梅田芸術劇場 特集|男役スターからプロデューサーへ、宝塚OGの3人が語る「何でもやる会社・梅芸」

大阪の中心地・梅田駅からほど近い場所に、メインホール、シアター・ドラマシティ、2つの劇場を構える梅田芸術劇場。関西の演劇界を牽引する梅田芸術劇場が、東京にも拠点を持っていることをご存知だろうか。そんな梅田芸術劇場 東京事業部が精力的に取り組んでいる企画が、自主制作公演・UMEGEI PRESENTSシリーズだ。同社では、海外のミュージカル作品や梅田芸術劇場と縁の深い宝塚歌劇団OG公演などバラエティに富んだ多彩な公演を積極的に制作・発信している。

このたびステージナタリーでは、宝塚歌劇団の男役として活躍し、現在は梅田芸術劇場 東京事業部でプロデューサーを務める上野糸子氏、篠原江美氏、髙橋麻衣氏の3名にインタビューを実施。UMEGEI PRESENTSを牽引する元タカラジェンヌの3名が語った「何でもやる会社・梅芸」の信条とは?

取材・文 / 興野汐里 撮影 / 金井尭子

UMEGEI PRESENTSとは?

UMEGEI PRESENTSは、梅田芸術劇場 東京事業部が手がける自主制作公演。制作部門には上野糸子氏、篠原江美氏、髙橋麻衣氏ら10数名のスタッフが所属しており、三島由紀夫の戯曲をデヴィッド・ルヴォーが演出した舞台「黒蜥蜴」といったコラボレーション作品や、2016年に韓国で初演されたフランク・ワイルドホーン作曲によるミュージカル「マタ・ハリ」など海外の人気ミュージカルを制作・上演している。このほか、謝珠栄演出・振付、花總まり主演によるオリジナルミュージカル「Romale (ロマーレ)~ロマを生き抜いた女 カルメン~」や、「PHOTOGRAPH 51(フォトグラフ 51)」をはじめとする海外のストレートプレイ作品、そして宝塚歌劇団OGによるコンサート「Trois Violette」、パフォーマンスショー「SHOW STOPPERS!!」など、ジャンルにこだわらない意欲作が今後も目白押しだ。

上野糸子氏、篠原江美氏、髙橋麻衣氏 座談会

“強さ”を持つ女性に焦点を当てた3作品

──3月23日に開幕する、上野糸子さんご担当のミュージカル「Romale(ロマーレ) ~ロマを生き抜いた女 カルメン~」や、4月にスタートする髙橋麻衣さんご担当の「PHOTOGRAPH51(フォトグラフ51)」、5月から上演される篠原江美さんご担当のミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」と、2018年のUMEGEI PRESENTS作品には1人の女性に焦点を当てた魅力的な作品がそろいました。

上野糸子

上野糸子氏 「Romale」で主演を務める花總まりさんが宝塚歌劇団在団中の1999年に「『激情』ーホセとカルメンー」という作品を演じられて、その後2008年には、謝珠栄先生が主宰するTSミュージカルファンデーションで、カルメンを主軸とした「Calli(カリィ)~炎の女カルメン~」を、梅田芸術劇場所属として活動する元トップスターの朝海ひかる主演で上演したんです。その頃、私はまだプロデューサーではなく、朝海のマネージャーをやっていて。謝先生は、昨年上演された「Cosmos Symphony『Pukul(プクル)』―時を刻む鼓動―」で初めてUMEGEI PRESENTS作品を手がけていただいたのですが、今回またご縁があって「Romale」でもご一緒させていただくことになりました。今作ではカルメンに焦点を当てながら、民族の違いが生んだ悲劇について深く掘り下げていく予定です。ミュージカル「エリザベート」やミュージカル「レディ・ベス」といった作品を経て、花總さんが演じる2度目のカルメンはどのように変化したのかをお客さんは楽しみにされていると思いますし、謝先生も新しい作品として挑まれているので、「Calli」をご覧いただいた方にも、今回初めてご覧いただく方にも楽しんでいただけると思います。

──2月に一般オーディエンスを招いて行われた制作発表が、「Romale」の世界観とマッチしたフラメンコショーが見られるレストランで開催されたことにも強いこだわりを感じました(参照:謝珠栄が立ち上げる新たなカルメン像とは?花總まり主演「Romale」始動)。

上野 会見で披露した「流浪の民」と「すれ違う心」の2曲は音楽監督・玉麻尚一さん作曲のナンバーなのですが、今回は玉麻さんのほか、斉藤恒芳さん、小澤時史さんが「Romale」のために全曲書き下ろしてくださっています。稽古場で日々、歌詞や曲のアレンジを手直ししながら制作しているので大変なことも多いですが、 “今作っている感”が本作の面白さであると感じていて。会見でお聴きいただいた2曲も、もしかしたら本番までに変わっているかもしれません(笑)。

──時を同じくして、4月には、女性科学者ロザリンド・フランクリンと、彼女を取り巻く5人の男性がノンストップで繰り広げる会話劇「PHOTOGRAPH51(フォトグラフ51)」が幕を開けます。

髙橋麻衣氏 15年にニコール・キッドマンさん主演で初演された本作に、初舞台の板谷由夏さんが挑戦するのですが、こちらはまだ稽古には入っておらず、3月からリーディングと稽古が始まる予定です(取材は2月下旬に行われた)。12月に一度リーディングを実施したんですが、そのときにキャストの皆さんが「役が立ち上がった」とおっしゃっていたのが印象的で。科学用語が入ってくるので一見すると難しいかなと思われるかもしれないのですが、内容としては1人ひとりの人生に焦点を当てながら、彼女の研究に男性たちがどう絡んでいって、その後の人生がどう変わっていくのかを描いたものなので、演劇ファンにはたまらない密度の高い90分の作品になっています。

上野 「PHOTOGRAPH51」は実話に基づいたストーリーなんだよね?

髙橋 そうなんです! ロザリンド・フランクリンを好きな“リケジョ(理系女子)”の皆さんにぜひ注目していただきたい作品です。

──続いて、早霧せいなさんの宝塚歌劇団退団後、初主演ミュージカルとなる「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」についてお話を伺えればと思います。

篠原江美

篠原江美氏 退団されてすぐの演目は何がいいのかというのは、どなたのときも悩むことなんですけど、トップスターに上り詰めた方にとっては宝塚がすべてじゃないですか。退団公演に力を注いだから「あとは余生」くらいの気持ちになると思うんですが、実は辞めてからの人生のほうが長いんですよね(笑)。

上野髙橋 そうそう、そうなんですよ(笑)。

篠原 退団後、早霧さんが初主演を張るとしたらどんな作品がいいだろう?と会社を上げて考えて、甘いラブストーリーをやるよりは、自立した女性を描いた作品で、自分の目標に向かって真っ直ぐに進んでいくようなタイプの女性の役をやってもらうほうが早霧さんには似合うんじゃないかということになったんです。そこで、いわゆる“バリキャリ”と呼ばれるトップニュースキャスターが主人公の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」を早霧さんにオススメしたところ、「この作品がいい」と承諾していただきました。男役というのは1つの型なので、その芸を磨いてきた方が女優に転身するっていうのはすごく大変なことだっていうのはよくわかるんです。彼女にとって今作は大きな挑戦になると思いますが、共演者にも相葉裕樹さんをはじめとした魅力的な俳優さんがキャスティングされていますので、楽しみにしていてください。

──「PHOTOGRAPH51」「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」をはじめ、梅田芸術劇場では海外の人気戯曲や新進気鋭の演出家の情報に常にアンテナを張っていらっしゃいます。海外から輸入されたこれらの作品は、どのような流れで制作されてらっしゃるのでしょうか。

上野 1週間に1回、もしくは2週間に1回ほど、2時間くらいの制作会議を実施していて、その会議でそれぞれが担当している公演の状況や、海外で観た作品の感想などを社内で共有しているんです。1人ひとりのキャパシティは限られているけれど、例えば「この作品のイメージに合う役者さんはどなただろう?」というテーマに沿って全員でアイデアを出し合いながら、「あの俳優さんはこんな特技があるから、作品に取り入れてみてはどうだろう」といった情報をオープンにしていくことで、いい意味で思いがけない方向に向かうこともあるんです。

篠原 できる限り劇場に足を運んで作品を観たいと思っているんですが、稽古期間に入るとどうしても都合がつかないこともあったりして、そんなときに「最近何か観た?」「あの作品どうだった?」なんて話をすることもありますね。

株式会社梅田芸術劇場
株式会社梅田芸術劇場

宝塚歌劇団の運営元である阪急阪神ホールディングスグループに属する株式会社梅田芸術劇場では、2005年4月に開場した大阪市北区茶屋町にあるメインホールおよびシアター・ドラマシティの運営管理や、演劇公演の企画・制作・興行、梅田芸術劇場の貸館、アーティスト・プロダクション事業を展開。3層に分かれた客席を有する大規模ホール、メインホールと、舞台と客席との一体感を重視した中規模ホール、シアター・ドラマシティの2つを所有しており、アーティスト・プロダクション事業部には麻実れい、湖月わたる、朝海ひかる、樹里咲穂、野々すみ花、則松亜海らが所属している。

上野糸子(ウエノイトコ)
1983年に宝塚歌劇団に入団し、天地ひかりとして活動。95年に同劇団を退団。主なプロデュース担当公演は「ローマの休日」、ミュージカル「ファントム」再々演、「夜への長い旅路」「OTHER DESERT CITIES」「エリザベート・ガラコンサート」、ミュージカル「Romale(ロマーレ)~ロマを生き抜いた女 カルメン~」など。
篠原江美(シノハラエミ)
1983年に宝塚歌劇団に入団し、黒川深雪として活動。91年に同劇団を退団。主なプロデュース担当公演は「蜘蛛女のキス」「MUSICAL『MITSUKO~愛は国境を越えて』」、ブロードウェイ・ミュージカル「ワンダフルタウン」「CHESS」、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」「オーシャンズ11」、ミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」など。
髙橋麻衣(タカハシマイ)
1995年に宝塚歌劇団に入団し、一色瑠加として活動。2012年に同劇団を退団。主なプロデュース担当公演は「エリザベート TAKARAZUKA20周年 スペシャル・ガラ・コンサート」、ミュージカル・コメディ「パジャマゲーム」。