OriHimeプロジェクト リーディング「星の王子さま」が、3月4日に神奈川県の公式Youtubeチャンネル・かなチャンTVで無料配信された。リーディング「星の王子さま」は、分身ロボット“OriHime”を使用した作品を創作するプロジェクトの第2弾で、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの同名小説を原作に演劇家の藤原佳奈が脚色・演出を手がけ、石川瑠華と14名のOriHimeパイロット(操作者)による朗読劇として立ち上げられた。また、その創作の裏側を追ったドキュメンタリー映画「ここに、いる。~分身ロボットと創る『星の王子さま』~」も同時配信されている。
ステージナタリーでは、配信直前の2月下旬、石川にインタビューを実施。OriHimeパイロットたちとの創作の日々を語ってもらった。
取材・文 / 櫻井美穂撮影 / 大金康平
OriHimeプロジェクトとは?
OriHimeは、身体的問題や、入院など、様々な事情により外出困難な人のための“分身”ロボット。OriHimeプロジェクトは、(公財)神奈川芸術文化財団が神奈川県から委託され実施している共生共創事業がプロデュースしているもので、本企画ではOriHimeパイロットたちがOriHimeを遠隔で操縦し、撮影現場にいる生身の俳優と共演している。
2021年に制作・配信されたプロジェクト第1弾「ちいさなちいさな王様」(参照:「ちいさなちいさな王様」収録現場レポート)には、今作「星の王子さま」にも参加しているOriHimeパイロットのさえが出演。さえは、歳を重ねるごとに身体が小さくなり、それまで持っていた知識を失っていく“王様”役を好演した。
藤原佳奈が脚色・演出を手がける第2弾「星の王子さま」には、さえに加えオーディションで選ばれた計14名のOriHimeパイロットが出演。人間1人とOriHime14体の創作の裏側は、本編と同時公開されているドキュメンタリー「ここに、いる。~分身ロボットと創る『星の王子さま』~」で観ることができる。
石川瑠華が語る、リーディング「星の王子さま」
“漠然とした不安”が“早く会いたい”に変わるまで
──「星の王子さま」は、サハラ砂漠に不時着した飛行士の“ぼく”と“王子さま”を巡るベストセラー作品です。今回は池澤夏樹さんが翻訳・構成した「絵本・星の王子さま」を用い、演劇家の藤原佳奈さんが脚色・演出を施したリーディング作品として立ち上げられました。石川さんは飛行士役として、OriHimeパイロットのきよさん演じる王子さまと共演されましたが、シンプルなセットの中で繰り広げられる2人のやり取りは、劇場で朗読劇を見ているかのように感じられました。改めて、作品のどこに魅力を感じて、参加しようと思われたのでしょうか?
決め手は、「星の王子さま」という作品ですね。二十歳くらいのときに初めて読んだのですが、「もっと若い頃に出会いたかった!」と思うほど、ずっと手元に置いておきたい本の1つだと感じました。実は、参加を決めたときは、OriHimeという存在をよく知らなくて。
──では“OriHimeと演技をする”ということについては、どのような気持ちでしたか?
漠然とした不安がありました。調べても、実際にどのような創作になるのか想像がつかなくてどうしようと悩んでいたときに、前作「ちいさなちいさな王様」のメイキング(参照:[共生共創事業Making Movie 2020] メイキング・オブ ちいさなちいさな王様 - YouTube)を拝見して。メイキングの中で、藤野涼子さんがOriHimeパイロットのさえさんと徐々に距離を縮めていく姿を見て、少しずつ気持ちが前向きになって、「早く会いたい!」と思うようになりました。
王子さまにも、花にも共感できる
──もともと「星の王子さま」がお好きとのことですが、OriHimeとの創作を通してさらに好きになった言葉やシーンはありますか?
より好きになったのは、王子さまがバラ園で5000本のバラたちを前に、自分の1本の花を思い出すシーンと、飛行士と王子さまが井戸を見つけたときのシーンです。
──井戸のシーンでは、丸い机の上に乗ったミニチュアの飛行士と王子さまが、小さな井戸を囲んでいました。
やっとありつけた水を前に、王子さまが「地球の人たちはバラを5000本も咲かせられるのに、自分が探しているものが、見つからないんだね」とのんびりと言うんですけど……「本当に、探しているものって見つからないよなあ」って(笑)。きよさんから発せられたからこそ、自分の心に残った言葉になりました。
──バラ園のシーンでは、別の星からやってきた王子さまが、自分の星に残してきた花こそ自分にとって唯一無二の大切な存在だったということに気づきます。自分の星にいた頃、王子さまは花があんまり「あれをしてほしい、これもしてほしい」とわがままを言うのでつらくなり、花の元を離れて旅をすることにしますが、王子さまに別れを切り出されたうーさん演じる花が、「あなたが好きだったのに、うまく言えなかった」と声を震わせて告白する様には胸が痛みました。あの別れには感情移入する視聴者も多いかと思いますが、石川さんはいかがでしたか?
感情移入してしまいましたね。ただ私は、王子さま側にも花側にも共感しちゃいます。花のわがままって、どうしたらいいのかわからなくて言ってしまうものだと思うんですけど、言われた相手側に余裕があれば愛おしく感じられるでしょうし、余裕がなければただただ乱暴に聞こえるんじゃないかと思うんです。だから花のわがままはある意味無垢な愛情表現でもあるんですけど、王子さまもそれを無垢に受け取ってしまうから、自分を責めつつも別れを切り出すことになってしまう。すごく必然的な別れですよね。私自身、両方の気持ちが理解できるからこそ、「どっちも悪くないのに、どうしてうまくいかないんだろう……」って考えてしまいました。愛することって、単純なことではないですよね。
OriHimeと近い存在でありたい
──リーディング「星の王子さま」には、総勢14名のOriHimeパイロットの方が出演者として参加されています。人間の肉体で演技しているのは石川さん1人ですが、石川さんの演技や視線が、OriHime越しにパイロットへ向かっていることが伝わってきて、石川さんとOriHimeの自然な距離感から、OriHimeの存在に生々しさや、体温のようなものを感じました。
それは、私だけではなく現場にいた全員が、OriHimeパイロットと近い存在であろうという心持ちでいたからかもしれないです。現場では、みんなと“いる”という実感がすごくありました。OriHimeはロボットですが、きよさんが入ったら、“いる”、抜けたらそこにはきよさんが“いない”。いるときはうれしいし、いないときは寂しくなる。そうやって、OriHime越しに相手の存在を意識するようになったら、今度は「自分もここに“いる”」ということが実感できるようになったんです。普段、自分の存在に意識を向けることってなかなかないと思うんですけど、OriHimeパイロットとの創作を経て、「私は今、この人達と一緒にここに“いる”んだな」ということを、明確に感じるようになりました。
──OriHimeは、手を振ったり、両手を上げるなど、さまざまなボディランゲージで感情を表現します。映像内でも、パイロットの皆さんはOriHimeのボディランゲージを駆使し、それぞれの役を鮮やかに演じられていましたね。本編と同時公開されているドキュメンタリー映画では、石川さんが、きよさんの入ったOriHimeと同じタイミングでお辞儀をしたり、OriHimeと同じ仕草であいさつするなど、OriHimeとのコミュニケーションを楽しんでいらっしゃるように見えました。
あれは、(ドキュメンタリー映画の監督)大金(康平)さんを真似したんです(笑)。大金さんは「ちいさなちいさな王様」でも監督を務められていたので、創作がスタートしたとき、一番OriHimeパイロットの皆さんと近い存在だった気がします。
──昨年の「ちいさなちいさな王様」の撮影現場でも、大金さんはOriHime越しにさえさんに何かを伝えるとき、必ずしゃがみこんで目の位置を合わせていたのが印象的でした。
そうなんです! しっかりしゃがんであいさつされていて。そして、それが自然なんですよね。大金さんは、本当にOriHimeパイロットの皆さんのことが大好きで。私も大金さんの距離感をお手本にしていました。
──「ちいさなちいさな王様」にも参加されたさえさんは、今回は出演だけではなく、演出助手としても作品に関わっています。
負担もあったかと思うんですけど、連日稽古場にいてくださって、とてもありがたかったです。現場ではずっと見守ってくださって、全員が困っているときにそっとヒントをくれました。サン=テグジュペリにとても詳しくて、「このセリフの意味ってなんだろう?」とわからないときは、教えてくれて。
──ドラマトゥルク的なポジションでもあったんですね。OriHimeパイロットの皆さんも、スタッフの中にOriHimeのパイロットがいると心強そうです。
確かに皆さんもさえさんがいると、くだけた雰囲気になっていました。「あ、さえさんだ!」みたいな(笑)。まさに“みんなの友達”でしたね。
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藤原佳奈の教え