今こそ読もう「王家の紋章」45年続く大河ドラマの魅力を解説、ミュージカルキャスト13人からもコメント到着

細川智栄子あんど芙~みん「王家の紋章」。そのタイトルや概要は知っていても、ちゃんと読んだことのある人は意外と少ないかもしれない。というのも、「王家の紋章」は連載のスタートが1976年と、現在までに45年の歴史を持つ大作。読者の中には「生まれる前から連載されているので、なんとなく手を出しづらい」と敬遠している人も少なくないはず。もしかしたら、「まだ連載は続いているの?」という人もいるかもしれない。だが「王家の紋章」は現在も月刊プリンセス(秋田書店)にて連載中。この夏にはミュージカルの再々演、複製原画展の開催とイベントが控えており、“王族”と呼ばれるファンたちは大いに盛り上がっている。このタイミングで王族になってみるのも一興だ。

コミックナタリーでは、これまでなんとなくしか「王家の紋章」を知らなかった人のために、作品への入り口となるような特集を企画。幼少期をエジプトで過ごし、その文化を知るために「王家の紋章」を手に取ったという脚本家・ライターの皐月彩には、コラムを寄稿してもらった。生まれる前に連載開始した「王家の紋章」にハマり、今では「『王家の紋章』がアニメ化されるならぜひ私に脚本を!」と熱望する彼女が、“転生チートものの元祖とも言える設定”“応援したくなる多種多様のキャラクター”といった視点から、その魅力を深堀りしている。さらにミュージカル「王家の紋章」に出演するメンフィス役の浦井健治、海宝直人ら13人が、原作について語ったコメントも掲載した。

コラム / 皐月彩 構成・画像キャプション / 松本真一

「王家の紋章」あらすじ
考古学を学ぶ16歳のアメリカ人少女、キャロル・リード。彼女が留学先で、リード家の事業である墓の発掘現場に居合わせたことで、メンフィスの姉・アイシスの呪いにより3000年前の古代エジプトにタイムスリップしてしまった。金髪碧眼、そして考古学の深い知識と21世紀の叡智を持つキャロルは、古代エジプトで“ナイルの娘”として崇められるようになる。若き王・メンフィスに当初は反発していたキャロルだが、次第に彼に惹かれ、深く愛するように。メンフィスと結婚し、エジプトの王妃として古代に留まる決意をしたキャロルだが、諸外国の王たちがキャロルを手に入れようと動き出し、いくつもの危機が立ち塞がる。

Z世代のエジプト出身脚本家が紐解く、
「王家の紋章」の魅力

文 / 皐月彩

1994年生まれの筆者が、
1976年開始の作品に夢中になった理由

母なる川ナイルにより繁栄した、古代エジプト文明。「王家の紋章」は、そんな地に考古学研究をすべく留学してきたアメリカ人主人公・キャロルが、王家の墓の発掘現場に居合わせたことをきっかけに呪われ、はるか古代エジプトへとタイムスリップしてしまうところから物語が始まる。

幼少期をエジプト・ナイル川に浮かぶゲジラ島で過ごした筆者は、自分が暮らす地の歴史を少しでも知るために、「王家の紋章」をいつも読んでいた。1976年より月刊プリンセスにて連載が開始した作品にも拘らず、時を超えた愛と戦乱の物語は1994年エジプト出身の筆者を夢中にさせた。

特に筆者が愛したのが、主人公・キャロルの恋敵である、エジプトの女王・アイシスであった。現代人・キャロルたちが好奇心のために王家の墓を荒らした恨みから、キャロルを呪い、古代エジプトにタイムスリップさせることで、彼女たちに復讐しようと狙ったアイシス。ただ、「愛する家族を守りたい」という切なる思いで起こした行動が、自らの地位を揺るがすことになるのも知らずに……。

「王家の紋章」1巻より。現代に蘇ったメンフィスの姉・アイシスは呪術により、主人公・キャロルを古代エジプトにタイムスリップさせる。キャロルがメンフィスの墓の発掘現場に居合わせたことが原因だ。

「王家の紋章」1巻より。現代に蘇ったメンフィスの姉・アイシスは呪術により、主人公・キャロルを古代エジプトにタイムスリップさせる。キャロルがメンフィスの墓の発掘現場に居合わせたことが原因だ。

キャロルたちが墓を暴かなければ、静かに愛する王・メンフィスのもと、ミイラのまま眠り続けられたであろうアイシス。そんな彼女の悲しすぎる運命は、主人公の命を脅かす恐ろしい敵でありながら、どこか憎み切れない姿にうつる。

通り一辺な勧善懲悪ものではなく、それぞれの地位、育ち、恋心が綿密に絡み合いながら、67巻分の物語が展開されている「王家の紋章」。この夏、ミュージカルも再々演される長期連載作品の魅力を、今回はさらに深く掘り下げてみたい。

転生ものの元祖!?
現代の知識が、古代では未来を読む神秘の力に

主人公のキャロルは高校生という若さながら、旺盛な知的好奇心が幸いして、古代エジプトでも工夫を凝らし、病気の治療、飲み水の確保、また今後の政治の行く末などの知識を存分に発揮して、周囲の古代人たちを驚かせる。

「王家の紋章」3巻より。汚れた水を濾過し、飲み水を作るキャロル。現代では小学校の理科の実験などでも習う方法だが、古代エジプトでは浸透していないため、キャロルは周囲から驚かれる。

「王家の紋章」3巻より。汚れた水を濾過し、飲み水を作るキャロル。現代では小学校の理科の実験などでも習う方法だが、古代エジプトでは浸透していないため、キャロルは周囲から驚かれる。

「王家の紋章」3巻より。鉄剣の作り方を白状しないため、敵国であるヒッタイトの捕虜は拷問を受けてしまう。キャロルはこれをやめさせるため、現代の知識で強く硬い剣を作ってみせた。さらに「これからは鉄の武器を持つ民族が力をふるう時代が来る」と予言めいたことを言ってしまい、尊敬を浴びることに。

「王家の紋章」3巻より。鉄剣の作り方を白状しないため、敵国であるヒッタイトの捕虜は拷問を受けてしまう。キャロルはこれをやめさせるため、現代の知識で強く硬い剣を作ってみせた。さらに「これからは鉄の武器を持つ民族が力をふるう時代が来る」と予言めいたことを言ってしまい、尊敬を浴びることに。

加えて彼女の信頼度を高めていくのは、キャロルの持つ「やさしさ」。身分制度で固められた古代エジプトの人々は、奴隷も王族も区別せず、「命は尊いものだ」と主張する彼女の分け隔てない心遣いに舌を巻いて、「ナイルの姫君」と称して崇めていく。

「王家の紋章」5巻より。メンフィスが墓荒らしを殺したことをキャロルが責めるが、まったく響かないメンフィス。現代人と古代エジプト人の死生観の違いがわかるシーンだ。

「王家の紋章」5巻より。メンフィスが墓荒らしを殺したことをキャロルが責めるが、まったく響かないメンフィス。現代人と古代エジプト人の死生観の違いがわかるシーンだ。

「王家の紋章」6巻より。キャロルはエジプトでは珍しい金髪碧眼、白い肌という美しい容姿に加え、考古学をはじめとした幅広い現代知識、奴隷も王族も区別しないやさしさから、“ナイルの娘”“黄金の姫”と崇められるようになる。

「王家の紋章」6巻より。キャロルはエジプトでは珍しい金髪碧眼、白い肌という美しい容姿に加え、考古学をはじめとした幅広い現代知識、奴隷も王族も区別しないやさしさから、“ナイルの娘”“黄金の姫”と崇められるようになる。

何気ない行動1つひとつを驚かれ、みるみるうちに人を魅了していくその様は、昨今多くのライトノベルやマンガ作品に用いられる「異世界転生」におけるチート感を彷彿とさせる。唯一彼女が未来の一般人だと知っているアイシスは、そんな彼女の扱いが不当だとやきもきするが──未来からキャロルがやってきた、という事実を理解しきれない古代エジプトの人々は、彼女の知性と、エジプト人らしからぬ金髪と青い瞳に魅了され、国交までも揺るがす争奪戦へと乗り出してしまうのだ。

もし、自分が古代エジプトに舞い降り、キャロルと同じ立場になっても、同じような活躍や、死線を潜り抜ける度胸はきっと持ち合わせられないだろう。しかし、「知識」と「やさしさ」は、時を超えて人々を魅了させる。そんな「王家の紋章」らしい価値観は、幼い日の私の知的好奇心をもかき立てた。

民族・考古学を取り入れた分厚い世界設定!
キャロルとともに旅をする世界に注目

「王家の紋章」の物語は、古代エジプトのみならず、エジプトを取り囲む近隣諸国との関係と共に語られる。キャロルの夫となる王・メンフィスは、暴虐の限りを尽くす冷たい王として各国を支配していたため、敵対国や友好国のキャラクターたちがエジプトの地に次々と訪れる。資料の中でしか見たことのなかった古代の人々の生活が目の前で見られるだけで、考古学を研究していたキャロルの好奇心は爆発! 時にエジプト王妃という立場まで忘れて、各国の儀式や生活様式を見に行こうと駆け巡る。

その舞台には、考古学マニアではなくても聞いたことのある聖書やギリシャ神話などの要素もふんだんにちりばめられているため、読者は物語を追いながら、次に博物館に行った際に「これはもしや!」とキャロルのように胸を高鳴らせる体験ができるにちがいない。

「王家の紋章」14巻より。伝説上の建物であるバベルの塔を訪れたキャロル。現代に生きていてはできない体験に「きゃーっ 夢みたい 興奮してしまう ブラウン教授に見せてあげたいわっ」と喜びを隠せない。

「王家の紋章」14巻より。伝説上の建物であるバベルの塔を訪れたキャロル。現代に生きていてはできない体験に「きゃーっ 夢みたい 興奮してしまう ブラウン教授に見せてあげたいわっ」と喜びを隠せない。

「王家の紋章」32巻より。現代においては「古代船」と呼ばれる船に乗り、「20世紀で見た壁画とそっくり!」と喜ぶキャロル。

「王家の紋章」32巻より。現代においては「古代船」と呼ばれる船に乗り、「20世紀で見た壁画とそっくり!」と喜ぶキャロル。

原作者・細川智栄子氏と芙~みん氏が現地にきちんと足を運んでいるのに加え、読者からも積極的に資料が送られ、多くの裏付けを持って描かれるこの作品には、「こんな戦いや生活が古代にはあったのではないか……」とワクワクする世界を展開するこだわりが溢れている。現代人キャロルと共に、ロマンいっぱいの古代の世界を旅しに行こう。

キャロルを取り巻く多種多様なイケメンたち!
あなたはどのキャラを応援する?

キャロルはメンフィスを一途に想い、メンフィスもキャロルを愛して、この2人が不動のカップルとして描かれる「王家の紋章」。しかし、キャロルに恋する国籍・人種・地位も多種多様な男性キャラクターたちを追っていると、いつしか読者が「メンフィスよりもこの彼と結ばれればいいのに……」と、強く感情移入してしまうシーンが数多く登場してくる。

特に、シリーズ当初からキャロルに恋心を抱くヒッタイト王国のイズミル王子は、物語の中でも、キャロルを戦乱から救うべく命がけで戦いに赴いたり、時に彼女の身体をおもんぱかって身を引いたりするなど、人間らしくひたむきに彼女を愛する姿が印象的に描かれる。

「王家の紋章」27巻より。ヒッタイト王国の第1王子・イズミルは、ある理由でメンフィスに恨みを持ち、復讐のためにキャロルを誘拐する。しかし次第にキャロルに惹かれていき……。

「王家の紋章」27巻より。ヒッタイト王国の第1王子・イズミルは、ある理由でメンフィスに恨みを持ち、復讐のためにキャロルを誘拐する。しかし次第にキャロルに惹かれていき……。

ほかにも、いつもキャロルの危機に手を差し伸べる旅商人のハサン、ミノア王国の病弱なミノス王、幼いころから幽閉され誰にも愛されてこなかった異形のアトラスなど、多くの不器用で魅力的なヒーローたちが登場する。

「王家の紋章」10巻より。当初は金目的でキャロルに近づくも、その人柄に触れることで彼女を守る立場になった商人・ハサン。豊富な経験や薬草の知識は、幾度となくキャロルを助けた。

「王家の紋章」10巻より。当初は金目的でキャロルに近づくも、その人柄に触れることで彼女を守る立場になった商人・ハサン。豊富な経験や薬草の知識は、幾度となくキャロルを助けた。

「王家の紋章」31巻より。ミノア王国の病弱な少年王、ミノス。気弱で優しい14歳。長らく病気を患っていたが、キャロルの看病により完治したことで、彼女のことを思うようになる。

「王家の紋章」31巻より。ミノア王国の病弱な少年王、ミノス。気弱で優しい14歳。長らく病気を患っていたが、キャロルの看病により完治したことで、彼女のことを思うようになる。

「王家の紋章」33巻より。アトラスはミノスの兄でミノア王国の第一王子だが、醜い姿のため、地下に幽閉されている。キャロルに求愛するが、拒まれたことがきっかけで命を狙うように。ちなみにアトラスは、マカオーンという名のイルカと意思疎通を図ることができる。

「王家の紋章」33巻より。アトラスはミノスの兄でミノア王国の第一王子だが、醜い姿のため、地下に幽閉されている。キャロルに求愛するが、拒まれたことがきっかけで命を狙うように。ちなみにアトラスは、マカオーンという名のイルカと意思疎通を図ることができる。

エジプト王妃となってしまったキャロルを愛することは、エジプトとの戦争を引き起こすとんでもない禁忌。それでも、自分の気持ちを振り切ることができずに動こうとする人間臭い男性キャラクターたちの中から推しキャラを作り、彼らと一緒に葛藤してみるのも「王家の紋章」の楽しみ方の1つだ。

キャロルを囲む魅力的なキャラクターたち

「推しキャラを作るのが『王家の紋章』の楽しみ方の1つ」という皐月彩。ここではメンフィス、イズミル、アイシスのさらなる魅力、そしてここまでのコラムだけでは紹介しきれなかった6人のキャラクターを、名場面を交えながら取り上げる。

「王家の紋章」7巻より。メンフィスは婚儀であるライオン狩りの途中、ライオンに襲われてしまう。彼を助けようとしたキャロルもライオンに襲われてケガをするが、彼女は自分の身体よりメンフィスを心配するのだった。

メンフィス

「王家の紋章」29巻より。漁師であるマシャリキがキャロルと会話しただけでイライラする、独占欲の強いメンフィス。ちなみにこのマシャリキは身分を隠してキャロルに近づいていた他国の王子であったため、「なにやらあいつは気に入らぬ!!」というセリフはメンフィスのカンの鋭さも表している。

古代エジプトの若き国王。容姿端麗で女性に間違えられることもあるメンフィスだが、キャロルと結ばれるまでは、気に入らなければすぐに人を斬り殺す傍若無人な王だった。「我は王ぞ!」が口癖な、俺様ドSキャラの代名詞。「人間の命は皆等しく大切なもの」とキャロルに説かれてからは、民や従者の声もきちんと聞くようになったが、短気なのは相変わらずのよう。だが、お転婆ですぐに好奇心いっぱいに王宮を飛び出してしまうキャロルだけは彼の思い通りにはいかず、やきもきしつつも彼女を守ろうと命を賭けて戦いに赴く。

天真爛漫なキャロルに振り回され、「どうして自分を一番に考えてくれないのか!」と若さ溢れる嫉妬心を持つメンフィス。ワガママいっぱいで独占欲が強い一方、キャロルの機嫌を取るためにプレゼント攻撃をしたり、慌ててしおらしく謝ったり、不利な状況でも果敢にキャロルを助けんと戦火に飛び込んでいくなど、不器用な俺様ツンデレキャラとして魅力的に描かれる。

「王家の紋章」29巻より。執着心が強く、何度もキャロルの前に現れるイズミル。最初は復讐のためにキャロルを誘拐した彼だったが、一度キャロルに惚れてからは、自らが信仰する女神イシュタルに、彼女の無事を祈るようになっている。

イズミル

「王家の紋章」27巻より。キャロルを捕らえたイズミルだったが、このときキャロルがメンフィスの子を身ごもっており、これがヒッタイト王にバレて利用されたり、メンフィスを守るために自害されたりすることを恐れ、逃がすことに。

ヒッタイト王国の第一王子。武術の達人として各国に名を轟かせており、メンフィスが最も警戒しているライバル。勉学と武術に明け暮れていたイズミルが初めて恋をしたのがキャロルであった。敵国の王子であるために、キャロルに大変警戒されていることに胸を痛めている。しかし、自分が妻をもらうなら必ずキャロルでないと嫌だ、という一途な想いを抱き、キャロルのピンチに、拒まれてもなお駆け付ける。

実の父親であるヒッタイト王もキャロルを狙っていると知るが、自分の立場が危ぶまれようと、自分がキャロルを守る!と宣言。時にはキャロルを想い、メンフィスのもとへわざと送り返してやることも……。キャロルのために行動することを最優先する不遇な不器用イケメンキャラ。

「王家の紋章」10巻より。アイシスはメンフィスの異母姉にして、キャロルを古代エジプトにタイムスリップさせた、「王家の紋章」という物語のカギを握る人物の1人。祭祀としての魔力を持つ絶世の美女で、最愛の弟・メンフィスに近づくものには容赦がない。

アイシス

「王家の紋章」18巻より。罰を与えるためエジプトへ呼び寄せたキャロルに、皮肉にも最愛の弟を奪われたアイシス。その後もキャロルの命を狙うが、行動原理が「すべてはメンフィスのため」と一貫しているせいか、憎めない部分も。

古代エジプトの第一王女であり、幼いころからメンフィスと2人で国を治めようと努力してきた一途な異母姉。キャロルら現代人に王家の墓に侵入されたことを怒り、メンフィスのミイラを守るために奔走するが失敗。恨みを晴らすために、キャロルを古代に道連れにして不幸に叩き落そうとした。

だが、彼女の思惑は外れ、キャロルは古代で一躍人気の王妃にまで上り詰める。メンフィスの妻になるべく努力し続けた一途な彼女は、嫉妬の炎に焼かれキャロルを暗殺しようと何度も襲い来るが、エジプト国交の道具として、バビロニア王国のラガシュ王に半ば強引に嫁がされてしまう悲劇のライバルヒロイン。悪役令嬢の元祖とも言える存在でありながら、敵国に嫁いだ後もメンフィスを想い続け、時に危険を冒してでも彼を救おうとするいたましい姿が人気を呼ぶ。

「王家の紋章」14巻より。リード家の長兄で、世界に支社を持つリード・コンツェルンの総帥であるライアン。その仕事ぶりから「氷のライアン」「事業の鬼」「アメリカのライオン」などの異名も持つ。

ライアン

「王家の紋章」44巻では、地中海にてライアンの乗る21世紀の船と、キャロルの乗る古代エジプト船が時と空間を超えて交錯。兄と妹はわずかな時間ながら再会を喜び抱擁するが、古代エジプトでは兄弟姉妹で婚姻を結ぶのが常識であるため、これを聞いたメンフィスが「兄がそなたを抱きしめただと~っ」と激昂する原因に。

キャロルの兄。父の死後は財閥の跡取り社長として、会社をみるみるうちに拡大する。合理的で利益優先を常に考えているが、妹・キャロルのこととなると判断が鈍ることも。キャロルが行方不明になってからは、世界各国の警察を総動員させたり、時に自ら危険な地帯に乗り込むなど、現代軸のヒーローとして大人気のキャラクター。

キャロルもライアンを心から慕っており、古代エジプトに暮らす間も兄を思う発言を繰り返す。だが、兄妹で結婚することが当たり前である古代エジプトの価値観においては、その発言は夫であるメンフィスの嫉妬を買い、喧嘩の原因にもなってしまう。砂漠のど真ん中やギリシャ海上など、キャロルとの邂逅はいつもドラマチックに描かれ、ピンチのキャロルを、時を超え救う姿が勇ましい、心優しきスパダリ系お兄ちゃん。

「王家の紋章」6巻より。キャロルの護衛を命じられていたものの、イズミルがアイシスに捕らえられた際には助けに来たルカ。しかしイズミルへの忠誠心が裏目に出て、「おろか者め なぜにきた」「このわたしがぬけ出そうと思えば そちの力を借りずとも脱出する」と叱られてしまう。

ルカ

「王家の紋章」44巻より。黒髪のかつらをかぶって変装し、街に出て民のことを学ぼうとするキャロルから、「メンフィスにも秘密にして」と言われ、キャロルをイズミルの元へ連れ去るチャンスだと企む。しかし、このときイズミルは行方不明であった。

イズミル王子より遣わされたヒッタイトのスパイ。「自分がキャロルを妃にするまで、彼女の身辺警護をせよ」と指示され、現在はキャロルの側近として彼女の護衛をしている。キャロルの心優しい行いを見るたびに、彼女に畏敬の念を抱くが、メンフィスと共に過ごし幸せそうにしているキャロルを見ては、「イズミル王子も同じくらいキャロルを愛しているのに……」と胸を痛める切ないシーンも。

キャロルとイズミル王子のどちらも慕っているため、エジプト対ヒッタイトの戦いとなると、その狭間でいつも揺れ動く。イズミルとキャロルが結ばれてほしいと思う読者に寄り添うキャラクター。

「王家の紋章」8巻より。キャロルの護衛をしているウナスはその職務上、苦労も多い。その反面でキャロルの活躍を目にすることが多く、彼女には信頼を寄せている。

ウナス

「王家の紋章」11巻に収録された番外編「久遠の流れに…」より。メンフィスやウナスの幼少期時代が描かれている。このときのメンフィスの「気まぐれ」がなければ、ウナスは死ぬまで石切場で働く運命だった。

メンフィスの忠臣であり、現在はキャロルの護衛をしている武官。罪人の子として処刑されそうになったところを、幼き日のメンフィスに助けられてから忠誠を誓っている。メンフィスのためなら命を懸けると心に決めているため、メンフィスが愛するキャロルを守るためにも全身全霊を傾けて戦う。

人を疑わず、いつも真面目に護衛に取り組む優等生イケメン。好奇心旺盛のキャロルに振り回されながらも、エジプトのためになりそうな知識にはつい飛びついてしまうお茶目な一面も。

ほかにも、67巻を通して、人種・価値観ともに多様で、魅力的なキャラクターが「王家の紋章」には数多く登場する。歴史上の戦乱と恋愛模様が折り重なる珠玉の物語に、改めて注目してほしい。

皐月彩(サツキアヤ)
1994年生まれ、エジプト出身の脚本家。手がけた作品に「ウルトラマンR/B」「ウルトラマンタイガ」「キワドい2人-K2-池袋署刑事課神崎・黒木」「レンアイ格闘家」など。8月9日よりABCテレビの「第103回全国高校野球選手権大会 中継」にて、試合間に放送されるショートドラマ「海と空と蓮と」の脚本も担当している。