影絵を通して世界を広げる!やまゆり園×劇団かかし座「影絵であそぶ~季節のうた~」ワークショップ潜入レポート / ワークショップ講師・飯田周一インタビュー

神奈川県が推進する共生共創事業の最新作、やまゆり園×劇団かかし座「影絵であそぶ~季節のうた~」が、神奈川県公式YouTubeチャンネル・かなチャンTVで3月11日に無料公開された。これは、現代影絵を専門とする劇団かかし座が、神奈川県立障害者支援施設の津久井やまゆり園に赴き、利用者に向けて影絵のワークショップをする様子を収めたドキュメンタリー映像だ。やまゆり園と劇団かかし座の映像作品は、2023年に第1弾が公開され、今回が第2弾となる。

ステージナタリーは、ドキュメンタリーの公開に先駆け、10月と12月、2度にわたってワークショップに潜入。講師を務める飯田周一の指導のもと、リラックスした表情で影絵を楽しむ利用者たちの姿を追った。特集後半には、飯田のインタビューも掲載している。

取材・文・撮影 / 櫻井美穂

やまゆり園×劇団かかし座「影絵であそぶ」ワークショップ潜入レポート

かかし座にとって2年目となるやまゆり園でのワークショップ

神奈川県が推進する共生共創事業は、年齢や障がいなどにかかわらず、すべての人が文化芸術に参加し、楽しむことのできる社会を目指すプログラム。その一環として2022年にスタートしたのは、劇団かかし座による、神奈川県立障害者支援施設・津久井やまゆり園と芹が谷やまゆり園での影絵のワークショップだ。1年目の模様は、2023年3月にかなチャンTVで公開されたやまゆり園×劇団かかし座「影絵であそぶ」(参照:想像力があればどこへでも行ける!やまゆり園×劇団かかし座「影絵であそぶ」&ほわほわ×山本卓卓「ぷ・ぱ・ぽの時間」)に収められている。映像内では、ワークショップ講師の飯田周一が、利用者と細やかにコミュニケーションを取りながら、影絵の世界へと導いている。その続編のドキュメンタリー映像が制作されるとのことで、2023年10月上旬、ワークショップが行われる、津久井やまゆり園を訪れた。

劇団かかし座によるワークショップの様子。

劇団かかし座によるワークショップの様子。

リラックスしながら影絵を楽しむ

ワークショップ開始30分前、体育館に足を踏み入れると、すでにワークショップを楽しみに待っている参加者たちの姿がずらり。津久井やまゆり園には、二十代から七十代までの、日常生活で支援が必要な障がいを持つ入居者が60人ほど生活しており、体育館には20人ほどの参加者が集まっていた。かかし座が津久井やまゆり園でワークショップを行うのは、2022年のスタート以来、もう10回目のこと。ワークショップは約1時間で、参加者は飯田たちの指導のもと、手や腕での“手影絵”や、厚紙とセロファンでできた影絵人形での演技を楽しんだあと、終盤では参加者たちだけで影絵劇に挑戦する、という流れになっている。

劇団かかし座によるワークショップの様子。

劇団かかし座によるワークショップの様子。

定刻になると、ワークショップが開始。まずは、手と手首、腕全体をぶらぶらさせるストレッチからスタートし、続けてカニや鳥、キツネなど、手や腕でできる“手影絵”を作っていく。飯田は、体育館を動き回りながら「◯◯さん、いいですねえ」「◯◯さん、もうちょっと指を上げられますか。そう、そうです!」と声がけをする。これまでのワークショップの積み重ねにより、参加者は慣れた様子で手影絵を作りつつ、飯田の自分や周囲へのアドバイスに耳を傾け、より生き物らしく見える形を模索していた。

続いては、体育館舞台側に置かれた横幅約2メートル、縦幅約1メートルほどのスクリーンを利用し、実際に影絵を作っていくワークが始まる。自分の席で作っていたときは、うまくできていた手影絵だったが、いざ前に出て、スクリーンに投影するとなると、みんなに見られているという緊張からか、ややぎこちなくなる。真剣な表情で影絵に挑戦する参加者に、飯田は笑顔で「よくできていますよ」と声をかけつつ、参加者それぞれの腕の可動域に合わせながら「あともうちょっとだけ、高い位置でできますか」と助言したり、カニを歩かせたい参加者には「横にこうやって移動させると、よりカニらしくなります」と、自ら実践してみせる。飯田の作るカニは、生き生きとスクリーン上を歩いていき、その様子に参加者は見入っていた。

劇団かかし座によるワークショップの様子。

劇団かかし座によるワークショップの様子。

次は、ウサギやリス、ロバなどの動物を形どった、影絵人形が登場。人形は本体を支える太い棒と、その手足を動かす細い棒で構成されており、参加者は影絵人形を使うことで、より動きのある影絵を楽しむことができる。すでに使い方を理解している参加者たちは、飯田たちから影絵人形を渡されると、スクリーン上に亀をすいすいと泳がせたり、2人の参加者で動物を会話させたりと、慣れた様子。飯田は、人形を持つ力が弱かったり、腕が上がりづらいといった、サポートが必要な参加者を支えつつ、自由に影絵で遊ぶ参加者たちを見守っていた。

影絵人形

影絵人形

ワークショップの後半は、さきほど使った影絵人形を用いた、影絵劇の発表の時間だ。曲に合わせて影絵人形を左右上下にテンポ良く動かし、複数人で1つの影絵劇を完成させる。ここまでは自由度の高いワークだったが、このワークでは、曲が終わるまでそれぞれの役を演じ切る必要がある。ワークショップごとに、季節に合わせた楽曲が使用され、この日の楽曲は童謡の「紅葉」で、出演者は、リス、クマ、ウサギ、キツネの4匹。リズミカルな動きだけではなく、ほかの演者と息を合わせることも重要となる。飯田たちがお手本を見せたあと、演者が募られると複数名が手を挙げる。スクリーンの後ろに座った演者たちは、飯田の「始まりますよ」「スタンバイ!」の声に、キリリと集中モードに。体育館が少し暗くなり、静まり返ったあと、曲がスタート。演者は、その日一番の真剣さで動物たちを演じ、観ている参加者は手拍子をしつつ、「あーきのゆうひーにー、てーるーやーまーもーみーじ」と大きな声で歌い、一体となって盛り上げる。発表が終わると、体育館は大きな拍手で包まれた。緊張から解放された演者たちは、顔を見合わせながら少し照れ笑いし、拍手を受け止めていた。

飯田、トナカイ姿で登場

12月中旬。年内最後となる、かかし座の津久井やまゆり園でのワークショップを見学するため、再び体育館を訪れた。するとそこにはサンタ帽やトナカイの帽子を被った参加者たちが集まっていた。サンタ帽にゴールドのマントを被った笑顔の女性が、「見て見て、私、全身サンタなの!」と職員たちにアピールしていると、後ろから「良いですねえ」とトナカイメガネに赤い鼻を付けた飯田が登場。ワークショップ開始前から、体育館にはどこか浮足立ったムードが漂っていた。

この日のワークショップでは、前回と同じく、手影絵や影絵人形の練習、そして参加者による、影絵人形を使った影絵劇の発表が行われた。影絵劇の発表で使われた楽曲は、「ジングル・ベル」。参加者たちは、サンタ帽を被った、クリスマス特別スタイルの動物たちを手に持ち、影絵劇を披露した。さらに参加者に向けて、劇団かかし座が影絵劇をプレゼントする一幕も。手影絵だけで表現される、犬やウサギ、フクロウ、リス、そしてゴリラの親子の心温まるストーリーに、参加者は釘付け。走るリスの揺れる大きなしっぽや、フクロウの羽ばたき、ゴリラの緩慢ながらも、大きさと慈愛を感じさせる動きなど、動物それぞれの個性が、器用にスクリーン上で表現されていく。物語のラストには、なんとサンタクロースが登場! 手に乗せたリスを撫でるサンタ、という影絵劇ならではの幻想的な光景に、クリスマスムードは一気に高まる。終演後、影絵劇用の黒いサンタ帽を被った飯田がスクリーンの後ろから現れ、参加者から大きな拍手を受けていた。

劇団かかし座によるワークショップの様子。

劇団かかし座によるワークショップの様子。

「実はちょっとやってみたい」を見逃さない

やまゆり園では、日によって体調や気分が大きく異なる人や、疲れやすい人が多い。飯田たちは、細やかに参加者に声をかけ、参加者1人ひとりのコンディションをつぶさに観察しながら進行していた。スクリーンでの影絵劇の発表に、「やりたい人!」と参加者を募ると、ビシッと挙手する人がいる一方で、どこか自信なさげな表情を浮かべる参加者も。飯田たちは、無理強いは決してしないが、「自信はないけど、実はちょっとやってみたい」という参加者の心の動きは見逃さない。すすす……と参加者に近づき、「◯◯さん、前に出て一緒にやってみませんか? さっき上手にできていましたよ」と声をかける。すると参加者は「しょうがないなあ……」と満更でもない顔で立ち上がり、スクリーンへ向かっていく。影絵劇を披露したあと、拍手を受け、自信に満ちた顔を見せる参加者を見ていると、飯田があえて作り出す“本番”らしい緊張感が、プラスに働いていることがよくわかった。

劇団かかし座によるワークショップの様子。

劇団かかし座によるワークショップの様子。

飯田周一インタビュー

──ワークショップでは、飯田さんが利用者の方々と信頼関係を作り上げられたからこそ、利用者の方々が安心して楽しまれていたように感じました。

まず、とにかく利用者の皆さんに声をかけ続け、私たちを早く覚えてもらうことが重要だと思いました。そして同時に、利用者の皆さんのそれぞれの得意な部分を、早く知ることもとても大事でした。影絵を演じるためには腕がある程度上がらなくてはならないし、手影絵を演じるには指先が動くかどうかということも確認しなくてはなりません。ストレッチャーや車椅子に座りながら、どうやって影絵に取り組めるか。様子を見ながら1人ひとりがストレスなく影絵に取り組める方法を考えて実践しました。そこが、結果として、利用者の皆さんが安心して楽しまれていた理由ではないかと思います。開始の30分前から会場に来ている方もいました。ワークショップの間、影絵体験はせず、見てるだけで、とにかくおしゃべりばかりする方もいましたが、それはそれでいいかな、と。ワークショップは、テクニックを学び、楽しんでもらう目的のほかに、人間関係を築く目的もあると思いますね。

飯田周一

飯田周一

──ワークショップ後半での影絵劇の発表会では、参加者の方々の真剣な表情や、終わったあとの達成感に満ちた様子に、胸を打たれました。

皆さん、自信を持って演じられていましたね。また、数人で演じることによって、アンサンブルの感覚も身についたのではないかと思います。影絵人形を動かすシンプルな動きをみんなで合わせよう、という様子も見えました。

──ワークショップを重ねるごとに、参加者の方々の変化は感じられましたか。

利用者の皆さんは、最初にお会いしたときと明らかに変わりました。表情もとても明るく、アクティブになったと思います。これを機会に、影絵ももちろんそうですが、今後もさまざまな体験をしていただきたいと思います。

──津久井やまゆり園でのワークショップを通して、新たに発見した“影絵劇の持つ力”があれば教えてください。

芸術体験は想像力を育みます。また、お客様に観ていただくこと、拍手をいただくことは満足感につながります。併せて、影絵は即効性のある舞台芸術である、というのが私の持論でして、手影絵ならば指先で作ったもの、影絵人形なら影に映ったものを、演じている立場(スクリーン裏)からすぐに見て確認することができます。すぐに確認できるということもまた、満足感につながりますよね。演じていてすぐに楽しめるという影絵の魅力を今回改めて感じました。

やまゆり園×劇団かかし座「影絵であそぶ~季節のうた~」視聴はこちら

プロフィール

劇団かかし座(ゲキダンカカシザ)

1952年に創立された、現代影絵の専門劇団。影絵劇の制作・上演だけでなく、影絵ビジュアルの制作・提供、映像作品の制作など、“影絵による総合パフォーマンス”を発信している。

飯田周一(イイダシュウイチ)

青森県出身。1992年に劇団かかし座に入社。「オズの魔法使い」オズ役、「劇場版宝島」ジョン・シルバー役など、多くの作品に出演。