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「盤上のオリオン」新川直司流の“ボーイ・ミーツ・ガール”輝く、将棋の世界の物語
2024年12月17日 12:30 PR新川直司「盤上のオリオン」
将棋の神童と呼ばれた少年・二宮夕飛は、とあることをきっかけにかつての輝きを失い、連敗続きの日々を送っていた。肩を並べていたはずのライバル・久慈彼方には公式戦で敗れ、29連勝目となる彼方に対し、夕飛は17連敗目。いよいよ将棋をやめようと決意したとき、夕飛は兄弟子に連れられたバーで客を相手に破天荒な将棋を指す少女・茅森月と出会い……。「四月は君の嘘」の
文
新川作品の“ボーイ・ミーツ・ガール”は、熱く、切ない少年少女の青春劇
ボーイ・ミーツ・ガールが好きだ。年齢とともに物語の好みも少しずつ変わっていったが、ボーイ・ミーツ・ガールは10代の頃と変わらず、たまらなく好きだ。
そういう僕が、いつも射貫かれるのが新川直司のボーイ・ミーツ・ガールだ。もちろん、その新作「盤上のオリオン」にも心奪われている。
ボーイ・ミーツ・ガールというと恋物語というニュアンスが強いが、いわゆるラブストーリーは一般的にはボーイ・ミーツ・ガールとは呼ばれない。1人の女の子との出会いが運命を変え、何かがはじまる。そこで生まれる成長にこそ、ボーイ・ミーツ・ガールの輝きがある。
新川作品でも、恋は要素のひとつになることが多いが、必ずしも物語の中心というわけではない。青春劇の一要素といったほうがいい。そして、描かれる関係も単純に恋と呼ぶことができない関係ばかりだ。
「さよなら私のクラマー」の前日譚に当たる「さよならフットボール」では、女子ながら男子サッカー部に所属する恩田希を描いている。メインテーマは1人の女の子のサッカーへの情熱とその輝き。そこに、恩田希との出会いからサッカーに没頭するようになった少年の、恋心混じりの絆が副旋律として描かれている。
「四月は君の嘘」では、かつて神童と呼ばれたピアニスト・有馬公生が、同級生のヴァイオリニスト・宮園かをりと出会い、音楽の世界へ戻っていく姿が描かれる。ここでも、公生とかをりの、ただの恋とは言いがたい関係が重要な要素になっている。
青春の挫折と孤独、そして挑戦の物語のなかで出会う戦友にも近い関係。そんな熱く、切ない少年少女の青春劇が、新川作品のボーイ・ミーツ・ガールなのだ。
そして、「盤上のオリオン」も、そういう新川流ボーイ・ミーツ・ガールになっている。
将棋の世界に現れたミューズ、そしてもう1人の主人公
本作で描かれるのは将棋の世界。プロ棋士への最後にして最大の関門である奨励会三段リーグに所属する少年・二宮夕飛が、連敗の末に将棋の道を諦めようとしたとき、バーで客相手に将棋を指す少女・茅森月と出会うところから物語が幕を開ける。若手棋士の注目株・山本博志五段の監修で描かれる将棋という勝負の世界は、スポーツマンガのように熱くなれる。
さて、夢を諦めかけた少年と、ときに暴君のように振る舞う天真爛漫な少女という組み合わせは「四月は君の嘘」でも描かれた新川直司の黄金スタイルだ。特に月に関しては、これぞ新川ヒロインというキャラクター。暴れん坊で唯我独尊、だけど無垢で強い意志を持っている。そんなヒロインが、おそらく新川直司の遺伝子に刻み込まれたミューズ像なのだろう。実際、コロコロと表情を変え、決めたらまっすぐ突き進む月はどこかキュートでカッコいい、たまらなく魅力的なヒロインだ。
棋士をめざす理由であった祖父を失い、ライバルにも敗北。「将棋に選ばれなかった」という強烈な挫折感にさらされる夕飛は、月にとって「辛気くせえガキ」。バイトや生徒会に勝手に巻き込む月は、夕飛にとって「ワガママ」で「傍若無人」。だが、そんな2人が将棋を通して、努力家で優しい夕飛と、天衣無縫で将棋を心から楽しむ月という、心の奥に潜んでいる姿を見つけていくことになる。
そうして見つけた夕飛に月がかける「君が信じれない君を」「私が信じるよ」という言葉は、まさに殺し文句だ。孤独な盤上へもう一度向かう勇気を与えるミューズ。それが月だ。
ただ、月がただのミューズ役かといったらそうではない。彼女は本作のもうひとりの主人公でもある。
挫折を味わった神童・夕飛の再生の物語と同時に、本作では月も夕飛との出会いで運命を変えていく。素人離れした実力を持ちながら、棋士なんて絶対になりたくないと語る月は、ある対局をきっかけにプロ棋士をめざす決意をする。
単行本では、今まさに月の物語も本格的にドライブしはじめたところ。天才・久慈彼方ら同世代の棋士たちも躍動しはじめ、いっそう熱くなっている。
友情、戦友、もしかしたらライバルにもなるかもしれない……夕飛と月の関係は単に恋と呼ぶだけでは足りない。新川直司のボーイ・ミーツ・ガールはいつだって、熱く、鮮やかで特別なのだ。
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