この日のお品書きは豚の生姜焼き、茶碗蒸し、特製ジンカクテルの3種。どのメニューもきくちの料理エッセイマンガ「あたりまえのぜひたく。」シリーズに登場したものばかりだ。きくちは冒頭、「(こういうイベントは)初めてなんですよ。編集者を10人ぐらい招いて料理をすることはあるけどね、それはお金もらわないから気楽なの(笑)。今日は皆さんお客さんですので、ちゃんとやらせていただきます」と挨拶。また「最初は緊張するかと思いますが、ビールなど入ればほぐれるでしょう。わしが料理してるところに遊びに来たと思って、自由に過ごしてください」と来場者を気遣った。
キッチンのワークトップには、すでに山盛りのポテトサラダときんぴらごぼうが。「料理ができあがるまで時間がかかるからね、家で仕込んできました。このポテトサラダは2巻に載ってるレシピそのまんま。きんぴらはね、ごぼうがたくさんあったから(笑)」と品数を増やした理由を話すきくち。サービス精神溢れるサプライズに、お腹を空かせた来場者から拍手が起こる。蒸し器にかけられていた茶碗蒸しもすぐにできあがり、程なくビールで乾杯の運びとなった。
茶碗蒸しは、揺らすとふるふる震えるゆるめの仕上がり。鶏がらスープのうまみが口いっぱいに広がる、とろけるような味わいだ。豚バラ肉を炒めて作った具や薬味の青ねぎがアクセントになっており、おかわりをもらう列ができるほどの好評ぶりだった。きくちは来場者からの「美味しい!」という声に笑顔を見せながら、魯山人の言葉を引用して「茶碗蒸しのコツは卵をケチることなんだ」と解説する。
和気あいあいとしたムードの中、きくちは着々と生姜焼きの準備を進めていく。盛り付けられたキャベツはきくちの実家で作ったものだということで、「料理はどうかわからないけど、このキャベツは美味いですよ」と太鼓判。タレに漬け込まれていた豚ロースが汁気を切るためボウルの縁に並べられていくと、来場者からは「マンガで見たやつだ!」とうれしそうな声があがった。
一方キッチンの奥では、作中で「おかあさん」としておなじみのきくち夫人が、フルーツたっぷりの特製ジンカクテルを作成。フルーツの種類は季節に合わせて変えるそうで、この日は巨峰、ピオーネなどが用いられた。きくち夫人の「おとうさん、どんなにほかのお酒を飲んでても、最後はこれをたくさん飲むの」という言葉通り、何杯でもおかわりしたくなるさわやかな飲み口。お酒が飲めない人には、ノンアルコール版が用意された。
きくちが肉を焼き始めると、ジュワーという音とタレの甘い香りが会場中に広がり、コンロの周囲にも人だかりが。「(普段使っている家のコンロと)勝手が違うからなあ」と言いながらも、手慣れた様子でフライパンを操るきくち。香りづけのフランベで炎が立ち上ると、来場者から歓声があがる。肉を皿に盛り付け、ひと煮立ちさせたタレを肉の上から回しかければ、きくち家の豚の生姜焼きが完成。肉厚なのに柔らかく、香ばしいタレがご飯にもお酒にもぴったりだ。
さらにシメの一品として、1巻で描かれたいものこ汁が登場。マンガではきくちが自ら掘り起こしていた“溶ける里芋”は、今回は特別に実家から送ってもらったという。具材に大ぶりのなめこ、ネギなどが入れられ、来場者にも味見を任せながら仕上げられた上品な味のいものこ汁。新鮮な里芋は「薄皮がサクッと割れて中身がトローッ」というマンガに描かれたままの味わいだ。来場者からそんな言葉を聞いたきくちは、「わしは嘘は描かないんですよ」とニヤリ。これで料理はひと段落したということで、2度目の乾杯が行われた。
きくちはお酒を片手に、「キャベツにかけていたドレッシングのレシピが知りたい」「描いていて楽しいキャラクターは?」といった来場者の質問にも気さくに応答。来場者にはきくちが「はなれのおねえさん」を連載中のたそがれ食堂vol.1(幻冬舎コミックス)、また記念品として豚の生姜焼きのレシピが描かれた描き下ろしペーパーを配布された。さらに記念撮影や本へのサインも行われるなど、ファンにとってはたまらない1日に。イベントでは「あたりまえのぜひたく。」の続編が、11月よりデンシバーズで再開されることも発表となった。きくちはイベントを振り返り、「生姜焼きは数を作るのが大変だったね」と苦笑い。しかし来場者からの「カレーパンも食べてみたい」の声に「じゃあ次はカレーパンかな。1人5個は食べれちゃうと思うから……20人なら100個か(笑)」と応え、第2回の開催を匂わせた。
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