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このマンガ、もう読んだ?
「青春戦士アサヒくん」王道コロコロマンガと思いきや……? 軽やかな裏切りで、読者を独特の世界観に惹き込む
2025年2月27日 18:15 PRやましたれお「青春戦士アサヒくん」
主人公の物部アサヒは、昔流行ったバトルホビーのバトピンが大好きな高校1年生。人見知りで不器用だけど、本当は“青春したい”アサヒは、ひょんなことから相棒バトピンのレッドサンとともに、地球の存亡をかけた戦いに巻き込まれ……。
文
コロコロの王道・熱血ホビーマンガかと思いきや……?
普段誰かと話していて、たまに会話が大きくグルーヴし始める瞬間がある。次々に話題が転がっていき、いつの間にか当初とはまったく違う話になっていたりして「あれ、今なんでこんな話してるんだっけ?」と我に返るような経験が誰しもあるのではないだろうか。2024年10月より週刊コロコロコミックにて連載中のやましたれお「青春戦士アサヒくん」は、まさにそんな作品だ。子供向けホビーをモチーフにしたコロコロらしい王道少年マンガのように始まりながら、読み進めていくにつれて少しずつ様相を異にしていく。
本作の主人公・アサヒは、小学生時代に大流行した「超カスタム!バトルケシピン」(通称「バトピン」)なる対戦型ホビーを愛する高校生。孤独だった小中学生時代から脱却すべく「青春計画」を胸に高校デビューを期するも、最初の自己紹介に失敗して早くもクラスで孤立してしまう。「やっぱり俺には青春なんて無理だったんだ」と絶望するアサヒだったが──という導入部を読んだ段階で、おそらく多くの読者が「たぶんバトピンとやらの対戦を通じて仲間やライバルができていく、コロコロでよくあるタイプのお話なんだろうな」と想像することだろう。少なくとも筆者はそう安易に考えた。
しかしページを進める先でアサヒの前に現れたゲームチェンジャーは、バトピンを愛する仲間候補キャラでもなければライバル候補キャラでもなく、ましてや師匠的な老人キャラでもない、まさかの巨大クリーチャーであった。腕のないイタチのような造形を持つその不気味な生命体は、次の瞬間アサヒに攻撃を仕掛けてくる。バトピン競技としての攻撃ではなく、普通に物理攻撃である。「死」の文字が脳裏をよぎるアサヒ。そこへクラスメイトの美少女・ユニが助けに現れ、なんやかんやあってアサヒはバトピンと“結身”(合体)して戦う能力に目覚め、敵を撃退するのだった。
ここで読者は、本作が「ダッシュ!四駆郎」や「BEYBLADE X」のような現実ベースのホビー対戦マンガではなく、ホビー的な能力を使ってファンタジックな敵対勢力と戦う「魔神英雄伝ワタル」タイプのバトルヒーローものに近い構造であることを理解する。当初の予想を軽やかに裏切られながらも独特の世界観にぐいぐい引き込まれていく、不思議な快感を味わえる作品なのである。
ミステリーツアーのような読み味
その後の展開でも、本作はさまざまなポイントにおいて予想を少しずつ巧妙に外してくる。例えばバトピンと“結身”して戦う戦士が複数登場することから、筆者をはじめとする安易な読者は能力バトル的な方向性を想像してしまいがちなところだが、実際には各バトピンの固有スキルというよりもキャラクター本人の性格が戦闘スタイルに大きく影響している。もしかしたら今後バトピンごとの性能差にフォーカスされる展開もあり得るのかもしれないが、少なくとも現時点においてはあまり重視されていない印象だ。
また、ポップな絵柄や能天気なセリフ回しなどとは対照的に、ストーリー自体はけっこうヘビーな設定となっている。ヒロインのユニが意外にも暗い過去を背負っていたり、バトピン部部長・ハカルの戦う理由もかなりシリアスなものだったりと、およそコロコロらしからぬ深刻なバックグラウンドが描かれる。アサヒが所属することになるバトピン部の意外な設立背景なども含め、パッと見の印象とは違って“設定で読ませる”タイプのマンガでもあるのだ。ユニの兄・ユウキのエピソードなどは、読んでいて「バトルマンガかと思ってたのに、今度はヒューマンドラマですか?」とキツネにつままれたような気持ちにさせられること請け合いである。
そうした数々の意外性が、違和感としてではなく効果的なスパイスとして機能しているところに本作の非凡さがある。「なんか思ってたのと違った」と感じつつも、先の展開が気になって仕方がない──そんなミステリーツアー参加者のような気分を味わえる1作である。
「青春戦士アサヒくん」第1話を試し読み!