舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」新ハリーの平方元基が語る“濃密な人間ドラマ” 2人の“息子”佐藤知恩・渡邉蒼への思いも

2024年7月に、ロングラン3年目を迎えた舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」。原作者のJ.K.ローリングが演出家のジョン・ティファニー、脚本家のジャック・ソーンと共に創作した本作では、「ハリー・ポッター」シリーズの最終巻から19年後、37歳になったハリー・ポッターの父親としての苦悩と決断、そしてその息子アルバスの冒険と成長が、ワクワクするイリュージョンと共に展開する。

日本でのロングラン3年目となる今年、7月に新キャストがジョインし、8月には総観客数が100万人を突破した。ますます盛り上がる舞台ハリポタの魅力に迫るべく、新キャストとして7月からハリー役を務めている平方元基にインタビュー。誰もが知る“ハリー・ポッター”役を演じることについて、また海外スタッフとの稽古の充実ぶりや作品の魅力、そして同じく新キャストとなるアルバス役の佐藤知恩・渡邉蒼への“父親”としての思いなど、たっぷり語ってくれた。

取材・文 / 櫻井美穂 撮影 / 藤田亜弓

舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」あらすじ

ホグワーツ魔法魔術学校7年生のとき、親友のロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャーと共に、闇の魔法使いヴォルデモートを倒し、魔法界を救う英雄となったハリー・ポッター。その19年後、37歳のハリーは、3人の子供の父親となっていた。魔法省の魔法法執行部の長官というポストにも就き、順風満帆に見えるハリーだったが、目下の悩みのタネは、次男アルバスの“良き父親”になれていないことだった。

アルバスは、ホグワーツに入学後、常に“英雄ハリー・ポッターの息子”という目にさらされる自分の立場や、“英雄の息子”であるにも関わらず、学校で思ったような成果が出ていないことに苦しみ、ハリーに反抗的な態度を取ってしまっている。父親と同じグリフィンドールではなく、スリザリンへの入寮が決まったことにも傷つくが、しかしそこでアルバスは、心優しい少年スコーピウス・マルフォイと親友になる。スコーピウスは、かつてハリーと敵対していたドラコ・マルフォイの息子。しかし、出生にまつわるうわさから、ホグワーツでは浮いた存在となっていた。一方、魔法省魔法大臣のハーマイオニーは、ひょんなことから、使用者を過去に戻すことのできる時計・タイムターナーを押収し……。

舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」より。

舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」より。

舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」より。

舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」より。

平方元基が語る、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」

日本の演劇の底力を見せつけられた

──舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」は、2016年にイギリス・ロンドンで初演されたあと、アメリカ・ニューヨーク、サンフランシスコ、オーストラリア・メルボルン、ドイツ・ハンブルク、カナダ・トロントでも上演されました。ロンドン、ニューヨーク、ハンブルクでは、現在もロングラン上演が続いています。平方さんは、ロンドンでのウエストエンド公演、ニューヨークでのブロードウェイ公演をご覧になられていたとのことですが、どんな印象をお持ちになりましたか?

ウエストエンドでの公演は、オープンする2016年にイギリスに旅行に行っていて、たまたま観ることができました。「ハリー・ポッター」の世界が目の前でまざまざと立ち上がっていく様には、純粋に「“演劇の力”ってすごい!」と圧倒されましたね。観ながら、頭の片隅で「この作品が日本で上演されることになったら、どうなるんだろう」と考えてはいましたが、日本人キャストで、どのようにこの世界観を表現するのか、当時は想像がつかなくて。そのあと日本での上演が決まり、初めて観たときは、日本の演劇の底力を見せつけられた気がしました。「日本でもできるんだ!」とかなり興奮しましたね。

平方元基

平方元基

平方元基

平方元基

トライアルアンドエラーを繰り返したことが力に

──アジア圏初となる東京公演は2022年にスタートし、ハリー役は、これまで藤原竜也さん、石丸幹二さん、向井理さん、藤木直人さん、大貫勇輔さんが演じてこられました。平方さんは3年目のキャストとして、今年7月から吉沢悠さんと共に新ハリーとして作品にジョインしています。ハリー役に決まったときは、どのようなお気持ちでしたか。

海外スタッフの方々とのオーディションが、とにかく刺激的で楽しくて。「この人たちと一緒に作品を作りたい!」という気持ちでいっぱいだったので、ハリー役に決まったときはすごくうれしかったです。ただ、それと同時に「まずいことになったな」という気持ちもありました(笑)。歴代キャストの先輩方の素晴らしい演技を観てきたので、そのプレッシャーもありましたし、イリュージョンを一歩間違えると、事故になってしまうかもしれない作品なので。

──3年目は、ドイツ・ハンブルクでの「呪いの子」でクリエイティブ・ディレクターをされていたエリック・ローマスさんが演出チームに加わったそうですが、海外スタッフとの稽古ではどんなことが印象に残っていますか?

日本だと、演出家の持っているイメージをみんなで具現化させていく、ということが多いように感じますが、「呪いの子」の稽古では、エリックが自分の意見を言う前に、キャストそれぞれに「あなたはどう思いますか?」と投げかけてくれて、そこからディスカッションが始まり、役やシーンを作り上げていきました。全体的に俳優には自主性が求められていて、その中でも僕は比較的「のびのび、好きにやって!」と言われていたほうでしたね。「それが一番怖いよ!」と思いつつ(笑)、怖がらずにとにかく自由に演じて、そうしてトライアルアンドエラーを繰り返したことが、ハリーを演じるうえでの大きな力になったと感じています。

この作品自体、魔法にあふれていて、一見するととっても華やかなんですけど、同時に父と子の衝突や葛藤、また人生の選択など、人間ドラマがすごく濃密に描かれています。そのドラマをしっかりお客さんに届けるためにも、時間をかけてセリフの1つひとつを自分たちの身体の中に落とし込んでいく作業は重要でした。エリックは「苦労なく最初から100点を取れてしまっていたら、つまらないキャラクターになる」と言っていて、僕らが役を自分のものにしていくまで、じっと辛抱強く見守ってくれていましたね。

平方元基

平方元基

──観客としても、魔法の世界に魅了されつつ、やはり引き込まれたのはドラマの部分でした。演じられている皆さんが、それぞれのキャラクターを紋切り型ではなく、それぞれの理解や解釈を交えて、人間味あふれる存在として立ち上げられていたからこそ、「彼らはどうなってしまうんだろう」と感情移入しながら観ることができました。

「ハリー・ポッター」シリーズも、単に“不幸だった男の子が、魔法の力で悪者を倒しヒーローになる話”ではなく、“死”や“闇”など、ダークな側面を持つ話として描かれています。ハリー・ポッターというキャラクター自体も、特に原作となる小説に立ち返ると、ちょっと“こじらせている”というか……善悪では語れない性格をしていると僕は感じています。その一筋縄ではいかないところが、「ハリー・ポッター」シリーズが子供だけではなく、大人も魅了する所以だと思います。

「呪いの子」も、わかりやすいハッピーエンドではなく、最終的な答えは出ません。例えば、“愛”を描いてはいますが、「愛とは何か」というところまでは言わない。この曖昧さについて、エリックが「答えが提示されないからこそ、お客様が観に来てくださる」と言っていて、すごく共感しました。作品の舞台は、魔法界という異世界ではありますが、起こっていることは、我々の世界で私たちが日常的に感じていることとすごくリンクしている。答えが明確に提示されないからこそ、お客様それぞれが、ご自身の思いを舞台に投影して観てくださっているのかもしれません。そういった、“人によって見え方が異なる”という部分が、何度も観に来てくださる方が多い理由の1つなのかなとも思います。