「本心」池松壮亮の演技を妻夫木聡が称賛「感情の手綱をしっかり握れている」

映画「本心」の完成披露舞台挨拶が本日10月10日にTOHO シネマズ 六本木ヒルズで行われ、キャストの池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、妻夫木聡、田中裕子、監督の石井裕也が登壇した。

デジタル化が進んだ近未来を舞台とする本作は、急逝した母・秋子が“自由死”を望んでいたことを知った石川朔也が、本心を知るためにAI技術を利用して仮想空間に彼女をよみがえらせる物語。朔也を池松、秋子の親友・三好彩花を三吉、朔也の幼なじみ・岸谷を水上が演じ、AI技術者・野崎役で妻夫木、秋子役で田中が出演した。

池松は2020年に新聞で連載されていた原作を読んでいたと明かし、「アフターコロナのことがすべて書かれていた気がしました。自分たちが暗闇の中からどこに向かうのかであったり、あらゆる問題が拡張した世界から強いインパクトを受けて、これは同時代を生きる私たち自身の話だと感じました」と振り返る。そして池松から原作を薦められたという石井は「AIや、それに対面する人間の心の問題は比喩ではなく人類にとって喫緊の問題。AIが人類の知性を超えるかどうかばかりにフォーカスされていて、人間の尊厳がどう保たれるかという問いはほとんど議論されていないと思います。その潜在的にある不安や恐怖が小説として見事に描かれていたので、映像作家として今すぐに立ち向かわなければいけない。目を付けた池松くんもさすがだなと」と語った。

三吉は「生涯、作品に携わる中でこんなに運命的な出会いはほとんどない」と前置きしつつ、「撮影が去年の夏頃にありましたが、『自分自身の本心ってなんなんだっけ？』『何が楽しくて何がしんどい？』とさまよっていた時期で。人生においても必要な映画だと感じました」と伝える。水上は演じた岸谷を「ヒールかヒーローかで言うとヒールですね。朔也に対してゾンビのようにひたすらまとわりつきながらも、軽やかな面を持つキャラクターを目指しました」と言及。撮影現場については「石井さんの速い撮影テンポの中で、いかにパフォーマンスを発揮するか。そこにやりがいと難しさを感じました」と充実の表情を見せた。

石井の監督作に久々の出演となる妻夫木は「家に帰ってきた安心感を感じますし、その間石井監督と池松くんは何度も一緒に作品を作っていたので、関係性もより深くなっていましたね」としみじみ。そして「（池松は）役に向き合うときは、役と同化するぐらい突き進む。感情の手綱をしっかり握れているなと思うし、監督が繊細なコントロールを現場でやっているのを目の当たりにして、やっぱりすごいなと思いました」と回想した。

田中は「AIとかVF（ヴァーチャルフィギュア）の仕組みはよくわからなかったけれど、監督のおっしゃることをそのまま受け取り、シンプルに演じられたらなと」と述懐。「池松さんとはセリフ以外ほとんど話していなくて……目があってもちょっとぎこちない（笑）」と思い返す。石井は「レジェンドである田中さんにVFの役で出ていただけたのはありがたかった。それによってほかの俳優にもいいムードや緊張感が生まれていましたし、最高のチームだったと思います」と自信をのぞかせた。

朔也や岸谷が劇中で行う“リアルアバター”とは、自撮り棒で映像を撮影し、離れた人に実体験のような景色を提供する仕事。そこで、イベントの中盤では水上がリアルアバターとして自撮り棒を持ち、ステージ上を撮影する一幕が。池松はそんな彼を気にしつつ、本心を隠してしまったエピソードとして「韓国に行ったときにサムゲタンが食べたくてスタッフにお店へ連れて行ってもらったら、僕が食べたいのはサムゲタンでないことに気付いて……。でも言えなかった（笑）」と打ち明ける。そして「今なら聞いてみたいという本心はあるか？」という質問には「優れた俳優ほど本心ってわからなくて……」と切り出し、「三吉さんはプロフェッショナルだけど何を考えているかわからないし、水上くんもピエロに見えてくるときがある（笑）」と告白した。

最後に石井は「AIやVFを題材したことで新しいエモーションを表現できた一方、人間がずっと大事にしてきた普遍的な感情も浮き彫りになる。情熱のある俳優が真摯に役と向き合ったことで神々しいものが生まれて、きっとお客さんにも届くと信じています。ぜひ楽しんでください」と挨拶。池松は「堅苦しい映画でも難しい映画でもなく、私たちの周りにある世界共通のトピックが入った作品です。登場人物が“いかにして生きるか”という映画になっています」とアピールし、イベントを締めた。

「本心」は11月8日より全国でロードショー。

映画「本心」ロング予告