尾上眞秀が親獅子になったら
──完全燃焼されたんですね。そして、右近さんの親獅子姿もステキでした。仔獅子を谷底に落としたあと、見事這い上がってきた瞬間の喜び方が右近さんらしく、表情豊かでストレートで。
右近 あそこは意識して作ったわけではなく、自然にうれしい気持ちが心の底から込み上げてきました。こうして親獅子を経験してみると、たくさんの新しい視点が見つかります。過去に仔獅子に声をかけてくださった先輩たちに対して、より感謝の気持ちが大きくなりましたしね。
──親獅子の「終わり」の合図が入ってもまだまだ毛を振りたそうだった、右近さんのやんちゃな仔獅子も思い出します。
右近 僕の仔獅子は、やりたいことをとにかく詰め込みましたから(笑)。
──時代は巡りますね。眞秀さんもそのうち親獅子をなさるかもしれません。
右近 眞秀が親獅子をやる日が来たら、僕、泣いちゃうと思いますね。いや、観るだけじゃ物足りなくて、「(間狂言の)宗論に出してくれ」って言い出すかもしれません。そのときは、白(ハク、白髪のカツラ)で出してください。
一同 (笑)
2人でこれからやりたい演目は…
──将来が楽しみです(笑)。今後お二人でやってみたい演目はありますか?
右近 「連獅子」はいろいろな振付があるので、次は違う振りに挑戦するのも面白いでしょうし……(お化け尽くしの変化舞踊)「闇梅百物語」、もう少し大きくなったら四段返し(「弥生の花浅草祭」。「三社祭」など早替りによる踊り分けが見どころ)なんてどうでしょう?
──ますます夢が広がります。眞秀さんは現在12歳。右近さんは小学生のとき、どんな気持ちで歌舞伎と向き合っていましたか?
右近 ちょうど右近襲名を控えていた時期ですね。歌舞伎に対してより真剣な決意を抱くと同時に、本気で取り組むからこその楽しさを感じるようになっていた年代だったと思います。「獅子」つながりで言えば、9歳のとき、中村勘三郎のおじさまの「鏡獅子」で胡蝶を踊らせていただいたことがあるんです(岡山後楽園特設舞台での後楽園かがり火歌舞伎)。海外から現地に入る予定だったおじさまが、9.11(2001年のアメリカ同時多発テロ事件)でリハーサルの日に帰国できず、ぶっつけ本番でなさったのですが、その獅子の迫力たるや、すさまじかったですね。子供心に近寄りがたく、舞台に出ていくのが恐ろしくて泣きそうになりました。あのときのおじさまが四十代ですから、僕自身、どんどんその年代に近づいている。「やるべきことは山ほどあるな」と、改めて気持ちが引き締まります。
──では最後に「錦秋十月大歌舞伎」にいらっしゃるお客様へ、お二人からメッセージをいただけますか?
右近 眞秀からどうぞ。
眞秀 「研の會」では親子でしたけど、今度は兄弟。また違う関係の二人を演じるので、ぜひ観にいらしてください。
右近 ……偶然ですが、僕も眞秀とまったく同じことを言おうとしていました。
眞秀 (乗っかって)ズルい!
一同 (笑)
右近 これが大人のやり方です(笑)。
プロフィール
尾上右近(オノエウコン)
1992年生まれ。清元延寿太夫の次男。曾祖父は六代目尾上菊五郎。2000年に歌舞伎座「舞鶴雪月花」の松虫で初舞台。2005年に新橋演舞場「人情噺文七元結」の長兵衛娘お久ほかで二代目尾上右近を襲名。また、2018年に清元栄寿太夫を襲名。
尾上右近 公式サイト | Onoe Ukon OFFICIAL SITE
尾上右近/UKON-ONOE (@ukon_onoe.eiju_dayu.kenx2) | Instagram
尾上眞秀(オノエマホロ)
2012年生まれ。寺島しのぶとローラン・グナシアの長男。祖父は尾上菊五郎、おじは尾上菊之助。2017年に歌舞伎座「魚屋宗五郎」の魚屋丁稚与吉で初お目見得。2023年に歌舞伎座「音菊眞秀若武者」で、初代尾上眞秀を名乗り初舞台。
このコーナーでは、歌舞伎座を訪れたアーティストやクリエイターが、その観劇体験をレポート。今回は、俳優・内田慈が「秀山祭九月大歌舞伎」を観劇。木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」で玉手御前を演じた内田が、「『摂州合邦辻』合邦庵室の場」に触れる。
初めまして、俳優の内田慈です。9月11日、「秀山祭九月大歌舞伎」を観に歌舞伎座へ。昼の部の「摂州合邦辻」、これは観逃せない!
劇団・木ノ下歌舞伎に「糸井版 摂州合邦辻」で客演し、恐れながら玉手御前役を3度(2019、2020、2023年)演じたご縁もあり、絶対に観たかった演目。
(尾上)菊之助さんの玉手御前、素晴らしく、ポロポロと涙がこぼれました。凛としていて、母・娘・妻としてコロコロと表情を変える中、武士の娘である彼女の忠義心の強さが客席に飛び込んでくるようで!
歌舞伎座に行くときは何を食べるかも楽しみなところ。劇場内で売っている紅白のお餅入り「めでたい焼き」をさっそく購入。出来立ては外はカリッ、中はほくほくあんこ、美味しい! 劇場でも買える「新世界グリル梵」のビーフヘレカツサンド。もし売り切れていたら悲しいと思って、劇場近くにある店舗に前日電話予約し、ピックアップしてから劇場入り。幕間はコレで決まり!
プロフィール
内田慈(ウチダチカ)
1983年、神奈川県生まれ。近年の舞台出演作にこまつ座「紙屋町さくらホテル」、木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」、「COCOON PRODUCTION 2024『ふくすけ 2024-歌舞伎町黙示録-』」、ほか。出演映画「お母さんが一緒」(監督:橋口亮輔)が現在公開中。来年1月にserial number12「Yes Means Yes」に出演。
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