ここでは「手話のまち」を総監修する牧原依里が、数あるラインナップの中でも一押しの作品を紹介する。
手話バトル「SIGN SLAM」
2025年11月7日(金)予選
2025年11月8日(土)決勝
東京都 座・高円寺2
出演:ダグラス・リドロフ、板橋弥央
司会者使用言語:日本手話・国際手話
作品紹介
即興力と表現力が試される、国際的な手話バトル大会。アメリカ発祥の「SIGN SLAM」創設者ダグラス・リドロフが来日する。手話に関する表現なら何でもあり。選ばれた16人がぶつかり合い、優勝は観客の投票で決められる。
牧原依里おすすめポイント
ろう芸術の演劇で確立された表現方法であるVVを楽しめるのが、「SIGN SLAM」です。このバトル大会では手話に関する表現ならなんでもありです。国際手話でも日本手話でもどの国の手話でもOKです。16人の挑戦者が与えられたお題を見て、手話語りや手話ダンス、VVといったそれぞれの表現方法で競います。持ち時間は1分間なので、即興力と発想力が求められます。もともとアメリカ発祥のバトル形式で、以前、日本で開催されたときはとても盛り上がりました。このバトルでは国境を超えた手話表現の熱い闘いが楽しめると思います。
※このイベントでは手話表現に注目していただくためにあえて音声言語の情報保障はつけていないので、申し込まれる際にはご留意ください。
日本ろう者劇団×デフ・パペットシアター・ひとみ×カンパニーデラシネラ 共同創作プロジェクト
演劇「100年の眠り」(日本)
2025年11月8日(土)・9日(日)
東京都 座・高円寺1
作・演出:小野寺修二
出演:數見陽子、中江央、榎本トオル、崎山莉奈、雫境、那須映里、守屋水結
上演言語:ノンバーバル
作品紹介
流されず、惑わされず、眠りから始まる。グリム童話「眠り姫」から想を得た無言劇。マイムの動きをベースに、独自の演出方法で注目を集めるカンパニーデラシネラの小野寺修二が演出。ダンス・マイム・手話・言葉の境界を超えた、身体を探求する。ろうの小学生も出演。
牧原依里おすすめポイント
日本ろう者劇団、デフ・パペットシアター・ひとみ、カンパニーデラシネラが7年前から創作してきた作品で、今回はその集大成が上演されます。小野寺さんとは旧知の仲ですが、「表現とは何か」をお互い、聴者、ろう者の立場で話し合ってきました。今までの共同作品では出演するろう者と聴者は同じくらいの比率でしたが、今回、聴者は1人だけ。ろう者と聴者の比率が変わった「100年の眠り」だからこそできる身体表現、生まれる質感はどのようなものかということを考え、いろいろな試行錯誤を経て、今回の最終形に挑戦されます。グリム童話「眠り姫」から発想を得ていますが、セリフもなく、身体表現だけで表される新作としてお届けできるのではないかと思います。
レクチャーパフォーマンス「マーク・オブ・ウーマン」(イギリス)
2025年11月6日(木)・7日(金)
東京都 座・高円寺1
芸術監督・パフォーマー:南村千里
上演言語:イギリス手話
字幕:日本語(音声ガイドあり)・英語
作品紹介
女性と刺青文化を、視覚的に構築された詩的な手話表現(VV)とテクノロジーで探求するパフォーマンス。ジャパンプレミア上演となる。
牧原依里おすすめポイント
出演者の南村千里さんは、イギリスで活動されている日本人のアーティストです。タトゥーに関連したパフォーマンスプロジェクトとなりますが、イギリス手話、VV、デジタルアニメーション、動的プロジェクション、そして Woojer™テクノロジーを駆使して、女性と身体装飾の関係を探ります。観客はパフォーマンスと連動して振動を体感できるような機械を持って観劇するのですが、その機械は36個しかありませんので、気になる方はぜひお早めにご予約を(ろう者と難聴者対象です)。
Teater5005
演劇「オン・ザ・エッジ」(デンマーク)
2025年11月7日(金)
東京都 座・高円寺1
演出・声出演:オーレリアン・マン
ドラマトゥルギー・映像:オードリー・サングラ
出演:オリヴィエ・カルカダ、ボー・ホーデル
上演言語:国際手話・英語音声
字幕:日本語・英語
作品紹介
劇場で働くニールスが現実と幻想の境界に揺れ、精神世界を描く手話劇。メンタルヘルスとの付き合い方について問いかけながら、他者との関わりに潜む“奇妙さ”を探求する本作は、即興と実験を通じて手話で創作され、手話の視覚的表現の可能性を追求する。
牧原依里おすすめポイント
「Teater5005:手話と共に創る舞台芸術」をテーマに無料トークを開催します。そこではTeater5005劇団の今までの活動やろう者の視点を重視しつつ、聴者を巻き込んでいく演劇とは何かというテーマで語っていただく予定ですので、ぜひトークにもご参加ください。
演劇「終着駅への軌跡」(日本)
2025年11月7日(金)・8日(土)
東京都 座・高円寺2
原作:米内山明宏、那須英彰
出演:砂田アトム、江副悟史
字幕オペ:長谷川翔平
上演言語:日本手話
字幕:日本語・英語
作品紹介
ろう者の歴史をたどる作品。1995年の初演以来、全国各地で上演を重ねてきた二人芝居が、新たな解釈でよみがえる。
牧原依里おすすめポイント
もともと米内山明宏さんと那須英彰さんが上演していた作品を、日本ろう者劇団の代表である江副悟史さんと砂田アトムさんが引き継ぎました。本来は2時間ほどの上演時間ですが、今回は1時間という短縮バージョンでの上演をお願いしました。すべて日本手話でやるのではなく、聴者や外国の方も、70~80%は内容がわかるような視覚的言語に変えてほしいとお願いしたんです。作中では、実話に基づく日本のろう者たちの人生を、2人が手話で語り合い、演じます。ちょっと難しいオーダーだったかもしれませんが(笑)、ろう演劇界で実力と評判のあるお二人なら、きっとやり遂げられると信じています。きっと新しい試みになると思いますので、楽しみにしていただきたいです。
こちらもオススメ、映画作品
コンペティション部門に選出された14作品
牧原依里から一言
実験的なアニメーションからドキュメンタリーまで、視覚で世界を捉える人々による日本初公開の短編映画が国内外から集結します。“ろう / 手話”というテーマに新たな切り口で挑んだ作品がそろっており、多彩な才能をご覧いただけます。ここでしか出会えない貴重なラインナップを、ぜひお見逃しなく!
映画「チューバ泥棒」
牧原依里から一言
映画誌「フィルムメイカー」の“独立系映画の25人の新顔”に選ばれた、ろう者監督アリソン・オダニエルによる作品を日本初上映。音が盗まれたとき、何が残り、何が失われるのか──。“聴くこと”を問い直す実験的な映画で、サンダンス映画祭などでも高い評価を受けました。
映画「ぼくの名前はラワン」
牧原依里から一言
難民としてイギリスに渡ったクルド人のろう少年ラワンの、激動の人生と成長を描いたドキュメンタリー。世界各国の映画祭で数々のドキュメンタリー賞を受賞した、エドワード・ラブレース監督による美しく力強い映像は必見です。
プロフィール
牧原依里(マキハラエリ)
1986年生まれ、映画作家・演出家。一般社団法人日本ろう芸術協会代表理事。2017年に東京国際ろう映画祭を立ち上げ、ろう・難聴者の芸術に関わる人材育成やろう者と聴者が集うコミュニティ形成に尽力。2016年、聾者の“音楽”をテーマにした映画「LISTEN リッスン」で雫境と共同監督。同作は第20回文化庁メディア芸術祭アート部門審査員推薦作品に選ばれたほか、第71回毎日映画コンクールドキュメンタリー映画賞にノミネート。2023年、映画「田中家」を監督。2024年、「『聴者を演じるということ』序論」を演出。2025年11月にTOKYO FORWARD 2025 文化プログラム ろう者と聴者が遭遇する舞台作品「黙るな 動け 呼吸しろ」(構成・演出)が控える。