日本で生まれ育った親友が収容された、入管の実態に切り込む「イマジナリーライン」公開

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東京藝術大学大学院の映像研究科映画専攻18期の卒業制作作品「イマジナリーライン」の劇場公開が決定。Lamp.配給のもと、2026年1月17日より東京・ユーロスペースほか全国で順次封切られる。YouTubeでは特報が解禁された。

「イマジナリーライン」ポスタービジュアル

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本作は日本で生まれ育った親友が、ある日、入管に収容されてしまった女性の物語。映画学校を卒業して間もない山本文子は、アルバイトをしながら音楽好きの親友・モハメド夢と一緒に映画制作を続けていた。ある日、2人で訪れた旅先で、夢が在留資格を持たないことが発覚。彼女は県境を越えたという理由で入管施設へ収容されてしまう。苦悩の末、文子は親友の解放のために動き始め、夢もひとすじの望みを信じて闘う決意をするのだった。

「イマジナリーライン」場面写真

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タイトルの「イマジナリーライン」は、映像制作の専門用語で、向かい合う人物の間を結ぶ“仮想的な線”のこと。カメラがその線を越えないことで、被写体の視線や相対的な位置関係に一貫性をもたらすことができるが、本作ではそれが人と人との間に生じる「見えない線引き」として捉えられている。

俳優・モデルとして活動する中島侑香が主人公・文子を演じ、夢に俳優・脚本家であるLEIYAが扮した。また丹野武蔵が文子の幼なじみで入管職員として働く船橋役で出演。早織、松山テサ、鈴木晋介諏訪敦彦生津徹、オブエザ・エリザベス・アルオリウォもキャストに名を連ねた。

「イマジナリーライン」場面写真

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映画の背景にあるのは、2023年6月に入管法改正案が採択され、入管制度の厳罰化が進んだことだという。本作は東京藝術大学大学院の修了制作として企画され、学生スタッフと俳優たちは、仮放免者や入管の被収容者、支援者への取材を行い、入管内部の実態に切りこんだ。

長編初監督を務めた坂本憲翔は、ウィシュマ・サンダマリさんが2021年3月に名古屋入管の施設で亡くなった事件を踏まえ、「この事件と入管制度の問題を決して風化させてはならない、これは命の問題だから。たくさんの人にこの映画を観てほしい。そしてこの国の『今』について一緒に考えてみたい。心からそう願っています」と語っている。

キャストの中島とLEIYA、フォトジャーナリストの安田菜津紀 によるコメントは以下の通り。

映画「イマジナリーライン」特報

坂本憲翔 コメント

2021年3月、名古屋入管での医療ミスにより、被収容者のウィシュマ・サンダマリさんが亡くなった。それから4年以上の月日が経ち、この事件について語られることも少なくなった。その沈黙の隙間をうめるように、街には排外主義的なことばが飛びかっている。遺族、支援者、被収容者、難民申請者の方々の闘いは、今この瞬間も続いているのに。この事件と入管制度の問題を決して風化させてはならない、これは命の問題だから。たくさんの人にこの映画を観てほしい。そしてこの国の「今」について一緒に考えてみたい。心からそう願っています。

中島侑香 コメント

私が演じた文子という役は、どこか自分と似ていました。母の死で止まっていた時間が、夢という対照的な存在によって動き出す。そんな文子が作品の中でどう生き抜いていくのかを毎日考え続け、監督と話しながら丁寧に役作りをしていきました。カメラが回る瞬間、それまで準備していた「文子」を一度脱ぎ、現場の空気に身を委ねたとき、本当に文子として生きられたような気がしました。私にとって思い入れ深いこの作品の旅立ちを、心から嬉しく思います。

LEIYA コメント

映画「イマジナリーライン」で夢という役を通して、「居場所とは何か」「支え合うとはどういうことか」を深く考えました。日本とガーナにルーツをもつ私にとって、描かれる現実は決して他人事ではありません。制度や言葉の壁によって、当たり前の日常を得られない人がいる。その声に耳を澄ませ、伝えていくことの尊さを身に沁みて感じることができました。この作品を通じて、目に見えないさまざまな「線引き」について一緒に考えていただけたら嬉しいです。

安田菜津紀(Dialogue for People副代表 / フォトジャーナリスト) コメント

「日本人ファースト」というスローガンが躍る。けれどもこの映画を観て、思う。「この国はずっとそうだったじゃないか」と。入管のまなざしはどこまでも「管理」「監視」であり、収容のあり方そのものが「外国人は人間扱いしなくていい」を前提としている。内部で働く人間にまで「管理」「監視」の「部品」であることを求める。国の態度は市井の意識にもじわじわと沁み込む。主人公の文子さえ、「不法滞在者」という巨大な主語に惑わされる。今もそうだ。ありもしない「外国人問題」がわざわざ作り出され、ないはずの線が引かれていく。「ここから先は仲間じゃない、仲間じゃない存在には何があっても構わない」と。でも、この映画を観た人たちは、出会ったはずだ。夢という一人の、血の通った人間に。恐怖や不安を燃料にする扇動的な言葉に出くわしたとき、夢のことを思い出してほしい。「彼女たち」はすでに、私たちの隣にいるのだから。

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