東京芸術祭 PR

「東京芸術祭ワールドコンペティション2019」横山義志インタビュー|東京から、対話で舞台芸術の世界基準を複数化する

9月21日に開幕した「東京芸術祭2019」のメインプログラムで、会期中盤に開催されるのが「東京芸術祭ワールドコンペティション」だ。アジア、オセアニア、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ、そして日本から選ばれた6組のアーティストが一堂に会し、互いの価値観をぶつけ合う。なお本プロジェクトは7日間にわたって行われ、参加6作品から最優秀作品賞、観客賞ほかが選出されるほか、各作品の推薦人によるトークイベントなども行われる。世界照準の、この壮大なプロジェクトに込めた思いを、東京芸術祭国際事業ディレクターで本コンペティションのディレクター・横山義志が語る。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 藤田亜弓

世界基準を日本で立ち上げよう

──「東京芸術祭ワールドコンペティション」は“世界の舞台芸術の新たな登竜門”となることを目標に掲げ、今年スタートします。どんな思いから立ち上げられたのでしょうか?

横山義志

最近、ずっと気になっていたのは、自分より若い世代の方々で、海外のことに興味を持っている人が少ないということでした。例えば日本で海外からの招聘作品をやってもあまりお客さんが入らないとか。私は7年ほどパリに留学していたことがあるんですが、年々日本人が減っていて、代わりに韓国人や台湾人、そして中国人が増えていった。また最近どこの演劇フェスティバルに行っても日本の若い人にあまり会わなくて、韓国や台湾、中国の若者が多かったり……。だからどうすればもっと日本のアーティストが活躍できるのかを、ずっと考えていました。その中で、まずはアジアのアーティストが活躍する仕組みを作る必要があるのではないか、もっと言えば世界中のアーティストが平等に活躍できる仕組みを作る必要があるのではないかと思い、それを東京で作れれば日本のアーティストももっと活躍できるようになるのではないかと思ったんです。そんな思いがこの「ワールドコンペティション」の発想の根幹にあります。またそうでもしない限り、例えば「日本の魅力を発信する」といったやり方だけでは、日本のアーティストが活躍できるようにはならないだろうとも思ったんです。

──それが、宮城聰さんがよくおっしゃる、「ヨーロッパ中心の価値観に揺さぶりをかける」ということにつながるのでしょうか。

「基準を増やす」「尺度を増やしていく」という言い方をしていますが、そうですね。今の舞台芸術界の世界基準は、大まかに言うとヨーロッパ基準なんです。例えば今、舞台芸術と言うとジャンル設定が“演劇、ダンス、オペラ”ですが、そのジャンル自体が近代ヨーロッパでできたもので、日本の芸能である歌舞伎や能は、どれに入るかと言われると困ってしまう。そのことも、私がずっと気になっていたことでした。実は私がフランスで書いていた博士論文は、ヨーロッパで歌と踊りがない演劇がなぜできて、それが世界基準になったのかということだったんです。そして今、その基準を問い直す絶好のチャンスだと思うんですね。と言うのも、“演劇、ダンス、オペラ”という分類ができてたのが16世紀から19世紀くらいで、それはちょうどアジアからヨーロッパに世界経済の中心が移っていった時代なんです。ところが2020年代には世界経済の中心がまた欧米からアジアに移ってくると言われていて、舞台芸術の世界基準も変わっていく可能性がある。でも「じゃあこれからはアジア基準でいきましょう」と言っても世界の人が納得しないとアジアの人も世界で活躍できないので、それなら世界の人が納得できるような世界基準をここから立ち上げていこうと考えました。

価値観の違う人同士が話し合う仕組みを作る

──壮大なプロジェクトですね。この企画は、いつ頃から考えていらっしゃったのですか?

2年前くらいですね。

──ショーケースではなくコンペティションにしたのは?

横山義志

ショーケースだと「私はこれが好き」というものを選んでいくわけで、ある意味平等かもしれませんが、最近は舞台芸術に限ったことではなく、住み分けの仕組みができている気がしていて。つまり多様性の時代と言いながら、「私はこれが好き、あなたはそれが好き」と訴えるだけで、それぞれがそれぞれの場所で無関係に生きていればいいというような雰囲気ができてしまっている気がする。そうなると分断をより深めてしまうと言うか、価値観の違う人同士が出会わないようになってしまうのではないかと思ったんです。私が「ワールドコンペティション」でやりたかったのは、むしろ価値観の違う人同士を無理やり出会わせてしまう仕組み、そして価値観の違う人同士が話し合わないといけない仕組みなんですね。コンペティションで誰かを選ぶには、自分がなぜいいと思うのか伝えないといけないし、思いを伝えるためには相手と共通の土俵を作っていかなければなりませんから。例えばヨーロッパの人同士であれば、「これはピナ・バウシュ的だね」と評せば通じるかもしれませんが、アフリカの人には通じないかもしれない。話し合うためにどれだけみんなが納得できる土俵を作れるかを、審査員たちには勝負してほしいんです。

──本コンペティションでは、各地域で国際的な舞台芸術祭に携わっているプロデューサーが、“推薦人”として参加アーティストを選出し、それをアーティスト審査員のほか、批評家、観客が審査する仕組みとなっています。多角的な目線が入る土台がすでにできあがっていると思いますが、何か参考にしたコンペティションはあるのでしょうか?

一番参考にしたのはギリシャの大ディオニュシア祭(編集注:ギリシャ神話に登場するディオニュソス神を祝して行われる大祭)です。大ディオニュシア祭にはギリシャ悲劇のコンペティションがあって、今から見ると悲劇というのは決まったもののようですが、例えば紀元前6世紀と前3世紀では悲劇の形式は全然違っていて、つまり毎回価値観が変わる中で、そのときの“一番”を決めていた。価値観の違う同士が集まって、価値観を更新していく仕組みだったわけです。そこから影響を受けている部分はありますが、細かい仕組みの部分では特にモデルはありません。