第1回コミナタ漫研レポート(ゲスト:森薫)【3/5】

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分布にメリハリを付けて、セリフを読ませる

 この左ページは特にセリフで構成されているページですね。横にセリフを配置して、直線的に読ませるというか。

失恋ショコラティエ

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唐木 セリフがみっしり詰まってますね。

 でも文字が多くても読みやすいんです。なぜかというと、ひとつのフキダシに入れる文字数を、だいたい6~7文字×3行くらいにとどめているからですね。感覚的にひと息で読める、読みやすい字数の目安です。

唐木 その数字って業界標準でみんなが共有してるんですか? それとも森さんだけが知ってるノウハウなんですか?

 人によって多少は違いますけど、手塚先生の「マンガの描き方」にもセリフの長すぎるのは良くないと書いてあるので、みんな知ってると思います(笑)。ただ水城先生はちゃんと守られてますね。あとここ、1コマの中に8行あるところでも、フキダシを3つに分割して、ひとつのフキダシの行数を減らしてますよね。これも読みやすくするための工夫です。

失恋ショコラティエ

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唐木 逆に右のページは大ゴマでセリフが少ないですよね。

 そうですね。セリフが割と多い作品なので、セリフのないシーンが印象的に残るというか、一瞬が長く感じる。読み手の視線を止めてしまうんですね。

唐木 なるほど。時間が伸長されて感じられるんですね。交通事故に遭ったときみたいに。

 セリフの分布に、濃淡というか、メリハリがありますよね。これがセリフを読ませる力になるんです。

コメディタッチのおかげで、あまり深刻にさせずに済む

 あと私はこのコマが大好きなんです。「キモイーキモイー」って。

失恋ショコラティエ

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唐木 水城先生のマンガって「失ショコ」に限らず、「黒薔薇アリス」でも「放課後保健室」でも、ちょいちょい笑いが挟まれますよね。

 コメディタッチを挟むことによって、あまり深刻にならずに済むんですね。おかげでマンガとして楽しむことができる。「失ショコ」ってまともに受け取るとだいぶドロドロした話なので、こういうコメディシーンが必要というか、いい息抜きになる。水城さんのサービス精神もあると思います。

唐木 シリアスに話だけを見ていったら、すごくしんどい話ですよね。救いがなさすぎる。

 サエコさんがどう思ってるかも分からず、延々とチョコレートを作り続け……。

唐木 ほとんど復讐劇だもんね。

 割と前向きなんですけど、後ろ向きに前向きというか。

唐木 分かります。後ろ向き徒競走ですよね。そういう中でこの「キモイー」みたいなシーンがあると、気分が軽くなるというか、楽に読み進められます。

思い切り正反対から始めることで、対象を際立たせる手口

 あと水城先生はとにかく思い切りがいいので、中途半端なことをしないんです。常に本気。とにかく潔くて、何もそんな無理めな設定から始めることもないんじゃないかと思うような、すごい設定から始めることが多いですね。

唐木 爽太くんがこれから落とそうとしているサエコさんは人妻で、脈がなく、しかもご近所みたいな生活圏の接点もなく、さらに、すでにフラれている。

 もうコテンパンにフラれてて。ちょっとここから逆転するのはだいぶ難しいんじゃないかという、そんな設定から始めている。

唐木 そこから始めることに、どういった意図があるんですか。

 もう残っているのはチョコレートのみなんです。チョコの力に頼るしかない。すると、すごくチョコレートの存在感が際立つんですね。あと水城先生には、そんな無理めな相手でも振り向かせるくらいの魅力がチョコレートにはある、という信念があるんじゃないかと。

唐木 なるほど、ではこの設定はチョコレートを際立たせるための演出というか。

 全部とまでは言わないですが、チョコレートがあったからこそ描き始めた話なんだな、というのはひしひしと感じられます。とにかくすごくチョコレート愛にあふれた作品だと思いました。

せとなさんの絵は「長方形」でできている

唐木 では次に、絵の話をしましょう。

 ちょっと印象的というか、なかなか忘れない絵ですよね。

唐木 このトークイベントをするにあたって、前もって森さんと打ち合わせをしたんですけど、そのときいちばん目からから鱗だったのが、せとなさんの絵は長方形でできている、という指摘でした。

 目の形も瞳も長方形ですし、唇もアゴも割と長方形。特徴的なのが、このほっぺたの長方形のハイライト、これはすごく珍しいと思います。

唐木 このトーンが削られた部分ですね。

失恋ショコラティエ

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 普通は三角形にすることが多いですね。

唐木 もうひとつ。これは爽太に冷たくされたサエコさんが、もう一度爽太を魅了しようと入魂のメイクを終えたシーンです。この横顔のトーンの切り出し方も、まさに。

失恋ショコラティエ

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絵柄からプロファイリングされる、描き手の人となり

 独特ですよね。迫力が伝わってきます。このマンガは全体的な絵柄がシャープというか、四角くかっちりした感じ。そこから水城先生の曖昧さや中途半端を許さない、という意思が伝わってくるというか。

唐木 これってご本人の人格に由来してるんですか?

 やっぱり絵柄ってその人の内面が出たりするものなので、結構ハキッとした方なんじゃないでしょうか。お話も、もう誤読のしようがないくらいはっきりした作品ですし。

唐木 ということは、森さんは水城先生にお会いしたことがないけれど、マンガを読んでるだけで人格が分かる、という。

 なんとなくですよ(笑)。勝手に想像してるんです、マンガ読みながら。

唐木 「こんなに四角い絵を描く人はシャープな人格だろう」と。

 あ、でも考え方ははっきりしていらっしゃるかもしれませんが、チョコレートという女性らしいモチーフを選ぶところとか、お店の内装のキラキラした感じとか、ロマンティックなところもいっぱいあるので、マッチョでパワフルというイメージではないです(笑)。(つづく)

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第1回コミナタ漫研レポート(ゲスト:森薫)【3】 http://natalie.mu/comic/news/40888

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