「フェスティバル / トーキョー19」 PR

F/T19「ファーム」キム・ジョン×松井周|戯曲の可能性を最大限広げて、演出にあたりたい

今年で12回目となるフェスティバル / トーキョーには、12組のアーティストが参加、15以上のプログラムが展開する。会期前半、10月19・20日に上演されるのが、日韓アーティストのコラボレーション作品「ファーム」だ。

遺伝子操作によって産まれた青年を巡る家族の物語「ファーム」は、松井周率いるサンプルにより2014年に発表された。現実とは異なる価値観や社会規範を持つコミュニティを描き、そこに生じる新たな苦悩や可能性に斬り込んできた松井の真骨頂とも言うべき作品で、初演時に話題を呼んだ。一方、演出を手がけるキム・ジョンは、緻密な脚本解釈、骨太な創作スタイルを得意とし、韓国の新世代演出家として注目を集める。2人は作品を介して、どのようなコラボレーションを見せるのか。7月上旬、フェスティバル / トーキョー全プログラム&アーティスト紹介記者懇談会(参照:長島確が提案「パフォーミングアーツを通して都市を想像する時間になれれば」)の前日、東京を訪れたキムと松井が初対談を行った。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 藤田亜弓 通訳 / 洪明花

最初に読んだときは「どうしよう?」と(キム)

──キムさんは今回フェスティバル / トーキョーに参加するにあたり、いくつかの候補作の中から「ファーム」を選ばれたと伺いました。「ファーム」のどんなところに興味を持たれたのでしょうか?

キム・ジョン 「ファーム」は、これまで自分がやってきたスタイルとはだいぶ違う作品で、だから最初に読んだときは「さあ、どうしよう?」と思いました(笑)。松井さん自身が脚本を書き、演出もされた作品なので、戯曲の中に演出のイメージがはっきりあると感じたんですね。だから自分が演出するには、どうすればいいだろう、と。でも魅力として感じたのは、物語が非常にシンプルで、主人公の逢連児(オレンジ)の半生がつづられていること。また、フォーカスが当たっているのは逢連児ですが、実は彼を通して、両親や老婦人など周囲の人たちが描かれている。そういった本作の魅力を、自分も逃さず表現したいなと思いました。

左からキム・ジョン、松井周。

──「ファーム」はずいぶん前に韓国語訳されていたそうですが、これまで韓国で上演されたことはあったのでしょうか?

松井周 いや、ないですね。もともとは、日韓演劇交流センター主催で、日韓両国の劇作家の作品を紹介するプロジェクトのために、翻訳家でドラマターグのイ・ホンイさんが翻訳してくださったんですけど、上演はされていません。そもそも、韓国に限らず僕以外の人が「ファーム」を演出するのは初めてです。

──キムさんは台本を読むときに、具体的な演出のイメージを考えながら読まれますか?

キム 作品によりますが、今回は台本に沿ってイメージを組み上げていくというより、作品が持っている一番強いイメージやキーワードを考えながら読んでいきました。

──今回の来日で「ビビを見た!」(参照:松井周演出「ビビを見た!」開幕に岡山天音「皆さんにとってのビビを見つけて」)をご覧になっていますが、松井さんの演出についてはどんな印象を?

松井 わ、怖いな(笑)。

キム・ジョン

キム 「ファーム」の演出をどうしたものかと悩んでいたところで観させていただき、とても勉強になりました。自分はどちらかと言うと観客が嫌がる部分、怖がる部分まで触れていくスタイルですが、「ビビ」はオープニングから観客の心を掴もうとしていて、作品と観客の関係が結ばれていき、観客の呼吸を掴む作業が松井さんは上手だなと感じました。なので、「ファーム」の台本の中にもそういったポイントを発見してきたいなと思います。

──ただ、いつもは松井さんも“観客の不快指数ギリギリ”まで攻めますよね?

松井 ははは、そうですね。どちらかと言うと観客と呼吸を合わせないことが1つの誠意だと思って作っている部分もあるので。ただ「ビビ」に関しては、観客と呼吸を合わせることをあえて考えたと言うか、そのこと自体が僕にとってのチャレンジだった部分があります。

より切実なテーマになってきたのでは(松井)

──「ファーム」は2014年に初演された作品です。当時、どのようなイメージを持って書かれた作品だったのでしょう?

松井 これはもう、確実にデザイナーベビーがアイデアの発端です。遺伝子を組み換えることによって人がどんどん変身していく。でも希望通りの子供を育てるつもりが、そうではなくなってしまったときに、果たして親は子供に対してどういう振る舞いをするのか……と。世界的にもこういった問題はそのうち起こるだろうと思いましたし、思考実験のつもりで書いた作品ですね。

──初演から5年経ち、その思いは松井さんの中で変化しましたか? あるいは継続していますか?

松井 完全に続いています。初演時はまだ現実との距離があって、ちょっと滑稽さを持って描けたんですけれど、今はもしかするともうシャレにならないと言うか。現実に中国で、遺伝子を組み換えた子供が産まれているわけですから、より切実なテーマになってきているのではと思います。

──本作は家族の物語でもあります。特殊な設定ではありますが、親子や夫婦のやり取りはごく日常的で、愛情や差別といった感情がどこから生まれるか、人生のどこに価値を置くかなど、現実の断片が描かれています。

キム 家族という目線で本作を捉えると、非常に普遍的な問題が描かれていると思います。逢連児が両親とうまくいかなかくて、ぎこちない言動になったり気まずさを感じたりする感覚は、韓国の人にもそのまま伝わると思いますね。

──キムさんが所属するプロジェクト・ホワイルには美術や照明などさまざまなクリエイターが名を連ねていて興味深いです。どんなチームなのでしょうか?

キム プロジェクト・ホワイルには俳優のメンバーはいなくて、スタッフの集団なんですね。メンバーとはいつも討議を重ねながら、作品を立ち上げていきます。今回の「ファーム」にもプロジェクト・ホワイルのメンバーが参加しています。

──劇団時代のサンプルも、スタッフが初動からブレインストーミングに参加して、共同で作品イメージを立ち上げることが特徴の1つでした。

松井周

松井 そうですね。自分のイメージを、スタッフとああでもないこうでもないとこねくり回していました。「ファーム」を作ったときもそうでしたね。キムさんのイメージをあまり狭めたくはないので、初演のことをあまり話しても、とは思いますが、「ファーム」では人と物の境界線をなくしたい、同時に描きたいと思っていて、例えば家電がしゃべったらどうなるんだろうか、ということを演出面でも考えていたと思います。

──確かに当時、そうおっしゃっていました。

松井 ですよね?(笑) だから音楽の宇波(拓)さんと、「扇風機のモーターの回転数を上げたり下げたりして、扇風機が歌っているように見せたい」と話した気がします。うまくいったかどうかはわかりませんが、いろいろやりましたね。照明も、いつもは使わないLEDを基本にして、どちらかと言うと冷たくて尖った明かりをイメージしたり。部屋の中で人工的に日光を当て、農作物を育てるプロジェクトというのがあって、「植物みたいに育つ人間がいたら、どんな人に育つんだろう」と思ったんです。

──そこから「ファーム」に?

松井 そうですね。

──松井作品は、舞台美術が与えるイメージも非常に重要だと思います。美術の面では、今キムさんはどんなイメージをお持ちですか。

キム 具体的にはこれから詰めていきますが、逢連児が持っている内面的な心情を拡大させて、そのイメージを舞台上に作ることができればいいなと思っています。例えば家と研究室を行ったり来たりするときの心情の違いを、美術でも表現できれば。

松井 へえ、面白そう!

キム いえ、まだイメージだけ、口だけです!

一同 (笑)。

左からキム・ジョン、松井周。

──キャスティングについても伺いたいです。逢連児役を、初演は奥田洋平さんが演じられましたが、今回はどんな俳優さんが演じられるのでしょうか?

キム 身体が大きくて、マイムが上手で、ハゲの俳優の予定です(笑)。最初は歳を取った人の身体で逢連児を、と思ったのですが、俳優の身体の中で子供から大人まで時間が行ったり来たりするような、そういう表現にしたいなと思って。40ページくらいの台本ですが、このテキストが逢連児の一瞬を描いているように見えたら……とあくまで“思っている”段階です。(日本語で)スミマセン!

松井 ははは。