「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」|“エリア50代”が魅せるダンスの現在、SAM&近藤良平「十市さんはいい機会を与えてくれた」

やっぱりダンスには力がある

SAM

──お二人は近年、ダンサー・振付家としての活動の一方で、ダンスの輪を広げる活動を実践されています。SAMさんは代表理事を務める「ダレデモダンス」で、ジュニアからシニアまでを対象にしたワークショップを展開。近藤さんは障害者ダンスチーム・ハンドルズで演出・構成・振付を担当されたり、一般の人を対象にした「にゅ〜盆踊り」や「レッド・シューズ」を手がけるなど、ダンスのプロではない人たちにも踊る楽しさを伝える活動をされています。そのように活動の場を広げるようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

近藤 僕はもともと、敷居が低いところでみんながダンスに接してくれたらいいなと思っていて。「サッカーもやるけど踊りもやるよ」ということが当たり前になったらいいとずっと思っているし、ダンスの輪を広げる機会があれば、メッセージも送るし、ワークショップもやるよと思い続けて現在に至ります。特別なこととしてではなく、当たり前にダンスがやりたいなって。

SAM 僕は10代にディスコダンスから入ってブレイクダンスもやりましたが、そのころはストリートダンスがマイノリティだったんですね。でも自分たちのやってるダンスが一番カッコいいと思っていたし、「このダンスを世の中に広めなきゃいけない!」という思いで20代を突っ走って、その延長でTRFにもなりました。2012年にTRFは20周年を迎えたんですが、その記念で「TRF イージー・ドゥ・ダンササイズ」という一般の方向けのエクササイズDVDを出したんです。これがものすごく反響があって。「一般の人たちもこういうダンスがやりたいんだな。だったらそれをもっと追求してみよう」と思って「ダレデモダンス」を始めました。今はシニアの方向けのプログラムもやっていて、普段運動不足になっている方たちに、「散歩も良いけどダンスもやりましょうよ」と広めている最中です(笑)。

近藤良平

近藤 僕にとってSAMさんは先輩なので、先輩がどんどん新たなチャレンジをしてくれていることは、こちらにとっても力になります。

SAM 人生100年時代なので、健康寿命を伸ばしていかないと! 高齢者の方向けのワークショップには、「この歳になるまで踊ったことがない」というような70代、80代の方もいらっしゃるんですけど、レッスンが終わると「楽しかった」と言ってくれて。中には「私の手を見て!」って声をかけてくれる人がいるんです。「私は冷え性でいつも真っ白な手をしてるのに、今日はこんなにピンクになってるの!」って。そういう声を聞いたり、皆さんの笑顔を見ると、やっぱりダンスには力があるんだなって思います。

近藤 僕もコロナ禍で一時期は自分のやれることがなくなるような感覚になったのですが、そこからまた少し状況が変わり、思いも変わってきました。今は、マスク生活に慣れたことでみんな自分を隠すというか、顔もだけど心も読まれないようにするみたいなことが普及してしまったと思うんですね。すると、どうもみんなつまらなそうに見えて、それは嫌だなって。なので、みんなが少しずつでも表現することを取り戻していける状態になれればと。今はそこで闘っている感じがします。

変化のとき、ダンスの現在

SAM

──今回の「DDD」は、“ダンスの現在地”をテーマに掲げています。ダンスを巡る状況はどんどん変わっていて、先ほどSAMさんが「ストリートダンスはマイノリティだった」とおっしゃいましたが、今はダンサーに憧れる子供もかなり増えています。そんな“ダンスの現在地”についてはどのようにお考えですか?

近藤 今ダンスに関係している人たちって、僕も関わっている「横浜ダンスコレクション」に応募してくるような人たちと、TikTokのようなところでダンスを楽しんでいる人たちが入り混じっていて、ダンス界の分母はものすごく増えていると思うんです。でも、それぞれが関わっているのは、ダンスをちょっとつまんだ先くらいかもしれなくて。もちろんそれでも良いのかもしれないけど、僕くらいの年になると、「もう少し隣の芝生を見ても面白いのにな」って思うんです。例えば「フラダンスって面白いな」って突然思うかもしれないし。そのためにも「DDD」のような、多様なダンスが観られる場があるのは良いと思うし、ダンスという枠組みの中でもお互いを理解し合う関係性が持てたら良いのかなと思います。

SAM 確かにそうかもしれないですね。コロナ禍でバーチャルなものが増えていく中で、ダンスはやっぱり生き物だと思うんです。目の前で人が動いていれば波動も伝わるし、感動も伝わる。その大切さは今後も変わらずなくならないと思うし、もし規制されたとしてもやると思うし(笑)。どんな状況でもダンスは廃れることがないと思っています。

近藤良平

──また、ご自身とダンスの“現在地”について、長いキャリアの中でダンスとの関係が蜜月だった時期も、うまくいかない時期もあったかと思いますが、現在はダンスと、どのような関係ですか?

近藤 僕は20代からダンスに接していますが、当時はダンスをやるのが恥ずかしいと思いながらやっていたところがあって。だからダンスの人には「僕、ちょっと演劇やってて」、演劇の人には「僕はダンスだから」って、“ダンス逃げ”しているところがあったんです。でも30代を過ぎてから、どっぷりとダンスのパンツを履き始めたんですよ(笑)。ダンスというキーワードで呼ばれることも増えたし、「DDD」もそうですがディレクター的なことをやるようにもなったし、いい意味で逃げられなくなった。最初は軽い気持ちで始めたダンスに、今やどんどん入り込んでいますね。しかも自分の中でダンスを溜め込まないほうが良いと思っているので、ダンスとの付き合い方は今、良いかもしれないです。

SAM わかるな、その感じ。僕も10代からディスコダンスにどっぷり入りましたが、当時はうまい先輩も皆、ダンスでは食べてなかったんですよね。「だったら自分がプロになろう!」という気持ちで活動を始めて、20歳の頃は30歳までにダンサーとして有名になりたい、30代の頃は40歳までにスタジオを作って……と自分なりに目標を立てていました。でも30代半ばに1回、目標が見えなくなったんです。TRFで表に出られることも増えた時期だったんですが、「何のために踊ってるのかな」って思い始めて……その時期が一番苦しかったかもしれません。その後はもっと周りを見るようになって、後輩を育てようとか、もっと広くダンスを見ようと思うようになって。ダンスとの関わりで言うと、僕も今はものすごく良い関係。歳をとって体は衰えてきたんだけど、ダンス自体のことはもっとわかってくるし、アプローチの仕方や音の捉え方、力の抜き加減、削ぎ落とし方などもいろいろ見えてくるから、トレーニングしていても楽しいんです。もちろん思うように表現できないジレンマはあるんですけど、それでも今が一番いい時期だと思います。

近藤 すごい良い話ですね! これは「エリア50代」、観ないといけないですね!

SAM わあ、ハードルを上げちゃいましたね(笑)。

左から近藤良平、SAM。