シネマ歌舞伎「女殺油地獄」松本幸四郎インタビュー|多種多様な歌舞伎の表現方法を感じていただける作品に

新しい幸四郎像を示す1本

──猿之助さんのお吉との共演は、2011年のル テアトル銀座(編集注:銀座セゾン劇場を前身に、2007年から2013年まで株式会社パルコが運営していた劇場)公演以来、7年ぶり2度目です。再度挑まれるにあたって、何かご相談されたのでしょうか。

「女殺油地獄」ビジュアル。左から松本幸四郎、市川猿之助。(撮影:渞忠之)

あの方はどんな演技も受け止めてくれますから、綿密に相談するということはないんです(笑)。お吉は世話女房で母親なので華やかなこしらえというわけではありませんし、与兵衛とは恋愛関係でもありません。でも世話焼きのキレイなお姉さんというのは男にとって非常に危険な存在ですから(笑)、ある種の艶を感じさせないといけない役ですよね。猿之助さんのお吉は、何かに寄っかからないと倒れてしまうような与兵衛をしっかり受け止めてくださいますし、絶妙に拒絶してくださる。実年齢は僕より3つ年下ですけれど、実に頼り甲斐のある、そして内面から色気が漂うようなお吉と新鮮な演技のやりとりができて、毎日とても楽しかったです。

──この「女殺油地獄」は、十代目幸四郎襲名披露での上演。「勧進帳」をはじめとする高麗屋の芸はもちろん、「伊達の十役」「春興鏡獅子」まで本当に幅広い演目で楽しませていただきました。この7月、約2年にわたる親子三代襲名披露興行を終えられた現在の心境を伺えますか。

演じさせていただいた演目は、「僕はこれを一生かけてやっていきます」という宣言のようなものだと思っております。「女殺油地獄」に関して言えば、うちの家では誰1人も、どの役も演じたことがないんです。

──新しい幸四郎像を示す1本がシネマ歌舞伎になったわけですね! 改めて、幸四郎として歩み始めた今の目標を教えてください。

理想を言えばですね……「あれがよかった」「いや、あの役がよかった」と、歌舞伎ファンの皆様の間で“言い合い”になるような役者になりたいと思います。

──「やっぱり弁慶だ」「いやいや、弥次さんだ」と観客間で口論が起こるような(笑)。

「幸四郎と言えば◯◯だ!」「ええ! そんなこと言うなんてファンじゃない、◯◯だよ!」と、皆様に熱くケンカをしていただけるような存在が目標ですね(笑)。いろいろな役の色に染まって、あらゆる顔をお見せできる役者になりたいと思っております。

松本幸四郎(マツモトコウシロウ)
1973年東京都生まれ。1979年に「侠客春雨傘」にて三代目松本金太郎を襲名して初舞台。1981年に「仮名手本忠臣蔵」七段目の大星力弥ほかで七代目市川染五郎を襲名。古典から復活狂言、新作歌舞伎まで幅広い演目に取り組む一方で劇団☆新感線の舞台やテレビドラマ、映画などにも出演し人気を博す。2018年に高麗屋三代襲名披露公演「壽 初春大歌舞伎」にて十代目松本幸四郎を襲名した。現在、歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」に出演。12月には国立劇場「近江源氏先人館─盛綱陣屋─」「蝙蝠の安さん」に、2020年1月に大阪松竹座「壽 初春大歌舞伎」に出演する。