「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」
3月9日に神奈川・神奈川県民ホール 小ホールで開催される「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」では、プロジェクトのメンバーである演出家・多田淳之介、音楽家・西井夕紀子、精神疾患を抱える当事者たちの声や表現を発信する活動グループ・OUTBACKプロジェクトが精神科病院である紫雲会横浜病院と武田病院に赴き、そこで行ってきたワークショップを元に創作したパフォーマンス作品を披露する。なお本ワークショップでは“人生の中で大切にしてきた歌 / 音楽”をキーワードに、参加者が自身の人生を振り返っていった。イベントでは、音楽を通してさまざまな人の“生きざま”を受け取り、精神障害を取り巻く世界に思いを巡らす内容になっている。ここでは、「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」をより楽しむべく、多田、西井、そしてOUTBACKプロジェクト代表・中村マミコにワークショップや、イベントに向けた思いを語ってもらう。
多田淳之介
──多田さんは、東京デスロックほかで演劇作品の演出を手がけられるほか、普段演劇をやっていない方々とのワークショップも積極的に行われています。今回は、精神疾患のある方々との“音楽”を切り口にしたワークショップとのことで、どのようなことを意識して行われましたか。
病院でのワークショップでは、西井さんと中村さんのサポート役として、患者さんとOUTBACKメンバーが楽しめるよう、お話ししたり演奏したりしました。発表会づくりではOUTBACKメンバーがワークショップで何を受け取ったかを大切に進めました。
──ワークショップには、精神科病院に入院されている方々に加え、精神疾患当事者であるOUTBACKメンバーも参加されました。ワークショップで感じた“音楽”のパワーや、印象的な出来事があれば教えてください。
ワークショップで歌詞のない、演奏だけの曲のリクエストがあった時に、自然に参加者全員で合奏になったのが印象的です。その場にいる全員が参加できて、それぞれがそれぞれでいながらその場をひとつにできるのは音楽の魅力だと思います。
──多田さんは、演劇作品を創作される際も音楽を大事にされていらっしゃいますが、演劇未経験者の方々とのワークショップにおける“音楽”の重要性はどのように感じていらっしゃいますか?
ワークショップの現場でも音楽は雰囲気作りやリラックスして参加してもらえる効果もありますし、音楽をかけた瞬間まったく違う景色が見えたり、身体が勝手に動いたり、感覚を共有できたり、未経験の人でも表現の一歩奥へ踏み込む魔法をかけてくれる重要な相棒です。
──「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」は、ワークショップの集大成となります。どのような“ぱーてぃー”なひとときになると予想しますか。
音楽と、OUTBACKメンバーやワークショップ参加者の生きざまを通じて、普段はバラバラな人たちがひとつになれるような時間になると良いなと思います。上演でもライブでもなく“ぱーてぃー”なので、集まったみなさんと一緒に楽しみたいです。
プロフィール
多田淳之介(タダジュンノスケ)
演出家。東京デスロック主宰。古典から現代戯曲、ネット上のテキストまで様々な題材を用い、舞台と客席の隔てのない上演や、参加型、ツアー型の上演など様々な手法で演劇作品を立ち上げる。公共劇場の芸術監督や国際舞台芸術フェスティバルのプログラムディレクターなどを歴任し、国際・教育・地域を活動の軸として国際共同事業や全国の学校や文化施設での子供や学生、親子、シニア、在住外国人、障害のある人など、様々な方とのプロジェクトを手掛ける。2013年「가모메 カルメギ」で韓国の第50回東亜演劇賞演出賞を外国人として初受賞。四国学院大学、女子美術大学非常勤講師。近年の演出作品はSPAC「伊豆の踊子」、KAAT+東京デスロック+第12言語演劇スタジオ「外地の三人姉妹」など。
西井夕紀子
──西井さんは、横浜市神奈川区内の作業所へ通うメンバーで構成されたバンド・THE PUSHさんとのミュージカル制作をきっかけに、2019年にも紫雲会横浜病院でのイベントに参加されていました。今回のワークショップでは、どのようなことを意識して行われましたか。
目の前の人とそのまま出会うことを心がけました。あとはいつも通り、ピンときたら演奏のお誘いや声かけを積極的にしていったと思います。皆さんのこれまでの音楽体験とつながってふとスイッチが入る瞬間があり、紫雲会では泉がわきあがるようなピアノ演奏、木魚やボイパによる独特なグルーヴ、ロックな即興歌、武田病院では優しい楽器のさざめきや降ったばかりの雪のように柔らかいピアノなど、印象的な音とたくさん出会えました。
──ワークショップには、精神科病院に入院されている方々に加え、精神疾患当事者であるOUTBACKメンバーも参加されました。ワークショップで感じた“音楽”のパワーや、印象的な出来事があれば教えてください。
4回の演劇公演を経た仲間であるOUTBACKメンバーのみんなが一緒だったので、とても落ち着いた気持ちで病院に向かえました。メンバー自身の経験や、彼らの音楽表現の奔放さが患者さんと自分をつないでくれました。
今回は人生にとって大切な歌をシェアしてもらったのですが、初めて会う者同士が同じ歌を同じ時に歌っているのって考えてみると不思議だし、選ばれた曲の流行った時代もさまざまで、そこにはそれぞれ違った想いが寄せられていて、おもしろいメディアだな、と音楽のことを見直しました。
──西井さんは、演劇・パフォーマンス公演で音楽を手がけられる際、出演者の個性を活かした音楽作りをされています。今回のワークショップで、ご自身のこれまでの経験が生きたと思われた点があれば教えてください。
ステージに上がってしまうと、“ある形”の中で上手にできることや、感動できることなどに注目してしまいがちですが、いろんな人がその時すでにもっているそのままを教えてもらえることが、私にとっての喜びです。それはとても複雑で、魅力的なものです。のびのびとした挑戦に心動かされる経験をさせてくださったたくさんの方々に、感謝の気持ちです。
──「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」は、ワークショップの集大成となります。どのような“ぱーてぃー”なひとときになると予想しますか。
自分の生きているところからは見えにくい場所や出会いにくい人々が、社会にはたくさん存在していることを、仕事をしている中で教えていただいています。
参加してくださった患者さん全員が実際にステージにあがることは難しいと思います。
せめて音楽という時も場所もこえられる媒体が、さまざまな人の“生きざま”をステージで響かせる“ぱーてぃー”ができるといいなと思っています。
プロフィール
西井夕紀子(ニシイユキコ)
作曲家。舞台、映像への楽曲提供を行うかたわら、人が音を奏で、作りはじめる瞬間に魅力を感じ、学校、病院、文化施設、福祉施設、街中などでセッションや曲作りを実施。その場所に集う人々の持つ習慣的な身体、考えにふれようとしたり、そこから少しずれようとしたりしている。できあがりにこだわらず、個々の選択をひきだしながら、いつのまにか集団のありかたややりとりが音楽にうつしとられているような手法に特徴がある。フェスティバル/トーキョー20「わたしたちは、そろっている。」(モモンガ・コンプレックス、2020)、瀬戸内国際芸術祭2022「竜宮鱗屑譚~GYOTS~」(木ノ下歌舞伎、演出:白神ももこ)、パルコ・プロデュース2022「幽霊はここにいる」(演出:稲葉賀恵)などに参加。
中村マミコ
──OUTBACKアクターズスクールでは、精神的に不調を抱える方々が演劇活動を通し、表現力や発信力を高める活動をされています。中村さんが感じられる、演劇の持つ力や可能性を教えてください。
演劇は、1人ではなく他者との交わりの中で創作していくものだと思っています。そこで取り扱うテーマ、事柄に対して、そこに集う人たちがそれぞれの視点で考え、思いを巡らし、1人では到達し得ない気づき、世界を生み出すことができるところに、演劇の可能性を感じています。
──今回のワークショップには、精神科病院に入院されている方々に加え、OUTBACKメンバーの方々も参加されています。ワークショップのキーである“音楽”について、中村さんは以前にインタビューで「その人の人生や大事にしていることを知る手がかりになる」とお話しされていましたが、実際にワークショップで感じたことがあれば教えてください。
ワークショップでは、歌を歌ってもらうだけでなく、その歌にまつわるエピソードを語ってもらいましたが、患者さんによっては、言葉で話すのが困難な方もいたので、その歌を選ぶに至った背景など詳しく聞くことができないこともありました。けれど、その人の歌声からは明らかにその人らしさ、その人の“生きざま”が伝わってきました。その人の“生”を支える要素は色々あると思いますが、音楽がその1つとしてとても大きなものとなりうることを改めて実感する機会になったと思います。
──「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」は、ワークショップの集大成となります。どのような“ぱーてぃー”なひとときになると予想しますか。
精神的に不調を抱える人たちは、生きていく中でさまざまな困難と向き合ってきた人たちであると同時に、いろどり豊かな人生を生きてきた人たちであるとも言えると思っています。そんな彼らの“生きざま”を、音楽を通じてお客様に感じていただきながら、3月9日にパーティーに集った人全員の“生きざま”を讃え合うような時間、パーティーがつくれたらと思っています。
プロフィール
中村マミコ(ナカムラマミコ)
OUTBACKプロジェクト共同代表、OUTBACKアクターズスクール校長。早稲田大学第一文学部在学中よりBankART1929に関わり、街中の空間を芸術活動に生かす方法などを学ぶ。2005年から世田谷パブリックシアターに勤務し、演劇ワークショップの企画制作や、教育普及事業を担当。2012年からは、横浜市内の福祉事業所で支援職を勤めながら、芸術活動を通し障害者支援を行う。2020年に、KP神奈川精神医療人権センターの立ち上げに関わり、2021年にOUTBACKプロジェクトを佐藤光展と共に立ち上げる。
OUTBACKプロジェクト
OUTBACKプロジェクトは、横浜で精神疾患のある人たちの支援に関わってきた中村マミコとジャーナリストの佐藤光展が、日々の活動の中で、社会が精神疾患当事者に誤ったイメージ(偏見)を抱いていることを痛感し、当事者の声を社会に向けて発信していく必要性を痛感したことから、2021年に立ち上げたもの。メンタルヘルスの不調に悩む人たちが、自分達の経験をオリジナルの劇にして、自らの言葉、声、体を通して発信していくOUTBACKアクターズスクール(演劇学校)を活動の核とし、講演会や出版、YouTubeでの動画配信など様々なメディアでの普及啓発活動、当事者のエンパワメントにつながる活動を行っている。