ロームシアター京都開館5周年 舞台芸術としての伝統芸能 Vol.4「雅楽 ~現代舞踊との出会い」稽古場レポート|武満徹の世界で出会い、交わる歓び

音楽と舞踊から「秋庭歌一具」を語る

雅楽と舞踊という、刹那なる芸術の融合を楽しんで
金森穣

金森穣(撮影:篠山紀信)

──今回、金森さんは雅楽で初めて創作されました。雅楽から、普段とは違う印象を受けた部分はありますか?

普段音楽を聴くときは、旋律やリズム、あるいはハーモニーといったいわゆる可聴音からインスピレーションを得ますが、今回の雅楽では音と音の狭間、響きが空間を揺らしながら消えていく様相に、多くのインスピレーションを得ました。でもそれは雅楽で用いられる楽器から得たインスピレーションであると同時に、武満徹さんという偉大な芸術家から得たインスピレーションだとも言えると思います。

──伶楽舎との合同稽古で生演奏を聴き、新たに感じたことはありますか?

この楽曲が非常に難しい楽曲であること、そして素晴らしい楽曲であることを、改めて感じました。伶楽舎の皆さんの演奏の息が合った瞬間、そしてその音色と私たち舞踊家の息が合った瞬間に生まれる表現には、とても素晴らしい、精神的な高揚を感じました。

──「残影の庭」について、観客が作品を楽しむ足掛かりとなるようなキーワードやポイントがあればぜひ教えてください。

「残影の庭」には3人の舞踊家が登場します。冒頭個別の舞踊家である3人は、やがて融合し、その後再び分裂し、それぞれに、枯葉、枯木、そして影、あるいは風を象徴する存在へと姿を変えます。そしてある物語が展開していきます。しかしそれは非常に抽象的であり、まるで夢幻能のようなものです。ですから観客の皆さんには、物語よりも舞踊そのものを、雅楽と舞踊という刹那なる芸術の融合を楽しんでいただければうれしいです。

──本公演はロームシアター京都の開館5周年事業として行われます。劇場に対する印象を教えてください。

Noism0「鏡の中の鏡」より。(撮影:篠山紀信)

歴史ある劇場の古い構造を残して新たに改築された劇場は、伝統と革新の融合という、極めて“京都的”なエスプリに満ちていると思います。そのような劇場から、“雅楽と現代舞踊”という今回のような企画が生まれたことは必然でしょうし、そこに携わり、「残影の庭」を生み出せたことをうれしく思います。そしてNoism Company Niigataとして、これからもロームシアター京都との関係性を継続していけたらうれしく思います。

金森穣(カナモリジョウ)
演出振付家・舞踊家。17歳で渡欧し、モーリス・ベジャールらに師事。NDT2在籍中に20歳で演出振付家デビュー。2004年に新潟・りゅーとぴあ舞踊部門芸術監督に就任し、公共劇場専属舞踊団Noismを立ち上げ、芸術監督に就任。平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞、平成20年度新潟日報文化賞、第60回毎日芸術賞ほか受賞。

これまでの「秋庭歌一具」とは違う
新たな可能性が見えてきました
伶楽舎

──今回第1部で演奏される楽曲について、“ここを意識して聴いてほしい”というポイントを教えてください。

伶楽舎

芝祐靖作曲「巾雫輪説」(きんかりんぜつ)は、雅楽の古典の「残楽」(のこりがく)という演奏法にヒントを得て作られた曲です。「残楽」は全員合奏から次第に演奏者が減っていき、最後には箏のみが残り、「輪説」(りんぜつ)という箏の技法を聴かせる特別な演奏法ですが、「巾雫輪説」はその逆に、箏から演奏が始まり、次第に他の奏者が加わっていくという趣向で作られています。タイトルの「巾」とは箏の最高音の名称で、その音の雫から始まる小さな音の流れが、次第に集まり、最後には大河となる、という趣向で、古典を知り尽くし、さらに独創性を盛り込んだ多くの新作雅楽を作曲した芝祐靖ならではの作品です。3面の箏の華やかさ、明るい曲調をお楽しみいただければと思います。

催馬楽「新しき年」は催馬楽という雅楽の歌ものです。「新しき 年の始めにや かくしこそ はれ」、新しい年の始めに、このようにお仕えしましょう、と変わらぬ御代を寿ぐおめでたい内容の歌です。笙、篳篥、龍笛、琵琶、箏の伴奏で歌われます。お正月にふさわしい曲をご鑑賞ください。ロームシアター京都開館5周年を祝って、何か祝祭的な曲を、とのことで、明るくおめでたい内容のもの、かつ、他の演目とマッチするようにと考えました。

──第2部で演奏される「秋庭歌一具」について、演奏家の立場から「通常の雅楽とは違って難しいところ / 面白いところ」をそれぞれ教えてください。

雅楽の古典曲では用いない音も多く使われ、それに合わせて、普段は使わない指使いも必要となり、最初は、雅楽の楽器で音程を正確に出し、リズムをそろえることも大変苦労しました。「秋庭歌一具」で、29人の演奏家が指揮者なく演奏を合わせるのは、実は大変なことで、この部分はこの人が合図を出す、などの取り決めをして、目と耳を駆使して演奏に臨んでいます。

五線譜で書かれていて、出てくる音も古典雅楽とは違うように聞こえると思いますが、それでもこの「秋庭歌一具」は、武満徹さんの感性で捉えられた雅楽のエッセンスが表現されており、演奏を重ねるごとに、この曲の“雅楽らしさ”が感じられて、いつも感動します。雅楽の楽器を使った現代の曲はほかにも多くありますが、1000年伝えられた雅楽の、伝統的な構造にも則って作られており、新しく構築された雅楽曲として、本当に素晴らしい傑作です。全体は雅楽の舞の構造に倣って、静かな秋の庭の、何もないところから、次第に音が生まれ、舞が舞われ、最後には元の静謐な秋の庭に戻る、といったイメージでお聴きいただいても興味深いと思います。いつも、何度演奏しても、曲が終わるのが名残惜しく感じられる名作です。

──Noismの踊りの印象や、稽古を通じて感じたコラボレーションへの期待を教えてください。

Noism、金森さんの振付は、本当に素晴らしいものでした。これまで「秋庭歌一具」では、古典的な舞楽風の舞や、現代の舞踊など、踊りをつけての上演が何度か行われましたが、金森さんの踊りは、そのどれともまったく違う、本当に曲の内部に入っての振付で、とても驚きました。細かいところまで音源や楽譜で研究されており、こんなに詳細に「秋庭歌一具」を研究して振り付けされた方は初めてなのではと思いました。そして、新たに振り付けられた踊りを見ていると、これまでの、私たちの知っている「秋庭歌一具」とは違う新たな可能性が見えてきて、この曲にこんな解釈があったのか、と、「秋庭歌一具」の曲の大きさを改めて感じ、武満さんはこのようにも考えていたのかな、などと想像すると、金森さんの踊りに本当にワクワクします。本番がますます楽しみになってきたところです。

──ロームシアター京都に対する印象を教えてください。

過日、打ち合わせの折、伺いましたが、素晴らしい劇場で、圧倒されました。舞台も広く、前半の伶楽舎の古典はもちろん、音輪会さんの声明と雅楽と舞も、とても映えると思いました。何より「秋庭歌一具」29人の奏者とダンスがすべて舞台上に乗って上演できるとは驚きでした。客席もゆったりとしてとてもゴージャスで、平安神宮の参道横の広々とした場所にあり、観客としても訪れたいと思いました。開館5周年を祝って、たくさんの方にお越しいいただければと思います。

伶楽舎(レイガクシャ)
雅楽の合奏研究を目的として1985年に芝祐靖が創設。現行の雅楽古典曲以外に、廃絶曲の復曲や正倉院楽器の復元演奏、現代作品の演奏にも取り組み、国内外で活動している。
ロームシアター京都 開館5周年記念事業
シリーズ 舞台芸術としての伝統芸能 Vol.4 雅楽 ~現代舞踊との出会い
2021年1月10日(日)
メインホール
京都市交響楽団×石橋義正 パフォーマティブコンサート「火の鳥」
2021年1月17日(日)
メインホール

指揮:園田隆一郎

演出:石橋義正

管弦楽:京都市交響楽団

振付:藤井泉

出演:森谷真理(歌)、アオイヤマダ、徳井義実(チュートリアル)、茉莉花(コントーション)
池ヶ谷奏、薄田真美子、斉藤綾子、高瀬瑶子、中津文花、松岡希美(ダンス)

花園大学 男子新体操部

第354回市民寄席
2021年1月24日(日)
サウスホール

番組・出演:「江戸荒物」林家染左 / 「ふぐ鍋」桂枝女太 / 「百年目」桂福団治 / 「星野屋」桂文之助 / 「多事争論」笑福亭仁智

松田正隆作・演出「シーサイドタウン」
2021年1月27日(水)~31日(日)
ノースホール

作・演出:松田正隆

出演:生実慧、鈴鹿通儀、大門果央、田辺泰信、深澤しほ、横田僚平

シリーズ 舞台芸術としての伝統芸能 Vol.3人形浄瑠璃 文楽
「木下蔭狭間合戦『竹中砦の段』」「端模様夢路門松」
2021年2月27日(土)・28日(日)
サウスホール
「木下蔭狭間合戦『竹中砦の段』」

出演:<太夫>竹本錣太夫、<三味線>鶴澤藤蔵、<人形遣い>桐竹勘十郎(竹中官兵衛重晴)、吉田玉男(小田春永)、吉田勘彌、吉田玉志、吉田簑一郎、吉田玉助、吉田一輔、吉田玉佳、吉田勘市、桐竹紋臣、吉田文哉、吉田玉勢、吉田簑紫郎、桐竹紋吉、吉田玉翔、吉田玉誉、吉田簑太郎、桐竹勘次郎、吉田玉彦、桐竹勘介、吉田玉路、吉田玉延、吉田簑悠、桐竹勘昇、吉田玉征、豊松清之助、望月太明蔵社中

「端模様夢路門松」

出演:<太夫>竹本碩太夫、<三味線>鶴澤清介、鶴澤清公、鶴澤清允、<人形遣い>桐竹勘十郎(門松)、吉田勘市、桐竹紋吉、吉田簑一郎、桐竹紋臣、吉田玉翔、吉田玉誉、吉田簑太郎、桐竹勘次郎、吉田玉彦、桐竹勘介、吉田玉路、吉田玉延、吉田簑悠、吉田玉征、豊松清之助、望月太明蔵社中

スーパーバイザー:木ノ下裕一


2021年1月12日更新