「東京芸術祭2020」ディレクター座談会|走り出して3年目、8人それぞれの思いがチームを強いものに

「東京芸術祭」が今年も開催される。東京・池袋を中心に実施される都市型総合芸術祭・「東京芸術祭」は、2016年のスタート以来、国内外の多彩な舞台芸術を紹介してきた。今年は新型コロナウイルス感染拡大予防策を十分に講じたうえで、劇場での上演とオンライン開催を織り交ぜながらの展開となる。プロジェクトの軸となるのは、総合ディレクター・宮城聰とプランニングチームに名を連ねた7人のディレクターたち。本特集では宮城に今年の開催に向けた思いを聞いているほか、国際事業ディレクターの横山義志、東京芸術劇場の内藤美奈子、「フェスティバル/トーキョー」ディレクターの長島確と共同ディレクターの河合千佳、あうるすぽっとの根本晴美ととしま未来文化財団の杉田隼人、APAFディレクターの多田淳之介に、ディレクターとしての思いやそれぞれのプロジェクトについて語ってもらった。

取材・文 / 熊井玲

総合ディレクター・宮城聰が語る「東京芸術祭2020」

──宮城さんを軸に、現在のプランニングチームが発足して3年目。どんなチームになってきたと思われますか?

宮城聰

僕は、“人材が育つ”環境というのには、メンバー相互に“張り合う”意識があること、いい意味での競争があることが必須と思ってきました。そして「東京芸術祭」プランニングチームはそういう場になってきていると感じます。そして同時に、(張り合いながらも)メンバーの誰かの不得意部分を別のメンバーがカバーしよう、という“友情”も増していると感じます。最初は「社内カンパニーの各責任者が集まった」だけでしたが、すでにその縦割りを越えた“チーム”として機能するようになってきたことにとても安心しています。

また、そういうチームなので僕の号令一下で動く組織とは異なりますが、今春のプランニングチームの集まりでは、「そもそも今年の秋、東京芸術祭をやるべきなのか? そこに税金を使うべきなのか?」というところから議論を始めました。

その時点では、ほとんどの都民は“感染拡大防止”にできるだけリソースを割いてくれ、と考えていたと思います。ではなぜ、その最中に「東京芸術祭」を行うのか。

それは、「多様な価値観の存在を許容できること」が社会全体の“強靭さ”をもたらし、結果として新型コロナ対策に於いてもプラスになると思えるからです。新型コロナは今なお未知の相手であり、誰も「こうすればいい」という正解を知りません。正解がわからないとき、人間は不安に駆られて、何か1つハッキリした策に頼りたいと思い、反対意見を“敵”と見なしてしまいがちです。しかし、そのような傾きは社会を脆弱にしてしまいます。「このような考え方がある、が、一方にこういう考え方もある」という構えを人々が取ることによって、刻々と変わる状況に対応できるしぶとく逞しい社会が実現するのではないか──つまりは“多様性”をなんとか担保する仕掛けとして「東京芸術祭」は寄与できるし、これを中止してしまうことは、大きく見れば東京が、日本が、二分法的思考が支配する脆弱な社会に傾斜してゆくことを後押ししてしまうのではないか、といったことを考えました。

──今年の「東京芸術祭」に、観客にはどのように“参加”してほしいと思われますか。

今日、他者への共感力が衰えて“分断”が進行している背景には、人間の生活の中で“生身の他者と向かい合う”機会が激減している状況があるでしょう。近年、舞台芸術は、その状況への処方箋として存在感を増していました。そんな中で突如、“生身”と出会うことが何よりも困難な状況が訪れたわけですが、しかしアーティストも観客もここで絶望するのではなく、芸術が持っているもうひとつの力、つまり“先入観を根底から疑ってみる力”を最大限に発揮して、これまでとは異なる方法で他者と向かい合うことに挑まねばならないと思っています。

例えば、これまで“バーチャル”は“身体”の対立概念のように捉えられてきましたが、実は対立概念ではなく、テクノロジーとしての“バーチャル”が、受け手にとって全身的な出来事、身体の事件、となり得ることは、過去の芸術の歴史を見てもわかります(例えば“油絵”というテクノロジーひとつ取ってみてもわかります)。

全身的な体験が、ほんのわずかでも共有されていれば、そのうえで、バーチャルという手段がそのわずかな泉を掘削し、身体的事件として間歇泉のように噴き出させることも不可能ではないはずです。

今まで劇場に足を運ぶのが一番の趣味だった方の中にも、今は劇場に行くのを躊躇するなあ、という方が大勢いらっしゃると思います。しかしアーティストの側は、そのような現状に対して、「いま劇場に来てくださる方々が本当のお客様だ」という狭い考えに閉じこもるのではなく、むしろ、今まで劇場に行こうとしなかった方々にもアプローチしようとしています。ぜひそういうアーティストの挑戦を応援していただければと思います。

──今年、宮城さんご自身がプロデュースされるプログラムは?

池袋西口公園でのワンコイン野外劇「NIPPON・CHA!CHA!CHA!」は、鳥取で鳥の劇場を主宰されている中島諒人さんが演出します。如月小春さんが1988年に発表したこの戯曲には、“東京オリンピック”を相対化して、(単にしらけたり逃げたりするのではなく)ちょっと外側からはっきり見つめようとする貴重なスタンスが内蔵されています。「東京芸術祭」として、鳥の劇場と“つながる”作品であるとともに、“熱狂”でも“嫌気”でもない東京オリンピックへの眼差しを当の都民が獲得できるようなヒントを提供する公演です。

野外劇「NIPPON・CHA!CHA!CHA!」より。(撮影:大中小)

そしてこの公演の稽古スタートからコロナ禍、そしてオリンピック延期、さらにコロナ対策を張りめぐらせての上演実施、という過程自体を、未来に残すドキュメントとして記録しています。この作品の歩みは“2020年”という年のまたとない記録であって、将来にわたって重要な作品と位置付けられてゆくと思います。

宮城聰(ミヤギサトシ)
演出家。静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京芸術祭総合ディレクター。2007年にSPAC芸術総監督に就任。2017年に「アンティゴネ」をフランス・アビニョン演劇祭のオープニング作品として法王庁中庭で上演。アジアの演劇がオープニングに選ばれたのは同演劇祭史上初めてのことであり大きな反響を呼んだ。2006年から2017年舞台芸術祭(現アジア舞台芸術ファーム)プロデューサー。2019年東アジア文化都市2019豊島舞台芸術部門総合ディレクター。2004年第3回朝日舞台芸術賞、2005年第2回アサヒビール芸術賞、2018年平成29年度第68回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2019年4月フランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章。

プランニングチーム7人が語る「東京芸術祭2020」

横山義志
横山義志
根本晴美
根本晴美
内藤美奈子
内藤美奈子
多田淳之介
多田淳之介
杉田隼人
杉田隼人
長島確
長島確
河合千佳
河合千佳

3年目を迎えたプランニングチーム

──2017年11月に「東京芸術祭」のプランニングチーム発足が発表され(参照:東京芸術祭2018プランニングチーム発足、多田淳之介らがディレクターに就任)、現体制になって今年で3回目の「東京芸術祭」開催となります。「東京芸術祭」のディレクターに就任されてからの3年を、それぞれどのように実感されていますか?

横山義志 「『東京芸術祭』に関わり始めてから、もうそんなに経つのか」と驚いたのですが、この3年間にずいぶんいろいろな話をしたと思いますね。「東京芸術祭」そのもののコンセプトについて、プランニングチームとは別に非公式で集まって、これまでかなり議論を交わしました。それはとても意味があったと思う一方で、「東京芸術祭」の在り方を根本から見直そうとしていたときに今回のような状況になり残念ですが、この状況も含めて今後のことを考えているところです。

根本晴美 「東京芸術祭」のスタート当初から、池袋を中心にさまざまな文化を多角的に取り上げていくことに意義を感じていて、そのコンセプトに則ってこれまで3年、「フェスティバル/トーキョー」など 他の事業と連携し、芸術祭を盛り上げてきたつもりです。今年は、このような状況下にもかかわらず芸術祭を開催すると決めたことが意義深いですし、これからを担う若い人たちに、少しでも希望を与えられるようなフェスティバルになれば良いなと思います。

長島確 「フェスティバル/トーキョー」は2018年に共同ディレクター体制になり、でもそれを機に急に変わったというより、以前からやってきたことをさらにどう進めていくかを追求してきました。特に大きいのは“劇場から街へ出ていく”ことで、街の中で何かを作り、街の人たちと関係を持つことに一層取り組み始めた結果、びっくりするような面白い出会いがいくつも起こって。そういった出会いがどうしたら起きるかを、この3年、意識してやってきたつもりです。

河合千佳 以前から東京芸術劇場やあうるすぽっとなど、個々のプロジェクトについて知ってはいましたが、芸術祭全体としてどう見せるかという目線で考えるようになりました。また各ディレクター、各プロジェクトに得意なことは何かや、宮城(聰)さんがよくおっしゃるように“分断”ができないようにするにはどうすれば良いかを考えるようになったと思います。

内藤美奈子 同じ舞台芸術に関わっていても、ジャンルや守備範囲が異なる方々と情報交換をする機会はなかなかなかったので、これまで接しなかったような方々と意見を交換できたのは、すごく貴重な時間だったなと思います。

多田淳之介 APAFに関しては、プログラムを少しずつモデルチェンジしてきて、今年はコロナ対策で全部オンライン開催に切り替えるという想定外のことはありましたが、着実にアジアの若い世代と一緒に実験や試行の場を作っているという実感があります。いかに若い世代が当事者として参加できるかは芸術祭全体としても重要なミッションなので、各ディレクターともそこはかなり意識して進めてきたと思います。

杉田隼人 これまでとしま未来文化財団が手がけてきた事業は、ほかのプログラムとかなり質が違うものだったので、当初は東京芸術祭の中でどう役割を果たせるのか、どう関わっていけばいいのかわからない部分がありました。でもほかのディレクターの方々とお話させていただく中でプログラムについての視野が広がりましたし、事業ごとにさまざまなお客様にアプローチしていくことで、立体的に東京芸術祭をとらえることができるようになってきたのではないかと思っています。

情報共有が密なチームに

──2018年の初めにインタビューさせていただいたときは(参照:「東京芸術祭2018」ディレクター8人勢ぞろい)、ほぼ初対面という方も多くいらっしゃいました。現在はどんなチームになってきましたか?

多田 顔を合わせたり、よく連絡を取っていますね。ほぼ1年中(笑)。

長島 むしろ芸術祭の会期前になるとそれぞれの事業に集中するので話をすることが減るくらいですよね。おかげで横の扉が開いたというか、早めの情報共有ができるようになったと思います。

河合 以前は、それぞれの劇場やフェスティバルは、お互いを高め合いながらもライバルってところがあったと思うんです。でもチームになったことで「全体を良くするためには?」ということを考えるようになったり、お互いがどこかに視察に行った情報を共有したり、環境やキャリアの違う人が集まっているのに面白いチームになっているんじゃないかと。

杉田 情報共有については皆さんと同感です。またプロジェクトチームの中で私は一番キャリアが短いんですけど、私の意見も皆さん受け入れてくださる懐の深さがあり(笑)、いろいろな意見が言い合えているのではないかなと。それぞれ視点が少しずつ違いますが、だからこそ強いものになっているのではないかと思いますね。

内藤 宮城さんが大きな石をバーンと池に投げてわーっと波が立ったところへ、横山さん、長島さん、多田さん、杉田さんが船を漕ぎ出して道を見つけていく。その様子を、私なんかは岸から眺めて、「そっちに行くと○○なんじゃ……」と声をかけるというか(笑)。

根本 そうですね。時間をかけてブレストしてもらってあがってきたアイデアを、またさらに各々がブラッシュアップしていけるので。

長島 ただ、プランニングチームだからと言ってみんなで一体となって単一のことに取り組むということではなく、それぞれがそれぞれに得意を生かしてやっている感じですね。まさにそれが東京の姿だと思うし、そのやり方を2・3年かけて探ってきたという感じがします。