これまでとこれからの、ロームシアター京都|京都に“劇場文化をつくる”を目指して5年

2021年1月10日、ロームシアター京都が5周年を迎える。京都会館のレガシーを受け継ぎつつ、国内外のアーティストと芸術文化の発展を目指しながら歩みを続けて来た同劇場は、このコロナ禍にあっても、多彩なアイデアで、市民に舞台芸術との接点を生み出して来た。本特集では、そんなロームシアター京都の足跡をたどりつつ、劇場スタッフやアーティストからのメッセージを交えながら、1月から3月にかけて実施されるロームシアター京都5周年記念事業について紹介する。

文 / 熊井玲

ロームシアター京都の5年

ロームシアター京都は2016年1月10日に、京都・岡崎に開館した。周囲には京都国立近代美術館や京都市京セラ美術館、平安神宮、京都府立図書館や京都市動物園などがあり、文化的な香りが漂う。この地で、同劇場は5年にわたりさまざまな企画を打ち出して来た。

ロームシアター京都の前身は、1960年に開場した京都会館だ。設計を担ったのは、モダニズム建築の旗手ル・コルビュジエの弟子としても知られる故・前川國男で、前川は岡崎地域の周辺環境との調和を考慮して、水平線を強く意識した意匠で設計に当たった。同館は日本建築学会賞を受賞するなど、建築物としても高く評価されている。その後50年間、京都会館は地域の中に溶け込みながら多様な演目を上演して来たが、施設全体の老朽化やホール機能の前近代化などが問題となり、再整備されることに。2013年、建築家・香山壽夫の基本設計に基づき着工され、2016年にはロームシアター京都として新たなスタートを切ることになった。

ロームシアター京都は、京都に「劇場文化をつくる」をコンセプトに、“文化芸術の創造・発信拠点として、文化芸術都市・京都の名を高め、京都のまち全体の発展に寄与すること”を目指している。ロームシアター京都の公式サイトには、「『劇場文化』を作る4つの要素と事業の柱」が掲げられており(参照:ロームシアター京都について | ロームシアター京都 - 沿革)、開館以来、「創造」「育成」「交流」「生活」の4つの柱に基づいて多彩な事業が組み立てられてきた。

例えば2016年のオープニング事業には、「能楽特別公演〜伝承 日本人の心」、ロームシアター京都プロデュース・オペラ「フィデリオ」や小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトなどのクラシカルなプログラムから、「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」(KEX)や「搬入プロジェクト──京都・岡崎計画」といった先鋭的な取り組みまで、幅広い事業がラインナップされている。特にKEXは、2010年の立ち上げから2019年までKEXプログラムディレクターを務めた橋本裕介がロームシアター京都のプログラムディレクターも兼任していたため、国内外の気鋭のアーティストが集まる場としてにぎわいを見せた。

2017年になると、今回の5周年記念事業にもラインナップされている、「レパートリーの創造」シリーズが始動。第1弾では木ノ下歌舞伎の木ノ下裕一を中心に「心中天の網島―2017リクリエーション版―」が上演された。また同じく5周年記念事業にラインナップされている「舞台芸術としての伝統芸能」シリーズや、夏の人気企画「プレイ!シアター」がスタートしたほか、機関誌「ASSEMBLY」の創刊、「『いま』を考えるトークシリーズ」など、現在も続くロームシアター京都のさまざまな基盤が出来上がった。

2018年にはロームシアター京都×京都芸術センター U35創造支援プログラム「KIPPU」が始動。「KIPPU」は若手アーティストの発掘と育成を目的としたプログラムで、2018年度にはブルーエゴナク、安住の地、akakilikeが登場。その後、2019年度はお寿司、オル太、2020年度は中川裕貴、シラカン、スペースノットブランク、そして2021年度は福井裕孝、敷地理が選出されており、全国の注目の若手がロームシアター京都に集まって来ている。さらに地域の課題を考える「CIRCULATION KYOTO~劇場編~」では、中野成樹+フランケンズ、村川拓也、相模友士郎、遠山昇司、きたまりが京都の5つの地域に焦点を当てた新作を発表した。

2019年に入ると、ロームシアター京都の特徴である中庭ローム・スクエアにて、地元のアーティストや子供たちが集うイベント「OKAZAKI PARK STAGE」を始動。そのほか多数の企画が予定されていたが、2月以降は新型コロナウイルスの影響により、KYOTO STEAM-世界文化交流祭-2020 ダムタイプ 新作パフォーマンス「2020」など多くの公演が中止となった。その状況は2020年度の事業にも大きく影響し、開館5周年記念事業にラインナップされていた、小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXIX G.プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」ROHM CLASSIC SPECIALとハンブルク・バレエ団「ベートーヴェン・プロジェクト」が中止を余儀なくされた(代わりにハンブルク・バレエ団の映像上映会が実施される)。しかしその一方で、ロームシアター京都の中庭を活用した屋外イベント「KYOTO PARK STAGE」を急遽企画・開催したり、毎年恒例の「プレイ!シアター」を2020年はオンラインで開催するなど、新たな試みも行った。

京都会館のレガシーを受け継ぎつつ、進取の精神で劇場文化を創造しているロームシアター京都。5周年の記念ビジュアルには、ロームシアター京都として5年、京都会館時代から数えて60年の歴史を重ねた、印象的なロゴが打ち出されている。その数字の重みを、5周年記念事業に連なる多彩な7作品から、改めて捉え直してみては。

5周年記念ビジュアル

ロームシアター京都と5年

ここでは、京都を拠点に活動するダンサー・振付家の康本雅子、木ノ下歌舞伎主宰の木ノ下裕一などゆかりのアーティストや、ロームシアター京都で働く劇場スタッフに聞いた、“ロームシアター京都と5年”を紹介する。

康本雅子(ダンサー・振付家)

康本雅子©︎松本成弘

5周年と聞いて、私が京都に越してきたのが6年前なので、ほぼ同じ年数を積み重ねてきたのだなぁと、勝手ながら親近感を感じています。
毎夏のプレイ!シアター in Summerを筆頭に、ニュイ・ブランシュ KYOTOや単独公演と、折に触れ関わらせてもらいました。
しかもすべて違う形態のプログラムに参加できたことは、この劇場の多様な存在価値を示していると思います。
来るたびに好きなのは、そびえ立たない横長──な姿、外から丸見え──な玄関、広々んとしたローム・スクエア、マイ書斎か?フェスペース、からのお山の緑。
いや、ほんとに。自宅からチャリで行ける劇場って! しかも途中の鴨川で水浴びもできるって! これは案外凄い事です。
だって身体レベルでも、生活と芸術が繋がってるんだから。
大根切ったらチャリ飛び乗って風と川の音を浴びながらそのまま劇場インできる健やかさったらないのです。
特に用がなくとも訪れたくなる京都という街で、そこに溶け込む劇場もそんな開かれた場所であって欲しいなと願うのです。

(「ロームシアター京都開館5周年記念誌」より転載)

木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰)

木ノ下裕一

たとえば、タクシーに乗って「ロームシアター京都までお願いします」と言うと「前の京都会館ですね」と言われる。そして、たいていそのあとは「若い頃〇〇のコンサートに行きましたわ」とか「落語を聞きに行ったことありますわ」とか運転手さんの思い出話になる。京都の方に「今度ロームシアター京都で公演します」と言っても同様の反応が返ってくる。「昔、娘の習い事の発表会で行ったことがある」というおばあさんもいたし「あのあたりはかつて岡崎公会堂がありましてなあ」ともっとディープな歴史を紐解いたおじいさんもいた。
“みんなの京都会館”だったのだなあと思います。その劇場文化を引き継ぎつつ、ロームシアター京都としてリニューアルして5年。誠におめでとうございます! ますます“みんなのロームシアター京都”として、人々の心に浸透する劇場になっていかれることを願います。

長野夏織(ロームシアター京都 事業企画・広報担当)

──ロームシアター京都の業務に携わる中で、最も印象的だった出来事や公演は?

長野夏織

2020年2月に開催した、「レパートリーの創造 ジゼル・ヴィエンヌ、エティエンヌ・ビドー=レイ『ショールームダミーズ#4』」というダンス公演です(参照:「ショールームダミーズ #4」ジゼル・ヴィエンヌ、エティエンヌ・ビドー=レイ対談)。私は主に音楽事業を担当しており、ダンス公演かつ海外の演出・振付家とご一緒するのがほぼ初めてだったこと、出演者を一からオーディションで選抜するなど、非常に刺激を受け、良い意味で緊張感のある公演でした。劇場のレパートリーとなる作品に関わるということも大きかったと思います。また、この公演後すぐに新型コロナウイルスによって、海外アーティストの来日が不可能な状況になったため、ぎりぎりのタイミングで公演が開催出来たことも、より印象に残る理由となったかもしれません。

──あなたが思う、ロームシアター京都の特徴、またはロームシアター京都らしさとは?

前の回答と少し関連しますが、ロームシアター京都が主催する公演は多ジャンルにわたるにもかかわらず、演劇・音楽・舞踊などに部署(担当)が明確に分かれていないことです。例えば、私は音楽事業が主でありながら、舞踊や演劇公演を担当することもありますし、他のスタッフも逆のパターンがあります。ジャンルを分断しないことが、異ジャンルとのコラボレーションや、ロームシアター京都のラインアップの幅広さにもつながっていると思っています。

──ロームシアター京都で働く中で、好きな場所・時間・季節は?

ロームシアター京都のある岡崎という地域には、公園や美術館、図書館、動物園などの文化施設があり、特に週末は、劇場も含めてたくさんの人が訪れる場所です。ローム・スクエア(中庭)と、そこからつながる岡崎公園に集う人たち、その先に連なる東山が一体となった風景を、ロームシアター京都の2階共通ロビーにある大きな窓から眺めるのが好きです。さまざまな目的を持った人たちが、日常的に集まる場所として、親しまれていることを実感できる時間です。

丸井重樹(ロームシアター京都 管理課)

──ロームシアター京都の業務に携わる中で、最も印象的だった出来事や公演は?

丸井重樹

ロームシアター京都の自主事業の一部として開催している、「京都国際舞台芸術祭 KYOTO EXPERIMENT」の10年目(2019年)のクロージングイベント。私自身が、ロームシアター京都の管理担当になる前はフェスティバルの立ち上げからの事務局員だったこともあり、自分の職場で10年目の節目を迎え、初代プログラムディレクター退任の挨拶を聞けたことは、感慨深かったです。なお、いまだに竣工直前から開館までの繁忙さは忘れられません。

──あなたが思う、ロームシアター京都の特徴、またはロームシアター京都らしさとは?

曖昧さ、ではないでしょうか。良くも悪くも。例えばローム・スクエアや共通ロビーは、パブリックスペースでありながら貸出スペースでもある場所です。利用にかかるルールも、多目的ホールであるが故に、その目的によって柔軟に運用する事があり、施設管理上どうしようもないことはありますが、できるだけ利用目的に沿うようにその都度協議しています。グレーゾーンが多いのは、現場的に大変ですが。

──ロームシアター京都で働く中で、好きな場所・時間・季節は?

メインホールの舞台上に立って4層バルコニー構造の客席を見上げると、いまだにテンションが上がります。パフォーマーではないし、むしろお客さまが満席の状態で舞台に立ちたいとは思いませんが。あるいはホール下見等でご案内し、客席に入った瞬間に「わあー」と言ってもらえると、無性にうれしくなります。メインホールに限らず、施設を案内しているとき、かもしれませんね。

川村剛史(ロームシアター京都 舞台技術課)

──ロームシアター京都の業務に携わる中で、最も印象的だった出来事や公演は?

川村剛史

この質問に対して最初に浮かんだのは、開館直後の2016年2月に上演した小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXIVJ.シュトラウスII世:喜歌劇「こうもり」全3幕でした。私自身、本格的なオペラ公演に携わるのが初めてだったこともありますが、新しい劇場の機構システムに習熟したとは言い切れない状況で、どのように本番の転換に対応したシーンをプログラムするのか頭を悩ませました。そのことに加え、カンパニー内でインフルエンザが流行してスタッフが次々と罹患したことや(私も感染し、1週間休みました……)、綺麗な舞台床があっという間に使い込んだようになったことなど、今でこそ苦労話・笑い話になっていますが、当時はとても大変でした。

──あなたが思う、ロームシアター京都の特徴、またはロームシアター京都らしさとは?

ロームシアター京都は私がこれまで経験したホールと異なり、開催されるさまざまな催し物に対して技術スタッフ全員がチーフ(担当者)になる可能性があります。自身がチーフになったときに協力してもらうためもあるのでしょうか、トップダウンで言われたことだけする、というのではなく、効率的に公演を進行するための提案や率先した行動をみんなが取ってくれます。そういった、他人事ではなく自分たちのこととして仕事に取り組む姿勢は、催事だけではなく保守管理業務に対しても反映されていて、とても良い雰囲気です。

──ロームシアター京都で働く中で、好きな場所・時間・季節は?

劇場の脇には琵琶湖疏水が流れています。メインホール、サウスホールの搬入口が地上階にあり、疏水に向かって扉が開くので、春は水路に沿って植わっている桜がとても美しく見えます。また、メインホール3階席ホワイエ東側の、京都盆地が一望できる見晴らしが好きで、そこからは何度も登っている大文字山が見えます。劇場近辺は緑の多い環境なのですが、技術スタッフの部屋は窓のない地下なうえ、舞台上でも明かりの当たる場所よりは袖の暗がりにいるため、ふと気候や天気の良い瞬間を感じられると、ことさら心地良く思います。