「ゴッドファーザー」を見てないライターがドラマ「ジ・オファー」鑑賞、名作の舞台裏に心の底からめちゃくちゃハラハラドキドキした

映画「ゴッドファーザー」の波乱に満ちた舞台裏を描いたドラマ「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」がBS12 トゥエルビで1月12日に放送スタート。全10話が毎週日曜19時から2話ずつオンエアされる。

1972年に公開されるや当時の記録を塗り替える全米最高の興行収入をあげ、アカデミー賞の作品賞に輝いた「ゴッドファーザー」。しかし、初公開から50年以上経った今、その硬派な題材や177分という長尺を考えても、鑑賞のハードルはなかなか高い。ましてや、その舞台裏を描いたドラマは……。でも「ゴッドファーザー」を観てなくたって、その内幕は絶対に面白いはず。いや、映画鑑賞へのモチベーションを上げるために、「ジ・オファー」を観たって構わないじゃないか!という確信のもと、映画ナタリーでは「ゴッドファーザー」を知らない人も、果たして「ジ・オファー」が楽しめるのかを検証。ライターの青柳美帆子に「ゴッドファーザー」未見のままドラマを鑑賞してもらった。

文 / 青柳美帆子(コラム)、奥富敏晴(作品紹介)

「ゴッドファーザー」を知らずに見るとどうなる?

ほとんど前提知識がない

「舞台裏」モノの面白さは、ゴールがわかっているところにある。たとえば小惑星探査機「はやぶさ」の打ち上げであれば、成功することはわかっていたとしても、道中で起こる波瀾万丈に、「本当に成功するのか!?」とハラハラドキドキする……というつくりだ。

でも、「ジ・オファー」の筆者の鑑賞体験は、ちょっと違った。

なぜなら、その元になっている作品、つまり「ゴッドファーザー」を見たことがないどころか、ほとんど前提知識がない状態だからだ。

「ゴッドファーザー」より、マーロン・ブランドが演じたヴィトー・コルレオーネ ©2025 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

「ゴッドファーザー」より、マーロン・ブランドが演じたヴィトー・コルレオーネ ©2025 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

映画ナタリーの読者のみなさんからは驚かれそうだが、「ゴッドファーザー」を見る機会がないまま30年以上生きてしまった。周りにも「ゴッドファーザーを見ないと人生損するよ!」と言う人もおらず、気づけば「今・ここ」状態。

ただ、それが巡り巡って「ゴッドファーザーを見たことがない人が、ジ・オファーを見たらどんな感想を抱くか?」という本企画に声をかけてもらったので、人生何がどうなるかわからない。

さて、「ゴッドファーザー」を見ていない人が本ドラマを見るとどうなるのか!?

結論から言うと、「本当に成功するのか!?」と心の底からめちゃくちゃハラハラドキドキします。

この映画、本当にこの世に出るのか?

主人公はアルバート・ラディ(マイルズ・テラー)。もともと調査会社で働いていたエンジニアだったが、「映画を作りたい」という夢に突き動かされて、「ゴッドファーザー」のプロデューサーとなっていく。

しかしこの映画、何から何までトラブルだらけ。会社のお偉方は「ギャング映画なんてダメだ」と難色を示すし、イタリア系アメリカ人のファミリーたちは「自分たちを侮辱している」とイリーガルな妨害工作に出る。

渋滞しているトラブルに対し、ラディは「俺に任せろ」とあの手この手で対処していく。映画は果たして成功するのか……?(ネタバレ:めちゃくちゃ成功する)

「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」より、マイルズ・テラー演じるアルバート・ラディ(中央)©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」より、マイルズ・テラー演じるアルバート・ラディ(中央)©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「ゴッドファーザー」を本気で知らないと何に驚けるかって、どの役者がどの役に決まるかわからないのだ! マーロン・ブランドがドン(ヴィトー・コルレオーネ)役に興味を示してくれるかずっとソワソワできるし、アル・パチーノのマイケル役が白紙になりかけたときに登場人物と一緒に頭を抱えることができる。お得。

それくらい「ゴッドファーザー」を見ていなくても、「これは絶対にすごいことが起こっている」と確信できるシーンがある。ひとつが、マーロン・ブランドが自宅で最初にドンを演じてみせるシーン。すっ……と靴墨を手に取り、髪や顔に塗り始めるブランド。原作から読み取ったドンの生き様やあり方を、自分の肉体を通して表す瞬間。画面の中のラディたちと同様に、見ているこっちも息を呑んだ。

そしてもうひとつが、コルレオーネ・ファミリーのキャストが全て決まり、食卓に一同が集ったシーン。マーロン・ブランドを中心に、まるで本番さながらに進んでいく役者同士のやりとりは、映画を知らない筆者も「いま、ものすごい化学変化が起きている!!」と震えた。映画を見た人はさらに興奮できるはずだ。

ちなみに本作、ちょっとだけ1話の作りがややこしめ。まだキャリアのないラディが最初の成功をつかむところが猛スピードで描かれたり、「ゴッドファーザー」原作者のマリオ・プーゾが、どん底から一気にベストセラー作家になったりと、1話序盤で一気に時間が飛ぶ。

ただ、そこは彼らの前日譚として見てもらえれば、中盤からはずっと「ゴッドファーザー」製作の話になるので安心してほしい。

キャラクターをどんどん好きになる

出てくる登場人物が、物語が進むうちに多面性を見せてきて、どんどん好きになってしまうのも本作の魅力。

まず誰もが大好きになるのが、ラディのアシスタントのベティ・マッカート(ジュノー・テンプル)。異常なまでの業界情報通で、面接する前から、関係者の顔をして、アシスタントの仕事をもぎ取るから面白い。

彼女は離婚歴がある。キャリアを積みたい彼女に対して、主婦をしてほしいと願った夫。彼女は(この時代に)女が一人で生きていくことの難しさを理解しつつも、映画業界の中で存在感を放っている。ベティなくして「ゴッドファーザー」は生まれなかったと確信するくらい、ファインプレーを連発してくれる。

「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」より、ジュノー・テンプル演じるベティ・マッカート(右)とバーン・ゴーマン演じるチャールズ・ブルードーン(左)©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」より、ジュノー・テンプル演じるベティ・マッカート(右)とバーン・ゴーマン演じるチャールズ・ブルードーン(左)©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

そんなベティのことを気に入っている、パラマウント・ピクチャーズの親会社でCEOを務めるチャールズ・ブルードーン(バーン・ゴーマン)もいい。彼は冷徹なビジネスマン。ビジネスはお金を生むことが何よりも大事。……けれど、彼を動かすのはお金だけではないことがだんだんとわかってくる。

一番ギャップを見せつけてくるのは、ラディをプロデューサーに抜擢する上司のロバート・エヴァンス(マシュー・グード)。酒と女が大好きで、毎日業界人の間を蝶のように渡り歩く派手な男だ。けれど彼は物語の終盤、大きな挫折を経験する。ここからのエヴァンスの変化がもう最高だ。

そして当然、映画ファンは、監督のフランシス・フォード・コッポラ(ダン・フォグラー)の一挙手一投足や、マリオ・プーゾ(パトリック・ギャロ)の友情に目が惹きつけられるだろう。チーム・ゴッドファーザーの面々は、とにかくキュートで、プロフェッショナルだ。

「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」より、マシュー・グード演じるロバート・エヴァンス(左)©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」より、マシュー・グード演じるロバート・エヴァンス(左)©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

本作は映画製作を描いた「お仕事もの」でもある。どんな困難な状況に陥っても、たったひとりの心を掴むことで、状況が変わり、よりよい仕事になっていく。

筆者は昼間会社員をやっているのだが、そのスピード感とアツさが、いまの自分の状況に局所的に“刺さって”しまった。

「お前に懸ける」と言われ、「俺に任せろ」と心から言えるような仕事は、世の中にどれくらいあるだろう? それと巡り合ったときに、自分はどれだけその仕事に打ち込めるだろう?

彼らの「仕事の結果」としての「ゴッドファーザー」が、見たくなった。

「ゴッドファーザー」を見てどうだった?

さて、「ジ・オファー」を完走したのちに初めて見た「ゴッドファーザー」の話もしておきたい。

本来ならば「ゴッドファーザー」を鑑賞済みの人が「ジ・オファー」を観て「あ、ここ、ゴッドファーザーで見たかも」となるところを、筆者の場合は「あ、これ、ジ・オファーで見た!!!」という、いうならば“逆進研ゼミ現象”が発生した。

「ジ・オファー」は、実話を元にしたエンタテイメント。実際にあったであろうエピソードを脚色し、一定の意図をふまえて構成しているものだ。

「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」より、「ゴッドファーザー」撮影時の様子 ©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」より、「ゴッドファーザー」撮影時の様子 ©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

自然と重なってくるのは、「ジ・オファー」におけるラディと、「ゴッドファーザー」におけるマイケル。

物語の始め、ラディもマイケルも“こちら側”、つまり、あくまでも堅気の人間として扱われている。しかし状況の変化とともに、彼らは“あちら側”との境界に近づいていく。マイケルは最終的には完璧に線を超えてしまうわけだが、ラディもマフィアとビジネス的にも心情的にも接近しすぎてしまう。ラディが“こちら側”に踏みとどまれるのかも、ドラマ全体を引っ張るフックになっている(まあ、当時のエンタテイメント業界は、今よりもさらにダーティな部分はあっただろうが……)。

女性関係もそう。

マイケルは、自分の家業を恋人のケイに話すことはできない。それは彼女を巻き込もうとしたくないがゆえの行動かもしれないし、そもそも世界が違うと一線を引いているから、恋人を自身と対等な存在とハナから見ていないかもしれない。

ラディも、恋人であるホテル経営者フランソワーズ(めちゃくちゃいい女!)に、「ゴッドファーザー」の製作で巻き込まれているトラブルを絶対に話さない。思い悩んだフランソワーズがカップルカウンセリングを依頼し、隠しごとをしないでほしいと訴えても変わらないし、恋人に対しても「ゴッドファーザーは自分の映画だ」という思いを曲げることはできない……。このあたり、マイケルと全く同じなのだ。

「ゴッドファーザー」より、アル・パチーノが演じたマイケル・コルレオーネ ©2025 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

「ゴッドファーザー」より、アル・パチーノが演じたマイケル・コルレオーネ ©2025 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

何より、ラディには2人の「ファーザー」がいる。彼は母子家庭育ちで、人生の中で男性に支えられてきていない。そんな彼にとって大事な存在となっていくのが、映画プロデューサーになるためのチャンスをくれたエヴァンス、そしてはじめは敵対していたが協力関係になるニューヨークマフィアのジョー・コロンボ(ジョヴァンニ・リビシ)。

マイケルが父親であるヴィトーとの別れを経て受け継いだものと、ラディが彼らから受け取ったものは、重ね合わされるように描かれている。

だから「ジ・オファー」は、「ゴッドファーザー」と同様、男と男の映画である。それは当然のことだと思う。

「ジ・オファー」を見るのが先か? 「ゴッドファーザー」を見るのが先か?

どっちだって大丈夫、が筆者の結論だ。そしてもしいまこの文章を読んでいる読者が「実はゴッドファーザー未見なんだよな、なんとなく気が進んでないんだよな」という状態であるならば……「ジ・オファー」は重要なきっかけになるはずだ。

プロフィール

青柳美帆子(アオヤギミホコ)

ライター。1990年、東京都生まれ。女性向けのカルチャー、マンガやアニメのエンタテインメントを中心にインタビューや執筆活動を行う。共著に「アダルトメディア年鑑2024 AIと規制に揺れる性の大変動レポート」(イースト・プレス)がある。

「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」放送スケジュール

  • 第1話・第2話:1月12日(日)19:00~
  • 第3話・第4話:1月19日(日)19:00~
  • 第5話・第6話:1月26日(日)19:00~
  • 第7話・第8話:2月2日(日)19:00~
  • 第9話・第10話:2月9日(日)19:00~
1月の土曜の夜は「ゴッドファーザー」、3部作を3週連続オンエア

「ゴッドファーザー」(1972年)

「ゴッドファーザー」キービジュアル ©2025 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

「ゴッドファーザー」キービジュアル ©2025 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

放送:2025年1月11日(土)19:00~(英語・日本語字幕)

巨大な組織を一代で築き上げた“ゴッドファーザー”ことヴィトー・コルレオーネ、その三男にして戦争の英雄であるマイケルを中心に、愛と暴力に満ちたファミリーの行く末を描く。堅気として生き、家業を嫌っていたマイケルはどのようにして“一線”を越えるのか。凍りつくように恐ろしい家族の物語。「ジ・オファー」の主人公であり、それまで映画ではヒット作のなかったプロデューサーのアルバート・ラディは、自分1人の単独クレジットにこだわりながら、なんとか完成にこぎつけた。

「ゴッドファーザーPART II」(1974年)

「ゴッドファーザーPART II」キービジュアル ©2025 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

「ゴッドファーザーPART II」キービジュアル ©2025 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

放送:2025年1月18日(土)19:00~(英語・日本語字幕)

三代にわたるコルレオーネ家の興亡を描き切り、前作をしのぐほどの高い評価を受けた続編。家族を殺されてアメリカに逃れたヴィトー・コルレオーネの若き日と、父のあとを継いで組織を率いるマイケル・コルレオーネの苦悩の日々を交錯させて描く。家族の歴史と権力の代償を浮き彫りにした一大叙事詩。アカデミー賞では作品賞など計6部門に輝き、第1作と第2作がともに作品賞を獲得する快挙を成し遂げた。前作を請け負ったアルバート・ラディは製作に名を連ねておらず、その意外な理由は「ジ・オファー」でも語られる。

「ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期」(2020年)

「ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期」キービジュアル ©2020 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期」キービジュアル ©2020 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

放送:2025年1月25日(土)19:00~(英語・日本語字幕)

シリーズの最後を飾る「ゴッドファーザーPART III」(1990年)は、監督のフランシス・フォード・コッポラが公開30周年の節目に当初の構想にもとづいて再編集したバージョンをオンエア。前作から20年後の1979年を舞台に、いまだ血と暴力の世界で生きるマイケル・コルレオーネの姿を描く。ファミリー存続のため、非情な決断を下してきた彼の苦悩と贖罪とは。初公開時には酷評されたパート3。その仕上がりに納得していなかったコッポラは、タイトルを変えた再編集版について「まったく別物と言える、とても感動的な作品」と語っている。

BS12ではこんな企画も!

「土曜しょ~と劇場」

たった10~20分の物語が、人生を変えることもある。アカデミー受賞作をはじめとする珠玉の短編(しょ~と)映画を放送。

「土曜しょ~と劇場」公式ページ