共生共創事業2024年度プログラムより「あつまれ!音の探検隊 in 平塚」レポート / 「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」

神奈川県では、“年齢や障がいなどにかかわらず、子どもから大人まで、すべての人が舞台芸術に参加し楽しめる”「共生共創事業」を実施している。これまでに、外出困難な人のための“分身”ロボット・OriHimeを用いた演劇の動画配信や、高齢者が活躍できるシニア劇団の運営、そして福祉施設でのワークショップなど、幅広い活動を行ってきた。

2024年度にラインナップされた「共生共創事業」より、ステージナタリーでは、2つのイベント「あつまれ!音の探検隊 in 平塚」と「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」に注目。2月に行われた「あつまれ!音の探検隊 in 平塚」は、打楽器奏者の若鍋久美子らが複数の福祉施設で行ってきた“音”を感じるワークショップを体験できるイベントで、3月に開催を控える「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」は、東京デスロックの多田淳之介らが、精神科病院で行ってきたワークショップをもとに、参加者の“生きざま”から精神障害を考えていくパフォーマンスだ。「あつまれ!音の探検隊 in 平塚」は参加レポート、「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」はプロジェクトメンバーのインタビューでその魅力に迫る。

取材・文 / 櫻井美穂撮影 / 櫻井美穂(「あつまれ!音の探検隊 in 平塚」)、橋本貴雄(「IKIZAMAミュージックぱーてぃー」)

福祉施設で行われていた「音の探検隊」が平塚文化芸術ホールで開催
「あつまれ!音の探検隊 in 平塚」チラシ

「あつまれ!音の探検隊 in 平塚」チラシ

誰でも参加できる「音の探検隊」

「音の探検隊」は、“障がいと表現”に関する活動をライフワークとしている打楽器奏者の若鍋久美子が、福祉施設の利用者たちと楽器や声、ときには布などの小道具を用いながら、“音”を感じ、見つけるワークショップ。2023年度に神奈川県平塚市内にある障害児・者・家族サポート事業所スプラウトで行われたこのワークショップ(参照:ドキュメンタリー映像「音の探検隊 2023 in スプラウト」若鍋久美子・伊神柚子が語る、スプラウトメンバーとの“探検記録”)は好評を博し、2024年度にはスプラウトだけではなく、平塚市内の福祉施設であるグループホームユミト、ソーレ平塚、平塚栗原ホーム、studio COOCAでも実施された。そして、誰でも参加できる「あつまれ!音の探検隊 in 平塚」として、2月9日にひらしん平塚文化芸術ホール 多目的ホールで参加型音楽イベントが開催されることになった。

ひらしん平塚文化芸術ホールは、平塚駅から徒歩10分程度の場所にあり、2022年にオープンした新しい建物。建物内に入ると、親と一緒にやってきた小さな子供たちがキッズスペースで遊んでいる姿や、近隣の中学・高校に通う学生たちが参考書を広げて勉強している姿、高齢者同士がベンチに座り交流している様子が見られ、施設自体が住民たちの憩いの場となり、愛されていることが伝わってきた。そんな市民と身近な劇場の多目的ホールで、「あつまれ!音の探検隊 in 平塚」が実施された。多目的ホールは壁面がガラス張りで、ホールの様子は外からもよく見える。入退場自由のこのイベントに、ぴったりなロケーションだ。

屋外で「音の探検隊です!」

「あつまれ!音の探検隊 in 平塚」の参加アーティストは、若鍋と、「音の探検隊」ワークショップで若鍋の相棒を務めていたボーカリストの伊神柚子に加え、アコーディオン奏者の土屋恵、ダンサーの永井美里、打楽器奏者の松浦華子の5名で構成される。タイムテーブルを見ると、13時半から14時までは「自由に打楽器・踊り・歌を楽しむ時間」、14時から「打楽器セッション」、14時15分から「おどろうセッション」、14時半からは「うたおうセッション」、そして14時45分から再び「自由に打楽器・踊り・歌を楽しむ時間」があり、15時10分からの「メインセッション」で、このイベントは終了となる。

開場時間になると、イベントを待ちかねていた5・6人ほどが、ぞろぞろと入場してきた。そこには、これまで「音の探検隊」が行われてきた福祉施設の利用者たちの姿も。若鍋たちは、「来てくれたの!?」と彼らとの再会を喜びつつ、イベント呼び込みのため、連れ立って屋外へ繰り出していった。イベント当日は晴天で、ひらしん平塚文化芸術ホールの向かいの公園には、たくさんの子供たちが遊んでいた。外に出ると、若鍋は「音の探検隊です!」と自己紹介し、「音の探検隊」チームで映画「となりのトトロ」より「さんぽ」を披露。迫力ある音色に、公園で遊んでいた子供たちは親を引っ張りながら、ぞろぞろと集まってきた。演奏を終えた若鍋が「今日、これから『音の探検隊』を多目的ホールでやるので、ぜひいらしてください!」と弾ける笑顔を見せると、子供たちは親と顔を見合わせ、ワクワクした表情でホールへ吸い込まれていった。

セッションタイム、スタート!

会場には、公園からやってきた、幼稚園生くらいの子供たちとその親たちに加え、チラシでこのイベントを知ったという小学生の子供を持つ親たち、また「音の探検隊」ワークショップの経験者である福祉施設の利用者たちなど、下は3・4歳、上は六十代くらいまでと、幅広い年齢層の人々がやってきた。それぞれが、“呼んでほしい名前”のシールを胸に貼り、ホールに集まったところで、来場者が自由に楽器を奏で、歌い、踊ることができる、“音のお祭り”「音の探検隊」がスタート。まずは、「自由に打楽器・踊り・歌を楽しむ時間」が始まった。ホール内は、「うたおう!」「いっしょにおどろう!」「打楽器コーナー」の3つのエリアに分けられている。マイクと楽曲リストが用意され、参加者が歌うことができる「うたおう!」は伊神と土屋、ウッドブロックやギロといった小型の打楽器が用意され、参加者が触れることのできる「打楽器コーナー」は松浦、大小の薄い布が配布され、思い思いに踊ることができる「いっしょにおどろう!」は永井が主に担当した。「うたおう!」のエリアでは、参加者が自ら歌うのではなく、伊神に次々と「この曲を歌って!」とリクエストする一幕も。伊神は「一緒に歌いましょうよお!」と人懐こい笑みで参加者を巻き込みつつ、伸びやかな歌声を土屋のアコーディオン演奏に乗せて響かせた。

若鍋は頻繁に3つのエリアを行き来しながら“「音の探検隊」初心者”である屋外からやってきた親子に声をかけたり、「打楽器コーナー」に並べられた楽器を眺める人々に「こんな音が出るよ」とさまざまな楽器を紹介したり、「いっしょにおどろう!」エリアで踊る永井をじっと見つめる子供に「一緒に動いてみよう!」と自ら動きながら声をかけたりと、参加者の緊張をほぐしていく。

そして緊張がほぐれてきたところで、若鍋はドコドコドコ……と自らかついだアフリカの太鼓・ジャンベを打ち鳴らして参加者の注意を引いた。フリータイムが一旦終了し、演奏、ダンス、歌唱、それぞれに参加者全員が集中する、セッションパートの幕開けだ。まずは、若鍋と松浦を中心にした「打楽器セッション」から。ここでは、「打楽器コーナー」にあった、小型の打楽器たちに加え、太鼓類も登場する。「好きな楽器を選んでください!」との若鍋の言葉を受けて、大人も子供も瞳を輝かせながら楽器の元へ。試しに叩いて鳴らしてみて、「自分はこれ!」とお気に入りの楽器を選び、その楽しさに、みんなが笑顔を浮かべていた。

そしてセッションがスタート。楽譜も指示もない、即興でのセッションに、子供たちはどうすればいいかと大人の様子を伺うが、若鍋ら「音の探検隊」チームが「自由に叩いてみよう!」と、率先して自由にシャンシャンドコドコと音色を出すことで、“答えはない”という見本を見せた。すると子供たちは、最初は小さく、どんどん大きく、音を出し始める。一方、福祉施設ですでにワークショップを受けたことがある経験者たちは、慣れた様子でお気に入りの楽器を手に取り、リラックスしながら響きを楽しんでいた。若鍋をはじめとした「音の探検隊」チームは、参加者たちが自由に出す音を丁寧にキャッチし、それに呼応した音色やリズムを演奏することで、空間に心地の良い音楽を作り出す。セッションの最終盤は、若鍋の「●●さんの、ソロ!」という合図によって、ソロパートも盛り込まれた。パートを任された参加者が心のままにリズムを披露したので、参加者たちは大盛りあがり。最後は、若鍋の合図で、全員でドン!と自分が持っている楽器を打ち鳴らして、「打楽器セッション」は幕を閉じた。

続いて、「おどろうセッション」。ここでは鈴の入った紐が登場し、最初は、永井と若鍋が見本を見せる。紐の端を互いに持った2人は、松浦が鳴らす金属製のスリットドラムの音を聞きながら、身体全体を動かし、ときに身体を交差させながら、1本の紐を軸にしたダンスを披露した。伸縮性のある紐の中で鈴は転がっていくが、つながった2人の動きが派手になると、鈴の転がるスピードが速くなることから、その音色も派手になり、逆にゆったりとした動きになると、鈴の音も穏やかになった。続いては、参加者のターン。最初はレクチャーパートとして、参加者同士ではなく、紐の片側を永井が持ち、サポートする。参加者が身体を動かすと、永井はその動きに呼応した動きを見せた。最初は恐る恐る紐を持っていた参加者たちだったが、どんな動きにも応えてくれる永井に、次第にぎこちなさが消えていく。慣れてくると、参加者同士で紐を持ち合い、互いの動きを見ながら、呼吸を合わせたダンスが始まった。ホールには、さまざまな鈴の音に加え、ジャンプの音、スニーカーが床を擦るキュッという音、笑い声などが響いた。

「うたおうセッション」では、参加者がホール前方に置かれたマイクを通し、歌声を披露する。「おどろうセッション」で可愛らしいダンスを見せてくれた女の子に、伊神が「歌う?」と声を掛けると、彼女はニコッと笑い、小走りでマイクの前に立った。演奏リストから彼女が選んだのは、Foorinの「パプリカ」。土屋がアコーディオンでイントロを弾き始めると、子供たちは「この曲、知ってる!」とテンションが上がっていく。子供たちは、女の子の愛らしい歌声に声を重ねるだけではなく、曲に合わせたダンスも披露してくれた。「パプリカ」のあとは、屋外でも演奏された「さんぽ」が続く。「パプリカ」にピンとこなかった大人たちも、「さんぽ」は楽しげに、元気いっぱい歌唱した。

フリータイムの“音”の違い

3つの「セッション」が終わったあと、2度目の「自由に打楽器・踊り・歌を楽しむ時間」が始まった。参加者は、それぞれが興味のあるエリアに向かい、思い思いに打楽器を叩いたり、踊ったり、歌ったりと、自由に時間を過ごす。1回目のこの時間は、それぞれのエリアから聞こえる音はどこか控えめだったが、ここでは、参加者の出す音が自信を持ったように大きく、伸びやかになっていたのが印象的だった。イベント開始時はフォローに徹していた若鍋が、この時間は、各エリアで楽しむ参加者に「いい踊りだね!」「上手に弾くね!」「●●さん、歌上手!」と、手持ちの太鼓を打ち鳴らしながら声をかけ、思い思いに楽しむ参加者の表情を楽しげに見つめていた。

いよいよ、イベントはクライマックス、「メインセッション」へ。まず、「音の探検隊」チームより、参加者たちへ歌のプレゼントが。披露されたのは、武満徹作詞作曲の「小さな空」で、伊神の歌唱、若鍋、土屋、松浦の演奏、そしてこの歌唱に合わせた永井のダンスにより、それまで、はしゃいで走り回っていた子供たちも、集中して聞き入り、空間は一気にしっとりとした空気になった。

「メインセッション」が終わると時はすでに夕方。昼にスタートした「あつまれ!音の探検隊 in 平塚」も最終盤に。「小さな空」で、万雷の拍手を受けたあと、若鍋は「それでは、最後にみんなで『炭坑節』を歌って、踊りましょう!」と満面の笑みを見せる。「月が出た出た、月が出た」と伊神が歌えば、子供も大人も、一緒に歌い、踊りだす。参加者たちは大きな円を作り、手持ちの打楽器を打ち鳴らしながら、フィナーレを楽しんだ。

「炭坑節」が終わり、ホールが拍手で包まれると、若鍋が「今日1日、どうでしたか?」と複数名にマイクを傾ける。幼稚園生ぐらいの女の子は「歌えて楽しかった」と目を輝かせ、福祉施設から遊びに来たという女性2人も「楽しかったです!」と笑顔で答えた。若鍋ら「音の探検隊」チームの指揮のもと、参加者全員で1つの演奏会を終えたような達成感に包まれながら、「あつまれ!音の探検隊 in 平塚」は幕を閉じた。