「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」|“エリア50代”が魅せるダンスの現在、SAM&近藤良平「十市さんはいい機会を与えてくれた」

3年に一度のダンスの祭典「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA」が、8月28日から10月17日まで開催される。今回はダンサー・振付家の小林十市がディレクターを務め、日本のアーティストを中心にしたプログラムが多数展開する。中でも、ラインナップ発表時から注目を集めているのが「エリア50代」だ。小林と、コンドルズの近藤良平が企画し、ゲストダンサーに安藤洋子、伊藤キム、平山素子、そしてSAMと異色のダンサーたちが顔をそろえた。

ステージナタリーでは、SAMと近藤にインタビュー。リラックスした様子で現れた2人は、企画に対する思い、ダンスとの向き合い方、ダンスの未来についてなどざっくばらんに語ってくれた。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 須田卓馬

「僕たち50代だよね?」と呼びかけられて

──近藤さんは「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA」(以下DDD)に第1回から毎回参加、前回2018年はディレクターも務められ、今回は会期中に開催される市民参加事業の「横浜ダンスパラダイス」の企画アドバイザーも務めるなど、「DDD」に深く関わってこられました。「エリア50代」も、今回のディレクター・小林十市さんとの共同企画とのことですが、どんな思いで立ち上げられたのでしょうか?

近藤良平 十市さんとは以前から知り合いなんですけど、あるとき十市さんに「僕たち50代だよね?」って言われて。そこから「50代でやるべきことってなんだろう?」という話になったんですが、十市さんの中ではすでにいろいろ考えがあって、それを聞いているうちに「50代の企画をやりましょう!」ということになったんです。僕としては、いつもと違う視点を与えてもらったので、率直に面白いなと思って興味が湧きました。

──SAMさんと近藤さんは、2014年にKAAT神奈川芸術劇場のトークイベントに参加されていますが、そのときが初対面だったのでしょうか?

SAM 面識自体はあって……同じ会場にいてすれ違うとか、あいさつする程度のことは以前からあったんですけど、ちゃんとお目にかかったのはあのときが初めてですね。

近藤 そうですね。

左から近藤良平、SAM。

──そこから現在までご親交は?

近藤 一緒にバーベキューに行ったりはしてないですね(笑)。

SAM でも「にゅ〜盆踊り」(編集注:池袋で毎年開催されているイベント。近藤が振付を手がけている)を観に行ったりはしましたよ(笑)。

近藤 十市さんと打ち合わせしているときに、「そういえばSAMさんも50代なんじゃない?」って話になって……。

SAM 50代って言っても僕59なんですけどね。十市くんが、僕がSNSに上げているレッスン動画を観て、「すごく動けてる!」と思って声をかけてくれたみたいなんですけど、実はあれが限界(笑)。だから「ちょっと考えさせてください」って一旦返事を保留にしたんですけど、考えてみたらソロで何かを表現するのって、コンテストで40~50秒くらいのジャッジムーブを見せた程度だったので、「だったらどう見せようかな?」と具体的なことを考え始めて……結局参加することになりました。

人生の足跡をたどるようなダンス

──「エリア50代」には、小林さん、近藤さん、SAMさんのほか、安藤洋子さん、伊藤キムさん、平山素子さんと、豪華なメンバーがそろいました。また本企画は、ダンサーと振付家の顔合わせも大きな魅力です。

SAM

近藤 僕はMIKIKOさんとなんですけど……。

SAM Perfumeの振付をしてる?

近藤 そうです。ちょっと意外な顔合わせじゃないですか?

SAM めちゃくちゃ意外ですね!(笑)

近藤 僕自身、興味深い顔合わせなんです(笑)。MIKIKOさんは、15歳から振付をしているそうなんですけど、これまで男性に振り付けたことがないそうなんです。僕も最近は人に振付するほうが多いし、正座して人から振付を学び吸収していく機会が前より減っていたので、「十市さん、いい機会を与えてくれたな」と思ってます(笑)。

──どんな作品になりそうですか?

近藤 MIKIKOさんは研究者肌で、僕に「子供の頃はどこに住んでたんですか?」とか「子供のときはお父さんと何をしていたんですか?」とかいろいろ質問してくるんですね。だから僕も「10歳になる前はとにかく逆立ちが好きでしたね」とか「とにかく止まっていられない子でした」とか身の上話をしたんですよ(笑)。すると、MIKIKOさんはたくさんそれをメモって、そこからひもといていこうとしていて。振付のやり方が僕とは全然違って、面白いです。

SAM それは面白そうですね。僕は、能楽師の佐野登さんに振付をお願いしました。実は僕、2年前に佐野さんに弟子入りしているんですよ。50歳を超えた頃に日本の伝統芸能に興味が湧いて、歌舞伎や狂言などをいろいろ観たんですけど、一番興味を持ったのが能だったんです。あとから知ったことなんですが、自分の祖先に宝生流の能楽師がいて、それで興味が湧いたのかなと……(笑)。そんな話をしている矢先に、いとこが「最近、能楽師の方と仕事をしたから紹介するよ」と言って引き合わせてくれたのが佐野さんでした。僕は、日本の伝統芸能と海外から入ってきたストリートダンスをぶつけたら、新しいものが生まれるんじゃないかとずっと思ってて、それを佐野さんに投げかけたら、佐野さんも「ぜひやりましょう」とおっしゃってくださって。ただ何をやるにもまず僕がもっと能を知らないと、と思い弟子入りすることになりました。その流れを知っていた十市くんから、「今回、能楽師の方に振り付けてもらうのはどうですか」と提案されて、僕にはまったくなかったアイデアだったんですけど、面白いと思って佐野さんにお願いした、という次第です。

──ストリートダンスと能では、身体の使い方がだいぶ違いそうですね。

近藤良平

SAM 全然違いますね。能は静の動きというか、本当に無駄がなくて、それで全てを表現している。例えば“飲む”という仕草をするときも、ちょっとした所作の違いで男女を演じ分けています。ストリートダンスでも静動はつけますが、基本的に“いかにパフォーマンス性が高い動きか”ということに重きを置いていますから、能の全てを削ぎ落とした動きは非常に新鮮で、さっきの近藤くんの話じゃないけど、50代の後半になって生徒として新しいものを学ぶのは、とても新鮮ですね。

──どんな作品になりそうでしょうか。

SAM 佐野さんに全体のコンセプトを作っていただいて、そのコンセプトに従って立ち上げていこうと思っています。能の舞台は東西南北の方角が決まっているんですけど、そこに揚げ幕の5つの色をつけていくことをメージしていて。さらにその5色に、僕がダンスを始めた10代から現在の50代までを重ねて組み立てていこうと。

近藤 面白そう!

SAM 佐野さんはアイデアマンなので、刺激をいただいています。

──これまでの足跡をたどるという点では、お二人の作品に共通点がありますね。

SAM ですよね。「同じだ!」って思ってました(笑)。

近藤 ちょっとシンクロしましたね(笑)。

──ソロ、という点についてはいかがでしょう?

近藤 それはね、酷な話ですよ、やっぱり。ソロを踊る自信があるかと言われたら、ないですからね。まだ自分と相談している最中という感じで、自信を持っては言えないです。でもそういう時間も良い時間と捉えるようにして、新鮮に向き合っている感覚もあります。

SAM 僕も、ソロを踊るのってTRFのライブでフォーエイトくらい。長くても30秒くらいなんですよ。だからこれは……。

左から近藤良平、SAM。

近藤 画期的!

SAM ですね!(笑) ただ、数分間でストリートダンスのいろいろなステップやジャンルを全部見せられたらとも考えていて、体力的にもたない気もするし、どうしようかなって。ここが一番、頭の使いどころかもしれません(笑)。

──お二人以外の出演者の方々も、演目・振付家との顔合わせ共にとてもユニークで、「こういう機会だからこそ」という気合いを感じます。

SAM 確かにこういう機会じゃないと、僕も自分からは発信しなかったでしょうね。

近藤 1人じゃないっていうのがありがたいことですよね。