同世代の“何も起こらない感”
──その、伝えたいことというのはどういうものなんでしょう。
結果的には、映画になるほどの劇的な出来事がスペンサーたちの身に起きるわけじゃないですか。でももしあの出来事がなかったら、3人の旅は誰もが経験するような観光で終わっていたはずですし、元通りの普通の日々が続いていくわけで。それはそれでもちろん幸せなことだと思いますが、ああいう恐ろしいことが起きなければ3人は英雄になれなかったというジレンマというか。俺の考えすぎかもしれないですけどね。真正面から捉えたら、この映画は、平和な日常でもいつどんなことが起こるかわからないから怖いよねという話。実際俺も、観ているときはそういうことを考えながら観てました。
──なるほど。
でも家に帰ってからいろいろ考えているうちに、まだ何かあるんじゃないかという気がして。スペンサーが劇中で「俺は誰かを助けたい、だから軍に入りたい」と言いますよね。もちろんそういう気持ちはわかりますが、彼は自分の平凡な日常に満足していなかったんじゃないかと思っていて。あの“何も起こらない感”というものを感じている人は、俺たちの世代には少なくない気がします。それこそ、俺自身も一度歌にしたこともありますが、虚無感のような感覚です。
──スペンサーたちとショウさんはほぼ同世代ですが、そこに共感されるんですね。
もちろんテロは起きなかったほうが絶対によかった。人が撃たれることもなかったし、スペンサーがけがをすることもなかったわけですし。でもあの事件が起きてしまったことによって、少年時代にパッとしなかった彼らが地元で表彰されるまでになった。「人を救いたい」という気持ち自体は悪いことではありませんが、テロという出来事によって「何も起こらない」虚無感を持っていたスペンサーたちの人生が充実したという意味では、すごく複雑な気持ちになる。考えすぎかもしれないですが。もちろん、観ているときは真正面から感動しましたけどね。決して派手ではないアクションシーンで泣きそうになるなんて、そこまでの物語をリアルに積み上げてきたからこそだと思います。
──なぜ彼らは、あんなに危険な状況でテロリストに立ち向かえたのだと思いますか?
もともと身を挺して誰かを守りたいという思いを持っていたわけですし、ずっと待っていた瞬間がついに来たという状態だからすぐ動けたのではないかと。
──「ずっと待っていた」という意味では、事件が起こる前に、スペンサーは「運命に後押しされている気がする」と話しますよね。そういう運命論のようなものについてはどう思われますか?
ときどき、人生で起こることは何もかも最初から決まっているとしたら、といった話を考えることはあります。友達とそういう話をするとすごく盛り上がるんです。「いやいや、俺は自分で努力して切り拓いてる。俺が決めてるもん」「いや、そういうことじゃないんだよ」といった感じで(笑)。
──もし、ショウさんがこの事件と同じ状況に置かれたらスペンサーたちのような行動が取れると思いますか?
無理です!(笑) もちろん人を守りたいですよ。自分の大切な人や友達と一緒にいたらどうだろうなどと、いろいろ考えます。仮に自分がスペンサーとアレクのような軍人だったら動くかもしれないですが、やっぱり無理です(笑)。しかも、この事件では奇跡が起こりますし。
──ただ、最初に犯人を取り押さえようとしたのはスペンサーやアレクのような軍人ではなく民間人でした。ちなみに、首を撃たれてしまうマーク・ムーガリアンという男性と彼の奥さんも本人が演じています。
そうなんですね! どうりでリアルに見えるわけだ(笑)。
嫌になるぐらい伝わってしまうこともある
──事件が起きたとき、アンソニー、アレク、スペンサーは以心伝心のように行動を起こしますよね。多くの言葉を介さず即座に動く関係性には、中学校からの同級生で構成されたOKAMOTO'Sのメンバーとして共感するところもあったのではないでしょうか。
俺たちは中1から一緒にいるので、嫌になるぐらい伝わってしまうこともあって(笑)。確かに以心伝心のようなことはあります。ライブをやっているときが一番顕著です。例えば、お互いが丁寧に目を合わせてジャーンと弾くということはもはやあまりなくて、もう見なくてもタイミングがわかるというか。
──テロと並べるのもどうかと思いますが、ライブなんてまさに臨機応変に対応しなければいけない状況ですよね。
そうですね。急にギターの音が出なくなったり。ライブでは毎回、何かに試されている感じがあります。目の前の人たちが俺たちのやっていることを観て楽しめているか楽しめていないかというのが、即座にわかる状況に立たされているので。毎秒「俺はこんなにカッコいいことやってるぞ」と証明し続けないといけないと思ってやっています。
──バンドメンバー同士で闘うようなところもあったりしますか? 「俺が一番カッコいいことをやってるんだ」みたいな。
どちらかというと、闘うというよりは、一緒に遊んでいる感じです。ちょうど、サバイバルゲームをやっていたスペンサーたちに近いかもしれない。
同世代の人に、この映画をどう思ったか聞いてみたい
──その遊びの過程から音楽が生まれていくんですね。では同じクリエイターとしての視点からお答えいただきたいんですが、イーストウッドは「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」以降実録ものを手がけることが増えています。本人は「特に意識していない」と言っているようなんですけど、現在87歳のイーストウッドが実話をもとにした映画を多く制作するようになった理由をショウさんなりに分析するとしたら、どうお考えになりますか?
そうですね……長くものを作り続けて名人というか職人になっていくと、生み出すものがどんどんシンプルになっていくのかな、と。俺なんてまだまだですが、音楽を作り始めたときよりは、表現がシンプルになってきたと思います。等身大の自分に近くなるというか、大げさにやらなくなるし、力が抜けてくる。イーストウッドの場合は、誰かが頭の中でこしらえた物語よりも、「こんなにすごいことが現に起こっているんだからそれを忠実に再現すればいいんだ」というふうに考え方がシンプルになってきたのかなと。完全に想像ですが。
──最後の質問です。イーストウッドの作品というのはやはり40代以降の人たちに人気があるのですが、ショウさんたちのような若い世代が「15時17分、パリ行き」を観るべき理由があるとしたら、それはなんでしょう?
この作品は、すごく“語れる映画”だと思います。観たあとに、なんでわざわざここまでリアルにしているんだろう、なんで本職の俳優を使わなかったんだろうなどと、語るポイントが多い。「俺はこう思ったんだけど、どう思った?」と、観た人に聞きたくなります。シンプルに、正義感に忠実な人々の物語と観ることもできるし、ここまでの話のように深読みしたくなる人もいるかもしれないし、もしかしたら俺よりさらにひねくれた観方をする人もいるかもしれない。そういう、さまざまな角度から観られるところが面白い。自分と同世代の人に、この映画を観てどう思ったか聞いてみたいですね。
- 「15時17分、パリ行き」
- 2018年3月1日(木)公開
- ストーリー
-
2015年、オランダ・アムステルダムからフランス・パリへ向かって出発した特急列車タリス。乗客554名を運ぶその車内には、自動小銃やピストルで武装したテロリストも同乗していた。異変に気付いた乗客の制止を振り切り、テロリストは発砲。密室の車内が恐怖に包まれる中で立ち上がったのは、旅行のためタリスに乗っていた幼なじみの3人、アンソニー、アレク、スペンサーだった。
- スタッフ / キャスト
-
- 監督・製作:クリント・イーストウッド
- 出演:アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーンほか
- 原作:アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン、ジェフリー・E・スターン「15時17分、パリ行き」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT INC.
- オカモトショウ
- 1990年10月19日生まれ、アメリカ・ニューヨーク出身。中学生時代からの同級生であったオカモトコウキ、ハマ・オカモト、オカモトレイジとともにOKAMOTO'Sを結成し、2010年5月に1stアルバム「10'S」でアリオラジャパンよりデビューする。同年11月に2ndアルバム「オカモトズに夢中」、2011年9月には3rdアルバム「欲望」をリリース。2013年1月に4thアルバム「OKAMOTO'S」を発表し、デビュー5周年の2014年には1月にリリースした5thアルバム「Let It V」を引っ提げて全国ツアーを行った。2015年9月に6thアルバム「OPERA」を、2017年8月に7thアルバム「NO MORE MUSIC」を発売。ソロ名義では2017年に、T・レックスのマーク・ボランのトリビュートアルバム「T. Rex Tribute ~Sitting Next To You~ presented by Rama Amoeba」に参加した。2018年4月よりソロツアー「オカモトショウ(OKAMOTO'S)TOUR 2018 ~Take Five~」を敢行する。
2018年2月26日更新