「15時17分、パリ行き」|それは誰の日常にも起こる現実、名匠イーストウッドが贈る勇気の物語

3人の幼なじみ、アンソニー、アレク、スペンサー

  • アンソニー・サドラー(左)
  • アレク・スカラトス(右)
  • スペンサー・ストーン(中央)

米カリフォルニア州サクラメントでシングルマザーに育てられ、近所に住んでいたこともあって親友としての絆を育んでいったアレク・スカラトスとスペンサー・ストーン。中学校に入って、2人はアンソニー・サドラーという新たな仲間を得る。問題を起こして校長室に呼ばれたり、いたずらをして母親に怒られたり、戦争映画に影響されサバイバルゲームに興じたりと、ごく普通の少年時代を送った3人。やがてアレクは父親と住むためにオレゴン州に引っ越したが、彼らの友情は変わらなかった。アンソニーはカリフォルニア州立大学に入り、アレクはオレゴン州の州兵としてアフガニスタンに駐留。スペンサーはアメリカ空軍の上等空兵となり、ポルトガルの基地で衛生兵の訓練に当たる。2015年の夏、偶然休暇のタイミングが合った3人はヨーロッパを旅することに。人生を変える運命に導かれていることなど露知らず、特急列車タリスに乗り込む。

イーストウッドがこだわった、徹底的なリアリズム

ステング
  • 「15時17分、パリ行き」
  • 「15時17分、パリ行き」メイキングカット

イーストウッドはプロの俳優のオーディションを進めながらも、当事者たちが本人を演じるべきだと判断。驚くべきことに、アンソニー、アレク、スペンサーだけではなく、乗客として事件に居合わせた多くの人物が映画に出演している。

撮影
  • 「15時17分、パリ行き」
  • タリス車内での撮影風景。

イーストウッドとスタッフ、そしてキャストは、パリへ向かうタリスに実際に乗り込み、2両の客車で撮影を敢行。また、再装填に時間を要するフィルムカメラではなくデジタルシネマカメラを使用し、乗務員が伝えるスケジュールに合わせて迅速に撮影を行った。

タリス銃乱射事件とは?

2015年8月21日、アムステルダム発パリ行きの特急列車タリスの車内で発生した。自動小銃、ピストル、270発の弾丸、ナイフなどで武装したイスラム過激派の男アイユーブ・ハッザーニがトイレから出てくるところを目撃した乗客が制止を試みるも、ハッザーニは激しく抵抗。フランス系アメリカ人のマーク・ムーガリアンがピストルで首を撃たれ、重傷を負った。発砲音を聞いた乗務員は乗務員室に閉じこもり施錠。554人の乗客の命が危険にさらされた。

アメリカ映画界の最重要人物、クリント・イーストウッド

クリント・イーストウッド

孤高のガンマン、ニヒルな刑事……
アメリカを代表する俳優に

1930年5月31日生まれ、米サンフランシスコ出身。1950年代半ばから俳優としてのキャリアを積み、テレビドラマ「ローハイド」のロディ・イェーツ役で有名に。「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」といったマカロニウエスタン(イタリア製西部劇)で国際的名声を手にする。ドン・シーゲルがメガホンを取った「ダーティハリー」でアクション俳優としての地位を確立。同作はシリーズ化され、刑事アクション映画を代表する存在に。悪党を倒すためには手段を選ばない主人公のキャラクターは、その後の刑事もの映画に多大な影響を与えた。

名優から名匠へ

俳優業を続ける一方、イーストウッドは「恐怖のメロディ」で1971年に監督デビュー。俳優としても監督としてもアメリカ映画界を牽引する存在となり、1992年のアカデミー賞では「許されざる者」で作品賞、監督賞を含む4部門を獲得した。2004年の「ミリオンダラー・ベイビー」でも作品賞などアカデミー賞4部門を制覇。監督、俳優、評論家、そして映画ファンからも常に注目を浴びる、映画史において素通りすることのできない巨匠である。

真実と虚構のはざまで

1988年、サックス奏者チャーリー・パーカーの伝記映画「バード」で初めて実在の人物を題材とする作品を監督したイーストウッドは、2006年の「硫黄島」2部作以降、実話をもとにした作品を多く制作してきた。2008年には、1920年代の米ロサンゼルスで実際に起きた事件をモチーフに、失踪した我が子を取り戻そうとするシングルマザーの苦悩を描いた「チェンジリング」を監督。2014年に、アメリカ軍の狙撃手クリス・カイルの葛藤を冷徹に映し出した「アメリカン・スナイパー」を制作し、世界で5億ドルを超える自身最高の興行収入記録を達成する。2016年には、USエアウェイズ1549便不時着水事故を題材にした「ハドソン川の奇跡」でメガホンを取った。これまでアンジェリーナ・ジョリー、ブラッドリー・クーパー、トム・ハンクスといった有名俳優を迎えて実話を映画化してきたイーストウッドだが、「15時17分、パリ行き」ではついに当事者本人を起用。87歳にして挑戦を恐れず、映画界の第一線を走り続ける。

  • 「チェンジリング」

    「チェンジリング」
    (2008年)

  • 「アメリカン・スナイパー」

    「アメリカン・スナイパー」
    (2014年)

  • 「ハドソン川の奇跡」

    「ハドソン川の奇跡」
    (2016年)

「15時17分、パリ行き」
2018年3月1日(木)公開
「15時17分、パリ行き」
ストーリー

2015年、オランダ・アムステルダムからフランス・パリへ向かって出発した特急列車タリス。乗客554名を運ぶその車内には、自動小銃やピストルで武装したテロリストも同乗していた。異変に気付いた乗客の制止を振り切り、テロリストは発砲。密室の車内が恐怖に包まれる中で立ち上がったのは、旅行のためタリスに乗っていた幼なじみの3人、アンソニー、アレク、スペンサーだった。

スタッフ / キャスト
  • 監督・製作:クリント・イーストウッド
  • 出演:アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーンほか
  • 原作:アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン、ジェフリー・E・スターン「15時17分、パリ行き」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

2018年2月26日更新