをやってます。30分だけとかいって結局2時間やっちゃったり。これまでゲーム全然やってこなかったんですけど、プレステ4を買ったら『すげえな、ゲーム!』ってびっくりしちゃって。秀良子さんとたまにオンラインゲームで遊ぶんですけど、昨日も『明日いける?』『いけるいける!』とか言って。イベントあるってことをすっかり忘れてて、『じゃあ明後日いこうね』となりました(笑)」と熱中ぶりを明かした。
質問は作品の話に戻り、「これまでの作品で実写化をするとしたら?」と聞かれたヤマシタ。スクリーンに「夢物語はやめろ」という回答が映し出され、会場は笑いに包まれる。その後、「『違国日記』が実写化されたら誰に演じてほしいですか?」という具体的な質問がくると、「槙生は吉田羊さんがいいです。笠町くんは平岳大さん」と答えた。ここでようやく、Q&Aコーナーの最後の質問に。「ヤマシタさん自身に近い人物がどの作品にもいるような気がしているのですがどうでしょうか? 『違国日記』で言うなら槙生さんではないかと」とくると、ヤマシタは「どのキャラクターも私が描いているので、どのキャラクターも私であり私とは全く違います」とスクリーンで答える。そしてヤマシタは「これ不思議なんですけど、恋愛ものを描いたときはこういうことを聞かれて、シリアルキラーの話とかだったら聞かれないんですよね。聞いてこいよ!(笑)」と率直な気持ちをぶつけた。
イベントでは、ヤマシタが監修したオリジナルメニューのケーキを提供。本をモチーフにした土台に、朝と槙生をアイシングしたクッキーが載せられている。またヤマシタの直筆サイン入り複製原画が当たるビンゴコーナーも実施。ヤマシタはデジタル式のルーレットで、数字がいったりきたりする“あおり”機能を使って参加者たちを盛り上げた。
最後にヤマシタは「どなたも欠席されることなくいらしたとスタッフの方からお聞きして、大変うれしく思っております。こういうイベントが開催されるのはそんなに珍しくはないので、また何かあったら足を運んでいただければと思います。あと執筆中の第23話のネームができることを祈っておいてください(笑)」と呼びかけ、ティーパーティーを終える。そして参加者1人ずつに、お土産として今回のイベントのために作られたオリジナルノートとペンを渡し、しっかりと言葉をかわしながら退場をお見送りした。
イベント終了後、コミックナタリーではヤマシタにインタビューを実施。ファンから寄せられた数々の質問について聞くと「ごはんの質問が多くって、『なんで?』と思いました(笑)」と疑問を浮かべつつ、「キャラクターのことを実在の人物のように捉えて質問をされる方が多いなと思いました」と印象を述べる。またお見送りで参加者たちと直接会話した感想については「たくさんの人が、作品に感情移入して読んでくれているんだなと。なので、ご自分の話をされる方が結構多い。自分は現実でこういうシチュエーションに置かれていて、だからこういうふうに読んでいます、と。それは、こっちも真剣に受け止めなきゃいけない話が多くって、それだけの思いで読んでくださってるんだなと感じました」と話す。最後に本日の総括を求めると「“ティーパーティー”って聞いて最初はびっくりしましたけど、おめかししていらっしゃった方もいてうれしかったです。私もデニムとスニーカーとかTシャツで来ちゃダメかな?って一応悩んできたので」と述べ、「これ、総括なのかな?(笑)」と困り笑いで締めくくった。
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